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『誓約(ゲッシュ) 第一編』  作者: 津洲 珠手(zzzz)
第八章 嘶くロバの話 定義と隷属についての講義
37/100

第八章 嘶くロバの話 定義と隷属についての講義 其の一

変更履歴

2011/01/03 誤植修正 以外 → 意外

2011/04/22 記述統一 我輩 → 吾輩

2011/10/20 誤植修正 確立 → 確率

2011/10/20 誤植修正 例え → たとえ

2011/10/20 誤植修正 こちらの意志による → こちらの意思による

2011/11/08 誤植修正 装飾品等をを身に着けて → 装飾品等を身に着けて

2011/11/08 誤植修正 こちも上から順に → こちらも順に

2011/11/08 誤植修正 殺しそうとしても → 殺そうとしても

2011/11/08 誤植修正 召喚されてたとしても → 召喚されていたとしても

2011/11/08 誤植修正 器の力を用いて使って → 器の力を用いて

2011/11/08 誤植修正 教師然した振る舞いで → 教師然とした振る舞いで

2011/11/08 誤植修正 器 → 定義

2011/11/08 句読点調整

2011/11/08 種別の名称変更

2011/11/08 悪魔崇拝に関する解説を追加

2011/11/08 記述修正 共通して生命を作り出し生物として → 生命を作り出し生物として

2011/11/08 記述修正 最大の特徴です → 共通している最大の特徴です

2011/11/08 記述追加 まず最初は~

2011/11/08 記述追加 次にもう一つの分類である~

2011/11/08 記述追加 他者に悪意を為すのを~

2011/11/08 記述追加 一つは自分達以外や特定の者達を~

2011/11/08 記述修正 ある宗教に対してその勢力を削ぐ為に → もう一つはある勢力に対してその力を削ぐ為に

2011/11/08 記述修正 似ても似つかないものへと → 似ても似つかないものへと変えられて

2011/11/08 記述修正 見た目も醜悪な化物へとされていて → 見た目も醜悪な化物へとされており

2011/11/08 記述修正 新たな神々の割合が高いです → 新たな若き神々の割合が高いです

2011/11/08 記述修正 拘束での隷属 → 幽閉に因る隷属

2011/11/08 記述修正 取り込まれての隷属 → 寄生に因る隷属

2011/11/08 記述修正 意識を失わされての隷属 → 昏睡に因る隷属

2011/11/08 記述修正 意識を操られての隷属 → 洗脳に因る隷属

2011/11/08 記述修正 上から順に説明致しましょう → こちらも順に説明致しましょう

2011/11/08 記述修正 取り押さえやすいだろうと → 取り押さえやすいだろうと言う安易な

2011/11/08 記述修正 入っていたのが → 入っていたのや、貴殿の修道女の右腕等が

2011/11/08 記述修正 昏睡状態であろうと思われます → 昏睡状態なのだろうと思われます

2011/11/08 記述削除 多少状況は特殊ではありましたが、失敗の例としては~

2011/11/08 記述追加 極めて稚拙ではありましたが~

2011/11/08 記述削除 吾輩がそう考えるのですから~

2011/11/08 記述削除 これも前述と同様~

2011/11/08 記述修正 昏睡に因る昏睡と、洗脳に因る昏睡の順番と記述箇所入替

2011/11/08 記述修正 ここから先は → これは

2011/11/08 記述追加 貴殿ももう今後は~

2011/11/08 記述修正 こちらの力を使用しての → 器の力を使用しての

2011/11/08 記述修正 器とは関連性の無い → 定義とは関連性の無い

2011/11/08 記述修正 この格好と決めたらしく → この格好と決めたらしい

2011/11/08 記述修正 若き神々 → 新たなる神々

2011/11/08 記述修正 原初の存在への信仰 → 原初信仰

2011/11/08 記述修正 邪神、悪魔崇拝 → 悪魔崇拝

