第六章 死別と孤独 其の四
変更履歴
2011/03/27 語句修正 碧玉 → 翠玉
2011/10/10 誤植修正 確立 → 確率
2011/10/10 誤植修正 例え → たとえ
2011/10/10 誤植修正 神の意思 → 神の意志
2011/10/11 記述修正 合わせて → 併せて
2011/10/11 誤植修正 巡り会わない → 巡り合わない
2011/10/24 誤植修正 向こう側の世界から見た捕らえ方であって → 向こう側の世界から見た捉え方であって
2011/10/24 誤植修正 前の非玉の腕輪や → 前の緋玉の腕輪や
2011/10/24 誤植修正 他とは比較にんならない程高く → 他とは比較にならない程高く
2011/10/24 誤植修正 掘り下げるもの良いでしょうが → 掘り下げるのも良いでしょうが
2011/10/24 句読点調整
2011/10/24 子供の所持していた翠玉の装身具に関する記述の訂正
2011/10/24 記述修正 考察過多の感が拭えません → 詭弁とまでは申しませんが推論過多の感が拭えません
2011/10/24 記述修正 それらの幾つかの観点に分けて → そういった気にかかる事象を幾つかの観点に分けて
2011/10/24 記述修正 それぞれに対して考察を行った → それぞれに対して考察を行ってみた
2011/10/24 記述修正 負わされていた様に見えたのだが → 負わされていた様に見えていて
2011/10/24 記述修正 それに裏付ける様な → それを裏付ける様な
2011/10/24 記述修正 より詳細には → より具体的には
2011/10/24 記述修正 これはつまり人間が恒久的に → 即ち人間が恒久的に
2011/10/24 記述修正 母親一人が所有してたのだろうか → 母親一人が所有していたのだろうか
2011/10/24 記述修正 つまり助けようとはしたものの → つまり助けようとはしたが
2011/10/24 記述修正 たとえ私自身に影響が及ぼされたとしても → たとえ私自身に影響を及ぼしたとしても
2011/10/24 記述修正 完全に定められた、向こう側の世界で発生する召喚のイベントに担当者を決める様に → 向こう側の世界で召喚が発生する度に、その都度
2011/10/24 記述修正 もっと今までのまともに召喚に → 今までのまともに召喚に
2011/10/24 記述修正 割合が高くなくてはおかしい → 割合がもっと高くなくてはおかしい
2011/10/24 記述修正 これが同じ血族の者に → これが非常に近い時代の近親者に
2011/10/24 記述修正 翠玉の腕輪に関してはもう一点 → 翠玉の腕輪に関してはもう一点疑問があり
2011/10/24 記述修正 三つの血族で受け継がれるべき → 何故三つの血族で受け継がれるべき
2011/10/24 記述修正 複数の守護神を持つ事は無い事を → 複数の守護神を持たない事を
2011/10/24 記述修正 姉の小さい時に → 姉が幼い時に
2011/10/24 記述修正 時が経って神格化すれば → 時を経て神格化すれば
2011/10/24 記述修正 この子供は翠玉の腕輪を所持していて → 子供は翠玉の腕輪を所持していて
2011/10/24 記述修正 ページ → 頁
2011/10/24 記述修正 全ての時において反映されている → 全ての次元において反映されている
2011/10/24 記述修正 所有する物であると云っていた → 所有する物であると語っていた
2011/10/24 記述修正 今すぐに命を落とす事は無かった → そんな外傷は見当たらなかった
2011/10/24 記述修正 それも判らないのではなかろうか → それも判らないのではないだろうか
2011/10/24 記述修正 翠玉の腕輪 → 翠玉の装身具
2011/10/24 記述修正 腕輪の力の残量が → 装身具の力の残量が
2011/10/24 記述修正 そうなると二つの腕輪も首飾りも → そうなると腕輪や首飾り等の装身具には
2011/10/24 記述修正 単に契機とならなかったのではなく → 或いは単に契機とならなかったのではなく
