第10話 ちゃんと女の子に見えて
オークそっくりと蔑まれていた少女エルフィナ。
その正体は、特別な力を持つ女神の生まれ変わりだった。
神々が道を外れた時――
世界は一人の少女を呼び覚ます。
エスティア王国第二王子。
白銀の髪に、碧く透き通る瞳。
鍛えられた長身の体躯に、
人懐っこい笑顔の超美形。
王太子が国王に似ているのに対し、
彼はどちらかと言えば王妃似だった。
瞳の色だけが王家の証のように父と同じ。
本来ならば今頃、
サンブルズ帝国の学校へ、
一年間の留学中のはずだった。
「チェッ……バレバレか?」
男は帽子を脱ぎ、黒髪のカツラを外す。
「完璧な変装だと思ったんだがな……」
クスッと笑う。
「だから……いつ帰ってきたの?」
「俺か?俺は留学を早めに切り上げて、
昨日帰ってきてたんだよ」
帽子と黒髪のカツラを外しそう言った。
「貴方だってことは……すぐに分かったわよ……
だって貴方だけだもの……年が近い子供の中で、
小さい頃から、私と普通に接してくれたのは……
唯一の幼馴染の顔くらい、すぐ分かるわ。
なんでまた変装なんてして来たの?」
「エルフィー……だってさ……」
マックスは肩をすくめた。
「帰国するなり、城中が魔族襲撃と、
お前の話題で大騒ぎなんだぞ?
無事だとは聞いてたけどさ。
やっぱり顔見ないと落ち着かないだろ?」
マックスの目は優しかった。
「王城抜ける許可を父上達に伺ってたら、
ごちゃごちゃ言われて面倒くさそうだろ?
変装して抜け出した方が早いと思ってさ」
「王城抜ける為だけなら、
うちに着いたら、
直ぐに王子だって言えば良いのに……」
エルフィナは呆れたように言う。
「1年経っても何も変わらないわね?
相変わらずいたずらっ子なんだから」
「ハハハ」
マックスは笑う。
「だってさ、城では“エルフィナをすぐ登城させろ”、
って騒いでるんだぜ?
馬鹿だろうちの親父?
疲れているだろうとか思わないのかな?」
そしてエルフィナをじっと見た。
「でもエルフィー……
お前随分変わったって聞いてたけど……
別に変わってないじゃないか。
呪いだっけ?
他の奴らは俺とは違う姿に見えてたって事か?」
「そうみたい」
エルフィナは頷く。
「そうみたいよ?
掛けられていた呪いが解けたのかもって、
アルガルド先生が仰っていたわ」
「ふーん……」
マックスは腕を組む。
「じゃあ俺には最初から呪いが効いてなかったって事か?」
お前の家族でさえ掛かってたのに何でだろな?」
そしてふっと笑った。
「それはそうと……エルフィー、頼みが有る」
「なあに?」
エルフィナはにやりと笑う。
「結婚の申し込みならお断りよ?」
「オイッ!ひどいな……
あのさ、帰るなりあの事件だろ?
俺も昨夜から何も食ってないの!
俺にもなんか食わしてくれ」
「ああ、そういうこと」
エルフィナは笑った。
「城も大騒ぎで大変だったのね。
もちろんいいわよ。セルジオ、三人分で」
そして思い出したように言う。
「……あ、でも料理長の料理は、
当分いらないって伝えておいてくれる?」
「お嬢様……」
セルジオが苦笑する。
「そう仰ると思っておりました」
「フフフッ。少し苛めてあげないとね」
「そうよね?うちの使用人の中で、
〝居ない者扱いランキングNo1〟だったもの……
あ、それにお弁当の恨みもあるし……
お陰で私はお姉様の美味しいお弁当頂けた……」
そこでふと止まる。
「あれ?って事は、お姉様、
昨日のお昼も食べてないじゃない?
そりゃお腹空くわよ」
「すっかり忘れてた……
思い出したら余計お腹すいてきた……
セルジオ、6人分にして」
ーーーー
「うまっ!」
マックスが叫ぶ。
「このパスタ最高じゃん?」
「でしょでしょ?」
エルフィナは得意げだ。
「うちのカルボナーラ、
濃厚で凄く美味しいでしょ?
パスタ係のお兄さん凄く優秀なのよ。
意地悪な人に代えて、
料理長に任命しちゃおうかしら?」
〝パクパク〟とパスタを頬張りながら、
そう言うエルフィナ。
「お前……」
マックスが呆れる。
「疲れて眠いって割には、すごい食べっぷりだな」
「今は、疲れの眠気より。食い気が勝ってるのよ?
ほんとよ?ね、メアリー?」
「冗談だよ」
マックスは笑う。
「災難だったものな」
「貴方だけよ?
王家や親族の、再従兄弟の中で、
幼い頃から私とこんな風に、
普通に話してくれていたのは。
だから私、嬉しくて……昔から貴方と話す時は、
いつもこんな話し方になっちゃうのよね。
オーク顔の私だったのに、
何故こんな風に接してくれてたの?」
「だからさっき言ったろ?」
マックスは肩をすくめる。
「オーク顔なんて思ったことない。
それに、そもそもお前を女の子とは、
思ってなかったからな?」
「ほ~?」
エルフィナが目を細める。
「そういう事言うんだ……
貴方そろそろ帰った方が宜しくってよ?」
「いや違う違う!」
慌てるマックス。
「お前を男だって思ってたわけじゃないぞ?
男とか女とか気にしてなかったって言うか……
だから……悪い意味でじゃなくてさ。
同性の友達作るのに、
顔がどうかなんて気にしないだろ?」
ふと気づいたように言う。
「あっ、だからか?俺に呪いの効果が無かったのは?
そもそも、俺も母上も、
お前を、醜いとか思ったことないしな……
皆んなが、何故そんなに、
醜いって言うのか不思議だったよ。
それ聞くたびに、気分悪かったんだよ。
母上なんて、最初から、お前の事、
綺麗な娘だってずっと言ってたもんな?」
言い訳してるのかと思うくらい早口だ。
「冗談よ。で、今はどうなのよ?
ちゃんと女の子に見えて?」
「まだ言うか?」
マックスは苦笑した。
「凄く綺麗だよ……照れくさいこと言わすなよ?」
そして笑う。
「そうだ……いっその事、俺の嫁になるか?」
「いやよ」
即答だった。
「さっきも言ったでしょ?
あんな第一王子のそばで、
暮らすなんてお断りよ」
「あはは!」
マックスが笑う。
「あのバカ兄貴のせいで、
俺まで振られたじゃないか」
「そうだ……だったら貴方、
うちに婿入りしない?
それだったら考えても良いわよ?」
「お、それ良いね!」
マックスが即座に乗る。
「てか、それも良いけど、
なんなら王家乗っ取っちまうか?
バカ兄貴に任すより、ずっと良い国になるぜ?」
「なあ、お前達……」
父アーノルドが頭を抱えた。
「その辺でやめておいてくれ……更に胃が痛くなる…」
「冗談よ?お父様、気、小っさ!」
数ある作品の中から見つけ出し、お読みいただき、ありがとうございます。




