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『誓約(ゲッシュ) 第一編』  作者: 津洲 珠手(zzzz)
第四章 邂逅と報復
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第四章 邂逅と報復 其の二

変更履歴

2011/04/07 誤植修正 機会を伺うのだが → 機会を窺うのだが

2011/05/23 記述修正 大広間では見たが、そこで追い返されたので → 大広間だけは見たが

2011/09/05 句読点修正 “、” → “。”

2011/09/27 誤植修正 光り → 光

2011/10/11 句読点削除

2011/10/11 記述修正 詠唱部分レイアウト調整

2011/10/11 記述修正 収まるまで → 治まるまで

2011/10/11 記述追加 その前に抜き身の光る剣を持って~ → 追加

2011/10/11 記述修正 まで辿り着くのに → そこへ辿り着くのに

2011/10/11 記述修正 女は小走りに → 女には小走りに

2011/10/11 記述修正 ガラクタ一体の温度は → ガラクタの温度は

2011/10/11 記述修正 一階の大広間だけは → 屋敷の中は一階の大広間だけは

2011/10/11 記述修正 扉のある壁面は → 今入って来た背面に当たる扉のある壁面は

2011/10/11 記述修正 があるだけになっている → それがあるだけになっている

2011/10/11 記述修正 光る剣を持った修道女が、侵入者であるのを → 侵入者が若い修道女であるのを

2011/10/11 記述修正 こいつらは → この新手は

2011/10/11 記述修正 私に詳細を伝え始める → 私へと伝え始める

2011/10/11 記述修正 振り下ろしてくるハルバートの刃を → 振り下ろされるハルバートの刃を

2011/10/11 記述修正 叩き返す様にして打ちつけてやると → 打ち返す様にして叩くと

2011/10/11 記述修正 その男は今は貿易商で → その男は貿易商をしており

2011/10/11 記述修正 体調の事を尋ねてみたが → 体調の事を尋ねてみると

2011/10/11 記述修正 この症状を抑える丸薬を持ってはいたが、もうそれは → この衰弱の症状を抑える丸薬はもう

2011/10/11 記述修正 私は剣を一旦消滅させるべく、剣に保持された → 剣に保持された

2011/10/11 記述修正 その後私は右腕の力を抜くと → その後右腕の力を抜くと

2011/10/11 記述修正 土塊に変える力 → 灰にする力

2011/10/11 記述修正 屋敷の大きさや建物を見てみるに → 屋敷の大きさや外観を見るに

2011/10/11 記述修正 屋敷は窓から推測すると → 窓から推測すると

2011/10/11 記述修正 私には採るべき手段に → 私は採るべき手段に

2011/10/11 記述修正 あっさりと壊せたが → 造作も無く破壊した後

2011/10/11 記述修正 手段を検討した結果 → 手段を検討し

2011/10/11 記述修正 高熱になり、ガラクタは発火して高熱で変形していき → 高熱になり発火して変形し

2011/10/11 記述修正 燃える筈の無い鉄にも引火して炎を上げながら溶けていき、原型を失っていく → 溶けながら原型を失っていく

2011/10/11 記述修正 剣から力を搾り取り再び剣を消滅させた → 再び剣を消滅させた

2011/10/11 記述修正 その場に前方に倒れていき → その場で前方に倒れていき

2011/10/11 記述修正 開けられない様に固定する → 開けない様に固定する

2011/10/11 記述修正 まずは使いづらそうな → 始めに使いづらそうな

2011/10/11 記述修正 迎撃したかったのだが → 出来れば迎撃したかったが

2011/10/11 記述修正 回廊の部分 → 回廊の部分の

2011/10/11 記述修正 遠距離からの一斉攻撃と → 遠距離からの一斉射撃と

2011/10/11 記述修正 ロープを使って降りるとすると → ロープを使って降りるとしても

2011/10/11 記述修正 巻き込んで焼き尽した → 巻き込んだ

2011/10/11 記述修正 棒立ちのままの衛兵の首を → 棒立ちのままの衛兵達の首を

2011/10/11 記述修正 あまりの強烈な打撃に指が折れた上 → その打撃で武器の柄は折れて

2011/10/11 記述修正 得物の持ち主は → 得物の持ち主らは

2011/10/11 記述修正 扉ごと地面まで刺し貫いて → 扉ごと地面まで刺し貫き

2011/10/11 記述修正 小石をいくつか拾わせて → 小石を拾わせて

