表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『誓約(ゲッシュ) 第一編』  作者: 津洲 珠手(zzzz)
第十章 深海の遺産
45/100

第十章 深海の遺産 其の三

変更履歴

2011/11/03 記述統一 一センチ、十メートル → 1cm、10m

2011/11/03 記述修正 収める事は → 納める事は

2011/11/04 誤植修正 乗せる → 載せる

2011/11/04 誤植修正 己の意志・私の意志に → 己の意思・私の意思に

2011/11/19 誤植修正 関わらず → 拘わらず

2011/12/10 誤植修正 して見たのだが → してみたのだが

2011/12/14 誤植修正 周りを囲う様にを船を → 周りを囲う様に船を

2011/12/14 誤植修正 本性が露わになる → 本性が露になる

2011/12/14 誤植修正 この曰く有り気な → この曰く有りげな

2011/12/14 句読点調整

2011/12/14 記述修正 部屋の広さは今までの部屋の倍はあり → 棺の間の広さは

2011/12/14 記述修正 長さがあるのが判った → 長さがあり、棺の放つ黄金の光に因って全てが金色にしか見えない、黄金の間と化していた

2011/12/14 記述修正 私の胴体を真っ直ぐに伸ばして同程度 → 約5m程あり

2011/12/14 記述修正 四方の壁までは私の全長以上の長さがあり → 広さは縦横共に私の全長よりは短くて15m程度で

2011/12/14 記述修正 穴だらけの姿になっている → 穴だらけの無残な姿になっている

2011/12/14 記述修正 とてもではないがこれ以上の全貌は掴めない。しかしながら → 情報不足でこれ以上の事は判らないが、ここに来てもう一点判ったのは

2011/12/14 記述修正 異質な気配を感じる → 異質な気配を感じる事だ

2011/12/14 記述修正 死ぬ可能性は低いだろうし → 本質的に死ぬ可能性は低いだろうし

2011/12/14 記述修正 それで糧が切れたとしたって → それで糧が切れたとしても

2011/12/14 記述修正 これを再び人間の元へと戻す為 → これを再び人間の元へと戻す為であり

2011/12/14 記述修正 定められた運命、宿命だと思える → 定められた運命であり宿命だったと思える

2011/12/14 記述修正 棺の素材は明らかに金属 → 棺の素材は明らかに金属の様で

2011/12/14 記述修正 金と言う事になろうがどうだろう → 金と言う事になるがどうなのだろうか

2011/12/14 記述修正 この大きさの金の塊だったとしたら → 仮にこの大きさの純金の塊だったとすると

2011/12/14 記述修正 その重さは大体800kg → その重さは大体4tにも達し

2011/12/14 記述修正 空洞になっているかになるが → 空洞かに因るが

2011/12/14 記述修正 蓋が開く可能性があるのと → 蓋が開く可能性がある以前に

2011/12/14 記述修正 これは試す前に廃案とした → これは試すまでも無く廃案とした

2011/12/14 記述修正 胴の長さが足りなさそうだと気づき → 棺を取り巻くのは出来ても浮上する為に泳ぐのが出来そうもないのに気づき

2011/12/14 記述修正 棺を抱えるにはどうしたらいい → 棺を抱えるにはどうすべきなのだろうか

2011/12/14 記述修正 真上を真っ直ぐに貫いた大穴を開けるのは → 搬出口作成は

2011/12/14 記述修正 僅かではあるが → 穴を広げた事に因り僅かではあるが

2011/12/14 記述修正 他に船内へと入る前と比べて → 船内へと入る前と比べて

2011/12/14 記述修正 竜骨ごと抱える事になり → 棺の真下を通っているであろう竜骨ごと抱える事になり

2011/12/14 記述修正 一つの懸念事項として → この段階に於いての懸念事項として

2011/12/14 記述修正 それを確認する目的もあった → この行動にはそれを確認する意図もあった

