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『誓約(ゲッシュ) 第一編』  作者: 津洲 珠手(zzzz)
序章
2/100

序章 其の二 接近

変更履歴

2011/01/03 誤植修正 以外 → 意外

2011/06/25 誤植修正 今だ → 未だ

2011/08/20 誤植修正 寝ている間に、突然黒から白へと、世界の色が変わるとは思えないし、 → 下行へ移動

2011/08/20 句読点変換 “。” → “、”

2011/08/20 文字変換 半角 → 全角

2011/08/31 改行削除 ~という仮定の方が、 → ~という仮定の方が、より現実的で~

2011/08/31 改行削除 明白なのだが、 → 明白なのだが、出方は想定できても~

2011/08/31 改行削除 という可能性も残るが、 → という可能性も残るが、それは~

2011/08/31 改行削除 何度か聞こえた気がしたが、 → 何度か聞こえた気がしたが、この音は好意的な印象はなく~

2011/08/31 句読点削除

2011/09/12 誤植修正 位 → くらい

2011/09/12 記述削除 本分内小題削除

2011/09/14 誤植修正 そう考ええたとたんに → そう考えたとたんに

2011/09/15 記述統一 幻覚 → 幻視

2011/09/15 改行削除 ~唐突に終わる。 → ~唐突に終わる、これを~

2011/10/08 誤植修正 自分以外の意志のある者 → 自分以外の意思のある者


あれほど待ち望んでいた変化は、意外に早くやってきた。

幻覚の見えた日より、数日ののちにそれはやってきたのだ。

しかしいざ起きてみると、それまでの意気込みはどこかへ消し飛び、本来の性分である臆病さから来る、未知の存在に対する恐怖と不安に支配された。

それは、声だった。

以前に聞いたような気がした笑い声とは違い、どういう原理でかはわからないが、確かに何者かの声が聞こえたのだ。

何を言っていたのかまでは聞き取れなかったのだが、今回は聞き直してみてもやはり聞こえた。

本格的な幻聴になったのかもしれないという推測よりも、何かこの闇の世界の中に、自分以外の意思のある者がいるという仮定の方が、より現実的でより大きな不安となった。

内容ははっきりと聞き取れなかったが、多分呼びかけているように感じた。

まるで、遭難した者に対して捜索者が行うような呼びかけに。

これはまたしても、私の願望からくる意訳なのかも知れない。

そう考えたとたんに、またしても悲観的な性分から来る嫌な憶測が、次々と浮かんでくる。

本当は私に対する、敵意ある怒声か罵声だったのではないだろうか。

それとも薬で昏睡状態となった私に対して、拉致の犯人が、薬の効力が切れて意識を取り戻す頃合なのに、目を覚まさない私に苛立っている声とか。

もし後者だとしたら、犯人は、動きもしない人質たる私を、殺すのではないだろうか。

しかしこれはこれで、この状況が終わるのだから、むしろありがたいかもしれないとも思える。

だが漠然とではあったが、私の中ではこれで殺されて終わるような気は、いまいちしていない。

何となくではあるけれども、今はすでに聞こえなくなったあの声は、再び聞こえてくるのではないだろうかと思えた。

だからこそ、遭遇したときの対処についてどうしたら良いか分からず、不安と恐怖に苛まれた。

この直感には根拠のない自信がある、何故かは分からないが。

この日は、声に対する対応方法をあれこれと考え悩み、なかなか眠りにつくことが出来なかった。




結局、昨日散々悩んだ結果、相手の出方を確認した上で考えるという、なんとも後手に回る手段しか思いつかなかった。

こうした有事の際には相手の出方をいくつか想定し、それらに対して対処方法を用意するべきであるのは明白なのだが、出方は想定できてもこちらがすべき対処は何一つ浮かばなかった。

そもそもあの声に対する応対方法すら、いまだに分かっていないのだから、いくら考えたところで何一つ名案は浮かばない。

こちらからも呼びかけてみるべきかと思ったが、呼びかけを意識することしか出来ない。

とりあえずは意識だけでもやってはみたが、応答はやはりなかった。

しかしこれしか私からの手段はないのだからと思い直し、あの声に対して意識で呼びかけることを行い、応答の確認を行うのを繰り返した。

声は日を追うごとにわずかづつではあったが、段々と大きく近づいているように思えた。

言っている言葉も、ほぼ間違いなく返答を求める呼びかけであることも、この頃には判明していた。

どうやら最悪の想定は外れていたようで、私はひとまずは安堵した。

この遅々としたペースで接近してくると、あと十日くらいは普通に聞こえる位置、といって正しいかが分からないが、まで近づくはずだ。

声が聞こえるのは一日のうちで不規則に聞こえ始め、しばらくこれも不規則に続いて唐突に終わる、これをひたすら繰り返している。

私が起きる時刻が不規則なだけで、相手の呼びかけは定期的なのかも知れないが、これは確認できない。

もしかすると、寝ている間にも呼びかけは行われているのかもしれない。

だが、未だ呼びかけに対する、こちらからの応答に反応したような返答はない。

多分聞こえていないのだろう、今のところはそう考えて、もっと近づけば事態は変わるのではないかと思い、その時を待つことにした。

こうして私は、この闇の世界に落ちてから、初めて他者との接触を行おうとしていた。




あれからさらに数日が経過した。

声は更に、鮮明に聞き取れるというか、理解出来るようになっていた。

これこそ奇跡といえるのではないだろうか、私が理解出来る言葉で聞こえてくる!

