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『誓約(ゲッシュ) 第一編』  作者: 津洲 珠手(zzzz)
第四章 邂逅と報復
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第四章 邂逅と報復 其の一

変更履歴

2010/10/17 誤植修正 召還者 → 召喚者

2011/04/07 誤植修正 様子を伺って → 様子を窺って

2011/05/15 記述修正 修道士 → 修道女

2011/09/24 誤植修正 確立 → 確率

2011/09/25 記述統一 一センチ、十メートル → 1cm、10m

2011/09/25 記述統一 1、10、100 → 一、十、百

2011/10/05 記述統一 変らないが・代る → 変わらないが・代わる

2011/10/07 記述修正 その腕輪は薄く赤い光を発している → その腕輪は小さな薄く赤い光を発していて、特に規則的に埋め込まれた幾つかの小さな珠の部分が強く赤い光を放っている

2011/10/09 誤植修正 私の意志で → 私の意思で

2011/10/09 誤植修正 引き抜いいてみたところ → 引き抜いてみたところ

2011/10/09 誤植修正 以前の経験からを考えると → 以前の経験から考えると

2011/10/09 誤植修正 視界に入る物全てか → 視界に入る物全てが

2011/10/09 誤植修正 さざける → ささげる

2011/10/09 句読点削除

2011/10/09 記述修正 詠唱部分レイアウト調整

2011/10/09 記述修正 一振りの真っ直ぐで両刃の、長さの割に細身の → 長さの割に細身の刀身を持つ、一振りの真っ直ぐで両刃の

2011/10/09 記述修正 この時の女の顔には → この見上げた時の女の顔には

2011/10/09 記述統一 変っていく・変った → 変わっていく・変わった

2011/10/09 記述修正 声を上げない様にしている → 女は悲鳴を必死で押し殺している

2011/10/09 記述修正 私の侵食は → その間に私の侵食は

2011/10/09 記述修正 あの瞬間から → 私が女へと侵食し始めた瞬間から

2011/10/09 記述修正 泥や埃で汚れ → 泥や埃で汚れていて生地もすっかり色褪せており

2011/10/09 記述修正 淡い色合いの瞳の人間 → 淡い色合いの虹彩をした人間

2011/10/09 記述修正 だらりと剣の柄を握っている → だらりと下がったままで剣の柄を握っている

2011/10/09 記述修正 女は自分を捧げているのから → 女は自分を捧げているのだから

2011/10/09 記述修正 侵食し始めた瞬間から、この腕輪は → 侵食し始めた事で腕輪は

2011/10/09 記述修正 勢い余って転がり → 勢い余って後ろへと転がり

2011/10/09 記述修正 突き刺さったが、私はすぐに切っ先を → 突き刺さってしまい、すぐに

2011/10/09 記述修正 答えは導けそうも → 答えは出そうも

2011/10/09 記述修正 一蓮托生だと → 一蓮托生だと言う事と

2011/10/09 記述修正 ある事ははっきり分かった → ある事がはっきり分かった

2011/10/09 記述修正 しっかりした石作りの廃屋 → 石作りの廃屋

2011/10/09 記述修正 こちらへ歩み寄りつつ → こちらへ歩み寄り

2011/10/09 記述修正 案の定 → そうすると

2011/10/09 記述修正 腕へと向かって流れ込み → 腕へと向かって流れ込み始め

2011/10/09 記述修正 提供し続けているのは、この腕輪であった → 提供し続けている

2011/10/09 記述修正 この女を守護する様に → 所有者を守護する様に

2011/10/09 記述修正 その殺すべき相手の場所から遠く無い位置にいるからか、それとも追われている身なのか → 追われている身なのか

2011/10/09 記述修正 もう一つは → それともう一つは

2011/10/09 記述修正 小さな家の一室で → 小さな家の中で

2011/10/09 記述修正 一方に小さな窓があり、真っ暗な → 正面の壁には小さな窓があり、そこから真っ暗な