2011/12/14 記述修正 まずそこ一帯の床を壊し始めた → その一帯の床を壊し始めた

2011/12/14 記述修正 すぐに海底ではなく → 予想通りすぐに海底ではなく

2011/12/14 記述修正 こちらは無理やり頭から → これを無理やり頭から

2011/12/14 記述修正 変えても大丈夫なのか、であった → 変えても大丈夫なのかだ

2011/12/14 記述修正 抵抗もかなり大きくなり → 抵抗もかなり大きく

2011/12/14 記述修正 と言う事は → となると

2011/12/14 記述修正 沈められた、だろうか → 沈められたのだろうか

2011/12/14 記述修正 為り得無いのではないかと → 為り得無いのではないかと思えるのだ

2011/12/14 記述修正 露わになる、そんな予感がしていたのだ → 露わになる予感がしていた

2011/12/14 記述修正 次々と折れるのが判った → 肋骨は次々と折れて行く

2011/12/14 記述修正 しかし処女航海で → しかしその最初で最後となる処女航海で

2011/12/14 記述修正 それとも必然になのか → それとも必然なのか

2011/12/14 記述修正 尋常では無い攻撃を受けて → 尋常では無い攻撃に因って

2011/12/14 記述修正 もしこれを開いて見たら → もしこれを開けたら

2011/12/14 記述修正 その結果に甘んじよう → その結果に従おう

2011/12/14 記述修正 乱すべきでは無かろう → 乱すべきでは無く

2011/12/14 記述修正 この棺が常識で考える方法の開閉方法で正しいかについても → この棺の開閉方法について

2011/12/14 記述修正 常識的に上部平面部が蓋であると → 常識的に上部の平面部分が蓋であると

2011/12/14 記述修正 肋骨には見事なくらい穴は避けて → 見事なくらい穴は避けて

2011/12/14 記述修正 折れてはいないのが判った → 折れていないのが判った

2011/12/14 記述修正 より穴が近くて多い側であった左側を選んで → より穴が近くて多い左側を選び

2011/12/14 記述修正 窪みに沈めた胴の上へと → 後は窪みに沈めた胴の上へと

2011/12/14 記述修正 ここまでは潤沢であった糧も → ここに到着するまでは潤沢であった糧も

2011/12/14 記述修正 大幅に消耗は上がっており → 大幅に消耗し始めており

2011/12/14 記述修正 推進力は半分しか無く → 推進力は半減し

2011/12/14 記述修正 旗は海上で見た物とは → この船の旗は海上で見た物とは

2011/12/14 記述修正 仕業であったと言う推測が、最も有力か → 仕業であったと言う推測が妥当なところか

2011/12/14 記述修正 もう最も近くにいる状況でかつ → もうこれ以上無い程に近くで

2011/12/14 記述修正 私の体は穴だらけにされる覚悟はしている → 私の体を穴だらけにされる覚悟は出来ている

2011/12/14 記述修正 おかしくは無いとも言えなくも無い → 不思議ではない

2011/12/14 記述修正 それよりも有り得るのは、 → それよりも

2011/12/14 記述修正 設計当初は僅かな隙間も無く嵌る様に設計され → 当初は僅かな隙間も無く嵌る様に設計されて

2011/12/14 記述修正 暫しの逡巡の後 → そして暫しの逡巡の後に

2011/12/14 記述修正 この船はこの棺の間を浮かばせる為に周りを囲う様に → 棺の間の周りを囲って

2011/12/14 記述修正 来ているのは判っていたのだが → 来ているのもあるのは判っていたのだが

2011/12/14 記述修正 それだけではない理由は → それだけではないもう一つの理由は

2011/12/14 記述修正 部屋全体を見回して → 部屋全体を見渡している内に

2011/12/14 記述修正 高級家具の様に滑らかで塗装もされていないのに → 滑らかで塗装もされていないのに