2011/11/08 記述修正 傑物信仰 → 英雄崇拝

2011/11/08 記述修正 1.原初信仰 → 1.原初信仰について

2011/11/08 記述修正 2.自然信仰 → 2.自然信仰について

2011/11/08 記述修正 3.精霊信仰 → 3.精霊信仰について

2011/11/08 記述修正 1.教義信仰 → 1.教義信仰について

2011/11/08 記述修正 2.悪魔崇拝 → 2.悪魔崇拝について

2011/11/08 記述修正 3.英雄崇拝 → 3.英雄崇拝について

2011/11/08 記述追加 別名としては~

2011/11/08 記述修正 創造主や、一神教の唯一神や、 → 創造主・一神教の唯一神・

2011/11/08 記述修正 あったとしてもその声だけとか → あったとしてもその声だけや

2011/11/08 記述修正 神格化した、自然信仰の存在も含まれます → 神格化した存在も含まれます

2011/11/08 記述修正 災害をもたらすものには → 災害をもたらすもの等は

2011/11/08 記述追加 こちらの別名としては~

2011/11/08 記述修正 存在価値など初めから無い事を → 存在価値など微塵も無い事を

2011/11/08 記述修正 醜悪な化物へとされており → 醜悪な化物にされており

2011/11/08 記述修正 繰り返しているからです → 繰り返しています

2011/11/08 記述結合 割合が高いです。神や悪魔等と言った → 割合が高く、神や悪魔等と言った

2011/11/08 記述修正 下らない欲望を叶える為に → 利己的な欲望を叶える為に

2011/11/08 記述修正 最も多く見られるのです → 最も多く見られます

2011/11/08 記述修正 もしこれが吾輩の憑依先が医者の足だったりしたら → もしこれが医者の足だったりしたら

2011/11/08 記述修正 ないかと、考えるのではないだろうかと言う仮説です → ないかと判断して、それを試してくる訳です

2011/11/08 記述修正 試みようと考えます → 試みようと考えるでしょう

2011/11/08 記述修正 力を使う際の邪魔な存在でしか → 邪魔な存在でしか

2011/11/08 記述修正 この場合は、恐らく実体たる我らは → この場合実体たる我らは

2011/11/08 記述修正 器の中でずっと → 恐らく器の中で

2011/11/08 記述修正 明確な手段が存在しないのが → 明確な手段は存在しないのが

2011/11/08 記述修正 その力は使える様にはなりません → その力を使える様にはなりません

2011/11/08 記述修正 錠は開きません → 錠は開かないのです

2011/11/08 記述修正 全知全能の神である → 例をあげますと、全知全能の神である

2011/11/08 記述修正 全く使えないのです → 全く使えません

2011/11/08 記述修正 考えて見たが → 思ったのだが

2011/11/08 記述修正 自粛した → やめておいた

2011/11/08 記述修正 判断して止めておいた → 判断したのもあった

2011/11/08 記述修正 一方でも欠けていれば → 一方でも欠けていれば錠は開かず

2011/11/08 記述修正 入る事は出来ません → 入る事が出来ません

2011/11/08 記述修正 実証が殆んど揃っていないので → 実証が乏しいので

2011/11/08 記述修正 確証が無いものばかりです → 確固たる確証が無いものばかりです

2011/11/08 記述修正 全ての層の人間で → あらゆる階層の人間で

2011/11/08 記述修正 あの隷属と粛清の悪魔も → あの隷属と粛清の悪魔は

2011/11/08 記述修正 歪められた存在に改竄されてるのが通常で → 歪められた存在に改竄されているのが通常で

2011/11/08 記述修正 この変化は必ずしも人間にとって → これは人間にとって

2011/11/08 記述修正 思い難いのが実情です → 必ずしも言い難いのが実情です

2011/11/08 記述修正 神とは捉える人間は少ないですが → 神と捉える人間は少ないですが