2011/10/09 記述修正 叶いそうも無いのが感じられた → 叶いそうも無い事に気づいた

2011/10/09 記述修正 若い変わった瞳を持つ憔悴した修道女 → 変わった瞳を持つ憔悴した若い修道女

2011/10/09 記述修正 腕輪を欺く方法、たとえば → 腕輪を欺く方法があるかも知れないと思い考えてみた。たとえば

2011/10/09 記述修正 私の神の右腕となるのと引き換えに → 私の神の右腕と入れ替わる頃には

2011/10/09 記述修正 頭には修道服のヴェールと頭巾を被った → 頭には修道服の頭巾を被った

2011/10/10 記述修正 泥や土に変質して → 熱を帯びた砂に変質して

2011/10/10 記述修正 土塊へと変えたからか → その高熱でもって砂や灰へとへと変えたからか

2011/10/10 記述修正 確認しておく事にした → 確認しておく事にしよう

2011/10/10 記述修正 私の右腕を見つめつつ → 私の右腕を見つめていたが、この状況を理解したらしく

2011/10/10 記述修正 右肩から先を身体ごと → 右肩から先を全身で

2011/10/10 記述修正 歯を食いしばって → 歯を食いしばって悲鳴を押し殺し

2011/10/10 記述削除 追われている身なのか~ → 削除

2011/10/10 記述修正 修道服の頭巾を被った → 頭巾を被った

2011/10/10 記述修正 妙な格好で祈りを捧げている → 祈りを捧げている

2011/10/10 記述修正 小さな薄く赤い光を発していて → 薄く赤い光を発していて

2011/12/09 誤植修正 して見る → してみる


私は暗闇の中にいる。

目の前には、何か強力な力を秘めているかの様な、短い円柱が連なったトンネル。

私は、圧倒されるような威圧感を感じつつ、奥へと進んでいく……




まず最初に、私に対して呼びかける、掠れた女の拙い声が聞こえてくる。

私は目を開いて周囲を確認すると、そこは石の壁に四方を囲まれた薄暗い小さな家の中で、正面の壁には小さな窓があり、そこから真っ暗な外が見えていた。

ここはどうやら崩れかけの様な、四角い石が積み上げられた石作りの廃屋の中らしい。

上を見上げるとそこにあるべき天井はなく、細い新月と星が瞬く夜空が見えている。

周囲には明かりは見当たらなかったのだが、何故かぼんやりとした赤い光で照らされているのに気づき、それが私自身の体から発する光であるのがすぐに分かった。

私は下を見て、自分の器を確認してみる。

最初に目についたのは、私から見て右側の地面に突き立てられている、長さの割に細身の刀身を持つ、一振りの真っ直ぐで両刃の剣だ。

この廃屋の入り口の高さと比較して考えると、この剣の長さは人間の男が使う片手持ちの剣としては少々長めで、刀身だけで1mを優に越している様だ。

この剣も、刀身から柄の所まで赤い光に包まれていて、自分の体よりもこの剣からの光の方が強いのが見て分かった。

次にその剣から視線を移していくと、その柄を握る右手とそれに続く筋肉質な腕と肩と右の胸、それは逞しい男の肉体をした私の器だった。

目視で確認出来たのはそこまでで、他の部位は感覚的にも視覚的にも存在していなかった。

どうもこの赤い光は同時に熱も発しており、光の強い箇所ほど高温になっていて、剣の柄は私の手の温度よりも熱く、熱気を感じている。

周囲が見えていて、女の声が聞こえている事から、頭部はとりあえず存在しているのだろう、私は右手の剣を放して手で直接触って頭を確認しようとしたが、柄を握るその右手はまるで一体化しているように指一本解く事も出来なかった。

次に私は、糧の状況を確認してみた。

この様な中途半端な不具者じみた肉体であるからなのか、糧に不足は感じられない。

ただ気になったのは、力の源が男の肉体ではなく剣に集約されている事だ。

どうやらこの存在は柄を握る者ではなく、剣の方が実体なのではないかと思われた。

さて、当面の糧は満ちているのも確認したので、今度はここへ呼び出した召喚者を確認してみる事にする。

先程から私の耳に聞こえてくる、非常に拙い片言の言葉を唱えているのは、目の前でひざまづき祈りを捧げている、薄汚れた外套を纏い頭には頭巾を被った、修道服姿の女だった。

外套の痛み具合は相当なもので、泥や埃で汚れていて生地もすっかり色褪せており、長年の使用でくたびれた感じからして、この女は相当の長旅の果てに今に至っているのだろう。

