第19話 モフモフ聖獣
オークそっくりと蔑まれていた少女エルフィナ。
その正体は、特別な力を持つ女神の生まれ変わりだった。
神々が道を外れた時――
世界は一人の少女を呼び覚ます。
「あ…あの……申し訳ございませんでした」
控えめな声が背後から聞こえた。
「……どなた?」
振り返るエルフィナ。
「帝国の第3王子アンカーです。
末席で先ほどの一件を、
すべて拝見しておりました……」
アンカーは少し頭を下げる。
「私の家族が、大変失礼な振る舞いを……
本当にお恥ずかしい。
一言お詫びを申し上げたく、参りました」
少し困ったように笑う。
「それだけですので……それでは、私はこれで――」
「あ……あの?それだけで?」
エルフィナが思わず聞き返す。
「こう言っては失礼だと思いますが、
まともな方もおられるのですね?」
アンカーは少し驚いた顔をした。
「貴方おいくつですか?」
「メアリーと、同じだよな?アンカー」
横からマックスが口を挟む。
「あれ?知ってるのマックス?」
「ああ、学園でな?」
「メアリナ様は、私と同い年なのですか?」
「そうだよ。お前達2人は、俺達の一つ下な」
マックスは腕を組んだ。
「なあ、アンカー。どこかいい宿知らないか?
用意された部屋には、さすがにな……
俺、学園の外は、あんまり出歩かなかったろ?
詳しくなくてさ。
かと言って、せっかく来たんだから、
とんぼ返りもなんだろ?」
アンカーは少し考える。
「景色が良かったり、
食事が美味しい宿は、有るのですが、
どこも安全だとは言いきれませんよ?
まあ、神の御加護の有る皆さんには、
問題無いのかもしれませんが……」
そして少し遠慮がちに言った。
「よろしければ、私の所にいらっしゃいませんか?」
「いや、王城は……」
マックスが眉をひそめる。
「私の所は、離宮ですから。
城壁の中ではありますが……
あの人達と顔を合わせる事は無いと思いますよ」
アンカーは苦笑した。
「どうする?」
マックスが二人を見る。
「突然お伺いしても宜しいのですか?」
エルフィナが聞く。
「ええ。大したおもてなしは出来ませんけど」
「そんじゃ頼むよ、アンカー」
ーーーー
「へ~」
マックスが辺りを見回す。
「アンカーの離宮って、建物も可愛くて、
花が満開の広い花壇に囲まれて、
めちゃくちゃ綺麗だな」
エルフィナが頷く。
だけど、何でアンカーだけ離宮で暮らしてるんだ?」
「はい……」
アンカーは少し視線を落とした。
「私だけ、二人の兄とは母親が違いまして……」
「それは知ってるけどさ。
王家じゃよくある話だろ?
お前の母上、確か……
お前が小さい頃亡くなったんだよな?」
「ええ、母の出身は、
子爵家で……貴族としては身分が低く、
王宮で働きながら勉強もしていたそうです。
そして父にみそめられ……そして私が産まれ……
ただ皇妃とは……その……色々……」
少し言葉を濁す。
「ふ~ん。それで離宮に?
母上が、亡くなられた後もアンカー1人で?」
「はい……お分かりかもしれませんが……
家族とは、考え方が違い、
余りソリが合わなくて……
ここで一人で居る方が落ち着くのです」
アンカーは少し寂しげに微笑む。
「それに、この離宮は母が作ったものです。
花に囲まれたこの場所が、
私はとても好きなのです」
そう言って花壇を見渡した。
「アンカー皇子。貴方のお母様は、
素晴らしい方だった様ですね?」
「えっ?エルフィナ様?母をご存知なのですか?」
「いいえ。でも貴方を見れば分かりますよ。
貴方のお母様が、どんな方だったか」
「そうよね」
メアリナも頷く。
「私にも分かるわ。
アンカー皇子は、とても良い人そうだもの。
この子もそう言ってる」
エルフィナの頭の上を見る。
「ありがとうございます。
そう言って頂けて、とても嬉しいです。
ところで、先ほどから気になっていたのですが、
その、可愛らしい物体は精霊ですか?