2011/11/08 記述修正 怪物も魔物も含まれます → 怪物や魔物も含まれます

2011/11/08 記述修正 太陽や星 → 太陽・月・星等の天体

2011/11/08 記述修正 同じ空間に召喚して互いに戦った場合 → 同じ空間に召喚して互いに争った場合

2011/11/08 記述修正 局所的な形状で限定的な力だけしか → 局所的な形状で且つ限定的な力だけしか

2011/11/08 記述修正 唯一神であれば → 一神教であれば

2011/11/08 記述修正 今は完全に消え失せていて → 今は完全に消え失せて

2011/11/08 記述修正 いつもの余裕のある態度に → すっかりいつもの余裕のある態度に

2011/11/08 記述修正 邪なものとして → その相手を邪なものとして

2011/11/08 記述修正 二種類の定義があるだけですので → ただ単に二種類の定義があるだけですので

2011/11/08 記述修正 その神の信仰以外の → 暗にその神の信仰以外の

2011/11/08 記述修正 名指しで他の宗教を → 中には名指しで他の宗教を

2011/11/08 記述修正 神と同等の力を持ったものから → 一般的な神と同等の力を持ったものから

2011/11/08 記述修正 ロバの紳士は悠然と → ロバの講師は悠然と

2011/11/08 記述修正 改めて歴史の勉強と → 歴史的な背景の解説と

2011/11/08 記述修正 内容については決して濃いとは言いがたいものであった → 決して濃いとは言いがたい内容であった

2011/11/08 記述修正 彼自身も最初から宣言していたが → 彼自身も前置きしていたが

2011/11/08 記述修正 活かされる部位であったから → 活かせる部位であったから

2011/11/08 記述修正 信仰する割合が低い → 信仰する割合の低い

2011/11/08 記述修正 その神の存在する目的が存在していて → その神の存在目的が明確に提示されていて

2011/11/08 記述修正 それに対する敵対するものも → それに対して敵対するものも

2011/11/08 記述修正 これらを『新たなる神々』と呼びます → これらを『新たなる神々』と命名しております

2011/11/08 記述修正 これは人間にとって → これが人間にとって

2011/11/08 記述修正 怪物や魔物も含まれます → 怪物や魔物や幻獣等も含まれます

2011/11/08 記述修正 回答を求める神託や → 命運を定める神託や

2011/11/08 記述修正 単純な創造では無い → 創造的な要求自体が少ない

2011/11/08 記述修正 平たく言うと需要が少ないのです → 平たく言うと需要があまりないのです

2011/11/08 記述修正 これらを『古き神々』と呼びます → これらを『古き神々』と命名しております

2011/11/08 記述修正 我々神の器に宿る存在とて → 我々神の定義を纏う存在とて

2011/11/08 記述修正 その力に関する知識の暗証番号と → その力に関する知識である暗証番号と

2011/11/08 記述修正 器がその定義である確証たる鍵 → 己がその定義であると言う確証である鍵

2011/11/08 記述修正 器の定義を取り違えれば → 異なる外見の器に惑わされて定義を取り違えれば

2011/11/08 記述修正 同じ様に見える鍵であっても → あっても

2011/11/08 記述修正 その力の定義は全く同様のもので → その力の本質は全く同じで

2011/11/08 記述修正 完全に術者の望む様に力を使わせる事も → 術者の望むままに力を使われる事態も

2011/11/08 記述修正 可能なのではないだろうか → 起こり得るのではではないだろうか

2011/11/08 記述修正 癒しと滅びを操る両手の力は → 癒しと滅びを操る力は

2011/11/19 誤植修正 関わらず → 拘わらず


“嘶くロバ”は約束した通りに時間を空けず、翌日には姿を現した。

先日の時に見せていた、少々焦っていた様な様子は今は完全に消え失せて、すっかりいつもの余裕のある態度に戻っており、彼は講釈を垂れる際にはこの格好と決めたらしい、前回の講義の時と同様の講師の装いであった。