それは長旅での疲労からなのか、その修道女の息は荒く声は掠れていて、その所為で詠唱が拙く聞こえているのだろうか。

修道女は、袖をまくり露になっている右の二の腕に嵌められた、細かな装飾が施された古めかしい木製の腕輪に左手を添えており、その腕輪は薄く赤い光を発していて、特に規則的に埋め込まれた幾つかの小さな珠の部分が強く赤い光を放っている。

それは、私の体や手にしている剣から発する光と同じ色合いに見えた。

その女以外にここには人影は無く、周囲からも物音は聞こえてこないところを見ると、この修道服の女が私を呼び出した術者であるのは間違いないだろう、その姿から考えるととても意外だが。

それにしても、剣を持った神を崇める修道女なんてものが存在するのだろうか、これはとても釣り合わない組み合わせではないかと感じた。

生贄も全く見当たらず、血生臭い悪臭もしていないところを見ると、どうやらあの腕輪の力を使って私は召喚され、こうして具現化出来ているらしい。

今までの召喚で必要とされていた生贄の数を考えると、魂の残滓が相当数蓄積されているのか、それとも人間や猛獣などの大きな魂が丸ごと封じられているのか、随分と強力な力が込められた腕輪の様だ。

次に私は、召喚者たるこの修道女の声に注目して、何を言っているのかを聞き取ろうと試みた。

この女の詠唱は、あまりにも聞き取りづらく、集中しなければ言っている内容が理解出来なかったのだ。

「ひぎょく、の、おう、よ、わが、ねがい、を、きき、たまえ。

 ふくしゅう、する、ちから、を、われ、に、あたえ、たまえ」

女の言葉は、これを繰り返していると言う事が、十回以上聞き直してようやく理解出来た。

恐らくこの次の語句へと進むのに、私からの同意が必要なのだろう、一回言い終える度に、女は懇願するかの様な悲壮な表情で私を見つめては、また頭を下げて初めから詠唱を言い直している。

この見上げた時の女の顔には、思わず目を引く特徴があった。

声色から想像するよりも、随分若い女であったのも多少驚いたが、そんな事よりも女の瞳の色が、今まで見たことが無い程淡く薄い水色だった事だ。

碧眼の人間ならいくらでも見てきたが、ここまで淡い色合いの虹彩をした人間を見た事は無い。

もしや盲目なのではないかとも思ったが、しっかりと私と視線を合わせて様子を窺っているところを見ると、そうでも無さそうだ。

疲労からなのか、女の声は最初と比べて、だんだん詠唱の声が小さくなっているのに気づいた。

あまり余計な時間を費やしてしまうと、女の方が先に力尽きてしまうかも知れない。

私は目の色の事は一旦忘れて、修道女の術者に対して、自分に口が付いていると信じて、声が私に届いている事を伝えてみた。

すると女の詠唱は止まり、こちらを見上げて青白い月の様な瞳を大きく見開いて驚いていたが、すぐに新しい詠唱に入った。

私の言葉は無事発する事が出来て、更に女にも正しく伝わったらしい。

これほどあっさりと意思の疎通が叶うとは、今回は運が良さそうだ。

修道女はまるで古い記憶を手繰りながら言葉を組み立てているかのような、勿体ぶったまどろっこしい詠唱で、言葉を連ねていく。

「わが、いのち、を、ここ、に、ささげる。

 おう、の、ちから、を、わが、み、に、やどし、たまえ。

 わが、て、に、おう、の、つるぎ、を、さずけ、たまえ」

言い終えると女は立ち上がって、左手を右腕の腕輪に添えたままでこちらへ歩み寄り、右手を突き立った剣の柄へと伸ばす。

この女は、自分の体を生贄として捧げるつもりらしい。

そのまま女が剣を握れば、神たる存在の私と、まだ生きている人間の女が接触する事になる。

これは以前の経験から考えると、あまり良い事象を引き起こさないのではないかと危惧したが、今の私にはそれを避ける手段も無い。

想像出来た展開は、女が私に触れた時、女は死に至って、その魂は私に吸収されて女の体に私が憑依する。

だがこうなってしまうと、復讐する相手が分からなくなってしまうだろう。

ロバの紳士の講義では、魂と糧は異なるもので、変換しなければ魂のままで扱えると話していたから、魂として案内でもさせる事が出来ればいいのだが、そんなに上手く行くだろうか。

