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『誓約(ゲッシュ) 第一編』  作者: 津洲 珠手(zzzz)
第二章 キマイラ2
13/100

第二章 キマイラ2 其の一

変更履歴

2010/09/23 誤植修正 召還 → 召喚

2011/09/15 誤植修正 位 → くらい

2011/09/16 記述統一 一センチ、十メートル → 1cm、10m

2011/09/16 記述統一 1、10、100 → 一、十、百

2011/09/29 記述修正 首から上は → その間も首から上は

2011/09/29 記述修正 視界の高さだった。 → 視界の高さで、どうやら~

2011/09/29 記述修正 この肉体から、氷が解けて水滴が滴るように → まるで雲が増殖するかの様に

2011/09/29 記述修正 視界も明確になってきた。 → 視界も明確になってきて、この召喚者らしき~

2011/09/29 記述修正 褐色の肌には → 褐色の肌に

2011/09/29 記述修正 判りづらくはあるが → 判りづらいが

2011/09/29 記述修正 僅かに不規則な呼吸と共に → 不規則な呼吸と共に

2011/09/29 記述修正 真正面にいる男の顔には → 真正面にいる男は

2011/09/29 記述修正 こちらは、前に立つ男と → こちらも前に立つ男と

2011/09/29 記述修正 痩せ気味で → 痩せ気味であり

2011/09/29 記述修正 次に私は更に左右の壁を → 次に私は左右の壁を

2011/09/29 記述修正 それについている刃に → 断頭台の刃に

2011/09/29 記述修正 台を頭部を固定する様に奴隷の頭の下に設置した後 → 頭部を固定する様に奴隷の頭の下に台を設置した後

2011/09/29 記述修正 シャーマンの合図と共に、二人は同時にレバーを両手で掴み、 → 二人はレバーを両手で掴み、シャーマンの合図と共に同時に

2011/09/29 記述修正 先程から謎に思っていた、首の線に → 先程から謎に思っていた首の線はこの器具の位置を合わせる為のもので、この線に

2011/09/29 記述修正 勢いは衰えていき → 勢いが衰えて

2011/09/29 句読点削除

の隠しから

2011/09/29 誤植修正 身なりをして → 身なりをしており

2011/09/29 誤植修正 立っていないのか → 経っていないのか

2011/09/29 誤植修正 天井に接すると壁と → 天井に接する壁と

2011/09/29 誤植修正 その吸飲みをを → その吸飲みを

2011/09/30 記述修正 シャーマンは装束の袖の隠しから → 装束の袖の隠しから


私は暗闇の中にいる。

目の前には、中央が膨らんでいる楕円状の形をした、内部に濃い霧が満ちたトンネル。

私は、前後もろくに見えない霧の中を手探りで、奥へと進んでいく……




目を開くと、そこは薄暗いところは同じだったが、少々今までとは雰囲気が違う場所だった。

霧なのか靄なのかの判断がつかないが、白く霞んでいて周囲が良く見えていない。

その中でまず気になったのは、匂いだった。

かび臭さと、血の匂いと、何らかの没薬の匂いが混ざったような匂いが、気分が悪くなるほどの濃度でここに充満しているようだ。

この目の前に広がる霧は、匂いの元たる香の煙かも知れないと、私は感じた。

次に気づいたのは視界の高さで、どうやら宙に浮いているのか、床よりも相当に高い位置から見下ろしているように見える。

私は、自分の器を確認してみることにした。

するとこの霧のようなものは、煙も多少はあったのかも知れないが、驚く事に自分の肉体そのものであった。

私の器は非常に濃度の高い煙で出来ており、まるで雲が増殖するかの様に、煙の体からさながら湯気のように霧が発生しているのだ。

改めて、自分の体の詳細を確認してみた。

屈強な逞しい腕と、分厚い筋肉のついている胸や腹を持っていて、腰から下は煙に包まれていて詳細が見えないが、上半身と比べると下に行くほどに細くなり、脚のような物も無く、まるで蛇のような一筋の煙になっているようだ。