ロバの講師は悠然と私の前に現われると、準備に手間取った事を詫びた後、教師然とした振る舞いで早速薀蓄を語り出した。




「我々が向こう側の世界へと召喚される際、召喚者が要求した、彼らが今までの歴史に於いて構築した、姿と力を持った存在となって現われます、これが定義です。

この定義には、その種類に応じて二つの種別に分類する事が出来ます。

それは、『古き神々』と、『新たなる神々』です。

ここでの神々の中には、狭義の意での神のみでは無く、天使や悪魔、更には精霊や怪物に至るまでの、全ての超自然の存在が含まれています。

この二つの種別について、更に掘り下げていきます。

まず最初は、『古き神々』について説明致します。




古き神々について


人間の有史以前から存在しているとされるもので、これらを『古き神々』と命名しております。

別名としては、『古代の神々』『前世の神々』等とも表現します。

これには、大きく三種類の種別があります。


・原初信仰

・自然信仰

・精霊信仰


上から順に説明致しましょう。




1.原初信仰について


一般的には古来から存在する宗教に多く、創造主・一神教の唯一神・多神教の主神・至高神・最高神等が、ここに当てはまります。

これらは、世界の創造やその種族を生み出したとされる存在として定義されていて、神話によっては、全ての神を生み出した存在でもあります。

その容姿については細かな箇所は異なりますが、人間よりも遥かに巨大な巨人の姿をしていたり、光の塊であったり、人間には姿は見えないとするものもあります。

そしてこれらは一神教であれば全知全能であり、多神教であれば最高の力を持つ存在である事が多いです。

所有する力については、他の存在とは比較にならない程の圧倒的なもので、様々な力を有しているものが多いのですが、生命を作り出し生物として生み出す力を有しているのが、共通している最大の特徴です。

しかしこれだけの力を持っていながら、この定義で召喚をされる事は殆どありませんし、あったとしてもその声だけや、実体化しないで瞑想中の夢の中に呼び出すといった、局所的な形状で且つ限定的な力だけしか与えられていない形での召喚ばかりでしょう。

その理由は、人間達に広まる定説では、創造主は人に召喚される様な存在では無いからであるとされていますが、実際にはこれだけ強大な神を、完全な形で呼び出すのに必要となる生贄が準備出来ないのと、人間の求めるものが何かを新たに作り出す様な創造的な要求自体が少ない、平たく言うと需要があまりないのです。

吾輩の個人的な興味としては、完全な力を保持した異なる宗教の全知全能とされる唯一神同士を、同じ空間に召喚して互いに争った場合、果たしてどちらが勝つのか是非見てみたいのですが、その様な世紀の大召喚は、世界の終末にでも当たらなければお目にかかるのは難しそうです。




2.自然信仰について


山・河・森といった地形や、太陽・月・星等の天体、昼や夜や季節、風・雷・嵐・地震等の自然現象が神格化した存在も含まれます。

これらは、その自然現象を引き起こしている存在であり、前述の創造主らと比較するとその力は限定的でかなり劣りますが、それでも生物とは比較にならない程の、圧倒的な力を持っているとされているものばかりです。

傾向としては、その現象に即した性質を与えられており、災害をもたらすもの等は激しい気性を持つとされて、主に荒々しい男の姿を持ち、人間に恵みをもたらすものは、穏やかな美しい女の姿を持つものが多いです。

そしてその力を端的に現している様な、衣服や道具・武器や防具、装飾品等を身に着けているのが一般的です。

これらは文明化が進んでいない未開地域の原住民族等が、漠然とした自然の猛威を運命論的な価値観で以って受け止めて、信仰しているものが多く見られ、その信仰は生活に密着したもので代々伝承されており、その信仰に則って生きている所為か、非常に頑なで揺らぐ事がありません。

逆に文明が発展している地域では、元々あった土着の信仰は、廃れていたりする場合が多い様です。

こう言った民族の信者からの召喚は、非常に崇高で厳粛なものとされていて、信仰している民族の中でも、神官や祭司等の選ばれた立場の者しか、その儀式を執り行う資格が無いとしているのが大半です。