2011/10/11 記述修正 全力で投げ続けろと命じた → 適当に投げるように命じた

2011/10/11 記述修正 一階の大広間だけは見たが → 一階の大広間だけは見ており、

2011/10/11 記述修正 それ以外の部屋などは判らないと言う。入り口から → 入り口から

2011/10/11 記述修正 女は思い出しながら説明した。 → 女は思い出しながら説明し、それ以外の部屋は判らないと言った。

2011/10/11 記述修正 輝度を上げて輝き → 輝度を上げて輝きやがて真紅の炎が上がり

2011/10/11 記述修正 鉄の棒は十分で → 鉄の棒の本数が足りなくなる事もなく目的を果たし

2011/10/11 記述修正 途中に屋敷の壁を確認して → 小屋へと向かいつつ屋敷の壁を確認して

2011/10/11 記述修正 赤と黒の二色のモノトーン → 赤のモノクローム

2011/10/11 記述修正 そんな程度の情報でありながら → そんな程度の知識だけでありながら

2011/10/11 記述修正 私は右腕を一閃させた → 私は炎の剣を具現化し一閃させた

2011/10/11 記述修正 質は低いものの → 質は低いとは言え

2011/10/11 記述修正 人間数人分の魂と → 三十人近い人間の魂と

2011/10/11 記述修正 その有り得ない攻撃で → その有り得ない反撃で

2011/10/11 記述修正 当番の衛兵達が現れ始めたので → 当番の衛兵達が現れ始めたのを確認して

2011/10/11 記述修正 それと同時に私は再び剣を具現化し、 → 計画通りに

2011/10/11 記述修正 海からの強風から守る為かそれとも侵入者を防ぐ為か → 海からの強風から守る為ではなく侵入者を防ぐ為であろう

2011/10/11 記述修正 こんな気も → 私の腕とは言え、目の前で次々と人間を惨殺し続けているこんな気も

2011/10/11 記述修正 気も狂いそうな場面で → 気も狂いそうな凄惨な場面に於いても

2011/10/11 記述修正 私はこの修道服の女の気丈さに驚き → これまでどのような半生を歩んで来たのかは判らないが、私はこの修道服の女の気丈さに驚き

2011/10/11 記述修正 女の気丈さに驚き → 女の気概と機転に驚き

2011/10/11 記述修正 追っ手 → 追手

2011/10/11 誤植修正 ハルバートを刃を → ハルバートの刃を

2011/10/11 誤植修正 獲物の持ち主は → 得物の持ち主は

2011/10/11 誤植修正 廃屋から屋までの道中で → 廃屋から屋敷までの道中で

2011/10/11 誤植修正 まばら立ち木や → まばらに生えた立ち木や

2011/10/11 誤植修正 逃げれなくなるだろうし → 逃げられなくなるだろうし

2011/10/11 誤植修正 屋敷を壁を確認して → 屋敷の壁を確認して


修道服の女の話によると、私を呼び出した目的はある男を殺す為で、その男に母を殺されて、父とも生き別れにさせられた原因となった憎き男だと、女は語った。

その男は貿易商をしておりこの近くの屋敷に住んでいて、今は屋敷にいる筈だと言う。

朝になると、男はどこかに移動してしまうかも知れないので、これから夜のうちに寝込みを襲う計画であると話した。

この女の残る体力と衰弱の速度を考えると、戦いがある以上は少しでも早くけりをつけなくてはならないだろう。

私は女に体調の事を尋ねてみると、この衰弱の症状を抑える丸薬はもう飲み尽くしてしまっており、またその丸薬はもう二度と手に入れる事は出来ないと答えた。

これでこの女の延命は、もはや絶望的であるのが判明して私はかなり落胆したが、もう致し方なかろう。

次に腕輪の事で知っている事が無いかを尋ねると、女は全く詳しい事は判らない様で、召喚方法は死んだ母親から教えられたものだと言う事と、どうしようもなくなった時に使えと言われていた事を語った。

つまり、この女は私の名前だけは呼び出す言葉にあるから判っていたが、それ以外は何も知らなかったらしく、この剣の力に関しても何の情報も得られなかった。

そんな程度の知識だけでありながらこの姿で召喚出来たのは、やはり腕輪の力の賜物と言う事か。

あまり時間も無いので手短に確認したが、何となく予想はしていた通り、有益な情報は得られなかった。

もう時間もあまり余裕はなくなり、話はここまでにして目的の屋敷に向かう事にした。

まずはその場所へと向かい、それからどうやって願いを叶えるかを検討しよう。

その前に抜き身の光る剣を持って夜道を出歩く訳には行かず、この剣をどうにかしなければと思い、人間の体の一部として実体化している腕がある今なら、腕に力を寄せれば剣を消せるのではないかと推測し、早速試してみる。