その末端は、どうやら自分の真下にあるようで、ここからでは見る事が出来ない。

言ってみればこの器は、上半身だけだが煙で出来た巨人だった。

この気体で出来た手は、物を掴む事が出来るのかという、素朴な疑問がふと脳裏に浮かんだが、それは後で考えるべき事だと思い直す。

この非現実的な肉体には、今のところ特に痛みや消耗などは感じられず、物理法則では有り得えないことに、この意思を持つ煙の形状は、とても安定していると言えた。

ロバの紳士の話では、十分な糧があればこのような形状でも、長時間生存出来ると言っていたことを踏まえると、今回の召喚者はこの者を召喚するのに長けた人間なのか、或いは大量の生贄が用意されていただけなのか、そのいずれかだろう。

しかし、それはすぐにこの目で確認する事が出来るはずだ、術者も生贄も、この私の近くに配置されているのだろうから。

私は周囲、と言うよりは、下の地面を目を凝らして見た。

白く霞んで良くは見えないのだが、どうやら真下よりちょっと先のところに、二つの祭壇が間隔を空けて並んでいて、その祭壇よりやや手前の所に召喚者と思しき褐色の男が、こちらを見つめているのが見えた。




だんだんとこの体に馴染んできた所為なのか、煙が薄れてきているのか、視界も明確になってきて、この召喚者らしき男の詳細も見えてくる。

黒い肌をしたその男は、少数部族の装束らしき、言わばシャーマンのような身なりをしており、指や腕や首などに幾つもの装飾品を身に着けている。

髭や髪や眉すらも剃っているのか、全く生えておらず、彫りが深くて窪んだ双眸や高い額や鼻がはっきりと見て取れた。

瞳の色は黒で褐色の肌に白目が際立って見えていて、頬のこけ具合からすると、衣装の所為で判りづらいが相当痩せているのが判る。

衣装は、くるぶしのところまである丈の長いコートのような形状で、腕の袖は肩から手首に行くに従ってかなり大きく広がり、足元の部分もスカートのように下へ行くほどゆったりと広がっていて、白い布地にはっきりとした色使いで何かの文様が縫いこまれていたり、陶器で出来た小さなリング状のものや、紐が通されたガラス状の珠などもいくつか縫い付けられている。

足は靴を履いておらず素足で、年齢はその姿と顔からでは想定することが出来ず、推測しかねた。

私にはこの衣装が随分と真新しい、使い込まれていない印象を受けて、今回の儀式用に用意された物なのかも知れないと推測した。

頭部や顔、二の腕や手や足の甲などの黒い素肌には、映えるような明るい原色の塗料で、幾何学的な文様が描かれているのも見えた。

何故だろうか、この男は驚くでも恐れるでも喜ぶでもなく、何の感情も抱いていない無表情で、私を見上げていた。




私は次に、術者の後方にある二つの祭壇に目をむける。

二つの祭壇には、それぞれ一人ずつの人間が横たわっていた。

向かって右の祭壇には、かなり小柄な痩せ細った老人が横たわっている。

白髪で白い口髭を蓄えたその老人は白人で、よく見ると不規則な呼吸と共に、僅かに胸が上下するのが見えた。

滑らかで光沢のある、見るからに豪奢なガウンをまとっており、右手の人差し指には、紋章を模ったような意匠の大きな指輪を嵌めていて、あれは何か地位や権力の証ではないかと私は思った。

明らかに彼は裕福な人物、豪商や位の高い役人か貴族であろう。

それに対して左の祭壇には、逞しい大柄な体をした、腰布のみをまとった白人の男が横たわっている。

歳はかなり若そうで二十代前半といったところか、大柄な骨格で筋肉質の体つきをしている。

右の足首についた足輪や左胸に付けられている烙印からすると、多分奴隷の身分だろうが、それにしては随分といい肉付きをしているように見える。

奴隷の身分ならば重労働を課せられて衰弱している様を想像するのだが、この若い男はとても衰弱している様には見えず、むしろ先の黒人の男の方が、ひもじい暮らしをしていたのではないかと思わせる程だ。