「あら、貴方にもこの子が見えるのですか?」
エルフィナが目を丸くする。
「輝く羽が生えていて、
小指ほどの大きさ……可愛いですね。
精霊樹が消えて、精霊もいなくなったのに、
この子だけ残ったのですね」
「あら、情報早いですね?」
「いえ、実は皆様と入れ替えで訓練所に行ったんですよ。
そこで、アイラス先輩から聞きました」
ーーーー
〝キャウンキャウン……キュウンキュウン……〟
少し歩くと、何かの鳴き声が聞こえてきた。
「ちょっとあれ見てエル姉!超可愛い!」
「何?なんなのこの2匹の可愛いモフモフは?」
「メアリー、動物の赤ちゃん大好きよね?
てか、嫌いな人はいないか……
ワンチャンかしら?ん?もしかして魔獣?
いや違うわね……聖獣?」
ちょっとアンカー皇子?
この子達どうしたの?分かってます?
この子達、神の使いなんじゃない?」
アンカーが驚く。
「え!?聖獣?そうなのですか?
昨日離宮に迷い込んできて、
どこにも親犬……じゃない……その……
親聖獣?いないのですよ」
「あれ?ちょっと貴方!あれれっ?」
突然アンカーの両肩を掴み、
じっと目を見つめるエルフィナ。
「〝あれれっ?〟?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと、
貴方の未来が見えた気がして……
私ね、前から悪い事の起こる予感を、
感じる事が出来たのだけど、
最近は、悪い事とか関係なく、
突然未来が見えたりするのよ。
それに……ねえ?
もう一度、目を見せてくれる。
うん、やっぱり……
貴方、神の加護があるんじゃないかしら?
そう言うのも感じる様になったの」
「え……そ、そうなんですか?」
「ええ、聖獣使いの加護かな?」
「どう言う加護なのでしょう?」
「動物や魔獣……聖獣まで使役できる力……
普通、聖獣は人に懐かないのよ。
こうして懐いているのが証拠」
「そうなんですか……」
「あら?あんまり嬉しそうじゃないわね?」
エルフィナが首を傾げる。
「要はビーストテイマーの、
上位種みたいなものですよね?
割と有りがちなんではありませんか?」
「聖獣まで従える事の出来る人は、
歴史上でも、
これ迄に数える程しか居なかったはずよ?
聖獣が力を貸してくれるのだから、
帝国最強にさえなり得る加護だと思うわよ」
「そんなに凄いのですか?
あ、でも、メアリナ様の顔を、
ペロペロ舐めて懐いていますけど……」
アンカーが苦笑する。
「こっちの子は、エルフィナ様に抱かれて、
すごく嬉しそう……
めちゃ尻尾を振ってますけど……」
「あれれ?何で?」
「ああそうでした。神の愛子の、
エルフィナ様と、その妹様ですものね。
神の使いの聖獣が、懐いて当然ですね」
アンカーが、勝手に納得する。
(〝神の愛子〟って、私が声の聞こえ方を変えて、
適当に言っただけなんだけど……)
〝チョイチョイ〟
「何?メアリー。袖を引っ張って?」
(この子達可愛すぎ……欲しい……)
「ダメよ。聖獣なのよ?そんな貴重な……」
「構いませんよ?こんなに懐いていますし」
アンカーが言う。
「えっ!宜しいのですか?アンカー王子」
「ダメよ。アンカー王子の加護の元に、
やってきた聖獣なんだから」
「いえ、さっきまで、普通の子犬だと思ってましたし……
それでは、私とメアリナ様とで1匹ずつ育てませんか?」
アンカーは笑った。
「本当にそれで宜しいの?……
でもこの子達を引き離すのは、少し可哀想な気が……
まあ、近い将来また2匹一緒になるとは思いますけど……」
「「???」」
ーーーー
(ねえ、エル姉。さっきの何?
近い将来とか、どんな未来が見えたの?)
(フフ、ナイショ)
(教えて!もしかして、
私と彼が一緒になるとか?……)
(うわ!なんで分かった?
メアリーにも予知能力が……な訳ないか?)
(ほ、ほんと?)
(良かったじゃない?
彼、超美形だし、優しくて良い人そうだし)
見る見る顔が赤く染まるメアリナ。
「顔が赤いですよ?どうかされましたか?」
「「ナイショ!」」
ーーーー
「今日はもう余り時間がありませんから、
城下の案内は明日でも宜しいですか?」
「そうよね……早く見てみたいけど、
この時間じゃ、ゆっくり出来ないものね」
「でしたら、湯に浸かってお休み下さい。
ここの風呂は自慢なんです。よく褒められますよ。
まずは、ゆっくり体を休めて下さい。
夕食の準備が出来ましたらお呼びします」
数ある作品の中から見つけ出し、お読みいただき、ありがとうございます。