他国の言語、それどころか人間以外の言語であっても、この状況では当然ではと思っていたところでだ。

これがはっきりと分かるまでの重大な問題は、声の主との意思の疎通方法であった。

だがこれは、私が理解している言葉を用いることで、難なく解決できそうだ。

まだ呼びかけは出来るが、聞き取ることができるのは別の言語かも知れないという可能性も残るが、それは心配していても仕方がないので、それよりも何を話すかを考えるべきだろう。

この私の状態は何なのか、そしてこの先はどうなるのかとか。

相手は、私と同じ境遇なのか、それとも別の状態なのかとか。

同じような人間は他にもいるのか、いるのであれば、その人間たちとは会話することは出来るのかとかだろうか。

相手の出方を確認しつつ、さし当たって問いかけられそうであれば、これらを聞いてみよう。

もうここで、悲観的な想定は無意味だろう。

私は意を決して、接触の時を待ち続けた。




ついに、その時はやってきた。

段々と近づくその声に対し、いつもどおりの全力での応答をした時だった。

普段繰り返し聞こえ続けていた、「おーい」「誰か聞こえるか」「聞こえたら返事してくれ」の三つであった声が、変わったのだ。

「んん、おや?」

少々、いや大分想像していた反応とは違っていて、一瞬面食らったが、即座に全身全霊の力、ほぼ絶叫に近かっただろう力で応答し続けた。

声の感じからすると成人の男性であろう、その声色は低い音程であるが明るい印象が強い。

その声の持ち主の姿を想像すると、この異常な世界とは不釣合いな、まっとうな人物だと思えた。

しかし先ほどの返答からすると、意外と予想とは全く異なっているかも知れない。

とにかくどんな相手でもいいから、まずはこちらからの応答を聞いてもらわなければ。

私は出来る限りの大声を意識して、声の持ち主へ届けと願いつつ叫び続けた。

が、次に聞こえた相手からの声は、私を焦らせた。

「何か、聞こえたような気がしたのだが、気のせい、かな?」

だめだ、こちらからの応答は、まだ応答として届いていないのだ。

この機会を逃してしまっても、次に別の誰かが現れる、などと考えられる訳はない。

私はそれこそ気が触れたように叫び続けた、ここに私はいるぞと。

しかし、声の持ち主からの新たな反応は途絶え、恐らく声がしたのは気のせいと判断して、遠ざかってしまったようだ。

私は唯一の機会を逃してしまったことに絶望し、そのまま力尽きて、いつの間にか眠りにおちた。




昨日はいつもよりも長く眠っていたように思えた。

きっと昨日の件で心身共に、疲れ果てたのだろう。

だが肉体はないのだから、精神的な疲労しかないから、この表現は正しくないのか。

そんなつまらないことを考えつつ、昨日までの期待とはまったく違う思いで、もはや日課となっている呼びかけに耳を澄ます。

しかし、声は聞こえてこない。

やはりあの時に気のせいと判断されて、去ってしまったのだろうか。

一度あれだけの展開があった後では、この状況は、目覚めた当初に戻ったと割り切ることができない。

まだそれほど離れていないかもしれない、と望みを持とうとしてみるが、どうしても失望が拭い去れない。

しばらく呼びかけも続けていたが、昨日までの力もなく、だんだんと力も弱まっていき、自然とやめてしまった。

もしかしたら、永遠にこの状態が続くことになるのかもしれないと思い、さらに私の心は沈んだ。




失望のさなか、数日が経った。

悪い予想は的中し、あれから声は一切聞こえてくることもなく、新たな別の声も現れない。

幻聴のような笑い声にも似た音は何度か聞こえた気がしたが、この音は好意的な印象はなく、今の自分の失意がもたらす自虐的な幻聴と思われ、余計に気が滅入った。

光の瞬きもいくつか見えたような気がしたのだが、これも見直すともう見えず、幻視なのではと思われた。

私はすべてが失われてしまったかのように脱力し、またしても眠り続ける日々が再開された。

あの嘲笑うかのような幻聴と、星のような光の幻視も、だんだん慣れてきた。

これらが見えたり聞こえたりする度に、私の落胆の度合いはより深まっていった。




私は夢を見ていた。

正確には、私が夢と判断した世界にいた、というのが正しいのか。

いつもの闇の世界ではなく、今いる場所は白い世界だったからだ。

きっとここは、夢の中に違いない。

寝ている間に、突然黒から白へと世界の色が変わるとは思えないし、もし普通に目覚めている状態でこんな唐突にこの世界を占めていた色が変わったら、冷静でいられるはずもない。

私はこの白く明るい世界で、それがそこにあるのが当然のように、前にある物体を見ている。

それは人間の衣服を着ていて、こちらに向かって頭を下げた、多分挨拶だ。

私はその物体の衣服をみて、何かを瞬間的に連想した。

ベージュの上着とズボン、上着の下にはベスト、そしてやや黄ばんでいるが白い綿のシャツ、靴は茶色の革靴だろうか。

上着の上には、これまたベージュの丈の短いケープを羽織っている。

この格好は何かを連想させるのだが、何だろう、私は色々と思い出してみる。

この白い世界の私は記憶を引き出せるのか、脳裏に色々な絵や写真や文章が、次から次へと現れては消えるのを繰り返した。

そして、その物体の姿と近いものが現れ、そこで切り替わりは停止した。

探偵、名探偵、という言葉が不意に浮かぶ。

白い世界の私は、それが正しい記憶だったのか、大げさに手を打ち鳴らし、その者の名を呼ぼうとした。

それと同時に、その物体は下げていた頭を上げる。

その頭はなぜか、馬の首だった。

そして、その馬の首はこういったのだ。

「おはようございます」と。




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