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『誓約(ゲッシュ) 第一編』  作者: 津洲 珠手(zzzz)
第十章 深海の遺産
46/100

第十章 深海の遺産 其の四

変更履歴

2011/04/15 誤植修正 以外 → 意外

2011/11/05 誤植修正 位 → くらい

2011/11/05 誤植修正 乗せる、乗る → 載せる、載る

2011/11/05 誤植修正 その意志は・触手の化物の意志が → その意思は・触手の化物の意思が

2011/11/06 記述統一 変らないか → 変わらないか

2011/12/17 誤植修正 微かに捉える事か出来た → 微かに捉える事が出来た

2011/12/17 誤植修正 喫水が高かった筈だが → 喫水が浅かった筈だが

2011/12/17 誤植修正 肉片と変えられていく → 肉片へと変えられていく

2011/12/17 誤植修正 この異常事態に対して → この非常事態に対して

2011/12/17 句読点調整

2011/12/17 記述修正 次第に闇から深い紺色へと → 次第に闇から紺色へと

2011/12/17 記述修正 遂に海面へと近づいてきた事が → やっと光の届く所まで上がってきた事が

2011/12/17 記述修正 あの輸送艦の甲板に → 棺を輸送艦の甲板へと

2011/12/17 記述修正 直接載せるのは不可能なのは → 直接載せるのは無理な事を

2011/12/17 記述修正 ボートの様な小さな船にでも → 例えばボートの様な小さな船にでも

2011/12/17 記述修正 指揮を執っていた船乗りの → しかし直ぐさま指揮を執っていた船乗りの

2011/12/17 記述修正 飛び込んで行った船乗り達は → 飛び込んで行った船乗り達が

2011/12/17 記述修正 輸送船と、旗艦では無い帆船の甲板へと伸びており → 、旗艦では無い帆船と輸送艦の両甲板へと伸びており

2011/12/17 記述修正 ロープの巻き上げは順調に進み、 → やがて

2011/12/17 記述修正 艀を甲板へと上げる → 艀を甲板へと持ち上げる

2011/12/17 記述修正 対面の帆船と変わらないか、それよりも僅かに低い位置にあり → 対面の帆船よりも低い位置にあり

2011/12/17 記述修正 錘として船倉内にも他の船の船員が乗り込んでいるらしい → 錘として船倉内に何かを積み込んでいる様だ

2011/12/17 記述分割 低い位置にあり、それよりも僅かに → 低い位置にある事に気づいた。それよりも僅かに

2011/12/17 記述結合 判ってきた。どうやら喫水を下げる為に → 判ってきて、どうやら喫水を下げる為に

2011/12/17 記述修正 もう一隻の帆船側のロープは → まず最初にもう一隻の帆船側のロープが

2011/12/17 記述追加 輸送艦の甲板を良く見ると~

2011/12/17 記述追加 どうやら艀側のロープで~

2011/12/17 記述追加 棺は相当な重さでありながら~

2011/12/17 記述修正 甲板よりも高い位置まで → 舷側よりも高い位置まで

2011/12/17 記述修正 その滑車の上に載って甲板内へと揚がった → 台座の上に乗り上げて行く

2011/12/17 記述追加 かなり頑強な作りに見えた~

2011/12/17 記述修正 聖職者は、手にしていた布を詠唱を唱えるうちに → 聖職者の一団は詠唱を唱えながら手にしていた布を

2011/12/17 記述修正 艀の側面に開いていた穴へと、人間の背の倍はある人間の腕よりも太い柱を → 人間の背の倍はある腕程の太さの金属棒を、艀の前後の側面に開いていた穴へと

2011/12/17 記述修正 柱を四本差し込まれた艀を → そして前後それぞれ四本の棒を差し込まれた艀を

2011/12/17 記述修正 待機していた船乗り達が一斉に囲んだかと思うと → 船乗り達が一斉に囲んだかと思うと

2011/12/17 記述修正 それと呼吸音、この三つだった → それと呼吸音のこの三つだった

2011/12/17 記述修正 のいずれかの様に思える → このいずれかの様に思える

2011/12/17 記述修正 私と同様の化物、クラーケンか何かではないかと、私は考え始めた → 私と同様の化物であるクラーケンかの類としか思えない

2011/12/17 記述修正 無数の触手が → 更に無数の触手が生え出て来て

2011/12/17 記述修正 所詮は海賊、ならず者の寄せ集めだったからか → 所詮は海賊でならず者の寄せ集めだったからか

2011/12/17 記述移動 旗艦のマストには~

2011/12/17 記述修正 旗艦のマストには、どういう意味かは不明だが、あれは信号旗なのか → どういう意味かは不明だが、旗艦のマストにはあれは信号旗なのか

2011/12/17 記述修正 命令を出しているのだろうとは判った → 命令を出しているのは判った

2011/12/17 記述修正 艦隊の目的通りに棺を奪還しろと言う訳か、そして自分達の命惜しさに輸送艦を沈めに掛かっている味方の船を沈めろと、そう言う事か → 自分達の命惜しさに輸送艦を沈めに掛かっている味方の船を沈めろと、そして当初の目的通りに棺を奪還しろと言う訳か