それと私には、魂を糧としないでおく方法が分かっていないので、触れた途端に変換してしまうのではないかと恐れていたのだ。

しかしそんな私の躊躇も虚しく、女は強い意思で以ってしっかりと、私の右手に重ねる様に強く柄を握った。

そうすると、私の力は女の右手から腕へと向かって流れ込み始め、その途端にその手や腕は人間としての生命力を失っていき、見た目こそ変わらないが、植物が萎れ枯れる様に死んでいくのが感じられ、その代わりに私の光る体が薄れて女の腕に光が集約していき、神の腕へと変わっていく。

そうか、女は自分を捧げているのだから、私に吸収されて死にながら私がその体に取って代わる、憑依と言うと少々語弊があるが、女の身体を神の器へと代えてしまうのだなと悟った。

女は苦痛からか苦悶の表情ではあったが、悲鳴を上げる事も無く、歯を食いしばって悲鳴を押し殺し必死に耐えている様だ。

その間に私の侵食はゆっくりと進んでいき、右の肘から先が私の神の右腕と入れ替わる頃には、私の視界もだんだんと掠れていき、物音も聞き取りづらくなっていく。

視力と聴力を失ったら、とてもではないが動き回るのは無理だ。

こうなったら、速やかにこの女の頭部まで侵食が広がるのを待つしかないか。

私は消えゆく意識で、女が苦痛の限界を超えたらしく意識を失って、剣と共に地面に倒れるのを感じた所で、自分もまた意識を失った。




私が再び目を覚ますと、視界に入る物全てが赤みがかって見えて、輪郭は判別出来るのだが距離感と色が正しく識別出来ないのに気づいた。

いや、それよりも私は目を開けていないのに、意識が戻った途端周囲が見えた、これはどういうことだろうか。

更にその視界は、私の意思で変えられないのがすぐに分かり、ますます混乱してきた。

視界は勝手に私の右腕を眺める様にそちらへ向けられ、そこで何が起こったのかが、推測ではあるが理解する事が出来た。

赤く光る私の腕は、女の右腕に嵌められていた腕輪のところで、侵食が阻まれていたのだ。

この私の視界は、女の体の目を通して見えているらしい。

私が目覚めたのと、女が意識を取り戻したのは同時だった様で、女も自分の身に起こった事が理解出来ず、しきりと力なくだらりと下がったままで剣の柄を握っている、自分の物でなくなっている神の右腕を見つめていた。

しかしこの右腕は神たる私の物で、女の意思では動かせず、女からすれば肩から繋がった長柄の武器でしかなくなっていた。

この剣はどうやら人間が持てる質量では無いらしく、女は右肩から先を全身で引っ張るようにして動こうとしているが、剣は微動だにしない。

それにしても、何故この様な中途半端な侵食で定着したのか、私には原因があの腕輪の力であろうとは推測出来たが、その原理は全く判らなかった。

この腕輪の力を糧として私は呼び出されているのに、女が自ら望んだ筈の生贄として取り込むのを拒んでくるとは、一体何なのだろうか。

ロバの紳士の話でも、魂を封じて力を付与した物質はあるとの事であったから、この腕輪はそうした物の一つだとは判るのだが、何故所有者の意思に逆らうような真似が出来るのかが理解出来なかった。

私が女へと侵食し始めた事で腕輪は私に敵対した訳でもなく、その証拠に今でも私へ糧を提供し続けている。

ここでこれ以上考えてみても答えは出そうもないので、この侵食の結果についての考察は止めて、自分の残った部位を確認してみる事にした。

私は唯一の我が肉体となった、右腕を動かしてみる。

女があれだけ苦労していたのに、私が腕を上げた途端に、女にその重さが伝わらなくなった様で、女は急に軽くなった右腕を勢い良く引っ張ろうとして、勢い余って後ろへと転がり石壁にぶつかった。

その時、私が上げた剣の切っ先が壁に吸い込まれるように突き刺さってしまい、すぐに壁から引き抜いてみたところ、それは楽々と抜く事が出来た。

石壁の切り口を確認すると、斬りつけた箇所は石が熱を帯びた砂に変質して崩壊していた。

女がこの尋常ではない質量を持つ剣を掴んだまま地面に倒れる事が出来たのは、突き立てられていた床をこの剣の力で、切りつけた物質をその高熱でもって砂や灰へと変えたからか。