2011/12/14 記述修正 そんな壁も床も天井も、今は → そんな壁も床も天井も今や

2011/12/14 記述修正 棺を運んでいた国家と上にいる海賊が所属する国家は → 棺を運んでいた国と上にいる海賊が所属する国は

2011/12/14 記述修正 滑り落とす危険も回避出来るだろう → 滑り落とす危険もかなり軽減出来る筈だ

2011/12/14 記述修正 厚さの床板に噛み付いて → 厚さの床板に喰らいつき

2011/12/14 記述修正 十字の形をしていた → 十字の形をしており、船の向きに合わせてか船首に十字架の上部を向ける様に鎮座していた

2011/12/14 記述修正 そんな嫌な予感がしてならないのだ → そんな嫌な予感がしてならない

2011/12/14 記述修正 発動しないのではないかと感じている → 発動しないのではないかと感じていた

2011/12/14 記述修正 棺の完全な側面が見えて → 隠れていた棺の完全な側面が見えて

2011/12/14 記述修正 約20cm程床にめり込む様に → やはり約20cm程床にめり込む様に

2011/12/14 記述修正 下顎だけを突っ込んで → 下顎だけを突っ込み

2011/12/14 記述修正 床板に喰らいつき → 床板に喰らいつくと

2011/12/14 記述修正 もう少し多くずれるのが判った → もう少し多くずれる様だ

2011/12/14 記述修正 私は本気でこの棺を動かすべく → 次はこの棺を動かすべく

2011/12/14 記述分割 積もっているのだと判り、この後舳先へと回ってから → 積もっているのだと判った。この後舳先へと回ってから

2011/12/14 記述追加 すると早速~

2011/12/14 記述修正 天井は破壊する事が出来た → 天井を破壊する事が出来た

2011/12/14 記述修正 この棺の下に体を通すかだ → この棺を持ち上げるかだ

2011/12/14 記述修正 美しい表面をしている。そんな高価な → 美しい表面をしていたのだが、そんな高価な

2011/12/14 記述修正 そんな感情を抱きつつ → そんな憶測を抱きつつ

2011/12/14 記述修正 この棺はずっしりと重く → この棺はずっと重く

2011/12/14 記述修正 また私自身にも特に影響も無く、特に熱いとか冷たいとかも無く → また私自身にも特に熱いとか冷たい等の影響も無く

2011/12/14 記述修正 新たな物音がしたりと言った異変も見当たらないし、聞き取れもしなかった → 何かが動いたり新たな物音がしたりと言った異変も起きなかった

2011/12/14 記述修正 若しかすると天井の穴のうち → 若しかすると天井か壁の穴のうち

2011/12/14 記述修正 穴は無数に穿たれているものの → 穴が無数に穿たれているものの

2011/12/14 記述修正 何処も同じく1mは無い様で → 何処も同じく1mは無く

2011/12/14 記述修正 十字の横棒部分が約2.5mで → 十字の横棒部分が約2mで

2011/12/14 記述修正 十字の左右と上部へと → 十字の棒部分の幅は約1mで、左右と上部へと

2011/12/14 記述修正 海上へと上げて、海上の人間達へと → 海上の人間達へと

2011/12/14 記述修正 この棺の本性が露になる予感がしていた → 棺の本性が露になる予感がしていた

2011/12/14 記述修正 考えていた旗を確認するべく → 考えていた旗を調べるべく

2011/12/14 記述修正 口先を穴へと突っ込んで → 口先を穴へと突き刺して

2011/12/14 記述修正 再び棺の間へと戻って → 再び棺の間へと戻り


棺の間の広さは、天井から床までは約5m程あり、四方の壁までは私の全長よりは短く15m程度で、棺の放つ黄金の光に因って全てが金色にしか見えない、黄金の間と化していた。

今までの部屋とは壁や床に使われている木材も別の物で、滑らかで塗装もされていないのに木目も見当たらない美しい表面をしていたのだが、そんな壁も床も天井も今や穴だらけの無残な姿になっている。