2011/12/17 記述修正 突然急激な速度で → 急激な速度で

2011/12/17 記述修正 慌てふためいた船乗り達が → 恐慌状態の船乗り達が

2011/12/17 記述修正 今聞こえた微かな声は → 今の微かな声は

2011/12/17 記述修正 老衰で死んだ老帝では無く → 寿命で死んだ老帝では無く

2011/12/17 記述修正 もう生贄の乗せられていた船は、完全に → 生贄の乗せられていた船は、もう完全に

2011/12/17 記述修正 それらしい船影は無くなっていて → それらしい船影は無く

2011/12/17 記述修正 その代わりに大量の残骸が → 代わりに大量の残骸が

2011/12/17 記述修正 その残骸の中央には → 残骸の中央には

2011/12/17 記述修正 浮かんでいるのが見えていて → 浮かんでいるのが見えており

2011/12/17 記述修正 潜る前には円陣を組んでいた → 潜行前に円陣を組んでいた内の

2011/12/17 記述修正 沈められている何かが見えており → 沈んでいるのが見えており

2011/12/17 記述修正 浮いているのも見えている → 浮いているのも見えた

2011/12/17 記述修正 私は速やかに抱えて来た巨大な棺を艀に積み込むべく → 私は抱えて来た巨大な棺を下ろすべく

2011/12/17 記述修正 ゆっくりと上へ向かう様に → ゆっくりと向かう為に

2011/12/17 記述修正 艀の上部まで更に浮上して → 浮上して

2011/12/17 記述修正 艀の上部の状態を確認する → 上面を確認する

2011/12/17 記述修正 彼等はこの棺の大きさや → 彼等は棺の大きさや

2011/12/17 記述修正 判っていたのではないかと思わせた → 判っていたのではないかと思えた

2011/12/17 記述修正 その美しくも妖しく輝くその姿を、とうとう人間達の前に晒した → 美しくも妖しく輝くその姿を人間達の前に晒した

2011/12/17 記述修正 両船の間にはかなり太い丸太や鎖が掛けられて → そうすると今度は両船をかなり太い丸太や鎖で繋いで

2011/12/17 記述修正 二隻が予期せぬ接近で衝突しない様にする為の → 二隻を固定する為の

2011/12/17 記述修正 措置が施されて、安定性を上げた後に → 措置が施され安定性を上げた後に

2011/12/17 記述修正 一度海中へと身を投じて → 一度海中へと頭を沈めて

2011/12/17 記述修正 巨大な軟体動物の触手で → 大きな軟体動物の触手で

2011/12/17 記述修正 そのまま握り潰し、その辺に放り捨てた → そのまま握り潰して放り捨てた

2011/12/17 記述修正 帆を張って逃れようとしているが → 帆を張って離脱しようとしているものの

2011/12/17 記述修正 状況では果たして間に合うのか → 状況で果たして間に合うのか

2011/12/17 記述修正 クロスボウでの迎撃も加わって → 火砲での迎撃も加わって

2011/12/17 記述修正 輸送艦の甲板は青い血で染まる → 輸送艦の甲板で青い血に染まる

2011/12/17 記述修正 触手の突撃は思いの他強固で → 触手に因る突撃の威力は凄まじく

2011/12/17 記述修正 額から後頭部へと貫通している者も見えた → 貫かれた衝撃で胴体は破裂して首と四肢を吹き飛ばされた者もいた

2011/12/17 記述修正 どうすべきかを検討していた → どうすべきかを急いで考え始めた

2011/12/17 記述修正 もう一つ命じられていた隣の船に対する攻撃は → まず隣の船に対する攻撃については

2011/12/17 記述修正 放置する事にしていた。ここへ来て私は → 放置する事にして、

2011/12/17 記述修正 考えるのが妥当と考えるならば → 考えるのならば

2011/12/17 記述修正 薄れ始めた意識で → 糧の欠乏に因って薄れ始めた意識で

2011/12/17 記述結合 勝ち目は無い。であるなら、もし捕まって → 勝ち目は無く、それなら捕まって

2011/12/17 記述修正 僚艦一隻分の価値よりも → きっと僚艦一隻分の価値よりも

2011/12/17 記述修正 あの棺の方が重いのだろう → あの棺の方が遥かに高いのだろう

2011/12/17 記述修正 殺し合いになっている物もあった → 殺し合いになっていた

2011/12/17 記述修正 何が船内で発生したのかが判るのだろうが → 船内で何が発生したのかが判るのだろうが

2011/12/17 記述修正 接触していた私の胴体を通じて → 接触していた胴体を通じて