剣に保持された糧を右腕へと集めると剣の赤い光は薄れていき、やがて完全に光は消えて刀身も見えなくなり、熱気も消えた。

その後右腕の力を抜くと、腕は力なくだらりと女の肩からぶら下がった。

女は外套のフードを左手で目深に被ると、右腕にあまり触れない様に恐る恐る修道服の袖を下ろして、二の腕の腕輪と神の腕を被い隠した。

私の腕の熱は、衣服に引火させたり灰にする力は無かったのか、それともそれらは腕輪が抑えたのか、大人しく袖に隠された。

身支度を終えた修道服の女は、廃屋を後にして屋敷へと向かって走り始めた。




新月の夜は暗く、薄汚れた暗い外套姿の女は目立たずに済み、誰にも出会わずに目指す屋敷の近くまで辿り着いたが、ここまで移動するだけで女の息は切れて呼吸は乱れていた。

廃屋から屋敷までの道中で、私は自分の視覚と聴覚の特性を把握していた。

色が全て赤のモノクロームでしか見えない以外に、私の目と耳はどうやらこの女の右目と右耳を完全に奪っている様で、女は左目と左耳しか機能しておらず、近づいた建物や壁などの距離感が掴めていない事や、私がほとんど聞こえなかった左側の物音には素早く反応したが、私が耳にした右側からのかすかな物音には全く聞こえていないらしく、無反応である事が何度かあった。

これは戦いの時に注意しなければならない致命的な弱点と感じて、私はこの事を女に手短に伝えて、極力体の右側を前にして構える様にと指示しておく。

息切れが治まるまで女を休ませている間に、私は取るべき戦術を考えてみる。

屋敷の大きさや外観を見るに、窓から推測すると三階建てで相当に大きく、かなり羽振りがいい男と思われた。

この地域は比較的治安の良い場所らしく、門や屋敷の周囲には衛兵の姿は無く、屋敷以外の兵舎や詰所なども見当たらず、あるのは屋敷の左側に小さな狭い物置小屋がいくつか並んでいるのみ。

この辺りは港も近いのだろう、汐の香りが漂っていて、屋敷の窓という窓は、海からの強風から守る為ではなく侵入者を防ぐ為であろう、全て鉄格子となっていて、窓からの侵入も難しくなっている。

三階の壁面にはバルコニーや格子の無い鎧戸も見えるが、これは高さ的に侵入が出来ない位置であるからであろうと思われた。

屋敷の周りはまばらに生えた立ち木や庭園になっていて、広大な敷地の真ん中に大きな屋敷が建っており、これだけ障害物が何も無い広さでは、追手からの逃亡は飛び道具の餌食にならずには済まないだろう。

殺すべきこの屋敷の主人であろう男の居場所、この時間では寝室だろうか、そこへ辿り着くのに、捜索しながらではかなりの時間が掛かりそうだと感じた。

時間が許すのであれば、貿易商の男が屋敷から出てくるのを狙うとか、或いは忍び込んでおいて、無防備になるであろう寝室や風呂に潜んで機会を窺うのだが、今晩中にかたをつける必要があるのと、私の神たる力があると言う二点において、悠長な事はせずに一気に叩き潰すべきだろう。

居場所が判らないのなら、燻り出してやろうかとも考えてみるが、屋敷を燃やすか倒壊させた場合、どうやっても無事には逃げられなくなるだろうし、下手をするとこの弱りつつある女の方が先に、炎や煙、建物の倒壊に巻き込まれて死ぬ可能性もある。

あまり、倒すべき相手以外に注意する事象を自ら増やすのも、失敗するリスクを高めるのではないかとも思えて、勢いだけで決行する事も出来ず、私は採るべき手段に苦悩していた。

