第36話 貴方の名前は、ドラ坊
オークそっくりと蔑まれていた少女エルフィナ。
その正体は、特別な力を持つ女神の生まれ変わりだった。
神々が道を外れた時――
世界は一人の少女を呼び覚ます。
「これ綺麗ね。なかなか素敵な剣」
「ダメだな」
即座にドラゴンが否定する。
「装飾は綺麗だが、大した剣じゃない。
すんごい剣が欲しいのだろ?」
「じゃあこれ」
「青く発光していて見栄えはいいが、丈夫ではないぞ?
お前が振れば、一撃で折れる」
「あれは?」
「あれはレイピアと呼ばれる物だな。
細くて軽いから、
女のお前には扱いやすいだろう」
「おい、お前達。俺様を素通りか?」
「「剣が喋った!」」
「ふふふ……驚くが良い!」
黒い剣が、妖しく光る。
「我こそは、遥か古代より聖剣と呼ばれ……」
「あ、そこの黒い剣は?」
完全に無視。
「あれ持ってたら、なんか強そうに見えない?」
「うん、あれも悪くないぞ。だが女には少し重い」
「私、身体強化魔法かなんかで、力強いわよ?」
「しかしあのごつい剣は、お前に似合わんぞ」
「ちょっ……待てよ!俺を無視か?喋る剣だぞ?
普通、凄そうだって思うだろう?
欲しくなるだろうが?」
黒剣、必死。
「いらない」
即答する。
「喋る剣なんて……キモいし、うるさそう……」
「ぐはぁっ!?」
精神ダメージ大。
「あ、あの……」
黒剣、必死に食い下がる。
「私、結構凄い剣ですよ?旦那……
自分で言うのもなんですが、
ここにある剣の中でも……」
「やっぱ、あのレイピアにしようかな?」
「ママ……」
エレーナがぽつり。
「……あれがいいと思う」
「あら、起きたの?」
「な、何だその小さいのは?」
「精霊のエレーナちゃんよ」
「お前、精霊を使役しているのか?」
「違うわよ、ただ懐かれているだけよ」
「違うと思うぞ……」
「それよりやっぱあのレイピアにするわ」
「それが良いであろう」
ドラゴンが頷く。
「実はあれはオリハルコンで出来ており……」
「待て待て待て待てぇぇ!!」
黒剣、全力で割り込む。
「話を最後まで聞けぇ!!」
「…………」
「コホン……お願いです。私を選んで下さい。
なまじ自我がある為、もう退屈で退屈で……」
「だから……」
エルフィナが淡々と返す。
「自我があって喋る剣なんて、
持ち歩くの嫌に決まってるじゃない?」
「そ、そんな殺生な……」
「じゃあ、レイピアで貴方を切ってみて、
砕けなかった方を、頂いていくって事でどうかしら?」
「いや~こいつ真っ二つになるな……
やるまでもないがどうする?喋る剣?」
「無理ですよ?私、丈夫さや切れ味には、
全く自信がありません」
「貴方、剣の矜持とかない訳?
さっき聖剣とか何とか言ってなかったっけ?」
「選んで欲しくてつい……でもでも私、
膨大な知識を持っておりまして……
どんな事にもお答えできますよ?有用でしょ?」
「だったら早速質問よ?
喋る剣と、オリハルコンのレイピア。
どちらが、良い剣でしょう?
間違ったらそれで終わりね」
「……………………」
「ブッブ~時間切れです。バイバイ」
「私ですって言ったら間違いだと言われ、
レイピアの剣だと言ったらそっちを持ち帰るのでしょ?」
「ちょっと可哀想じゃないか?」
「ドラゴン殿~」
黒剣、泣きつく。
「そうだ、お嬢さん、
私、小さくなれます。
ペーパーナイフにも変身できて、
決して邪魔になりません……
ですから、ですから……」
「う〜ん……静かにしてくれるならまだしも……」
「で、出来ます!!
必要な時以外、絶対喋りません!!
ですから、どうかどうか……」
「困ったわね……私、〝すんごい剣〟が欲しいのだけど……」
「私だって〝すんごい剣〟だと、よく言われますよ……」
なぜか小声だ。
エレーナが、黒剣をじっと見つめる。
「………………あれが……剣?」
首を傾げる。
「どうしたの?エレーナ」
「ううん……なんでもない……」
「なあ、両方やるから連れてってやれよ?
なんかそいつの気持ちわかるんだよな」
「貴方もここで長年ひとりぼっちだったから?」
「まあな……」
小さく笑う。
「俺は、ここから出る事は出来ないからな……」
「あら?出たいの?出れるかもよ?」
「かもよ?どうやって?」
「さあ?良くわかんないけど……
出来るかもわからないから……
〝かもよ?〟……なんだけど」
「なんだ、一瞬期待しちまったじゃないか」
苦笑する。
「でもなんか出来る気がする。……私の魔法は特殊で、
どうやってって言われると説明できないの……
ただこうしたいと心から思えば、
それが実現する感じなのよ……
出来ない事の方が多いいんだけどね……
瞬間移動するのは経験済みで、
迷宮とは言え出来るはずだし、
私と一緒に、
他の人を連れて行くことも出来るから……ね?」
「まさか……」
「一緒に出ましょ?」
「ちょっ、待って、
忘れないでください!私も私も……」
「はいはい、じゃ、自称すんごい剣と、
オリハルコンのレイピアも貰ってこっと」
こうやって、実はとてつもなく優秀な知識の泉と、
一つの国を滅ぼす程の力を持った弟……
ドラゴンを手に入れたエルフィナだった。
そして――
〝フッ〟
何事もなかったかのように、迷宮の外へ。
「……出れた」
ドラゴン、呆然。
「本当に……出れたぞ……」
「言ったでしょ?」
そのままドラゴン達を連れ屋敷へ帰還した。
「エスティアには、
あそこ以外、未到の迷宮はないんでしょ?
次はどこに行ったら良いかしら?
どう思う?自称凄い剣さん?」
「あの~自称とか……地味に傷つくんですけど……」
「名前付けてやれよ?」
ドラゴンが口を挟む。
「そうすればお前との絆が深まり、
驚くほど能力も上がるはずだぞ」
「自称さんの能力って、なんかあったっけ?
小さくなれる事?」
「知識ですって!知識!ぼ・う・だ・い・な!」
「じゃ、次はどこが良いか教えて?」
「名前ぇぇぇ!!」
「そう言えば」
エルフィナがドラゴンを見る。
「ドラ坊は、なんていう名前なの?」
一瞬光る少年姿のドラゴン。
「――待て」
ピシッと固まる。
「今……なんて言った?」
「ドラ坊」
「やめろぉぉぉ!!
その名前はやめろぉぉぉ!!」
「あれ?名付けしちゃった?
貴方、今まで名無しだったの?」
「ドラ坊はないだろドラ坊は!!」
「……分かったわよ?ちゃんと付け直すから……
でも、名前って上書き出来るの?」
「知らん……直せなかったら一生恨んでやる……」
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