第7話 はしたなきは密やかなる夜
「優希ー、優希ー?」
「んぅぅ……? ぬぁぁぁ」
だから、デカイ唐揚げは「デ唐揚げ」って呼べと……。
目が覚めたとき、俺は知ってるような知らないような部屋の中にいた。
未だカーテンを閉じていない窓の外は、すっかり暗くなっており、夜の到来を知らせてくれている。
そして、「入るぞー」という侵入宣言と共に、アステリアが部屋の中へと侵入してきた。
「アステリア……」
「相当疲れていたのだな。だが、布団もかけずに寝ると風邪を引いてしまうぞ?」
「うん、それもそうだね」
「早く風呂へ入ってくるがいい。早急に身体を温めるべきだ」
アステリアの言う通り。
俺の身体は温かさを求めている。
それに、お湯に浸かったら、寝ぼけたこの頭も醒めることだろう。
「じゃあ、お風呂に行ってくるね」
「…………ああ、行ってらっしゃい」
シャワーから出てくる適温のお湯を頭から浴びると、急速に意識がはっきりとしてくる。
そうだった、俺は神社の本殿に住むことになったんだった。
……本殿の中にお風呂があるのかよ。
しかも、ただの風呂じゃない。
隅から隅まで新品同様に光り輝いている檜風呂だ。
檜風呂は、水分ケアや換気など、メンテナンスが大変だと名高い。
一体誰がこんな手入れを――。
「優希ー生きているかー? ……って、まだ湯船に浸かってすらいないのか」
「ちょっとこのお風呂に感動し、て……て? アステリア!? なななっ、なんで風呂に入ってきてんだよ!?」
引き戸を開けて堂々入場してきたのは、この本殿の主・アステリア。
いやいやいや、意味わからんが?
タオルを身体の前で巻いているとはいえ、なぜ裸の男女が同時入浴しているのか。
なんなら、こんな事態になることを予測していなかった俺は、防具ひとつないスッポンポン。
「はははっ、優希の反応は面白いな! その調子だと土左衛門にはならなさそうだな?」
「逆にのぼせて溺れるわ!」
「まぁまぁまぁ。そう叫ばなくても良いでは無いか。どれ? 私が背中でも流してあげよう」
すぐさま俺は木製のバスチェアから立ち上がろうとする。
だが、それよりも早く、アステリアの白く細い指が、俺の両肩に深く食い込んだ。
「こら、動くな。洗いにくいじゃないか」
「い、いやっ、お、俺もう出るから!」
「身体も洗わずに風呂から出るなど、私が許さないよ」
なおも必死に抗おうとする俺の肩に、彼女は自身の体重を預けるようにして押しとどめる。
そうすると、濡れた風呂場の湿気でしっとりとしているアステリアの肌が、俺の肩付近にピタリと吸い付く。
嫌でもダイレクトに伝わってくるアステリアの体温。
そして、バスタオル越しとはいえ、背中に押し当てられた、抗いようのないほどに柔らかい弾力。
「……っ⁉」
心臓が肋骨を突き破る勢いで、高く強く跳ねている。
この動揺をアステリアにはできるだけ悟られたくはない。
なのに、神パワーとでもいうべきなのか、それとも要因は他にあるのか。
足先から手先まで全く力が入らず、微動だにしてくれない。
「やっとで大人しくなってくれたね」
これも湿気のせいだろうか。
水分を含んだかのように艶めかしくて、少し重めの囁き声が耳奥をくすぐった。
そして、アステリアはこれ見よがしに、俺の身体の前でボディタオルを泡立て始める。
次の瞬間には、俺の背中に広がる滑らかな泡の感触。
彼女の指が俺の背中を好き勝手に駆け回り、段々と下の方へと降りてくる。
広背筋から、背骨のくぼみを通り腰の辺りまで侵食され、「それ以上は」と言おうとしたまさにその時――。
「……あっ……」
不意に喉の奥から情けない声が漏れて、慌てて手で口元を抑える。
というのも、腰付近を徘徊していたはずのアステリアの手が、俺の脇の下へともぐりこんできていたから。
想定外の大返し。
本能寺の変を起こした後の明智光秀もこんな感覚だったんだろうか。
「…………へぇ?」
「いや! これは違くてっ……!」
急速に顔まで血が上ってくるのが分かった。
このままでは、お風呂から出るまでに心も身体もおかしくなる!
そう感じた俺は、シャワーの蛇口を捻り、流れるように泡を落とす。
そして、お風呂の外へ飛び出したのだった。
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