私はもう一度この屋敷の外観と周囲の状況をふまえて、現状採るべき手段を検討し、名案とも言い切れなかったが妥協案をまとめた。

ただこれが上手く行くかはいくつかの確認事項があり、私は女にまず一番近くの物置小屋へ、屋敷の右側から遠回りに回り込んで向かうように指示を出した。

侵入者を阻む高い鉄柵は我が右腕で造作も無く破壊した後、私は慎重に鉄柵を引き抜いて十本程度の鉄の棒を抱えてから、女には小走りに屋敷を回る様に進ませる。

小屋へと向かいつつ屋敷の壁を確認して、出入り口の扉の所に引き抜いた鉄柵の棒を私の右腕の力で、開閉出来ない様に地面に深く交差させて突き刺していく。

裏口の数が屋敷の左右と裏の三箇所だったので、持って来た鉄の棒の本数が足りなくなる事もなく目的を果たし、その後裏から近づいた物置小屋へと向かった。

小屋の錠を私が引きちぎってから、女は中へと身を滑り込ませた。

私はここで女に、あの屋敷の内部について、この屋敷内を詳しく把握している訳も無かろうから、あまり期待はせずに尋ねてみた。

女によると、前に訪問した際に屋敷の中は一階の大広間だけは見ており、入り口から大きな石柱が立ち並ぶ一階の大広間から、その石柱の道を進んだ奥にある中央の大階段で二階・三階に上がれる構造になっていて、大広間は三階まで吹き抜けになっていたと、女は思い出しながら説明し、それ以外の部屋は判らないと言った。

と言う事は、あの屋敷の動線であろう、その中央の大階段を押さえてしまえば良さそうだ。

次に私は、物置小屋にある適当なガラクタを地面に転がして、右腕から力を引き出して剣を復活させた後、ガラクタに向かって剣を突き出して力を一気に放出してみた。

すると、剣から発する赤い光は輝度を上げて輝きやがて真紅の炎が上がり、力を放出したガラクタの温度はかなりの高熱になり発火して変形し、溶けながら原型を失っていく。

最後に一番気にかかっていた確認をする為に、私は女に小石を拾わせて適当に投げるように命じた。

女は非力ながら左手で小石を宙に放ち、それを確認した私はすぐさまその小石に向かって全力で剣を振ってみる。

最初は人知を超えた力であっても小石から微妙に刃がずれてしまい、なかなか当たらなかったが、十回ほどで大体の距離感は掴める様になり、二十回目以降は外す事は無くなって、複数同時に投げた小石すら全て切り落せるまでになった。

これも神の目の洞察力と瞬発力があっての物だろうと、改めて私はこの器の強さを自覚しながら、再び剣を消滅させた。

これで私の妥協案を実行する目途がついて、この頃には修道女の呼吸も落ち着いたので、これから行うべき行動を女に説明して聞かせると、女は不安と怯えの表情ではあったが、やるべき事は理解したらしく私にその旨の返答を返した。

そして深呼吸の後に、修道服の女は行動を開始した。




女は屋敷の正面の扉へ小走りで向かい、辿り着くと我が右腕で扉全体を破壊しない様に慎重に開くと、重量のある大きな扉の内側にある閂が拉げて、女が入る隙間が開いた。

女が体を横にして滑り込むと直ぐに私は扉を引き戻して、更に持ってきた鉄の棒の残りを扉ごと地面まで刺し貫き、開けない様に固定する。

外套のフードをはらってから女に屋敷内をざっと見渡させると、女の説明通りで一階の大広間の部分は吹き抜けとなっていて、三階の天井まで巨大な石の柱が、大広間の中央を挟む様に左右に並んで聳えている。

各階は、大広間の真っ直ぐ進んだ正面にある大階段で繋がっていて、二階と三階はその階段から左右に廊下が伸びており、更に左右の壁面へと伸びて扉のある壁面で突き当たりになり、その廊下沿いに各部屋の扉が等間隔で並んでいるのが見える。

今入って来た背面に当たる扉のある壁面は巨大な窓、ステンドグラスだろうか、それがあるだけになっている。

二階と三階の大階段の奥には、まだ広い廊下が続いているが、その先まではさすがに見る事は出来ない。

恐らく屋敷の主人が居るとすると、三階の奥の廊下の先だろうかと私は思いつつも、手堅い妥協案で行く事に変更は無い。

この建物は、まるで礼拝堂を模したかのような構造だと、私はふと思った。

この辺りで物音に気づいた当番の衛兵達が現れ始めたのを確認して、計画通りに女は大広間の中央の最も近い石柱へと走る。

一階で出来るだけ、弾を稼がなくてはならないので、まずは序盤に現れる大して警戒していない者を、引き寄せて倒す作戦を採る。

侵入者が若い修道女であるのを見た三人の衛兵達は、明らかに邪な感情を抱いているだろう下劣な表情で、こちらへと近づいてくる。

女には、入り口のそばの石柱を背にしてそこから動かずにいさせていると、女の鼓動が早まり恐怖の感情が高まっているのが分かったが、指示通りその場に留まり続けている。

衛兵達は武器を手にしているが実際に出してくるのは、武器ではなく薄汚い手であるのが良く判るいやらしい笑いを浮かべながら、明らかに侮っているだろう、無防備に私の攻撃範囲に入った。