これがこの剣の持つ力なのだろう、この力の作用の詳細について、後で女に確認しておく事にしよう。

修道女は、中段に構えられた私の右腕を見つめていたが、この状況を理解したらしく、女の声、いや、女の思念が私に届いた。

「あぁ、緋玉の王よ、私の願いを聞き入れて下さった事を、感謝致します」

同化した所為か、女の思考は私に容易に理解出来た。

この女が、急に私の器が理解出来る言語を習得する事など有り得ないので、これも腕輪の力ではないかと私は判断していた。

私からこの女への呼びかけも、そのまま通じるのだろうか。

私は修道服の女に、声が聞こえるなら、私の声に答えよと呼びかけてみた。

女は私の声に反応して、最初は辺りを見渡していたのだが、直に右腕を見つめて、腕に向かって意味の分からない返事を返した。

やはりこの世界で通常使われる言語は、理解出来ないのはこの器でも証明されてしまった。

再度私は女に、私に対しては心で念じよと呼びかける。

「……緋玉の王よ、これで、宜しいでしょうか?」

女は要領を得た様で、私に対して返答を返してきた。

これで、意思の疎通は容易に図れるのが判った。

私が言うのも何なんだが、これほどの奇跡に巡り合えるとは、私はとても運が良いと改めて思いつつ、次の行動を考えていた。

この女をうまく利用出来れば、この世界の事や、更に運が良ければ私自身の何らかの情報も、得られる可能性も出て来るかも知れない。

そんな期待を強く抱いたのも束の間、それは二つの意味で叶いそうも無い事に気づいた。

一つは、この修道服の女の命、これが女と一体化した為に手に取る様に判るのだが、かなり衰弱していて、それは私と同化したダメージもあるのだが、元から何らかの病で弱っていたらしい。

この女の命は、もうそれほど長くは持ちそうも無い。

それともう一つは、この腕輪だ。

私の思念は、女には伝えようと望まない限り伝わらないのだが、この腕輪には何らかの意思があって、私の思念は筒抜けになっているらしく、女を利用する考え事をしていると、明らかに糧の供給量が低下したのだ。

私はその事象の確認の為に、再度同様の思考をして試してみると、今度は先程よりも更に糧の供給を絞られた。

この女にとっては、単なる召喚の為の祭具という認識なのかも知れないが、この腕輪は明らかに所有者を守護する様に力を振るっている。

その恩恵を受けている本人が気づかない、超自然の守護とは一体どういう事なのか、またしても謎が増えてしまった。

とりあえず、私はこの変わった瞳を持つ憔悴した若い修道女と一蓮托生だと言う事と、腕輪に脅迫されている状態である事がはっきり分かった。

もしかしたら、腕輪を欺く方法があるかも知れないと思い考えてみた。

たとえば敵との戦闘中に腕輪を切断して、いや、切ったら封じられている力を私が吸収出来る保証も無いから、それは危険か。

それとも腕輪を腕から取り外してしまえば、しかし自分の二の腕に嵌められている腕輪を右の手では、手が届かないから外しようがないか。

どこかに引っ掛けて一気に腕を前に引けばとも思ったが、引くも何も私の操れる体はその腕輪までの腕しか無いから、胴体を動かせるのはこの女だけなので、これも無理だ。

そもそも、この女の意思に反する事をしたら即糧は絶たれてしまい、完全に糧の力だけで作られている私の器は、あっという間に消滅してしまう気がする。

こういった事を考えているだけでも、腕輪の意思は私に脅迫を続けており、これを欺いて糧を掠め取るのは、不可能と言う結論に至った。

現状で私の為の時間を作るには、この女の願いを速やかに片付けて、出来るだけの延命を施し、残りの寿命を私の為に当てさせるより手は無いらしい。

もっとも、この腕輪の意思が持つ力を以ってしても、女の寿命を延ばすのは出来ないようだから、延命措置が見出せる確率も低そうだが、もはや仕方なかろう。

私は残された選択肢である、女の願いを叶える為の思考に、頭を切り替える事にした。





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