第8話 恥ぢらふ顔の隠れなきかな
あれから数分後、自分の部屋に敷かれた布団に頭をうずめて悶えている俺の姿があった。
「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
まるでクロールをしているかのように、足をバタバタさせてみるものの、頭や身体から熱が抜けていくことはなさそうだった。
だって、風呂に入っていたら、中身は神の美少女も入ってきて、その美少女に背中を流してもらったのだ。
これを経験した上で、冷静のままでいられる人はいないと思う――。
「優希、入るぞー」
そして、またしても俺の同意が得られる前に、こじ開けられる部屋の扉。
今日だけでもう三回目な気がする。
それはさておき……。
「ん? なんだ、私のことを見つめて」
アステリアの声で我に返った俺は、すぐに目を彼女から逃がす。
くたびれた灰色のスウェット短パンから伸びる、白く健康的な生足。
上はサイズが合っていないのか、あるいはそういうデザインなのか。
動くたびに小さめのTシャツの裾が揺れ動き、湯上りで上気した白いお腹と、無防備なへそがチラチラとこちらを挑発してきている。
さらに、まだ湿り気が残っている髪の毛をポニーテールにまとめているその姿は、神というよりかは、「風呂上がりのだらしない美人大学生」だった。
「……ははーん」
何やら怪しげな声が聞こえ、俺は急いで布団の中へと潜り込む。
掛け布団で顔まで隠し、完全な籠城態勢を取ることにしたのだ。
こうでもしなければ、アステリアに何をされるか分かったもんじゃない。
「おいおい優希。なぜ逃げるんだ? 私は安全だよ?」
「安全じゃないから逃げてるんだろ!」
「具体的には何が危険かな?」
「お、俺の……」
「俺のー?」
「俺の貞操だよっ!」
風呂場の中でも、いやらしい触り方をしてきやがって!
あれで俺の心臓が止まっていたら、どう責任を取るつもりだったんだろうか。
「ぶふっ」
掛け布団越しに、堪えきれなかったというような、吹き出すような笑い声が聞こえてきた。
全然笑い事ではないのだが。
「ふははははっ! 貞操? 貞操! 貞操かー! 君の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかったよ。大丈夫、私は無理強いはしない主義だからな!」
「嘘つけ! 俺をここに連れてくるときも、風呂場で背中を流してきたときも、無理やりだったじゃねぇか!」
「あれは『保護』と『配慮』だよ。……ま、それはさておき」
ズシリと、布団の上に重みが加わる。
しかも、物が落ちてきたような粗雑な感じではなく、ゆっくりとプレスされたかのような丁寧さが、そこにはあった。
「ちょ、な、何⁉」
「さぁ、顔を見せてもらえるかな?」
「やめっ! やめろーっ!」
が、必死の抵抗虚しく、顔まで覆っていた布団を捲られてしまう。
抵抗が失敗するのも、今日で三回目な気がする。
違う。
今大事なのは、そんなことではなくて――。
「そういうことか、優希…………もう真っ赤っかじゃあないか」
「くっ! 殺せぇっ!」
だいたい、誰のせいでこんなことになっていると思ってるんだ。
そう、全てはこのふしだらな神様のせいだ。
「こっちを見ろ、見てくれ優希」
「断る」
「ならば、見てくれるまでどんどんと近づいていくぞ? あーこのままでは四方八方を私に囲まれてしまうぞー。それに耐える自信があるのなら――」
「だぁぁぁぁぁぁぁ! わかった! わかったよ! 見りゃいいんだろ!」
落ち着け、神木 優希。
相手は人間ではない。
人間の形をした別の何かだ。
だから、ここは何事もないかのように、逆に見つめ返してやろう。
「やっとでこちらを見てくれたな」
俺の頭の両横に手を突き、こちらを見下ろしているアステリアと目が合う。
くっそ、なんでこんなに美人なんだよ。
風呂上がりだからか、アステリアの頬も妙に赤くなっていた。
「それで、優希的にはどこが良かったんだ?」
「どこが良かった、って何の話をしてんの?」
「私の身体に決まってるだろう。どこだ? どこにドキドキしたんだ?」
この神、わざわざそんなしょうもないことを問うために、俺の顔を布団から出したのかよ!
すでに調子に乗ってしまっているアステリアは、「ここか?」といい、自身のへそを指さした。
「そこだよ!」
…………なんて、俺が言えるわけもなく、口を真一文字に結んだまま耐える。
それでもニチャニチャ笑いをやめない彼女は、次はシャツの襟を指で引っかけて、中身をチラ見せしてきた。
「そこもだよ! てか、そんなことしなくても、元から谷間は見えてんだよ!」
…………このツッコミも心の中で反響するだけして、消えていく。
「なーんにも言ってくれないじゃん。これを教えてくれないと、これからの戦略に関わるんだよねぇ」
「戦略……?」
「そそ、優希を私の虜にするための戦略さ」
「外堀を埋めるとかもせずに、本丸を直接攻撃してきてるような奴がよく言うよ……」
「君、あんまり遠慮がなくなってきたな」
相手が遠慮のえの字を知らないような神様だからな、とは言わなかった。
「アステリア、俺もう疲れたから寝てもいい?」
「いいよ。じゃあ、電気を消すね」
アステリアが天井からぶら下がっている糸を引っ張ると、部屋は暗闇に包まれた。
そして、のしかかっていた重みが薄れていくのと同時に、睡魔が意識を刈り取っていく。
「おやすみなさい、優希」
あまりにも柔らかすぎるこの声を最後に、俺は夢の世界へと旅立った。
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