召喚の内容についても個人的な要求は少なく、その民族全般に及ぶ命運を定める神託や、間近に迫った災いに対する救済を求める類のものになりましょう。




3.精霊信仰について


自然信仰とは少々違ったもので、自然界の存在の中から人間の抱く感情や噂から作り出された、特別な力を持つ存在として定義されている妖精や精霊で、ここには怪物や魔物や幻獣等も含まれます。

これらは、人間達が理解出来なかった自然に対する感情から生じていったもので、狭義の意味での神と捉える人間は少ないですが、これらを呼び出して利用を試みる人間は多数おり、立派な召喚対象の定義となっています。

その召喚内容は、一般的な神と同等の力を持ったものから簡単な呪術や占いに至るまで、その定義の持つ力の大きさに応じて色々とある様です。

かつて貴殿が再三呼び出されていたキマイラは、ここの中の強大な力を持つものに当たります。




古き神々全般に関する特徴としては、歴史が流れていっても新たな定義は殆んど現れず、逆にその信仰を持った民族の衰退や滅亡により、定義が減少していく方が多いです。

これは人間の求めるものが、時代の変遷と文明の進化に因り変化している為でしょうが、しかしながら、これが人間にとって良い方向の変化とは必ずしも言い難いのが実情です。

次にもう一つの分類である『新たなる神々』について説明致します。




新たなる神々について


ある特定の種族・民族から発生し、汎用的な力は持たず特化した力を持つとされる存在で、これらを『新たなる神々』と命名しております。

こちらの別名としては、『近代の神々』『後世の神々』等とも表現します。

前者に対してこちらに属するものは、当初は全く存在していなかったのですが、人類の文明の発展と共に数を増やして行き、文明が進んでいる地域程その種類も多く存在する様です。

その種類は今のところ、下記の三種類に分類しています。


・教義信仰

・悪魔崇拝

・英雄崇拝


こちらも順に説明致しましょう。




1.教義信仰について


ある人間が他の多くの人間を従わせたり、統率又は支配する際に利用される、精神的な思想を拠り所とする定義です。

その始まりは、只生きて死んでいくだけではなく、人が死に至るまでに何かを見出そうとした結果、その死生観から導き出されたものが多いです。

これらの場合は、その容姿にはあまり際立った特徴は無いものが多く、大半は開祖の姿がそのままか、多少模した人間の姿をしています。

これらの定義の特色は、その神の存在目的が明確に提示されていて、それに対して敵対するものも定められている事です。

と言っても、敵とされているのは、暗にその神の信仰以外の宗教全般だったり、中には名指しで他の宗教を指していたりもします。

吾輩から言わせてもらえば、無意味な存在である事実から目を背けて、人生や己の存在意義と言った哲学的な意味合いを求めて、さもその存在に価値と必然と重要な意味を与えようとしたのが思想であり、それを纏めたものが教義です。

これに因り、ちっぽけで存在価値など微塵も無い事を、薄々感づいて絶望していた人間達を、勘違いさせる事に成功したものが宗教となっている、と吾輩は信じております。




2.悪魔崇拝について


他者に悪意を為すのを目的とする存在としての定義であり、これらが生み出されるパターンは二通り存在します。

一つは自分達以外や特定の者達を害する為の力として、自分達が信者となって作り出される存在です。

この場合の信者らは非合法な悪意を為す目的でありながら、当然の様に自分達のその行為は特例的に正当化されている場合が多い様です。

もう一つはある勢力に対してその力を削ぐ為に、邪なものであるとして捏造された存在です。

これらの元は、全うな信仰の宗教であるのですが、敵対する信仰や国家等の集団から、悪しきものや邪神や悪魔と言ったものとして、派生して定義が作られているものです。

この貶める為に定義された存在は、元となった本来の定義とは似ても似つかないものへと変えられて、歪められた存在に改竄されているのが通常で、見た目も醜悪な化物にされており、その能力も人間を堕落させる力へと変えられています。