この若い奴隷も、規則正しく胸部は一定の速度で上下しており、死んではいないのが判った。

二人の男には共通して、まるで絞殺された痕のような、黒い線が首に書かれている。

あの線は一体なんであろうか。




私はその疑問をひとまず捨て置いて、更にこの部屋の奥へと目を向ける。

二つの祭壇から更に奥に、二人の白人の人間が見えた。

腕を組んで遠巻きにこちらを見ている二人には、前方の術者とは違い、全く正反対の表情に満ちていた。

術者の真後ろ、つまり私から見て真正面にいる男は、驚愕と歓喜に満ちあふれた表情で、興奮冷めやまぬといった感じだ。

髪の色は栗色で、若干巻き毛で髭は生やしておらず、右目には片眼鏡をしており、見開かれた瞼から、今にもそれは眼窩から外れて落ちそうであった。

目鼻立ちは、あの黒人に比べると凹凸の差は少なく、傷や痣等の病の痕跡も見当たらない。

瞳の色は髪の色と同じような暗い茶色で、白い肌の頬は、今は興奮から来る高揚の為か、若干赤みを帯びている。

顔の具合からすると年齢は四十代あたりだろうか、体型については中肉中背で、裕福な貴族の割には肥満体型で無いところは、我欲に対して自制心のある人物かと思われた。

この男の服装はかなり派手な装飾が施されており、その服の生地から靴に至るまであの老人と同様に高価なものであるのは明白で、彼は恐らくかなり裕福な貴族と見て間違いないと判断した。

その高価な衣服の他に指輪も幾つか嵌めていたが、こちらはあの老人の物とは異なり、単に貴金属や宝石の付いている装飾品としてしか意味は無い物の様だ。

一方もう一人の男は、その興奮している男の後ろから覗き見るような位置で立ち、前にいる男とは対照的に、こちらを驚愕と恐怖と絶望のこもった表情で、引きつった顔を背ける事も出来なくなってしまったのか、ただひたすら私を凝視し続けている。

こちらも前に立つ男と近しい格好ではあったが、その衣服はかなり薄汚れていて、元々は高価な物だったかも知れないが、比較してしまうとかなり安っぽい印象を受ける。

前の男の衣服はしっかりと手入れされている証か、新品のような生地の光沢や折り目の張りであるのに対して、この男の物は全体的にくたびれていて型崩れしていた。

察するに、この男はかつては裕福であったが何らかの理由で身を持ち崩して、今は貴族的な暮らし、召使がいて衣服を整えて置ける様な暮らしが、困難な程に没落したのであろうか。

背は前の貴族よりも高いが猫背で、体型は貧困から来るのか痩せ気味であり、顔色は今の心理状態も反映されているのかかなり青白いが、歳は貴族よりは若いように見える。

顔の彫りは貴族よりは深く、白い肌に黒い髪と瞳で短い口髭を生やしており、もう少し肉があって血色が良ければ、かなり整った顔立ちなのではないかと思われた。

この男の足元には大きな黒いカバンが置いてあり、その口は開いていて中身が僅かながら見えている。

その中身は金属の器具、メスや鉗子だろうか、等やガラス製の薬瓶、白い布らしき物は恐らく白衣なのだろう、等が入っている。

このカバンの中身からすると、どうやら外科医のようだ。




この五人以外に人間は見当たらず、医者の男の背後はあと数歩も下がれば壁に当たる程の、この手の儀式を行うにしては狭い部屋と言える場所だった。

部屋の奥の壁際には、大小の道具や器具が並べられていて、明らかにここで何かを行う為に使われるのだろうと思える。

次に私は左右の壁を確認してみると、奥行きと同じ程度の距離で壁になっていて、この部屋はほぼ正方形をしているのではないかと推測出来た。

私のちょうど真横にあたる場所の左右両方共に、あれが没薬の匂いの発生源だろうか、直径1m程もある巨大な香炉が炊かれていて、かなりはっきりと煙が上がっているのが見えた。

