第8話 初めて認めてくれた人の言葉
オークそっくりと蔑まれていた少女エルフィナ。
その正体は、特別な力を持つ女神の生まれ変わりだった。
神々が道を外れた時――
世界は一人の少女を呼び覚ます。
ーーーー
「エルフィナお姉様……い、今の光は?」
「ひ……光ったわよね?」
メアリーは震えていた。
「目を開けていられないほどに……」
「私にも……何が何やら……」
エルフィナは困ったように笑う。
「まるで分からないわ」
「光ったわよねって、お姉様……」
メアリーはエルフィナを見つめ――
そして固まった。
「え……?
な、何?その顔……」
息を呑む。
そこには神話に出てくる女神のような、
少女が立っていた。
「綺麗……」
そして思わず言った。
「……あなた……誰?」
「誰って……?」
エルフィナは首を傾げる。
「何を言っているの?
今、自分で〝エルフィナお姉様〟
って呼んだじゃない。
それとも私が誰か分からなくなった?」
優しく微笑む。
「よほど怖かったのね、可哀想に……」
そして、いつものように言った。
「この醜いオーク顔、忘れる訳ないでしょ?
落ち着いて、メアリー」
「……醜いオーク顔?」
メアリーは首を振る。
「何で……」
震える声。
「その声……その姿……その服……
確かに……あなたはエルフィナお姉様」
だが――
「その顔……」
混乱する。
「あ……あれ?
その顔は……確かにお姉様……」
そして、呆然と呟いた。
「何故……どうして……こんなに美しい顔を……
今まで……オークに似た、
醜い顔だと思い込んでいたの?」
「美しい顔?」
エルフィナは苦笑する。
「メアリー……
どこか頭をぶつけたんじゃないかしら?」
「違うの!」
メアリーは強く首を振った。
「違うのよ!」
そして言った。
「だったら後で……鏡を見て。
この世界に、お姉様を醜いと思う人なんて……
一人もいないはずだから」
エルフィナは小さく呟いた。
「あっ!いけない!アルガルド先生は!?」
「呼んだかの?エルフィナ」
「せ、先生!?」
エルフィナは慌てて振り返る。
「傷は!? お怪我は大丈夫なのですか!?」
「ふぉっふぉっふぉ……」
アルガルドはゆっくりと立ち上がり、自分の体を見回した。
「それがのう……不思議なことに、どこも何ともないのじゃ」
「え?」
「周りを見てみなさい」
エルフィナとメアリーが周囲を見渡す。
倒れていたはずの教師たち。
血を流していた生徒たち。
警備に当たっていた兵士たち。
――皆、ゆっくりと体を起こし始めていた。
「……あれ?」
「痛く……ない?」
「今まで動けなかったのに……」
「服はボロボロ……血だらけなのに……傷がない……?」
ざわめきが広がる。
アルガルドは静かに言った。
「先ほどまで、ピクリとも動かず、
息もないように見えていた者ばかりじゃった。
それが今は……全員無傷」
そして、エルフィナを見た。
「これは恐らく……エルフィナ……
「お前が放った、あの眩い光の力じゃろう」
「え?私?違うと思いますけど?」」
エルフィナは首を振った。
「あ……でも……」
少し考え込む。
「メアリーが危ない……そう思った瞬間……
私の中で何かが……弾けた気がしたのです」
胸に手を当てる。
「私を覆っていた何かが、砕けたような……」
ゆっくりと呟いた。
「私の中の膨大な魔力……
それが……目覚めたのでしょうか……」
ーー
「……魔族は?」
震えた声で、ひとりの女生徒が呟いた。
「いない……?」
「全部……消えたの?」
「ねえ……」
別の生徒が指差す。
「見て……」
「誰……あの子?」
「ほんのり光ってる……綺麗……」
「まるで……女神様みたい……」
「女神様?神様が助けてくれたの?」
「ち、違う……」
男子生徒が目を細める。
「あの顔……
あれ……エルフィナじゃないか……?」
「え?」
「そんなわけ――」
言葉が止まる。
「え……?」
ーー
「だから言うたじゃろ……エルフィナは、
身も心も、世界一美しい娘なんじゃ……
やはり……わしの目は間違っておらんかった」
アルガルドは、髭を触りながら笑みを浮かべた。
メアリーは、息を呑む。
アルガルドは続けた。
「じゃが……それだけではない」
「その光……」
「その魔力……」
老人の瞳が、わずかに震える。
「まるで……」
言葉を飲み込み――
「……いや」
首を振った。
「今はまだ……」
「先生?」
アルガルドは、エルフィナの頭にそっと手を置いた。
「ほれ、皆んなお前のことを美しいと言うてる……
今までよく耐えたの……辛かったじゃろ?
本当に……よく耐えた」
その言葉を聞いた瞬間――
エルフィナの目から、
ぽろりと涙が落ちた。
誰にも認められなかった少女を、
初めて認めてくれた人の言葉だった。
ただ1人……
本人だけはまだ分かっていない。
ーーーー
屋敷へ戻れたのは、空が白み始めた頃だった。
戻るなり呪いの解けたエルフィナの顔に皆が驚き、
ハチの巣をつついたような騒ぎになっていた。
「エルフィナ?お前が?私の娘?
エルフィナだと!?そんな馬鹿な……まさか?」
信じられないという顔で近づく。
「いや……しかし……その顔は……エルフィナ?……
私はどうかなってしまったのか?
確かにその顔は、私の良く知るエルフィナ……
しかし……何故それ程までに美しい?」
「またそれですか?お父様まで……」
「お姉様……言ったでしょ? 鏡……今すぐ鏡を見て!」
大鏡の前に立ち、右を見て、左を見て、正面も……
じっと自分の顔を観察するエルフィナ。
「う~ん?確かにこの顔は……私ね?
オークそっくりと言われている顔……」
首を傾げる。
「いつもと変わらないじゃない?
この顔が美しいと言うの?」
〝コクコクコク……〟
壊れたおもちゃの様に、小刻みに頷く家族達。
使用人たちも集まり驚きで固まっていた。
(この顔が美しい?……何で?
私にはいつも通りの醜い顔にしか見えない……)
醜いと蔑まれ続け、
その言葉がエルフィナの心を縛り続けていた。
ーーーー
「そしてお前……
いまだかつて、誰も見た事のない様な、
極大魔法を放ったとか……
一体何がどうなっているのだ?
いつから魔法が使える様になった?」
「さあ?私にも分かりません」
エルフィナは首を振る。
「あれは本当に私の魔法だったのかしら?
私には魔法を放ったと言う自覚が無いのだけど……
ただ……メアリーが危ない!そう思っただけです」
無我夢中でした」
「……お姉様」
メアリーが一歩前に出る。
「私……」
拳を握る。
「まだお礼を言っていませんでした。
魔族の魔法から身を挺して守ってくれて……
剣が振り下ろされる瞬間その魔族を消してくれた」
声が震える。
「自分の命よりも……
私を優先してくれた……私は……」
唇を噛む。
「私は……」
深く頭を下げた。
「今まで申し訳ありませんでした。
そして昨夜のこと……
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