2011/12/17 記述修正 次々と艀に差し込んで行くのが → 次々と差し込んで行くのが

2011/12/17 記述修正 手にしていた布を棺を覆う様にして被せると → 棺を覆う様に手にしていた布を被せると

2011/12/17 記述修正 封印するかの様に銀色に輝く縄で → 縄で

2011/12/17 記述修正 縄で棺に触れぬ様にしながら → 棺に触れぬ様にしながら縄で

2011/12/17 記述修正 縄で布を棺に縛り付けた → 縄を巻き付けて複雑な結び方で縛っていた

2011/12/17 記述修正 艀の間近まで沈んだところで → 間近まで沈んだところで

2011/12/17 記述修正 胴体の中央に巻きついていた棺をゆっくりと緩め、棺を艀の上に載る様に放した → 胴を緩めて棺を静かに放した

2011/12/17 記述修正 艀の上にゆっくりと倒れていき → ゆっくりと倒れていき

2011/12/17 記述修正 やがて艀から伝わった振動がロープに伝わるのと同時に、十字の棺は艀の中央に横たわった → 艀の中央に横たわった

2011/12/17 記述修正 直立していた黄金の棺は → すると直立していた黄金の棺は

2011/12/17 記述修正 私と言う支えを失って → 私の支えを失って

2011/12/17 記述修正 四隅にはロープで繋がれていて → 四隅から繋がれたロープが

2011/12/17 記述修正 下に行くとそれは一本に束ねられており→ 下で一本に束ねられており

2011/12/17 記述修正 艀の丁度中央に下がるロープの先には → そのロープの先に繋がれた

2011/12/17 記述修正 巨大な錨の様な錘に因って → 大量の錘に因って

2011/12/17 記述修正 艀は海中に沈められているのが判ってきた → 海中に沈められているのが判った

2011/12/17 記述修正 錨の様な錘に因って → 巨大な錨の様な錘に因って

2011/12/17 記述修正 艀には錘を吊るすロープ以外にも → 艀にはそれ以外にも

2011/12/17 記述修正 海上にこの重い棺を抱え上げるのは果たして → しかしそれ以前に、果たして海上にこの異様に重い棺を抱え上げるのは

2011/12/17 記述修正 相当に辛い作業になりそうだと → 果たして実行可能なのかと

2011/12/17 記述修正 少々次の工程には → 次の工程に

2011/12/17 記述修正 全て消費し且つ、全力で満身創痍の → 全て消費して、満身創痍の

2011/12/17 記述分割 要は退屈していたのだ、そして最初は → 要は退屈していたのではないだろうか。最初は

2011/12/17 記述修正 演じて見せた、だがそれも飽きてしまい → 演じて見せていたが、それもすぐに飽きてしまい

2011/12/17 記述修正 薄れ始めた意識で → 薄れ始めた意識の中

2011/12/17 記述修正 側面を貫いた強靭さで → 側面を貫いた後

2011/12/17 記述修正 今度は人間を狩り始めていた → 続いてまだ残っている人間を狩り始めた

2011/12/17 記述修正 三隻連続して発生し、三度目の轟音と → 四隻連続して発生し、四度目の轟音と

2011/12/17 記述修正 凄まじい速さで船体を貫き、 → 凄まじい速さで

2011/12/17 記述修正 食われる様な事になる前に → 食われる様な事態になる前に

2011/12/17 記述修正 出来るだけ遠くへ逃げるべき → 出来るだけ遠くへ逃げるべきであり

2011/12/17 記述修正 宣戦布告であり、報復の宣言だろう → 宣戦布告だろう

2011/12/17 記述修正 銃と大砲に因る援護射撃も加わって → 銃とクロスボウに因る援護射撃も加わり

2011/12/17 記述修正 海流の音と自らの鼓動 → 海流の音と自身の鼓動

2011/12/17 記述修正 ここで引っかかるものを感じて → ここで何か引っかかるものを感じて

2011/12/17 記述修正 次々と甲板から海へと → 次々と海へと

2011/12/17 記述修正 乗り込んでいた船倉内にいたらしい、多くの船員達が → 乗り込んでいたらしい、船倉内にいた多くの船員達が

2011/12/17 記述修正 再開され → 再開されて艀が上がると

2011/12/17 記述修正 どうやら先程海に飛び込んで行った船乗り達が錘のロープを切り落とした様で → 錘を吊っていたロープは途中で切断されていて大量の錘は無くなっており

2011/12/17 記述修正 艀の四隅から下がったロープの先にはもう何も吊るされていなかった → どうやら先程海に飛び込んで行った者達が、少しでも軽くする為に錘を切り落とした様だ