その前には、その香炉の半分くらいの大きさの正方形の台座があり、そこには握りこぶしくらいの不恰好な丸い物体が、数としては数十程度山盛りに積まれていて、その台座からは液体が滴り落ちていた。

どうやらそれが血の匂いの正体のようだ。

丸い不恰好な物体はどうやら人間の心臓らしく、抉り出してから時間はまだそれほど経っていないのか、まるで鼓動を打つように微妙に震えているようにも見えるし、心拍に合うように流れ出た血溜りに波紋が広がっているのも見える。

続いて、この部屋の高さも確認することにする。

先のシャーマンは痩身で随分と背は高そうに見えたから、180cmと仮定して、私が見下ろした高さや横の壁の高さから推測すると、幅と奥行きは10m四方で、私の身長は人間の三倍はないとして5m程とすると、床から天井までの高さは8mくらいかと推測した。

出入り口は、奥の壁の中央に両開きの扉が見えたが、扉はかなり小さく、私の体ではそこを通り抜けるのは難しそうに見える。

この部屋には窓は見当たらず、天井に接する壁と床に接する壁に一定間隔で小さな穴が開いていて、それが通気口になっているようだ。

最後に私は最も気にかかっていた、自分の下肢の先端はどうなっているかを確認すべく、再び真下に顔を向けてみる。

最初に見た時には視界が定まっていなくて良く判らなかったが、今ならはっきりと見えるようになっているから、詳細も判るだろう。

腰の部分から、まるで尻尾のように細くぐるぐると蛇行しながら伸びで行くその先は、地面に行き着いた。

その位置は先程シャーマンが居た場所から数歩前にあたる位置のところで、そこには小さな丸い物、多分陶器の壺に見える、が置いてあり、その中央は穴になっていて、その穴から私の尻尾の先が湧き出るかのように生えているのが判った。

私はさしずめ、煙で出来た壺の精、といったところか。

まあどのような姿でも、満ち足りた糧を与えられているのだから文句は無い。

私が周囲を確認し終えた頃に、シャーマンはこちらから目を離した後、踵を返して後ろに立つ男達の元へと近づいていく。




貴族はシャーマンが近づいていくと、賞賛の声をかけている様で大げさな身振りで何かを口走っている。

ここで私は、前にも味わった苦悩をまたしても味わう事になった。

彼らの言葉がまるで理解出来ないのだ。

キマイラの時には自分は獣だったから、人の言葉が理解出来ないのは仕方ないのだろうと諦めもしたのだが、今回はまともに召喚されているし、上半身だけだが人の形をしていたので意思の疎通も出来そうだと期待していたのが、どうやら甘かったらしい。