かつて貴殿が街一つを滅ぼしたあの隷属と粛清の悪魔は、ここに当て嵌まります。

因みに元となった神の定義と捏造された定義は、元は同一の存在だったとしても我々にとっては別段意味は無く、ただ単に二種類の定義があるだけですので、たとえ同時にこの二つが召喚されていたとしても、二つの超自然の存在がそこに現れるだけでしょう。





3.英雄崇拝について


英雄と呼ばれる様な覇業を成した人物や、偉業を成し得た偉人等が神格化して作られた定義です。

この場合は、その元になった人間の容姿や性質は酷似していて、知恵が高かったり肉体的な強さを備えているとされます。

概ね神格化した後は、元の生前の能力以上の力を持った神へと変貌するのが一般的です。

大抵は当人が死亡して、後世にて神格化するのが通常ですが、しかし稀に生存中にその様な扱いを受ける人間も存在する様です。

こちらも前述したところと似通った説明になりますが、定義と実体との因果関係は実質的にはありませんので、本人の目の前に神格化された存在を召喚される事態も起こり得ます。

もしそうなったら、当人はどうするのかが見物ですがねえ。




以上が、新たなる神々の解説となります。

実際には、もっと様々な定義が存在していると思われますが、現状では大別として以上の様に分類致しました。

これだけある召喚の種別であっても、実際に行われる召喚の集計を見てみると、圧倒的に新たなる神々の割合が高く、神や悪魔等と言った非科学的な存在を信仰する割合の低い、時代が進んでいて文明が発達している国の人間の方が、未開地域の信心深い部族よりも召喚を繰り返しています。

それは何故か、これらの人間は利己的に神を作り出し、それを利用する目的で安易に使おうと企んでいて、それが王侯貴族から貧民に至るまで、あらゆる階層の人間で行われているからです。

つまり人間は文明の進化をすればする程、畏怖の念を持って敬う自然信仰を忘れて、自分達に都合の良い新興宗教を作り出し、自分の目的の弊害になるものを排除すべく、その相手を邪なものとして罵り貶めていくのです。

或いは己の利益や保身と言った利己的な欲望を叶える為に、力ある存在を呼び出して、下らない望みを要求する召喚を繰り返しているのです。

それ故に邪魔な存在を撃ち滅ぼす為の力を持つ、自分達に都合良く作り出した定義で、他者への危害を加えたり死に追いやる様なものが、無数の召喚でも最も多く見られます。

個人のレベルで安易に実行される所為か、召喚の儀式の質も低下していて、術者が正しい儀式を理解していなかったり、目的を達成する力を持たない定義の召喚を行っていたりと、命を賭して行うにも拘わらず非常にお粗末なものも散見されます。

全く、呼び出される側からすれば、腹立たしい限りであります。




次に、隷属についての解説を致す事にしましょうか。

以前にもお伝えしておりますが、こちらはまだまだ研究段階でして、現状では簡単なパターンの大別程度しか出来ておらず、それも実証が乏しいので確固たる確証が無いものばかりです。

しかし、もう貴殿はあの様な胡散臭い輩に目を付けられている状況ですので、止むを得ず現段階でご説明致します。

隷属には、大きく四つの種類に分類出来るのではないかと、考えております。

その四つとは、以下のものとなります。


・幽閉に因る隷属

・寄生に因る隷属

・洗脳に因る隷属

・昏睡に因る隷属


こちらも順に説明致しましょう。




1.幽閉に因る隷属について


これは貴殿が、前回に味わったものであります。

行動を取れない状態の器を事前に用意して、その器へと我々を召喚した後、こちらの意思による召喚の解除を抑制する方法です。

召喚の際の定義には、その状態では力を振るえないものとするか、その情報を完全に遮断して召喚後に正体が判らない様にしておく様な対応を行い、こちらを無力化する様です。

ただし、この方法を用いて隷属を試みてくる者達は稀でしょう、何故ならば隷属目的の者達は、召喚した存在の持つ超自然の力をずっと己の元に所有したいと望んでいるのですから、これでは本末転倒です。