この棺のある部屋へと入った時から、私は何か違和感を感じていた。

それは、今までの部屋にはあった調度品や死体が全く無い事から来ているのもあるのは判っていたのだが、それだけではないもう一つの理由は、部屋全体を見渡している内に理解する事が出来た。

この棺の間には、四方は今でこそ穴が無数に穿たれているものの、扉が一箇所も無く、人間が普通に出入りする様な出入り口が存在していなかった。

若しかすると天井か壁の穴のうち、どれかが直径1m未満のハッチでもあったのかも知れないが、その大きさでは棺をこの部屋に納める事は出来ないだろう、無数に開いている穴はどれも棺よりも小さいのだ。

壁や天井に使われている木材は、今までの部屋の床や天井に張られていたものとは厚さが違い、船体の骨格に用いられる様な厚みのある木が使われていて、まるで棺の間の周りを囲って船を建造したかに見える。

これはつまりこの船は棺を運ぶ為に造られたもので、何処から何処へかは判らないが無事に目的地に着いたら廃船にされる、たった一度の航海の為だけに用意された船だったのだと推測出来た。

しかしその最初で最後となる処女航海で、運悪くなのかそれとも必然なのか、その役目を果たす事無くこの船は沈められてしまった、それも尋常では無い攻撃に因って。

この目の前にある結果だけからの推測では、情報不足でこれ以上の事は判らないが、ここに来てもう一点判ったのは、この棺からはとても異質な気配を感じる事だ。

まるでパンドラの箱の様に、開けるととてつもない災いが湧き出す様な、そんな嫌な予感がしてならない。

これはここに沈んでいるべきものなのではないのだろうか、それが本来の運命であったから、この様な超自然の齎した攻撃に因って沈没したのではないか、私自身が神に等しい存在にも拘わらず、そんな気すらして来る。

そう臆するのと同時に、もしこれを開けたら一体何が起きるのか、そして中身は何なのかと言う好奇心もまた同時に湧き上がる。

あの笛の詠唱の中で唯一の否定の指示でもあるから、相当に興味深い事象が期待出来るのは間違い無い。

どのみち私はこの器がどうにかなったとしても、本質的に死ぬ可能性は低いだろうし、それに指示に背いたところで糧の消耗程度の話だ、別にそれで糧が切れたとしてもまた闇の世界へと戻されるだけで、どうと言う事も無いではないか。

私は棺を目の前にして、恐怖と興味を天秤に掛けて、己の行動をどうすべきなのかを静かに考えていた。

そして暫しの逡巡の後に、私は決心した。

私が召喚されたのはこれを再び人間の元へと戻す為であり、そして無事にこの世界に私が現れたのは、それが実行される事が歩むべき運命として選択されたからだろう。

そしてその宿命を私が乱すべきでは無く、これを人間の元へと戻してみてその結果に従おう、それが今回の召喚の辿るべき順路であろうから。

そうすればその結果がどうなろうと、それはもう定められた運命であり宿命だったと思える。

私は己の意思や感情ではなく、この世界の宿命を優先する事にして、禍々しく輝く黄金の棺へと近づいて行く。




眩い金色の光を放つ棺は、その形状は想像とは違い、単なる長方形では無く十字の形をしており、船の向きに合わせてか船首に十字架の上部を向ける様に鎮座していた。

人間一人が横たわっているにしてはとても巨大で、全長は約3m程あり、幅は十字の横棒部分が約2mで、高さは何処も同じく1mは無く、十字の棒部分の幅は何処も約1mで、左右と上部へと突出している長さは約50cm程だ。