神や悪魔や化物にも、言葉の壁と言うものは人間の世界と同様に、常に付きまとう問題のようだ。

この壺の精は、人の言葉が判らない程の低い知性しか持たない、怪物と大して変わらない存在なのだろうか。

いや、もしかすると、この壺の精が理解出来る言葉が限られているだけと考えた方が、より自然か。

今は召喚者ではない貴族との会話で、ここで使われる言語が理解出来ないだけで、あのシャーマンが私に対して詠唱などを始めれば、その意味は理解できそうな気がしてくる。

私は、この世界の人間との意思の疎通の確認については、あのシャーマンに期待してその機会をじっくりと待つ事に決めた。

私が意思の疎通に対して考察している間にも、彼らの話は続いている。

医者はしきりと、シャーマンに対して語気を荒げて罵声を浴びせているようだ。

しかしシャーマンの方はそれに対して全く無頓着で、反論すらしていない。

必死になって罵倒する医者の言葉の中に、おかしな発音だったが、私にも理解出来る言葉が聞こえてきた。

それは、『いかさま』『奴隷』『土人』だった。

どうやらあの医者は有色人種であるシャーマンを蔑視していて、更に私を呼び出したのもトリックだと罵っているのだろうと推測した。

しかし罵られた当人のシャーマンはひたすらに沈黙を守り、白人の医者が何を言おうとやはり無言だった。

喚いて抗議を続ける医者に対して、苛立ったらしい貴族が何かを言い放つと、医者は渋々黙ったようだ。

この三人の力関係は、あの貴族が残る二人を雇っているのか、何かの契約を結んでいるのだろう。

それにしても外科医と呪い師が同時に何かをしようとするとは、これは非常に興味深い事になりそうだ。

私はこれから起こるであろう、その何かに大きな期待を抱きつつ、じっと静かに彼らの行動を観察し続けた。




医者の反論を封じた貴族は、新たに二人に何か命じると、彼らは速やかに動き出した。

シャーマンは左の祭壇へと向かい、医者は足元の医療道具へと手を伸ばしている。

貴族は二人の動きを見届けると、右の祭壇の老人の所へと歩いていき、老人に向かって何かを話している。

よく見ると、この老人と貴族の顔は似ている所が多く、年齢差を考えると親子の可能性が高い。

シャーマンはこの部屋の奥に置いてあった、小型の断頭台のような器具と何かの台らしき物を左の祭壇へと運び、頭部を固定する様に奴隷の頭の下に台を設置した後、奴隷の首を跨ぐ様に断頭台を設置する。

それを見た白衣を着た医者は、すぐさまシャーマンのところへと早足で向かい、何か文句を言いつつ断頭台の位置の微調整をしている。

先程から謎に思っていた首の線はこの器具の位置を合わせる為のもので、この線に合わせる様に断頭台を調整しているようだ。

シャーマンはそれには構わず、手前にある台座から滴る血を小さな皿に受けて断頭台へと戻り、断頭台の刃に血で文様を描いた。

そして今度は右の祭壇へと向かい、貴族に一言言って下がらせると同じ様に断頭台を設置し、またしても医者がその後に微調整している。

こちらの断頭台の刃にも、先と同じように血を採り文様を描く。

医者はシャーマンのその行動を、僅かに後ずさった場所から奇異の目で見つめている。

シャーマンはそんな医者には目もくれず、貴族に何かを話してそれに頷くと、装束の袖の隠しから小さな包みを取り出して貴族へと手渡した。

貴族はそれを受け取ると包みを開いて、吸飲みに中身の粉末を入れた後、更に水差しから吸飲みに水を注ぎ、粉末が溶ける様にだろう、その吸飲みを軽く揺すっている。

シャーマンは左の祭壇へと戻り奴隷の脇へと立つと、先ほど貴族に渡したのと同じ包みを隠しから取り出し、皿に入れてから水で溶き貴族の方に目を向ける。

貴族もシャーマンからの合図を待っていたようで、老人の口元に吸飲みをあてがい、頷き返す。

シャーマンはそれを見て確認すると、合図だろう、一言発して、両者はそれぞれ自分の前に横たわる男に水を飲ませた。

水を与えられた二人の男らは数度手足や胴体を痙攣させた後、再び静かになった。

その間も首から上はあの断頭台に固定されているらしく、微動だにしなかった。

医者はこの間に自分の医療器具を左の祭壇の元へと運び、中の道具を奥から押してきた医療棚に配置して、何かの手術の準備を完了させたようだ。

シャーマンは奴隷が身じろぎしなくなったのを確認してから貴族を見て、貴族もまた老人の動きが止まったのを確認して、シャーマンに一言返答する。

この時医者は、再び奴隷と老人に据え付けられた大きな断頭台の位置を、再度入念に確認してから老人の頭の脇へと立ち、貴族に頷いて何らかの合図を送る。

暫くの沈黙の後に、貴族とシャーマンは断頭台に付いているレバーに手をかける。

そして二人はレバーを両手で掴み、シャーマンの合図と共に同時に勢い良く下へと下げた。

その直後、何かを押しつぶすような、ぶちぶちぶちぶち……と言うような、嫌な鈍い音が約二秒程続いた後、最後にぶつりという音と共に、老人と奴隷の首の辺りから血が噴き出して、血の雨で周囲を赤く染めていく。

老人のそれはすぐに勢いが衰えてやがて止んだようだが、若い奴隷の赤い噴水は止まらない。

だがこの流血を見届けることなく、三人の男達は速やかに動き出した。





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