2011/12/17 記述修正 最初は棺の下方に当たる → 棺の下方に当たる

2011/12/17 記述修正 艀の縦方向の端に接触させてから → 艀に置いてから

2011/12/17 記述修正 胴を緩めて棺を静かに放した → 底面側に軽く傾けつつ胴を緩めて棺を静かに放した

2011/12/17 記述修正 残る糧の量を計算し → 残量を計算し

2011/12/17 記述修正 若干消耗を抑えるべく上るペースを落とした → 消耗を抑えるべく上るペースを落とした

2011/12/17 記述修正 時折、海流と鼓動と呼吸の音しか → この海流と鼓動と呼吸の音しか

2011/12/17 記述修正 周囲をちらりと見回した → 何度か周囲を見回した

2011/12/17 記述結合 呼吸音のこの三つだった。海上へと向かう際にも → 呼吸音の三つで、召喚後に海上へと向かう際にも

2011/12/17 記述修正 海上へと戻る時に → 私は鰓呼吸なのだから呼吸音が聞こえる筈は無く、では海上へと戻る時に

2011/12/17 記述修正 私は確認する為に → 念の為に私は確認するべく

2011/12/17 記述修正 骨は砕け、肉は裂け、頭や手足はもげて → 肉は裂け、骨は砕け、頭や手足は千切れて

2011/12/17 記述修正 この状況でもまだこの帆船の → この状況でもまだ帆船の

2011/12/17 記述修正 補助用のロープか何かであろうか → 予備のロープであろうか

2011/12/17 記述修正 引き裂いていくのを感じている最中で → 引き裂かれている最中で

2011/12/17 記述削除 この時に私は決断して~

2011/12/17 記述修正 その時に、旗艦の方からあの笛の詠唱が響いてくるのが判り → そんな混乱の最中に旗艦の方から二度目の笛の詠唱が聞こえ始め

2011/12/17 記述修正 大砲の轟音の最中に耳を澄ます → 私は火砲の轟音が響く中その音色へと耳を澄ます

2011/12/17 記述修正 乗っ取られた二隻の船へと接近すべく → 襲撃を受ける二隻の船へと接近すべく

2011/12/17 記述修正 舷の砲門にある大砲を発射し始めた → 砲門の火砲を発射し始めた

2011/12/17 記述修正 触手を這わせていく。何処まで伸びるのかと思う程に → 触手は這い回り、一体何処まで伸びるのかと思う程に

2011/12/17 記述修正 海中にいて船底は見ていたので → 直前まで海中にいて船底は見ていたので

2011/12/17 記述修正 私の耳に聞こえていたと → 私に聞こえていたと

2011/12/17 記述修正 載せるには十分な大きさはあり → 載せるには十分な大きさがあり

2011/12/17 記述修正 棺の大きさや重量についても → 棺の大きさや重量について

2011/12/17 記述修正 赤く染まるのだろう → 真紅に染まるのだろう

2011/12/17 記述修正 全ての人間の血で → 全ての生物の血に因って

2011/12/17 記述修正 それは海上へとまっすぐに → それらは海上へとまっすぐに

2011/12/17 記述修正 砲撃してきた三隻の帆船 → 砲撃していた三隻の帆船

2011/12/17 記述修正 僚艦の合わせて四隻 → 三隻の僚艦

2011/12/17 記述修正 死霊化した魂を吸い上げているらしい → 浮かばれぬ魂を吸い上げているらしい

2011/12/17 記述修正 まだ切り離しすら出来ていない → まだ繋がっている丸太や鎖を伝い

2011/12/17 記述修正 聞こえなくなったのは~それと呼吸音の三つ → 召喚後に海上へと~確か海流の音と鼓動音

2011/12/17 記述修正 召喚後に海上へと~確か海流の音と鼓動音 → 聞こえなくなったのは~それと呼吸音の三つ

2011/12/17 記述修正 この凄惨な風景を眺めていられたのは → この惨状を眺めていられたのは

2011/12/17 記述修正 この触手の正体は → どうしてこれだけ的確に標的に攻撃出来たのか、そもそもこの触手の正体は

2011/12/17 記述修正 その答えを知る前に → それらの答えを知る前に

2011/12/17 記述修正 全ての砲門から大砲が吹き飛び → 全ての砲門から火砲が吹き飛び

2011/12/17 記述修正 私のところにも伝わる程の振動を感じると同時に → 私のところにも伝わる振動や劈く様な轟音と同時に

2011/12/17 記述修正 ボートの様な小さな船にでも → ボートの様な小さな舟にでも

2011/12/17 記述修正 この状況でもまだ~、甲板の人間を~ → 甲板の人間を~、この状況でもまだ~

2011/12/17 記述修正 甲板の扉や窓、側面の砲門等の → 扉や窓や砲門等の

2011/12/17 記述修正 銀色の布も引き裂かれて → 銀色の布や縄も引き裂かれて

2011/12/17 記述修正 詠唱する者達と → 詠唱する者達を先頭に

2011/12/17 記述修正 銀色に輝く大きな布を → 次に銀色に輝く大きな布を

2011/12/17 記述修正 者達に分かれていて、巨大な → 者達が続き、最後に布と同じく銀色の縄を持つ者達が続いていた。巨大な

2011/12/17 記述修正 以前には見かけなかった聖職者の様な → 新たに聖職者の様な

2018/01/05 誤植修正 そう言う → そういう


潜行の時と比べると数倍の時間を費やしながら、遅々とした速度で浮上を続けて行き、降り注ぐ残骸や亡骸の雨を越えて、私は黙々と泳ぎ続けた。

この海流と鼓動と呼吸の音しか聞こえない静寂の支配する闇の中で、幻聴なのかこんな場所では有り得ない、小さな子供の囁く様な笑い声が聞こえた様な気がして、何度か周囲を見回した。