2011/10/24 記述修正 超自然の力を行使可能と言う事は → それ単体で超自然の力を行使可能なのは
2011/10/24 記述修正 死と誕生を司る力の腕輪が → 死と誕生を司る力を持つ何らかの装身具が
2011/10/24 記述修正 やはりあの緑色の光は → あの緑色の光は
2011/10/24 記述修正 大いに喜ばしい事でした → 大いに喜ばしい事です
2011/10/24 記述修正 考察過多の感が拭えません → 飛躍が過ぎる感が拭えません
2018/01/01 誤植修正 そう言う → そういう
闇の世界へと戻り意識を取り戻した私は、“嘶くロバ”が現われる前に今回の出来事について考察していた。
今回の召喚は、過去にあった召喚と密接に関わっている箇所もあり、今までに無く数多くの実証を得たものであった。
それ故、私なりに結論を見出した上で、彼との対話に臨みたいと考えていたからだ。
そういった気にかかる事象を幾つかの観点に分けて、それぞれに対して考察を行ってみた。
装身具の力についての考察
野犬に襲われた時の状態を思い出すと、子供は喉を喰いちぎられんばかりの致命傷を負わされていた様に見えていて、それを裏付ける様な出血も見られたものの、実際にはそんな外傷は見当たらなかった。
あの緑色の光は、単に野犬の命を奪って危険を回避しただけでなく、この子供の傷をも癒したのではないか。
その光の色や、起きた奇跡から思い浮かぶのは、翠玉の大樹の力。
あの時、子供は翠玉の装身具を所持していて、それが子供を守るべく力を発動させた。
より具体的には、死と誕生を司る力を持つ何らかの装身具が、この子供の首に大きな首飾りとして下げられていて、それが子供の危機を察知して力を行使した結果、元凶たる野犬の命を奪い護るべき子供の致命傷を癒した、こう言う事では無いだろうか。
もちろん、恐慌状態の幼い子供が召喚や詠唱を行える筈も無く、この守護の力は自ら能動的に発動したのは間違いない。
かつて緋玉の腕輪は私に対して、糧の供給に因る服従を求めてきた事実もあり、蒼玉の首飾りも救出に反する行動への干渉を行った事実がある。
この子供の命を取り留めたと思えるその力は、緋玉の腕輪や蒼玉の首飾りが有していた、意思の様なものと同種の存在が行った事であろうと思える。
そう、どの装身具においても、先祖のものなのか、神のものなのか、それ以外の何かなのかは判らないが、明らかに召喚者のものではない意思が感じられた。
ロバの紳士の話からすれば、神の意志なんてものは存在しないのだから、そうなると先祖の魂の意思か、或いはその指示を実行する様に命じた術者の残した遺志か。
あの部族の作るそういった品には、私の様な存在を呼び寄せなくとも、どういった術式でそれを仕込むのかについては全くの不明ではあるが、それ単体で超自然の力を行使可能なのは、ほぼ事実と考えざるを得ない。
これは、限られた部族の人間のみとは言え、定命の人間が魂を力の根源とする、神の力を持った意思を持つ物を生み出している、即ち人間が恒久的に定着した召喚を実現している、と捉えられないだろうか。
実はあれは、我々に起きる召喚と形態が異なる為にそう思えないだけで、我々と同様の存在だったと考えるべきなのでは無いか。
しかしそうは言いつつも、魂の本能が強く残留していると言う点では、本質的に死霊と変わらない存在とも言えるので、そうなると死霊もまた神格化した別種の召喚と言う事になり、更にはあの魔女と化した女司祭の死霊もまたそれであったと言えるだろう。
封じられた先祖の魂ですら時を経て神格化すれば、それらも召喚対象の存在へと変化していくのだろうか。
首飾りや腕輪の意思や死霊が、召喚であると言う確証も、召喚では無いと言う確証も、どちらも無い現状では、新しい情報が入らない限り判り様が無い。
この考察はこれ以上結論には近づきそうにも無いので、論点を再び装身具へと戻す。
緋玉の腕輪の件において、もし単体で力を使えるのであれば、わざわざ私の召喚を待つ必要も無く、姉の行動の支援をしなかったのは何故だろうか。
これは姉の望みが自身の身の危険に対するものでは無く、血を分けた弟の殺害と言う願望では、もともと与えられていた力の発動の契機には成り得なかったのだろう。
或いは単に契機とならなかったのではなく、相反する指示となってそれを拒絶したとも考えられる。
