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恋慕する神々は乙女なりけり  作者: 高坂あおい


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第4話 いみじくも、逃ぐる術なかりけり

「これからよろしく頼む、神木 優希よ」



 アステリアさんが言ったこの言葉に、俺は多少の違和感を覚えた。



 もしこれが、「これからも毎日参拝しに来て欲しい」という意味ならば、確実に「も」がつくはず。


 たまたま言い忘れてしまった、だとか。


 細かい助詞が抜けてしまうことがある、なんて話じゃあない。


 これは、無意識のうちに言ってしまうような、そんな助詞だから。



「あの……よろしくって、何をよろしくなんですか?」



 恐る恐る尋ねてみると、アステリアは頭の上に「?」が見えるような顔で、首を傾げた。



「何って言われても、言葉通りの意味なんだけど」



 それが分からないから、俺は訊いてるんだよなぁ……。


 が、直後にアステリアの口から何気なく飛び出てきたのは、あまりにも衝撃的すぎるものだった。



「そりゃ、私と優希はこれから一緒に住むんだから」


「い、一緒に!?」



 無事、正常的な思考とはお別れを告げた。


 そして、現在脳内では、ローディングのスピナーがグルグルと回っている。


 言葉通りに会話を解釈したところで、絶対にそうなることはない。


 それだけは断言できる。



「何が分からないんだい?」


「強いて言うなら、全部ですかね……」


「ふむ、そうか……」



 そして沈黙が場を包む。


 どうしよう。


 初めて遭遇する上に、想定外すぎる展開だから、どうすればいいのか分からない。



 そもそも、ここに住むことができるのか?


 住むことができるとして、今俺が借りてる部屋はどうする?


 神様と住めるなら、それらは瑣末なことに……。


 いやいや、現実的な話として、互いに意思を持つ、異なる生命体が共同生活できるものなのか?


 その前に、神を生命体としてカウントしていいのか?



 考えれば考えるほど、思考が迷子になっていく。



「どうやら急な事で混乱しているようだな、優希」


「えぇ、まぁ……」


「ならば、こう言えば納得できるのではないか? 君は毎日私の元へ来てくれている」


「そうですね」


「つまるところ、今の君の状態を表現するならば、通い妻ならぬ、通い旦那だ」



 違うだろ、というツッコミを喉の奥に押し込む。


 相手は意味不明なことを言ってるとはいえ、神様だ。


 下手なことをしたら、天へと招待されてしまうかもしれない。



「ずっとそんな状態だと、君も大変だろう?」


「別にそんなこと――」


「大変だろう?」



 圧に圧を重ねた圧。


 俺の否定の言葉に被せて発された声には、有無を言わせないくらいに強い圧が含まれていた。


 俺の口が閉じられたことを確認してから、アステリアさんはさらに続ける。



「ならば! 私と優希が一緒に住めば、わざわざ優希がここに来る手間を省けるのではないかと思ったのだ!」


 

 これ以上ないくらいのドヤ顔で言い切られてしまった。



 だが、ここで一度思い返してみよう。


 元々の目的は、「空きコマの時間つぶし」だ。


 その延長線上で、神社参拝が日課になってしまっただけ。


 つまり、ここで俺が神社に住んでしまったら、それはもう立派な本末転倒の完成になってしまう。



「一回家に持ち帰って考えてもいいですか?」



 ここはできるだけアステリアさんを刺激しないように――。



「ダメだ」



 わーお、即答。


 断ったわけではない。


 ただ一度考えさせてくれ、と頼んだだけなのに、それすらも許されないのならば、俺も覚悟を決めなければ……!



「君の選択は二つ。この場で『はい』と答えるか、『わかりました』と答えるか」


「これまたベタな発言を……」



 だが、おかげさまで、「意地でもここから逃げてやる」と思うことができた。


 特に作戦はない。


 この神社から抜け出して、公道に出ることができれば、俺の勝ちだろう。


 願望九割の予測だが、おそらくアステリアは神社の外に出ることができないはずだ。


 

 幸い、俺と彼女の間には一定の距離が生まれている。


 もし未だに抱きしめられたままだったならば、そのまま拉致監禁されてゲームオーバーだったに違いない。



「さぁ、優希の口から早く聞きたいな?」


「……わかりました」


「おお!」


「わかりました! ここは逃げさせてもらいます!」



 アステリアが表情を明るくさせたのを合図に、俺は身体を高速反転させ、最高のスタートを切った。


 風を切る感覚。


 足の回転具合も悪くはない。


 足場はお世辞にも良くないが、一年間通い続けた甲斐もあり、どこを踏めばいいのかぐらい把握している。


 元灯篭が飛ぶように後ろへ流れていく。



「そんな……優希…………」



 寂しそうな、悲しそうな声が背中側から聞こえてくる。


 振り向いてはいけない、走り続けなければ――。



「――無駄なのに」


「は――?」



 微かに聞こえてきた「無駄」という言葉の意味を理解する間もない。


 逃げる勢いそのままに跳ね返された俺の身体は宙を舞っていた。


 まるで電柱にぶつかったかのような激痛が、頭からつま先にかけて迸る。


 そのまま尻から地面に着地した。



「なん……で…………?」



 コツコツと耳元に近づいてくる足音。


 そして、視界を埋め尽くしていた白一つない青空、それが遮られ、俺の顔に影ができる。


 俺の逃走劇って、もしかして失敗した……?

読んで頂きありがとうございます!


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