しかしまだ太陽の光が届く距離では無く、棺の光で照らされる範囲を見ても、子供どころか生物一匹見当たらない。

気のせいか、今の微かな声は棺から聞こえた様な気がして、この中に眠っているのは寿命で死んだ老帝では無く、年端も行かず夭逝した幼帝なのかも知れないと私は感じた。

それも全ては海上に辿り着けば多くが判明する筈だ、私はそう信じて上昇し続ける。




私にとっては永遠に等しい時間を上昇し続けていると、遠方の水の色が次第に闇から紺色へと変わり始めていて、やっと光の届く所まで上がってきた事が分かった。

もうここまで上がっていれば焦る必要は無いだろう、私は糧の温存を考慮して残量を計算し、消耗を抑えるべく上るペースを落とした。

そろそろ詠唱の指示にあった、『板』を探す必要がある。

私の体では、棺を輸送艦の甲板へと直接載せるのは無理な事を人間達も判っていて、何か用意されている板状の物、例えばボートの様な小さな舟にでも搭載させるのだろうか。

しかしそれ以前に、果たして海上にこの異様に重い棺を抱え上げるのは実行可能なのかと、次の工程に不安と危惧を感じていた。

やがて海中の色は随分と淡い藍色へと変化して、再び海面に浮かぶ船影も微かに捉える事が出来た。

生贄の乗せられていた船は、もう完全に崩壊してしまったらしくそれらしい船影は無く、代わりに大量の残骸が浮かんでいるのが見えており、残骸の中央には潜行前に円陣を組んでいた内の、二隻の船影が並んで見えていた。

その二隻の船の間には、何かが海面近くの海中に沈んでいるのが見えており、その周囲には小型のボートらしい船影が数艘浮いているのも見えた。

中央に沈められたそれは艀で、四隅から繋がれたロープが下で一本に束ねられており、そのロープの先に繋がれた大量の錘に因って、海中に沈められているのが判った。

艀にはそれ以外にもかなりの数のロープが繋がれていて、それらは海上へとまっすぐに伸びているのが多いが、中には弛んで繋がれている物もあった。

どうやら板とは、あの海中に没している艀の事に違いない。

私は吊るされている錘の横を通り過ぎて、沈められていた艀の上部が覗き込める位置まで浮上してから上面を確認する。

この十字の棺を載せるには十分な大きさがあり、張られているロープの本数からも、彼等は棺の大きさや重量について、事前に判っていたのではないかと思えた。

もうこの位置なら、船上の人間達にも自分達の求めていた棺が、目前まで来ているのは見えている筈だ。

下手にもたついていると急かす為の制裁を受けて、無駄に糧を失いかねない。

私は抱えて来た巨大な棺を下ろすべく、浮上してロープを避けつつ真上まで移動すると、艀の間近までゆっくりと向かう為に、体をうねらすのを止めて静かに沈降する。

そして間近まで沈んだところで、棺の下方に当たる最も長い辺の側面を艀に置いてから、底面側に軽く傾けつつ胴を緩めて棺を静かに放した。

すると直立していた黄金の棺は、私の支えを失ってゆっくりと倒れていき、艀の中央に横たわった。

私が作業の完了を知らせるべく海上へと頭を出すと、それと入れ違いに何人かの水夫が小型のボートから海へと飛び込んで行くのが見えた。

艀に結ばれていたロープは今やかなりの張力で引っ張られていて、その何本もの張り詰めたロープは艀を挟んで停泊する、旗艦では無い帆船と輸送艦の両甲板へと伸びており、両船の甲板では一本のロープにつき、何人もの船乗り達で号令を掛けながら、張られたロープの数だけ並んでいる、錨を巻き上げる様な仕掛けを回しているのが見える。

それは甲板の端から端まで等間隔で配置されていて、出来るだけ広範囲からロープを手繰る事により、艀の横転を防ごうとしているらしい。

輸送艦の甲板を良く見ると、巻き上げ機は艀側だけではなく逆側にも並んでいて、そちらのロープは船体中央である艀の真横の位置に設置されている、金属製の骨組みで作られた搬送用の台座の上を通る様に、船体を横断して艀を真っ直ぐに引き寄せるべく繋がっていた。

どうやら艀側のロープで艀を安定させながら、逆側のロープで手繰り寄せるつもりの様だ。

引き上げるのに使われずに、若干弛んだままで巻き上げられていくロープも何本かあるが、あれは予備のロープであろうか。

船乗り達の掛け声と共に艀は浮上し、ついに美しくも妖しく輝くその姿を人間達の前に晒した。

海上に出るとその輝く光は、日差しには叶わずに海底で見た時の神々しさはかなり薄れたものの、恐らくここで始めてこの姿を目にしたのであろう船員達には、思わず手が止まる程の衝撃と興奮を与えるに十分だった。

しかしすぐさま指揮を執っていた船乗りの叱咤する怒声が響き、両船では再び引き揚げ作業が再開されて艀が上がると、錘を吊っていたロープは途中で切断されていて大量の錘は無くなっており、どうやら先程海に飛び込んで行った者達が、少しでも軽くする為に錘を切り落とした様だ。

ロープを巻き上げて行くと同時に、二隻の船は段々と近づいているのが判り、そうすると潜行する前に見た記憶では、確か輸送艦は他の船よりも喫水が浅かった筈だが、今では甲板の高さが対面の帆船よりも低い位置にある事に気づいた。