この力を封じた道具は、紳士の解説に因れば、一族の長によって託されて、死ぬまでその者が所有する物であると語っていた。
あの腕輪や首飾りには、決められた所有者のみを守護する様な術では無く、所持する者の一族の者達を全て守護する様に命じられているのなら、それも説明がつく。
しかしこの一族と言う範囲には、父親が旅の道中で命を落とした点を考えると、母親の部族の血統のみが該当だったのかも知れないし、そもそも父親は部族外の人間であるから、この恩恵には与れない立場であったろう。
更に言えば母親もまた父親よりも早く、姉が幼い時に死んでいる事も併せて考えると、母親の血を引く子供達だけを対象としたものであったのだろうか。
そうなると腕輪や首飾り等の装身具には、自分の部族の血を分けたあの姉弟を守護するかの様な力を母親がかけていた、とするのが最も自然な推測であろう。
でなければ弟に対して姉が攻撃した際に起きた、糧の減退の説明がつかない。
だがこれらの装身具に封じられていた力は、全て異なる部族の神を守護神とするもので、一人の人間が複数の守護神を持たない事を考えると、妙な事になってくる。
推測を挟まない情報から私が知る所有者は、緋玉の腕輪は母親から姉へと渡されていて、蒼玉の首飾りは父親が所持していた。
緋玉の王を召喚する為の呪文を姉に伝授したのは母親で、部族の者では無い父親が蒼玉の女王の召喚方法を知っていたのも事実だ。
それとほぼ間違い無いと思える推測であるが、翠玉の装身具は弟たる子供が所持していた。
何故三つの血族で受け継がれるべき三柱の神の道具を、母親一人が所有していたのだろうか。
これでは、姉弟の母親は一体どの部族の人間だったのかすら、判らなくなってくる。
これに関しては、今回の召喚よりも過去へと招かれなければ、判りようが無いだろう。
翠玉の装身具に関してはもう一点疑問があり、秘められていた力は既に消耗していたのか、前の緋玉の腕輪や今回の蒼玉の首飾りよりも早く力を使い果たして消滅した、と言うのがある。
これはつまり、あの子供を救出する以前に既に力を行使していた、と考えるべきだろうか。
この答えについても、それを行使した時点の召喚に立ち会うか、それよりも過去へと行き、装身具の力の残量が判る様な行動をする以外に解明は出来ない。
召喚についての考察
今回の召喚で出会った子供に出来た、胸から腹にかけて焼けた傷痕、これは間違い無くあの修道女の召喚の時よりも、過去の世界である事を証明したと言える。
この子供は修道女の弟であり、“嘶くロバ”の言っていた時間軸のずれは実証された。
この弟の体に残されていた火傷の跡、あれをつける原因となった時に、私は立ち会っていたのだ。
だがそれは向こう側の世界から見た捉え方であって、あくまで私から見れば、姉弟の命運に関わる場面に神として偶然に召喚されただけなのか。
しかしそれは本当に偶然なのだろうか、これは何者かまでは測りかねるが、作為的なものを感じる。
向こう側の世界とて相当に広大で、それに加えて過去や未来と言った時間軸の違いも掛け合わさった中から、選ばれた数少ないであろう召喚に応じている。
これが非常に近い時代の近親者に当たる確率は、殆んどゼロに等しい筈だ。
それとも、向こう側の世界においても実は超自然の存在の召喚は殆んど起きず、長い歴史の中でもあまり無いが故に、あの様な力を封じる道具を持つ部族からは、その確率が他とは比較にならない程高く、これは起こるべくして起きているのか。
いや、それでは、今までのまともに召喚に至らなかったものも、あの部族に関わるもの、あの三柱の神での召喚であった割合がもっと高くなくてはおかしい。
実際に今まで、あの三柱のいずれかだった召喚は、自身の器を確認まで至った時に限ってだが他には無い。
やはり何者かに因って割り当てが為されている、こう考えるのが妥当であろう。
この割り当てについては、現時点で色々なパターンが考えられる。
向こう側の世界で召喚が発生する度に、その都度私であったり、ロバの紳士であったり、或いはまだ見ぬ別の同業者へと振り分けられているのだろうか。
それとも、召喚にはある種の系統に因る分類の様なものがあって、その一つのグループとして集約された複数件の召喚を、担当者として割り当てられているのか。