光り輝いていて直視が出来ず判りづらいが、表面は非常に細かな細工が施されていて、平行に伸びる線の数が随分と多い、象形文字らしいものが刻まれている様だ。

これぞまさに、聖なる黄金の十字架と言ったところか。

この十字の棺いっぱいの大きさの巨人が、この中に入っているとはとても思えず、実際のところは開けなければ判らないが、恐らく壁面の厚みが相当あるのではないかと思える。

棺の素材は明らかに金属の様で、どういう仕組みで発光しているのかは謎なので置いておくとして、見た目からだと金と言う事になるがどうなのだろうか。

仮にこの大きさの純金の塊だったとすると、その重さは大体4tにも達し、後はどれだけ中が空洞かに因るが、これは実際に持ち上げてみなければ判るまい。

ずっと発せられている黄金の光は、生物に対して害は無いのかも気になったが、とにかく直視はしない様にしつつ抱え上げるしか無いと踏んで、その手段を検討し始めた。

問題はどうやって、この棺を持ち上げるかだ。

下手に棺の上部を押したりすると、そのまま蓋がずれて開くのではないかと思えてそれは出来ないし、かと言って持ち上げる様な手や腕を持たないこの海蛇じみた体では、棺を傾けたり一方を持ち上げるのが非常に難しい作業だと思える。

側面を胴体で囲む様にして持ち上げると言うのも考えたが、この棺の蓋の継ぎ目が光の所為で良く判らない為に、棺の側面だけを抱えるのはやはり蓋が開く可能性がある以前に、棺を取り巻くのは出来ても浮上する為に泳ぐのが出来そうもないのに気づき、これは試すまでも無く廃案とした。

棺の上部をずらす様な力を加えずに、この胴体で棺を抱えるにはどうすべきなのだろうか。

私はまたしても暫く思案して、その方法を模索したがすぐには思いつかず、仕方が無いので先にこの棺を抱えて出る為の通路を作る事にした。

と言ってもやる事は簡単で、今通って来た穴を破壊して、もっと大きな穴へと広げるだけである。

棺の間の天井は分厚いものの、無数の穴で強度は落ちているから、二つの穴に体を通してから、体を引き寄せる様に身を捩れば、天井を破壊する事が出来た。

それより上の階層の部屋の床や天井はもっと脆く、容易く穴は広がり、最後の甲板は若干硬かったものの、棺の間に比べれば脆かった。

こうして十字の棺の搬出口作成は、比較的簡単に完了した。




甲板まで出たついでに再び船の外へと出てみると、穴を広げた事に因り僅かではあるがマストの先にまで光は届いていて、旗の存在は確認出来たが色や図柄までは見えない。

やはりあの棺を持ち出した時に確認するのが良さそうだと判断して、船内へと入る前と比べて周囲に異変も起きていないのを確認してから、ふと気になって棺の間の真横に当たる船体の横へと向かった。

この辺りの海底は平坦になっており、船体の穴から漏れ出る光では白くなだらかに見えたのが何なのかを確認すると、それは砂が積もっているのだと判った。

すると早速、一つの案が頭に浮かんできた。

この後舳先へと回ってから再び棺の間へと戻り、思いついた手段の実行可否を確認してみる事にした。

この体で棺を抱え上げるには私自身が棺の下に潜るしかないが、その為にまず、完全に中央に配置されている棺をずらす必要がある。

この位置ではどうしても棺の真下を通っているであろう竜骨ごと抱える事になり、流石にこれだけの巨大な船を支える竜骨を破壊するのも難しそうだし、かと言って船毎持ち上げるのはとてもでは無いが出来そうも無いからだ。

さてここで私は、この棺に触れても大丈夫なのかについて、何かが起きたとしてもその時は諦めると言う決断を下して挑むのと、この棺の開閉方法について、常識的に上部の平面部分が蓋であると仮定してから、意を決して棺へと触れる。

だがとりあえず触れただけでは棺には何も変化も起きず、また私自身にも特に熱いとか冷たい等の影響も無く、周囲からも何かが動いたり新たな物音がしたりと言った異変も起きなかった。

