第9話 婚約は破棄な?
オークそっくりと蔑まれていた少女エルフィナ。
その正体は、特別な力を持つ女神の生まれ変わりだった。
神々が道を外れた時――
世界は一人の少女を呼び覚ます。
「申し訳ありませんでした」
深々とメアリナが頭を下げた。
「何を言ってるの?メアリー」
エルフィナは、くすっと笑う。
「妹の事を守るなんて、当たり前の事じゃない?」
そして、少し懐かしそうな顔になった。
「それに貴方が、良い娘だと言うのは、
ずっと前から知っていたわよ?」
エルフィナは、くすりと笑う。
「幼い頃よ。ほら……私がよく、
〝オークだ!オークがいるぞ!〟って虐められていた頃」
「ああ……」
「その時、貴方いつも怒ってくれたじゃない」
エルフィナは、当時の口調を真似る。
「〝姉様はオークなんかじゃない!
優しくて、何でも出来るんだから!〟って」
「……そんな事あったっけ?」
メアリナが首を傾げる。
「まだ幼かったあの頃の貴方には、
呪いがあまり効いていなかったのかもね」
エルフィナは少し微笑む。
「1年前の、アレックス王子との時だって、
貴方本当は、怒ってくれていたんでしょ?」
ーーーー
ランスロット国王と、エルフィナの父、アーノルドは、
従兄弟同士で、
アレックス王子とエルフィナは、再従兄弟になる。
男の子と女の子だったらと言う前提ではあったが、
2人が生まれる前から婚約が決まっていた。
男児と女児が生まれたなら、結婚させる。
そんな軽い約束だったが、
王家と公爵家の間では、それは十分に重いものだった。
だが――
その約束は、あっけなく破られる。
ーーーー
「……なあ、エルフィナ。分かっているとは思うが……
クククッ……お前との婚約は破棄な?」
半笑いで、婚約破棄を告げるアレックス王子。
アレックスの誕生パーティーでのことだ。
「承知致しました……」
〝何故ですか?〟とは聞かなかった。
その場にいた誰もが、理由を理解していた。
目の前にいるのは――
オークそっくりと揶揄される少女。
ーーそして。
金色の髪に、碧あおく透明な瞳。
目鼻立ちも整った、誰もが憧れる王子。
それがエスティア王国第1王子アレックスだった。
釣り合わないことは分かっていた。
当然とばかりに、婚約破棄を半笑いで宣言されたのは、
間も無く王立学園入学という頃だった。
「承知致しました……」
それを聞くと、王子は、満足そうに笑った。
そして次の瞬間――
とんでもない事を言い出した。
「喜べ、メアリナ!俺はお前と婚約しようと思ってる」
王子は妹を指差す。
「謹んで御辞退いたします」
即答だった。
「な、何だと?」
王子の顔が引きつる。
「え……?」
「王子が振られた?」
「嘘だろ……」
「しかもあれの妹だぞ……?」
「な、何故だ?これ以上の縁談は無いだろう?」
メアリナは、にこりと微笑んだ。
「私、隣国のサンブルズ帝国……かの大国の、
オスカー皇太子との、縁談のお話がございまして……」
その場の空気が凍りついた。
(何よ……わざわざ王子の誕生パーティーの最中に……
多勢が集まる中で……
エルフィナ姉様の事笑い者にして……
ふざけないでよ、何様?)
(ちょっと……メアリー?未だその話は……)
(良いの。お姉様は黙っていて)
「何をコソコソ話してる?〝かの大国〟と言ったか?」
アレックス王子が睨む。
我が国を小国とバカにしているのか?不敬であろう!」
「滅相もございません。
小国等と……
我が国は立派な中堅国ではございませんか?」
(ちょっと……メアリー……)
(黙ってて……)
「き……貴様……」
「不敬と仰いました?
こんなパーティーの大勢の前で、女性に恥をかかせる……
それこそ失礼にも程がありませんか?殿下?」
「き……貴様……」
王子の顔が真っ赤になる。
「覚悟が出来た上で言っているのだろうな?」
「そうですね?」
メアリナは、涼しい顔で言った。
「サンブルズ帝国のオスカー皇太子に、この事をお話したら、
私、怒られてしまいますかね?」
「………………」
その縁談の話が本当ならば、
この2人の立場は逆転している。
ーーーー
「本当に、あの時はハラハラしたのよ?」
メアリナは肩をすくめる。
「でも、その後ちゃんと縁談が纏まって安心したわ」
「もしあの時、不敬罪なんて言われて、
私に何かあったら……」
「恐いこと言わないで?」
エルフィナが苦笑する。
メアリナは、にやりと笑った。
「…… その時こそ、
お姉様の魔力が覚醒した時じゃない?」
「あ……」
エルフィナが少し考える。
「確かに……それは……そうかもね?」
〝〝フフフフ……〟〟
「お前達……」
父アーノルドが額を押さえる。
「王子をバカにするのは、
その辺でやめておいてくれ……胃が痛くなる……」
「やだお父様ったら、気の小さい……」
「ちょっと……大変!
聞いていただけのお母様が、
放心状態よ?……
やだ~ハハハハ……」
大物姉妹であった。
ーーその時だった。
「エルフィナお嬢様」
家令長セルジオが部屋に入る。
「王城からお呼び出しでございます」
「お断りして」
エルフィナは即答した。
「昨夜からの事で、もうクタクタなの。
〝エルフィナは体調を崩して寝込んでいる〟って伝えて」
「お……お嬢様……」
セルジオが困った顔をする。
その後ろには――
バツの悪そうな顔をした王家の使い。
「お使いの方?」
エルフィナは微笑む。
「はい、そうです」
少し押しつぶしたような声で答える使い。
「私は今、寝込んでおりますので……
体調が戻り次第……そうね、
明日にでも伺うとお伝え下さい」
そしてセルジオを見る。
「ねえセルジオ。
私達、昨夜から何も食べていないの。
簡単な物でいいから食事をお願いできる?」
「お……お嬢様……」
セルジオはさらに困る。
エルフィナはくすりと笑う。
「ねえ、お使いの方……
先程の様な報告を陛下にしたら、
〝役立たず〟とか何とか言われて、
貴方が叱られるかもしれませんね?」
「い、いえ!」
使いの男は慌てて頭を下げた。
「問題ございません!
エルフィナ様は、
体調を崩しておられると、お伝え致します!
無理にお連れすることは出来ませんので!」
「話が早くて助かります」
エルフィナは優雅に微笑む。
「もし王城で不利益があれば、うちにいらして下さい。
王家より良い待遇で雇いますよ?
……なんてね」
エルフィナは、くすりと笑った。
「ところで、お使いの方?
いつまでそんな顔をしているのかしら?」
男は固まる。
「第2王子のマックス君?
貴方いつ帰国したの?」
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