この系統の分類についても、時代で分けられるのか、地域で分けられるのか、召喚される器の種別で分けられるのか、まだまだ疑問は尽きない。
この疑問の解を知る為には、もっと多くの召喚をこなす必要がありそうだ。
時間軸についての考察
結局私は今回の召喚の際、それによって起こるかも知れない、想像だに出来ない事態を引き起こしかねなかった、時間軸の関連性の検証よりも、既存の歴史を踏襲してそれを死守する選択をした。
しかし、これは本当に意味があったのだろうかと、少々疑問を感じている。
私は救おうと努力はしたものの、その成果については確認をする前に力尽きてしまった。
つまり助けようとはしたが、本当にあの後子供が救われたのかは判ってはいない。
もしかすると、あの後子供は結局死んでいて、今は姉と弟は巡り合わない世界に変わってしまっているのではないだろうか。
これを確認する術は今の私には無く、どちらへ時が進んでいようとも、今の私に変化が起きない限り、その結果は判らない。
いや、たとえ私自身に影響を及ぼしたとしても、それも判らないのではないだろうか、歴史が改竄された後の私の意識には、元からそうであった認識しか残らず、本来辿る歴史であった記憶は存在しなかった事実へと変わり、完全に消えてしまっているのだろうから。
そう考えてみると、今の私が修道女の姉の記憶を保持している事は、歴史が変わっていない証明と位置づけても良い、と判断出来る。
この結論は、時の変動がこの闇の世界を含む、全ての次元において反映されている、と仮定した場合に限定されるのではあるが。
これが、向こう側の世界とこの闇の世界では、連動した変化を引き起こさないとすれば、この確証すら失う事になる。
結局のところこれらを私が実証する事は、いずれにしても出来ないのであろう。
何故なら私は、異なる時間軸を持つ闇の世界から、断片的に向こう側へと赴いて干渉しているからだ。
これでは召喚先の世界が、私が影響を及ぼした過去から繋がっていると言う確証を得る事が出来ないので、どうしようもない。
紳士の言葉を借りるならば、これが演劇を観ている観衆と言う事であろうか。
これらの観点に基づいて考えて見た結果は、やはり大半は仮説と推測から派生した新たな疑問を作り出すのみで、何かの答えとなるようなものには辿り着かずに終わった。
後日現れた“嘶くロバ”へと語った後の彼の感想も、やはり想像の範囲内であった。
彼は溜息の様に馬面の鼻腔から息を吐くと、諭す様な口調で語り出した。
「貴殿の考察で有意義であると感じたのは、召喚に対する考察と、時間軸に対する考察、この二つです。
召喚についての法則、それを解明する事が出来れば、こちらから召喚を操る方法を見つけ出せるかも知れませんねえ。
現状の、何時、何処へ、何の器で呼ばれるのかが全く判らないのは、余りにも後手後手で我らには何をするにも不利であると言えますから、ここは是非解き明かしたいところです。
次に時間軸のずれについてですが、こうも早く御理解して頂けるとは正直思っておりませんでしたぞ、いやはや、さすがは雪だるま卿。
実際にはもう少し入り組んだ事になっているのではと、今の吾輩は考えておりますが、まあそれは追々でも良いでしょう。
それにしても、貴重な機会を敢えて見逃されたのですな、貴殿がその子供を見殺しにしていてくれれば、更に幾つかの疑問も解決したかも知れぬのに、こればかりは残念としか言い様がありません。
まあ、もはや終わった事、これ以上愚痴を申したところで、皮肉な事にこちら側の時は戻せませんからなあ。
しかしながら、実際に史実を改竄する事となったとしても、貴殿が思い悩む程の事象は発生しなかったのではないかと、吾輩は思っておりますよ、強い根拠にまでは至っておりませんが、何となく。
装身具の力に関しては、考察する対象としての価値以上に、憶測や推理が随分と多く、詭弁とまでは申しませんが飛躍が過ぎる感が拭えません。
あの部族の特異な力、死霊との関連性や別形態の召喚とする仮説はある意味興味深いが、向こう側の世界はあの部族以外にも数多くの人間がいて、様々な形で召喚を実現してくるのですから、掘り下げるのも良いでしょうがそれに固執しているよりは、もっと多くの召喚のパターンから統計的な考察を行った方が、色々と転用が利くと言うものでは?