貴殿の場合はホムンクルスでしたが、この無力な器は通常ですと粘土や木で出来た人形、小形の動物や子供の死体が多いです。

入手しやすさと持ち運びの容易さでは人形ですが、会話を求めるものならやはり人間でしょう。

何故子供かと言えば、簡単に連れ去って入手可能で殺害も容易い事と、成人よりも軽くて持ち運びが容易である事と、もし拘束が失敗しても成人の人間よりは、取り押さえやすいだろうと言う安易な推測からきています。

この手法での召喚は、通常の生贄から取得した糧での肉体構築と比べると、召喚後の糧の消耗は抑えられますが、召喚の技術は通常よりも高いレベルが必要で、召喚時の生贄も通常よりも多く必要になる様です。




2.寄生に因る隷属について


召喚者がその定義の持つ能力を自らの肉体へと取り込んで、自分の肉体の一部を入れ替えるか、或いは自身のある部位を壊死させてそこへと入らせる方法です。

これは、意図したものではありませんでしたが、吾輩が神眼の名医の眼球へと入っていたのや、貴殿の修道女の右腕等が実例となりましょう。

しかしこの、とある部位へ召喚と言うのは、色々と制約も多く通常の召喚よりも難易度はかなり高いものです。

我らはご存知の通り、生きている肉体には入る事が出来ません。

ですから、生きた人間から取り出された、未だ動いている心臓等もよく生贄として捧げられていたりしますが、まだ動き続けている限り、あの中にも召喚しようと術者が試みたところで失敗します。

それと憑依対象の壊死した部位が何処まであるかで、憑依後の能力は限定されてしまいます。

吾輩の場合は医者の左目でしたから、物を見る力はありましたが話す事も聞く事も出来ず、両腕にあった癒しと滅びを操る力は失われました。

当時の吾輩に出来た事は、定義の力を用いて見えたものを視神経から医者の脳へと引き渡して、医者にその情報を与えていただけです。

吾輩の場合はまだ部分的とは言え、その定義の力が活かせる部位であったから良かったものの、もしこれが医者の足だったりしたら、何の力も活かせずに終わっていた事でしょう。





3.洗脳に因る隷属について


更に前述のものよりも厄介であろうと思われるのが、何らかの手法に因って、我らの意識を完全に術者の意のままに操る事が出来る様に洗脳し、文字通りの召喚者の完全な下僕にする方法です。

時には絶大な力を持った存在として召喚されますが、我らとて言ってしまえばその中身は、向こう側の世界で言うところの、たった一人の人間の意識でしかありません。

それがたまたま、強大な力を持った肉体を与えられて期限付きで呼び出されている、それだけとも言えます。

もしこの事実を本当の意味で理解している者が存在したら、その者は神を欺く事が予想以上に容易いのではないかと判断して、それを試してくる訳です。

仮に吾輩が向こう側の世界の人間だったとして、その事実に気づいたのであれば、通常の人間を洗脳する手段を用いて、神を従わせてみる事を試みようと考えるでしょう。

極めて稚拙ではありましたが、貴殿の前回の召喚に於いて、かのペテン師が仕掛けてきたのもこれに該当します。

貴殿ももう今後はあの様な輩の口車に乗せられぬ様に、気をつけて頂きたいものですな。




4.昏睡に因る隷属について


これは、実証が無い推測でしかないものになります。

我々神の定義を纏う存在とて実体は意識だけで、定義の持っている能力を使える状態が満たされている場合に、それを発動させているだけであるとも言えます。

これを逆に考えてみると、定義の力を発動させる方法がもし他にもあれば、我々の実体である意識はむしろ召喚者にとって、力を用いる際に必ず介入してくる邪魔な存在でしか無いのです。

