第7話 魂に絡みつく呪い
オークそっくりと蔑まれていた少女エルフィナ。
その正体は、特別な力を持つ女神の生まれ変わりだった。
神々が道を外れた時――
世界は一人の少女を呼び覚ます。
「これを見てください」
透明な魂に、
薄紫の糸のようなものが絡みついていた。
「何か……気味の悪い糸のようなものが……」
創造神の表情が変わる。
「……何じゃこれは」
「薄紫の半透明……」
「汚れを感じるが……」
創造神の眉が深く寄る。
「あの子の魂が汚れているわけがない……」
アルティーネは震える声で言った。
「私……見たのですが……
第12宇宙の一神が、
攻撃の最中ずっと何か呪文を唱えていました。
ザルサール様に耳打ちしていた神です」
「何じゃと……」
創造神の目が鋭くなる。
「私……気味が悪くて……」
「そやつが……まさか呪いを」
「身振りを見る限り……
一つや二つではないと思います。
いくつもの呪いの重ね掛けかも……
早く解呪してあげてください」
創造神は、ゆっくり首を振った。
「いや……これは……」
魂に絡みつく呪いを見つめる。
「何と複雑に絡み合っておるのじゃ……
下手に触れば、魂を傷つけかねん」
アルティーネが不安そうに言う。
「では……どうしたら……」
創造神は静かに答えた。
「エルフローラの魂が、
そう簡単に呪いに負けるはずがない。
何年かかるか分からんが……
自助能力に任せるほかないじゃろう」
アルティーネが目を閉じる。
「確かに……
もう戦い始めているかも……
あの子の魔力を感じます」
「しかし……これはまずいの……
このまま魔力が膨れ上がれば、奴らに勘づかれる」
そして言った。
「仕方あるまい。
この魂を、魔力が漏れぬよう結界で包む」
アルティーネが驚く。
「でも……それでは、
この子は魔力が使えなくなるのでは?」
創造神は静かに言った。
「致し方あるまい。しばらくの辛抱じゃ。
では……早速エルフローラを再生……」
そこでーー創造神の手が止まった。
「いや……」
その目が細くなる。
「何か引っ掛かる……しばし待つのじゃ……」
創造神は目を細め、静かに言った。
「確か……あの攻撃の最中、
少し離れた場所で何かが反応しておったのだ」
記憶を辿るように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「そう言えば……
エルフローラが溜めておった魔力……。
あれは、ジュリアナに頼まれたと、
言っておらなんだか?」
「第七世界に頼まれたのでは?
私はそのように聞いておりましたが……」
「いや……ジュリアナを通して……。
確か、そのようなことを言っておった……」
創造神は周囲を見回した。
「ジュリアナはどこじゃ」
「……そう言えば、昨夜から姿を見ておりません」
その言葉に、創造神の表情がわずかに曇る。
「……エルフローラを再生するのは、ちとまずいの」
「そんな……!」
「エルフローラの魂を保護したことは、しばらく……。
お前だけの胸に留めておいてくれんか」
「それは構いませんが……」
「疑いたくはないが……
どこから漏れるか分からんでな」
静かな声だったが、その言葉には重みがあった。
「そうじゃな……」
創造神は、手の中の透明な魂を見つめる。
淡く輝く、小さな光。
「……あの娘は、人が好きじゃった」
ふっと、優しく微笑む。
「この魂を人に転生させ……静かに暮らさせようかの」
「転生……ですか」
「人の魂と同じじゃ。
地上に放てば、生まれる前の赤子に宿る」
そして静かに言った。
「人は……そうやって親を選び、生まれてくる」
ーーーーーーーー
ーースタンリー公爵家ーー
「奥様、おめでとうございます」
産婆が、安堵した表情で赤子を抱き上げた。
「女の子です。五体満足、元気なお子様ですよ」
だが、次の瞬間。
「お顔も……えっ……」
「顔がどうかしたの?」
ベッドの上で微笑むメリーヌ。
「ふふ……生まれたばかりの赤ちゃんは、
みんなシワシワなんでしょ?
見せてちょうだい」
「あ……はい……」
おそるおそる差し出される赤子。
メリーヌはその顔を見て――
「これが……私の娘?」
言葉を失った。
「……うそ……そんな……」
次の瞬間、彼女はそのまま気を失った。
⸻
その夜。
父――アーノルドが帰宅した。
「メリーヌ、どうしたんだ?
生まれた子に乳も与えていないとは」
「だって……」
震える声。
「なんだか……気持ち悪くて……」
「……?」
「……あの子の顔を見てください」
アーノルドはゆっくりと赤子を覗き込む。
「こ……これは……」
その顔を見た瞬間。
彼の表情も凍りついた。
ーーーー
「創造神様……あの人たちは何を言っているのです?」
「分からん……あれ程美しい赤子を……」
首を傾げる創造神。
「あの者たちの目を通して見てみるか」
創造神の視界が切り替わる。
「……これは……歪んで見える……」
創造神の表情が変わった。
「もしかして……あの時の呪い」
「いくつもの呪いをかけているとは思いましたが……
なぜこんな呪いを……」
「そうではあるまい……エルフローラが消滅せず、
人間として生まれ変わることなど、
奴らにとっては想定外……
魔法の効きにくいエルフローラに、
防御力を落とすとか、視力を落とすとか……
呪いで状態異常魔法の代わりを、
試しておったんじゃないだろうか?
……じゃが……」
創造神は低く呟く。
「魂が呪いに抗った」
「抗った……?」
「その結果、呪いの形が歪み……崩れた」
「だから……あのようなことに?」
「そういうことじゃろう」
アルティーネは悲しそうに言った。
「実の親にまで疎まれて……
あの子に、どんな人生を送れと……」
創造神は静かに答えた。
「醜いエルフローラ……
人として生きていくには大変な重しではあろう……
しかしこの娘は、
そんな事に負ける娘ではない」
その声は強かった。
「あの神聖魔力は、
そのうち、あの呪いも、全て打ち破る。
(しかし……)
創造神はわずかに眉をひそめた。
(妙じゃな……
……一部、呪いが反射したような……まさか……)
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