最終的には艀を甲板へと持ち上げる心算らしいのが判ってきて、どうやら喫水を下げる為にロープを巻き上げる要員以外にも、錘として船倉内に何かを積み込んでいる様だ。

棺は相当な重さでありながら、ゆっくりとではあったが順調に持ち上げられて行く。

やがて二隻の船は、艀を橋代わりにすれば歩いて横断出来る距離まで近づき、そうすると今度は両船をかなり太い丸太や鎖で繋いで、二隻を固定する為の措置が施され安定性を上げた後に、いよいよ輸送艦への引き揚げが始まった。

まず最初にもう一隻の帆船側のロープが固定されて、輸送艦側だけでロープの巻き取りが再開される。

輸送艦側のロープは、丈夫な台座に取り付けられた滑車に因って、舷側よりも高い位置まで一旦上げられており、ロープを巻き上げて行くと艀は台座の上に乗り上げて行く。

かなり頑強な作りに見えた台座でも棺の重量は厳しかったらしく、台座は悲鳴の様な音と共に若干撓ってはいたが拉げる事無く棺を受け止めて、黄金の棺は台座の上を滑りながら甲板へと引き寄せられて行く。

棺を乗せた艀が無事に甲板に運ばれると、喫水を調整する為に乗り込んでいたらしい、船倉内にいた多くの船員達が甲板に現れて、横目で黄金の棺を眺めつつ次々と海へと飛び込んで行き、それを迎えに円陣の船からボートが降ろされて、こちらへと向かってくるのも見えた。

それと同時に棺の付近では、新たに聖職者の様な姿の一団が現れた。

その者達は手にしていた杖を翳して何かを詠唱する者達を先頭に、次に銀色に輝く大きな布を広げている者達が続き、最後に布と同じく銀色の縄を持つ者達が続いていた。

巨大な布には複雑な模様や解読出来ない文字が描かれており、明らかに何らかの意味があるに違いない。

聖職者の一団は、詠唱を唱えながら棺を覆う様に手にしていた布を被せると、棺に触れぬ様にしながら縄を巻き付けて複雑な結び方で縛っていた。

この後聖職者の長らしき老人が合図を送ると、何十人もの待機していた船乗り達が、人間の背の倍はある腕程の太さの金属棒を、艀の前後の側面に開いていた穴へと次々と差し込んで行くのが見えた。

そして前後それぞれ四本の棒を差し込まれた艀を、船乗り達が一斉に囲んだかと思うと、黄金の棺は艀毎船乗り達に因って担ぎ上げられて、船倉へと繋がっているらしい、後甲板にある船尾楼の大きく開け放たれた両開きの扉へと向かって、聖職者の一団を先頭にした棺は進んで行く。

この時、上がってくる際にずっと聞こえていた、様々な音がいつの間にか聞こえなくなっているのに気づいた。

それは海中にいて海水から伝わっていた音が、頭部を海上に出した事に因って聞こえづらくなった、それだけの事では無いかと流そうとしたのだが、ここで何か引っかかるものを感じて私は再考した。

召喚後に海上へと向かう際にも途中で音が気になった筈だが、その時に聞いたのは確か海流の音と鼓動音で、聞こえなくなったのは、海中で聞こえていた海流の音と自身の鼓動、それと呼吸音の三つだった。

私は鰓呼吸なのだから呼吸音が聞こえる筈は無く、では海上へと戻る時に耳にしていた呼吸音は、一体何だったのだろうか。

念の為に私は確認するべく、一度海中へと頭を沈めて耳を澄ましてみるが、己の呼吸音は聞こえて来ないのがはっきりした。

先程と今との違いは棺の有無だけであるから、答えとしてはあの棺から聞こえていた音が、接触していた胴体を通じて私に聞こえていたと言う事になろう。

それはつまり棺が呼吸していた、或いは棺の中身が呼吸していてそれが反響して伝わっていた、このいずれかの様に思える。

私は不吉な予感が強まるのを感じたが、もう後は結果を見守る以外には無いと半ば諦めて、輸送艦の状況を確認しようと浮上した時に、恐れていた異変は発生した。




十字の棺を船倉内に運び入れた輸送艦が、急激な速度で沈み始めたのだ。

ものの十秒足らずでみるみるうちに、多くの船乗り達が下船して上がった喫水は元に戻り、更に沈んで行くのが判った。

それと同時に船内から多くの悲鳴が上がり、先程棺を担いでいた者達であろうか、船倉へと続く扉から恐慌状態の船乗り達が逃げ出してくるのが見えた。

何故急に沈み始めたのだろうか、この船にはその瞬間に何も乗船してはいないし、直前まで海中にいて船底は見ていたので、何かが海中から襲い掛かってきた訳でも無いのは明白だ。

だとすると、やはりあの棺の仕業なのか。

逃げ惑う船員達が叫んでいる悲鳴の内容が理解出来れば、船内で何が発生したのかが判るのだろうが、残念ながら私にはその言葉は理解出来ない。

しかしそれが判らなくとも、向こうの方からその姿を現したのが、この後すぐに判った。

輸送艦の船倉への入り口から、船乗り達以外のものが姿を現し始めたからだ。

それは大きな軟体動物の触手で、言うなれば巨大な烏賊や蛸の足、それが這いずる様にしながら、船倉内から生え出てきたのである。

巨大な触手は人間の逃げる速度よりも若干速く、追いついた人間達をその触手の先端で絡め取ると、そのまま握り潰して放り捨てた。

これが沈没船の船内にあった死体の死因か、だとするとあの船の乗組員は全てこの怪物に襲われたのだろうか。

私がそれを考えている間にも次の獲物へと向かって触手は這い回り、一体何処まで伸びるのかと思う程に、この触手はいつまでも船倉から伸びて行き、更にその本数も次第に増えて、十本を超えてもまだ新たな触手が姿を現した。