その刹那、私は炎の剣を具現化し一閃させた。

男達は、自分の首が刎ねられた事にすら気づかず、胴体は歩く慣性でゆっくりとその場で前方に倒れていき、にやけたままの首が僅かに遅れて床に落ちて転がり、流血で繊細で豪華な絨毯を赤黒く染めていく。

私はまだ血の止まらない男の首に剣の切っ先を刺してから、力を放出し頭を燃える肉塊へと変えて、カーテンのかかっている三階へ向けて剣で放り投げる。

火の弾と化した衛兵の頭は、流血に代わって炎の尻尾を揺らしながら放物線を描き、狙ったカーテンの場所へと突っ込んでいった。

残る二つの頭も、火の弾に変貌させた後それぞれ別の場所へと投げ込み終えると、別の見回りの衛兵達が姿を現し、更に頭を投げ込んだ時の物音に気づいた使用人も姿を現し始めた。

一階の左側奥の部屋、あれが詰所だったようだ、そこから新たに六人と、二階の詰所から四人と使用人が数名、三階からも何人かがこちらを覗いている。

そしてついに警鐘が鳴り響き、その音で更に多くの人間があちこちの部屋や廊下から姿を見せ始め、まずは一階の人間達が早速向かってくる。

人数は先程よりも数が増えて十人程度になっていて、五人ずつで左右に展開し修道女を包囲する。

手にしている武器も長柄のハルバートや長槍で、多少は本気でかかって来たらしいが、私にとっては然したる差は無く、女に説明通りに石柱を背にして体の右側を前にして構え続けよ、と念を押して待ち構えさせた。

突き出された槍の穂先や振り下ろされるハルバートの刃を、刀身の腹で相手に打ち返す様にして叩くと、その打撃で武器の柄は折れて、自分の持っていた武器が己自身に凄まじい勢いで飛来し、避ける暇も無く頭を砕き、首を強打し胴体に突き刺さって、得物の持ち主らはその場に倒れていく。

最初にかかってきた右側の五人をほぼ瞬殺し、その有り得ない反撃で倒された同胞を見て動揺した左側に陣取る衛兵達は、恐怖で尻込みしてなかなか掛かって来ない。

私は女に短く突撃と指示を出し、女はその言葉に即反応して恐怖を堪えながら左側の衛兵達の方へ大きく跳んで距離を縮めると、その行動に全く反応出来ずに棒立ちのままの衛兵達の首を、私の剣で瞬時に刎ね飛ばす。

第二波を片付けた後、周囲を確認してみると更なる増援準備も整いつつある様なので、こちらから先に、始めに使いづらそうな大きな弾を使ってしまう事にした。

まずは死体を一箇所に集めてから、首が付いている骸を切断して使える様にした後に、衛兵の胴体を首の切断面から切っ先を刺して持ち上げては、引火させて詰所や各階の部屋の扉へ向けて投げ込んで行く。

吹き抜けの辺りを見ると、上の階の回廊では、応戦準備で衛兵が走り回っているのが確認出来た。

使用人達は消火を行っているらしいが、神の灯した炎はそう簡単には消せる筈も無く、火の手は着実に広がりつつあった。

五体目を投げ込もうとした時に、中央の大階段から二階の衛兵の一団が降りてくるのを確認した。

出来れば迎撃したかったが、大階段は燃やす訳にはいかないので、仕方なく三階の適当な部屋へと火達磨の胴体を放り投げて、次の戦闘へと備える。

今度の一団はクロスボウ兵が十人とハルバート兵が五人で、だんだんと数が増えているのは、見るからに異様な剣を振りかざす修道女の、尋常ではない強さが分かってきたからだろうか。