暫く静かにして様子を見ても、やはり何事も起こらないのを確認して、次はこの棺を動かすべく体勢を整える。

私は首のすぐ下の背や脇で十字の棺の出来るだけ底面近くから押す様にと、床に体を擦りつけながら慎重にゆっくりと横へと力を掛けて行く。

この段階に於いての懸念事項として、棺を運ぶ為だけに建造された船だとすると、棺が竜骨に固定されているかも知れないと言う不安もあって、この行動にはそれを確認する意図もあった。

私の嫌な予感は正しかったらしく、金の棺は殆んど動かない。

しかしほんの僅かには横方向へと動いたのが判り、別の可能性を確認する為に今度は逆側から棺を押すと、先程よりももう少し多くずれる様だ。

これで判ったのは、この時船は全く動いていない事から、少なくとも竜骨に固定はされていないのと、もう一つはこの十字の棺は床の窪みに嵌っていると言う事だ。

当初は僅かな隙間も無く嵌る様に設計されて作られていたのだろうが、この場所の水温と水圧で収縮した結果、材質の違いで僅かに隙間が生じ、その隙間分が今私が押して動かす事が出来たのだろう。

これで棺の固定方法について判明した結果、棺を上げるにはただ単に船体の下に穴を掘るだけでは出来ないのが判り、私はもう一度どうすべきかを考える。

この部屋の床は船底の板だろうか、いやそれは有り得ない、これは竜骨船であろうから、縦方向の竜骨と横方向の肋骨が骨格となって、それに板を張っている筈だ。

それとこの棺が嵌っているのは、あれだけ力を掛けても床が壊れなかったところからして、床板だけではなく竜骨や肋骨にも溝が掘られていて、そこに嵌っているのだろう。

それならばと私はまず十字の棺の左右を見比べて、より穴が近くて多い左側を選び、その一帯の床を壊し始めた。

床の穴に頭を突っ込むと予想通りすぐに海底ではなく、床と船底の間にある竜骨と肋骨の高さ分の隙間に鼻先が入った。

それが判ると一旦頭を出して、今度は口を開けて下顎だけを突っ込み、天井に匹敵する厚さの床板に喰らいつくと、噛み砕きつつ全身で床板を剥ぐ様に持ち上げて行く。

すると床板は噛み付いた辺りから、亀裂を生じて裂ける様に割れて、下にあった肋骨が見えて来た。

この部分だけなのかも知れないが、肋骨はかなりの狭い間隔で並んでいたが、見事なくらい穴は避けて穿たれていた様で、一本も折れていないのが判った。

これを無理やり頭から体を捻じ込んで行く事に因ってへし折って見ると、やはり棺の所に切り欠きがあって、太さが切り替わる溝部分に最も力が掛かり、そこを支点にして肋骨は次々と折れて行く。

こうして棺の左側の肋骨を大体取り除くと、隠れていた棺の完全な側面が見えて、やはり約20cm程床にめり込む様に設置されていたのが判った。

後は肋骨の下の船底も剥ぎ取ってから、自分の胴体を落として棺の底面と並ぶくらいの穴を、海底に掘っていく。

船底の板は甲板よりも強固で、かなりの苦戦を強いられたものの、その下の海底は砂であったから、既に穴が開いているところから口先を穴へと突き刺して、砂を掘り返した後は床の時と同様に、噛み付いて半ば食いちぎりつつ破壊した。

こうして広げた窪みに胴体を置いてから、棺をこちら側へと顎で引き寄せて、後は窪みに沈めた胴の上へと載せるだけである。

ただこの時に、後半は十字の下方だけを押して棺の角度を変えて、丁度十字の交差部分の下が横たえている胴体と交差する様にずらして載せる事により、棺を立てても滑り落とす危険もかなり軽減出来る筈だ。