もうこれは巨大な烏賊なんてものでは無く、私と同様の化物であるクラーケンの類としか思えない。

触手の直径は先端は細くなっているが、先端からある程度根元に向かうと太さは一定となり、それは人間の胴体程度あって、表面には吸盤らしき疣状の突起がほぼ全面に均等に付いているのが見えた。

もはや数え切れなくなっている触手の群れは、獲物を求めて輸送艦の甲板上をのたくり蠢いている。

艀を繋いでいたもう一隻の帆船では、船員達は半狂乱になりながらも、一秒でも早くこの怪物から逃れようと、必死に繋いでいたロープや丸太や鎖を外しながら帆を張って離脱しようとしているものの、この凪に近い状況で果たして間に合うのか。

案の定、今や甲板を埋め尽くすまで増殖した触手は、まだ繋がっている丸太や鎖を伝い帆船へと向かって伸びて行く。

それを見た帆船の船員達は、輸送艦の者達よりは覚悟があったらしく、迫り来る触手に立ち向かって腰に佩いた剣やナイフを抜くと、船を守るべく触手へと反撃を始めていた。

触手は剣で切られると、基本は軟体動物なのか意外とあっさりと切断されて、苦痛に悶えながら烏賊や蛸と同じく青い血を流して引っ込んで行く。

剣での迎撃で浸入を防いでいる間に、船倉から巻上げ式のクロスボウや長い銃身の銃を持った船乗り達も現れて、銃とクロスボウに因る援護射撃も加わり、形勢は完全に逆転した。

更に火砲での迎撃も加わって、今や輸送艦の甲板で青い血に染まる巨大な触手は、帆船へと手が出せなくなってじりじりと輸送艦の船倉へと後退している、かに見えた。

だがそれは実際には、この怪物の陽動作戦でしかなかったのが、この後すぐに明らかになった。

私のところにも伝わる振動や劈く様な轟音と同時に、輸送艦の船尾楼の屋根や窓をぶち抜いて、大量の触手が絡まり合いながら後方マストと同じくらいの高さまで空へと聳え立った。

その無数の触手の先端には、先程棺に対して祈りを捧げていた聖職者達の骸が串刺しにされていて、棺を覆っていた銀色の布や縄も引き裂かれて触手に絡まり、高々と空に掲げられていた。

これは何かの意思表示ではないのだろうか、その意思は一つしか思い当たらない、間違いなく宣戦布告だろう。

聳え立つ触手の塔から帆船の甲板目掛けて、無数の触手が生え出て来て弓矢の雨の様に降り注ぎ、甲板上の優勢を疑わずにいた人間達を貫き、絡め取り、引き裂いていく。

その速度は弓矢のそれよりも速く、哀れな船員達は恐怖する暇も無く殺されていった。

この新たに現れた触手に因る突撃の威力は凄まじく、串刺しにされた船乗りの中には、貫かれた衝撃で胴体は破裂して首と四肢を吹き飛ばされた者もいた。

青い血で染まった輸送艦に対して、帆船の甲板は赤い血の海と化していて、これはあの怪物の報復なのかと思わずにはいられなかった。

ものの数秒で甲板を片付けた触手は、そのまま帆船を船体毎絡め取るかの様に巻きつき始めて、まだ生き残っていた船員達は船を捨てて海へと飛び込んで逃げ出し始めた。

甲板の人間を血祭りに上げた触手は、扉や窓や砲門等のあらゆる隙間から内部へと侵入を始めていて、この状況でもまだ帆船の内部には船員が残っているらしく、それを迎撃しようと砲門の火砲を発射し始めた。

それは当然、すぐ隣りの輸送艦に向けての攻撃にもなってしまい、触手を吹き飛ばした砲弾はそのまま輸送艦の左舷へと命中して、大穴を開けていく。




この予期せぬ事態に、円陣を組んでいる船の方でも異変に気づき始めた様で、旗艦とその周辺の僚艦三隻は、帆を広げ出して共だって襲撃を受ける二隻の船へと接近すべく、舵を円陣の内側へと切った様だ。

どういう意味かは不明だが、旗艦のマストにはあれは信号旗なのか、今までに見ていない小さな青く長い旗が揚がっているのが見えて、他の船に対して何らかの命令を出しているのは判った。

しかし、この旗艦の命令は左右の三隻の僚艦にしか届いていないのか、他の船は同じ様な行動を取る気配が無く、逆に反対側にいる三隻は襲われている僚艦の危機を救おうと、輸送艦に対して砲撃を開始した。