その定義の力を発動可能にする為までを目的として召喚を行った後に、我らの意識を封じるか失わせるかして、器の制御を完全に召喚者が奪い、術者の望むままに力を使われる事態も起こり得るのではないだろうか、と言う仮説から推測したのがこの隷属です。

この場合実体たる我らはどうなっているかと言うと、実体である意識だけを何らかの方法を使って殺そうとしても、それと同時に召喚自体が解除されてしまうので、恐らく器の中で昏睡状態なのだろうと思われます。

これを実行出来る人間がいるのだとすると、隷属の軛から脱する術は現状では思いつきません。




最後に隷属での最大の問題である、定義の持っている能力を把握する手段について、お話ししましょう。

召喚後に己が如何なる能力を持つものかを判らせない様にして、定義の力を使用しての離脱を防いできた場合、今のところは残念ながらそれを打ち破る事が出来る、明確な手段は存在しないのが実情です。

定義とは関連性の無い既存の器へと入る様に召喚されてしまうと、こちらは召喚対象の本来の姿を見る事が出来ないので、たとえ知識としてそれを知っていても、今の定義がそれであると確認か推測をしなければ、その力を使える様にはなりません。

これを例えるならば、暗証番号付きの錠でしょうか。

定義の力たる錠を開けるには、その力に関する知識である暗証番号と己がその定義であると言う確証である鍵、この二つが揃わなければならず、一方でも欠けていれば錠は開かず定義の力は発動させられません。

たとえ、その力の本質は全く同じであっても、異なる外見の器に惑わされて定義を取り違えれば鍵は合わず、錠は開かないのです。

例をあげますと、全知全能の神であるAとBがいたとして、召喚者がAとして呼び出しているのに、こちらはBとして認識している限り、同じ全知全能の力であっても全く使えません。

これが複数の名を持つ存在の定義であっても同様で、ある民族ではCと言う神が、別の民族ではDと言う邪神だったとすると、これはもう別の定義となり、元が同一であった事は何の意味も無くなります。

それ故に封じられた力を解放するには、何としてでもその情報を引き出すしかありませんが、確率は相当低いもののこれを打ち破る手段も無くは無いです。

全く情報が引き出せなくとも、要は召喚者が要求した定義を当てる事さえ出来れば良いので、言ってしまえば完全に勘で当たったとしても、その封印は破る事が出来ます。

少しでも多くの定義に対する知識を持ち、召喚者が呼び出すであろうと思われる定義を予測が出来るのであれば、これも可能でしょうが、よほど召喚者に対する情報が無ければ難しいでしょう」




こうして“嘶くロバ”に因る定義と隷属の講義は終わり、彼は意外とあっさりと話をまとめると、速やかに私の前から消え去った。

今回の講義では彼自身も前置きしていたが、新たな目新しい事実と言うのはそれ程無くて、定義に関しては歴史的な背景の解説と彼の主観による感想と言った程度の内容で、隷属に関しては私の話や以前に聞いていた彼の話以外は全て憶測であり、その対策も要は何としても自身が何なのかを当てる以外に手は無いと言う、決して濃いとは言いがたい内容であった。

そういった意味では、彼もあまり突っ込まれるのを恐れていて、早々に退散したのではとも思えた。

講義の途中で、少しはこちらからも問い合わせを行ってみようかとも思ったのだが、話を聞いているうちに、今回の内容では掘り下げる材料が乏しいと理解してやめておいた。

まあ、もしかすると情報の出し惜しみをしていて、敢えて未確認だと説明している箇所もあるのではと勘ぐったりもしていたのだが、それをこちらから暴こうとしても狡猾な“嘶くロバ”の事だ、有耶無耶にされてしまうのが落ちであり、その行為に因って下手に疑いを向けられる方が、損であろうと判断したのもあった。

私は今回聞いた内容を軽く整理した後、これからの召喚に、彼の知識と思惑を超える情報が眠っている事に期待しつつ、眠りについた。





第八章はこれにて終了、

次回から第九章となります。


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