この新手は私が最も気にかかっていた物、飛び道具であるクロスボウを構えている。

これからは私も本気で望まなくてはならないだろう、修道女には、決して下手に避けようとはするなと念を押してから攻撃を待ち構える。

クロスボウ兵十人は、私の剣が届かない距離に包囲する様に展開して、同じく距離をとっていたハルバート兵が同時に打ち掛かるのとタイミングを合わせて、一斉に矢を発射した。

女は本能的な恐怖から、身を守ろうとして一瞬目を瞑り体を屈めようとしたが、私が命じるよりも早くその衝動に耐えて、前を見据えたまま堪えている。

私はこの女の気丈さに少々驚きつつ、この一斉攻撃を凌ぐべく剣を左に振りかざして、腕を伸ばしながら力を一気に放出しつつ右側へと一刀で薙ぎ払った。

放出した力は高熱の炎となり刀身から迸ると、宙を焼く轟音と共に周囲を炎の壁で覆いつくし、その中に入った矢や武器は元より、前衛の衛兵自身も紅蓮の壁の中へと巻き込んだ。

力の放出を絞り炎を消すと、炭化して半分ほどの体積になった、前衛のハルバート兵の成れの果てである五つの炭の塊と、全身黒く焼けた十体の骸が出来上がっていた。

実行前から予想出来てはいたが、さすがにこの攻撃は力を使い過ぎるようで、腕輪からの糧の供給も若干弱まった様に感じる。

やはり、この強力な腕輪でも糧は有限である事を痛感する。

この時女の口から、思わぬ声を私は聞いた。

「ここ、に、あらた、な、いけにえ、を、ささげる。

 いだい、なる、ひぎょく、の、おう、よ。

 あらた、な、たましい、を、その、ちから、に、くわえ、たまえ。

 さら、なる、ちから、を、さずけ、たまえ」

私の腕とは言え、目の前で次々と人間を惨殺し続けているこんな気も狂いそうな凄惨な場面に於いても、私に対する力の回復を試みるとは、私はこの修道服の女の気概と機転に驚き、そしてその評価を改めた。

この詠唱の直後、既に頭部から抜け出た魂が高い三階の天井で漂っているのを見つけて、私は剣をかざして糧として引き寄せる。

すると、色も薄くて濁った色合いの魂の塊を引き寄せるのに成功し、それを速やかに剣の刃から取り込んでみると、腕輪の糧の質とは比べ物にならなかったが、若干の回復が出来たのには内心感謝した。

質は低いとは言え、三十人近い人間の魂と比べてもこれだけ上質な糧を含んでいるこの腕輪の力に、私は改めて感銘を受けた。

敵はまともな指揮官が現れたらしく、もう一階に降りてこようとはせずに、大階段の上の二階と三階にクロスボウ兵と弓兵を配置し始めている。

上から矢で射殺す策だろう、まあ妥当な考えと言えよう。

こちらは先程黒焦げにした骸の首を切り落して、首と胴体を合わせて新たに二十発の弾を作り出しながら、相手の次の出方を考えていた。

そろそろ火事の鎮火もままならない事が分かってきて、この屋敷から逃げ出そうとして窓から飛び出す頃だろうが、あの鉄格子はそう簡単には外せない筈だ。

三階にはバルコニーがあったが、この建物は一つの階の天井がかなり高く、三階からの高さをロープを使って降りるとしても、軽業師でも無ければ無事に降りられる高さではない。

自らの財産を守る為の鉄格子が、逆に自分達の逃げ場を無くしている訳だ。

となれば、残された手は遠距離からの一斉射撃と、全軍挙げての突撃による正面突破を目指すだろう。

その捨て身の突撃の時こそ目的を果たす絶好の機会になるが、そこまで待たなくともこの弾を使って始末出来れば良いのだが。

女はこの間に事前に与えていた作業を遂行し、大階段とそこに繋がる回廊の部分の、あえて逃げ場として弾を放っていない箇所を必死に見つめていたが、女が短く声を上げて直ぐにその理由を私へと伝え始める。

「緋玉の王よ、見つけました、今大階段の二階に居ます。

母を殺し、父を蔑ろにした憎き男、私の命を懸けて死を以って罪を償わせるべき者、我が弟です」

女はそう私に訴えると、憎悪の感情を高ぶらせながら、力強く左手をその方向に突き出した。

その指差した先には、小柄なまだ青年と言ってもいい容姿の男がこちらを睥睨していた。

とうとう殺すべき対象である男、この女の弟が姿を現したようだ。





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