ここで一つ気に掛かったのは、果たしてこの棺の角度は変えても大丈夫なのかだ。

出来れば水平を維持したままでと思い試してみたのだが、流石にこれだけの重く大きな塊を水平のままで持ち上げるのは、難しいのがすぐに判明した。

一時的であれば持ち上がりはするが重心のバランスも取り辛く、また水の抵抗もかなり大きく海上まではもたないだろうと判断して、十字の棺をしっかりと絡め取ったままでゆっくりと立ててから、巻いていない胴体で上へと向かって泳ぎ始めた。




想像していたよりもこの棺はずっと重く、この怪物の力を以ってしても、これは相当厳しい帰路になりそうだと覚悟した。

上昇するにつれて、水圧は弱まるので少しは動き易くなるのかも知れないが、そう感じられるまで果たしてこの器は持つだろうか。

ここに到着するまでは潤沢であった糧も、この作業で大幅に消耗し始めており、また胴体の半分は棺を抱えるのに使っていて推進力は半減し、更に棺の重さと抵抗が重なっている点も踏まえると、上まで持つかどうかが正直判らない。

だが召喚の目的を果たすと決めたからには、それに向けて最大限の努力は行う事にして、私は海上目掛けて上昇すべく、糧を肉体の筋力増強へと注ぎ浮上する力を強化しつつ、ゆっくりと上へと進んで行く。




船倉から出ると、船の甲板全体に夥しい黄金色の光が注いでいるのが見えた。

こうして上から全体を眺めてみると、船体の縦方向の中央には一つも穴が無く、船の骨格に当たる竜骨を回避していたのが判り、ここまで船体が崩壊する事無く沈んで来れた理由が良く判った。

やがてマストの先端の高さまで上がった時、後ほど確認しようと考えていた旗を調べるべく、旗と水平の位置で浮上の速度を落とした。

この船の旗は海上で見た物とは別の色と図柄をしているのが判り、どうやらこの棺を運んでいた国と上にいる海賊が所属する国は、別であるらしいのがこれではっきりした。

となると可能性として高いのは、交戦中の国家間で海戦が起きてその際にこの船は沈められたのだろうか。

いや、よくよく考えてみれば、自国の墳墓から太古の王の棺を船で運ぶ用件が有り得るだろうか、それよりも別の民族によって滅ぼされた後に盗掘にあって運び出されたと考えるべきか。

私にはこの棺に刻まれた文様も読み取れないし、沈没船の国籍を示しているであろう旗も、海上の船団の旗の図柄とは異なっている程度しか判らず、やはりこれ以上は何の根拠も無い憶測にしかなりそうもない。

だが少なくとも海上の者達なら私を呼び出す様な術も使えるところからして、海上の海賊と対立する別の勢力もまた、この船を沈めた何らかの技を持つ存在を呼び出せたとしても、不思議ではない。

今回の一件が、どれだけの国家の絡む出来事であるかについては、これ以上の考察は不毛だと判断して、それよりも気にかかっている、あの船を沈めた存在について再考してみた。

結局船内には超自然の怪物もいなかったし、召喚後から今まで一度も遭遇していない事からしても、やはりいずれかの勢力が海上で呼び出していた化物の仕業であったと言う推測が妥当なところか。

勿論これは棺の中にいると言う、最も疑わしい可能性を除いて検討した場合ではあるが。

しかも今こうして抱え上げている最中でも、棺からは変わらず禍々しい気配がしっかりと私へと伝わってきており、その確証は十二分にあると言えるのだが、それはどう言う契機で発動するのかが判らず、もうこれ以上無い程に近くで離す事も出来ない状況であるから、もし発動した時は私の体を穴だらけにされる覚悟は出来ている。

しかし漠然とではあるが、これは人外の存在たる私では発動しないのではないかと感じていた。

私は私の意思に於いて、この世界の趨勢を揺るがす要素に為り得無いのではないかと思えるのだ。

この曰く有りげな棺を海上の人間達へと差し出した後の展開こそ、棺の本性が露になる予感がしていた。

そんな憶測を抱きつつ、遅々とした速度ながら私は沈没船を後にして、海上を目指して再び浮上し始めた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