その他の船ではどうやら船員達が恐慌状態に陥ってしまい、統制が取れずまともに旗艦からの指示を聞ける状況ですらなくなり、甲板上でも小競り合いが始まっているのが見えていて、船によっては船員同士の殺し合いになっていた。

それなりに統制の取れた艦隊かと思っていたのだが、所詮は海賊でならず者の寄せ集めだったからか、この非常事態に対してまともに動いているのは全体の半分にも満たない四隻だけだ。

そんな混乱の最中に旗艦の方から二度目の笛の詠唱が聞こえ始め、私は火砲の轟音が響く中その音色へと耳を澄ます。

聞こえて来た命令は簡潔でありながら、とてつもなく難易度が高い物であった。

「棺、取れ、怪物、殺せ、隣り、船、沈めろ」

そうか、あくまで旗艦の提督は、自分達の命惜しさに輸送艦を沈めに掛かっている味方の船を沈めろと、そして当初の目的通りに棺を奪還しろと言う訳か。

きっと僚艦一隻分の価値よりも、あの棺の方が遥かに高いのだろう。

旗艦と三隻の僚艦が反撃する船の側面へと回り込んで行く間に、私はどう考えても勝ち目が無さそうな相手を倒し、それが敵の本体だと思われる棺を回収しろと言う、無謀極まりない命令を受けて、どうすべきかを急いで考え始めた。

まず隣の船に対する攻撃については、恐らく放っておいてもあれはもう、暫くすれば沈むだろうと踏んで放置する事にして、自分の糧の残量を確認しようとした際に、海中からの異様な糧の流れを察知した。

それはこの海域全体から、掻き集められる様に吸い上げられていて、その莫大な奔流は無論私の元へと流れ込む糧ではなく、全てあの輸送艦の中へと注がれているのが判った。

集まって来ている糧は、まともに捧げられた生贄ではなく、どうもこの近海で死んで海中や海底に彷徨っている、浮かばれぬ魂を吸い上げているらしい。

どういう仕組みなのかは判らないので、あの触手の化物が私と同様の召喚された器なのか、それとも死霊の類なのか区別がつかないのは、これから攻撃を仕掛ける立場としては、非常に嫌な状況であると言える。

しかし今現れた触手が、海底の沈没船を沈めた攻撃を行ったと考えるのならば、触手の怪物はまだ本気ではない事になる。

ここで少々楽観的な推測をするならば、今はまだ力を蓄えている等の理由で、あれだけの攻撃が出来ない状態にあるかも知れない、それならば今のうちに一気に攻撃を仕掛けるべきだ。

しかし悲観的な推測では、触手の怪物は単に人間達を弄んでいるのであって、いつでも皆殺しに出来る準備は出来ている、故にもう何をしても勝ち目は無く、それなら捕まって私の意識そのものを食われる様な事態になる前に、出来るだけ遠くへ逃げるべきであり、或いは私自身が喰われる前に元の世界へと戻るべきであるとも思える。

どうやら今回は悠長に思考している余裕は無かった様だ、そうして迷っている間に、化物は私の悲観的な推測を現実のものにしてしまった。

輸送艦から前後左右の全ての方向に向かって、凄まじい速さで数え切れない程の触手を突き出したのだ。

それは、海上で泳いで逃げていた船乗り達、ボートで救助していた水夫、真横にいた船、砲撃していた三隻の帆船、混乱状態であった二隻の船、旗艦とそれに続いていた三隻の僚艦、全てを刺し貫いた。

砲撃をしていた船は火薬に引火したらしく、轟音と共に全ての砲門から火砲が吹き飛び、強度の低い船尾楼も吹き飛んだ後、黒煙と共にマストと帆を真っ赤に炎上させつつ沈んで行く。

この爆発は四隻連続して発生し、四度目の轟音と衝撃が終わると今度は、生き残っている船で地獄が始まっていた。

無数の触手は分厚い船の側面を貫いた後、続いてまだ残っている人間を狩り始めた。

船乗り達は触手に叩き付けられるだけで、肉は裂け、骨は砕け、頭や手足は千切れて、体は血塗れの肉片へと変えられていく。

直にこの海は真紅に染まるのだろう、この海域にいる全ての生物の血に因って。

糧の欠乏に因って薄れ始めた意識の中、私は何となくこの触手の化物の意思が判ったような気がした、要は退屈していたのではないか。

最初は茶番を演じて見せていたが、それもすぐに飽きてしまい速やかに終わらせた、そういう事なのだろう。

そんな結論を見出しつつ、この惨状を眺めていられたのはここまでだった。

私も他の船や人間と同じく、この触手に何箇所も体を貫かれており、今はその貫通した触手が私の胴体を内臓や骨ごと引き裂いている最中で、運良くなのか頭部は触手が直撃せず、まだ虫の息ではあったが辛うじて生きていた。

だがこのままではあの化物に喰われるかも知れない、そう考えた私は糧を全て消費して、満身創痍の肉体に敢えて強化を行って死期を早めたのだが、果たして間に合うのか。

どうしてこれだけ的確に標的に攻撃出来たのか、そもそもこの触手の正体は何だったのだろう、そして私はこの後どうなるのか、それらの答えを知る前に最期の触手の一撃が私の額を貫き、私の頭は砕け散った。





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