これこそが吾輩の忠告した、考え過ぎと言うものですぞ。
吾輩に言わせれば、今の貴殿は物語に熱中する少年も同然、傍から見ている分には微笑ましいとも言えますが、そればかりに執心されては同志としては頂けませんなあ。
悪戯に展開を掻き乱しているばかりの、陳腐な駄作の物語に振り回されている、その様にしか見えません、まあ、吾輩もかつて通った道でもあるので、あまり偉そうには言えんのですが。
吾輩もまた同じ様に見てきたからこそ、敢えて何度も申しておるのですよ、それは無駄な思考でしかないと。
頁数すら判らない破り取られた頁を無作為に渡されているだけでは、その本に書かれた物語を把握する事は不可能だとは思いませんか?
少なくとも、ちゃんと頁の順番に全てを読める様にしてからでなければ、単なる時間の浪費でしかないでしょう。
こんな事を吾輩に言われるまでも無く、貴殿は気づいておるのでしょう、今日読んだ頁は昨日読んだ頁よりも、内容からすると前の頁の様に思えた、ただそれだけだと言う事実に。
それをご自身で認めたくない、この頁に書かれていた内容がとても気になるから、抜けている頁や未だ見ぬ頁の内容を、想像で補って解釈しようと努力している、そういう事でしょう。
そして永遠に読めないであろう、読んだ頁の続きにばかり気を取られている、それは不毛な事ではないですかな?
ちなみに吾輩が各種の歴史・地理・宗教・種族等の知識を有しているのは、知的探究心や興味等でそれを知りたかったからではなく、それを知る事によって吾輩の望みを叶える行動を見出す為でしかありません。
向こう側の世界の事なぞどうなろうと、我々には関係無いのですから、そんなに肩入れしても恩を仇で返されるのが落ちですぞ。
吾輩や貴殿は研究者ではなく、只の囚人でしかないのです。
どうか貴殿も、研究熱心なのもたまには宜しいが、本来の目的に沿った方向で展開して頂けると有り難いのですがねえ。
最後に総評を言わせて頂くと、どの考察においても貴殿の結論通りで、非常に残念ですが今のところは全てが判っていない事が判っている、と言う結論に行き着いてしまうのですよねえ。
だからこそ吾輩は、こうした我々の戸惑いすらも罠の一つではないかと考えて、召喚による結果を深読みしないでいるのを推奨しております。
そこに我々の意識を向けさせて、もっと別にある真実を隠しているのではないか、と訝しんでおる訳ですよ。
まあしかし、此度のお勤めでは多くの情報を得て帰られたのは、紛れも無い事実で、それは大いに喜ばしい事です。
依然として謎も多く、また我らの新たなる同志も発見には至っておらず、遅々として捗っているとはお世辞にも言えぬ状況ではありますが、諦めてもどうしようもありませんから、僅かずつでも前へと進む様に努力して行こうではありませんか。
きっと貴殿と吾輩ならば、悲願は達成出来ると信じておりますぞ、それでは、本日のところはこれにて失敬」
こうして、“嘶くロバ”は姿を消した。
彼に語るまでも無く、多くの謎は結局謎のままであり、むしろ状況は召喚を重ねる毎に、新たな謎が増えて行く様に思えて仕方が無い。
これにはまだ漠然と感じている程度のものであるから、それが確固たる確信へと変わるまで、もう暫くは様子を見るべきだと考えている。
だがもしその確信を掴んだ時、私はどう振る舞うべきなのかを、熟考しなければならなくなるだろう。
その選択が自らの運命の行き先を、定めてしまう様に思えるからだ。
だからこそ、その推測も決断も慎重にしなければならない、そう私は感じていた。
第六章はこれにて終了、
次回から第七章となります。