表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋慕する神々は乙女なりけり  作者: 高坂あおい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/9

第6話 神の御業はあさましけり

「どうだ? お風呂やトイレも完備されている、欠点一つ無い新居は?」


「めっちゃ綺麗です」


「そうだろうとも」



 俺の口から肯定の言葉を受け取り、アステリアさんは満足げに何度も頷く。


 その様子にできるだけ冷ややかな視線を送りつつ、目の前に置かれたお茶を一口いただいた。


 ちょうど飲みやすいくらいの温度に加え、お茶に詳しくない俺でも「美味しい」と思えるような深みのある味わい。


 まさに神の如き一杯だ。



 家の中へと招き入れられた俺は、各部屋の案内をそこそこに、リビングにてアステリアさんからの奉仕を受けていた。



「茶菓子もたくさん用意してあるから、もし欲しければ遠慮なく言ってほしい」


「ありがとうございます、アステリアさ――」


「優希」



 何やら、正面に座るアステリアさんの表情は不満げになっている。


 俺は感謝を伝えようとしただけだし、そんな感情になる要素あったかな?



「優希、その『アステリアさん』という呼び方はやめたまえ」


「えぇ……じゃあなんて呼べば……」


「呼び捨てでいいではないか。あと、敬語も禁止だ。もう一年の付き合いだというのによそよそしくて嫌だ」


「はぁ……」



 俺からしたら今日初対面の神様なんだけど。


 そっちが一方的に俺のことを認知していただけだし。


 

「ところで、この後授業はあるか?」


「いえ、今日はもう無いです……無いかな」


「よろしい」



 世の中には、敬語を使ったことによって怒られるケースもあるらしい。


 よく覚えておこう。


 同時に、俺はとても重要なことを思い出してしまった。


 

 空っぽになってしまった茶碗を机の上にそっと置く。


 

「早速だけど、アステリアに相談がある」


「ふむ。優希の相談ならば、なんだって聞こうではないか」


「俺が本殿に住むのはもういいとして、とても大事なものが今ここにはないんだ」


「大事なもの……? というと、金か?」


「違う違う、全然違う」


「むむっ、難しいな。必要そうなものは大方取り揃えたはずなのだが……」



 アステリアは眉を真ん中に寄せて、真剣にうなり始める。


 この様子だと、ふざけているとかではなく、本当にわかっていなさそうだな。



「服だよ、服! 俺の着替えの服が一着もないんだよ!」


「あー」


「『あー』じゃないだろ。お願いだ。服だけでもいいから、取りに帰らせてほしい」


「なるほど……」



 さっきの「この後授業はあるか?」という発言で、今が大学帰りであることを思い出した。


 だから、着替えは一着もないし、普段持ち歩いているノートパソコンも今日に限って持ってきていない。



「先に断っておくけど、『逃げよう』なんてことは一ミリたりとも思ってないから」


「ああ。それは君の顔を見ればわかるよ」



 仮にここで逃げ出せたとしても、次大学に来た時に何らかの手段で拉致されて終わりだろう。


 それに、意外とここの居心地が良い。



「だが、断る」


「なんで⁉」



 この神様は、毎日同じ服を着て生活しろ、とでも言うつもりなのか。


 待てよ……と言うことは、アステリアが今着ている白いワンピースも洗われていないのでは⁉



「優希が具体的に何を考えているのかまでは分からぬが、誤解を生んでしまっているようだな」


「誤解というか……なんというか……」


「私は神だぞ」


「は、はぁ……? 急な神宣言されても――」


「神なら、こうするのさ」



 アステリアが肩の高さまで上げた手で、指をパチンと鳴らす。


 すると、室内が一瞬だけ白い光で満たされ、すぐに元へ戻った。


 同時に俺は、嫌でも神様の力を見せつけられることになる。


 

「お、俺の衣装ケースが、が、がが……」


「これで君が家に帰る必要は無くなったね? もし欲しいものがあれば、なんでも君の家から召喚してあげよう」



 そうして、次から次へと俺の私物を召喚していくアステリア。


 ノートパソコンから始まり、充電器、小説に漫画……。


 このままでは床が俺の私物で埋まって、収拾のつかないことになってしまう。



「ストップ! ストーップ!」


「もういいのかい?」


「どう考えても出しすぎだろ⁉」



 叫びながらも、俺は床に散らばった物をかき集める。



「俺の部屋ってどこだっけ?」


「あーそれなら、向こうだよ。荷物の整理でもするのかい?」


「うん、そのつもり。今日は誰かさんのせいで、色々あったから、静かに休みたいしな」



 聞いているか、アステリア?

 

 お前がその「誰かさん」なんだからな。


 

 しかし、俺の意図が伝わっていないのか、それとも、感じ取った上でスルーしているのか。


 アステリアは、いかにも優しさに満ち溢れた表情で微笑んだ。



「それならば、私が良い時間帯にお風呂を沸かしておくから、ゆっくりと入るがいい。きっと、心身の疲れも癒えるはずだ」



 さすが神。


 召喚の時に空回りをしてしまったとはいえ、気遣いは一級品だなぁ。



「ありがとう、アステリア。じゃあ、俺は自分の部屋に行くから」


「ああ」



「…………また後でね、優希」



 この時、アステリアが最後に小さく呟いた言葉を、俺は聞き取ることができなかった。

読んで頂きありがとうございます!


続きが気になったら、ブクマ登録。

少しでもいいなと思ったら、評価orリアクション。

一言でいいので、感想もお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