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恋慕する神々は乙女なりけり  作者: 高坂あおい


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第2話 一人一神の出会いは、奇怪なりけり

 俺がその神社を初めて見つけたのは、五月の中頃、夏と言うにはまだ早すぎる時期である。


 その年念願の大学生になった俺は、夢の大学人生を謳歌……するはずだったのに。


 実際の大学生生活とやらは、俺の理想とかけ離れていた。



 知り合いは言語のクラスでしか増えないし、その知り合いたちとも全て同じ授業を取っているわけじゃない。


 サークルの新歓とやらにも足を運んでみたが、入りたいサークルは特に無かったし、飲みサーなんてところには絶対入りたくなかった。


 だから、授業が入っていない時間――通称・空きコマは暇、とても暇。


 

 どうしようかと考えた末に、思いついたのは「散歩」だ。


 大学の周辺を限りなく歩き尽くすことによって、誰よりも周辺地域について詳しく知ろうという魂胆。


 いつしか好きな人ができた時に、これが役に立つこともあるだろう。


 そう考えていた――。



「……こんなところに神社なんてあったのか」



 散歩を始めてから一週間が経った頃、俺は大学の裏山にある廃れた神社を見つけた。


 山の中に伸びていく一本の道を辿って行くと、赤色の塗料が禿げた鳥居が現れる。


 それを潜り、ところどころ石が外れた参道を進んでいく。


 かつて朱色に輝いていたであろう灯篭は無残に砕け、手水舎の水はとっくに枯れて、ひび割れた石の底には乾いた落ち葉が積もっている。


 

「さすがに……っていうのは失礼かもしれないけど、俺以外に人はいないか」



 参拝客どころか社務所にすら人の気配が一切しない。


 神社に捨てられるという概念があるのか分からないけれど、長らく足を踏み入れられることが無かったのだと容易に分かった。


 

 次の日から、空きコマにこの神社へ行くことが、俺の日課になった。


 別に無理して行く必要は全くない。


 行ってもお賽銭を投げて、いるかどうかも分からない神様に返ってこない話題を振るだけ。


 仮に、これを大学の友人に見られでもしたら、「変人」と名付けられてしまうかもしれない。



 けれど、なんだか放置されているこの神社の神様が、可哀そうに思えて仕方が無かった。


 たかが一般人の俺が、神様相手にそんなことを思ってしまうのは罰当たりかつ失礼で、傲慢なことだろうけど。


 初めて神社に足を踏み入れて、拝殿の前に立った俺は――。



「神様は寂しがっている」



 ふと、そう思ったから。



 そして、それから約一年の時が経過し、俺は無事大学二年生になることができた。


 単位を漏らすことなく取得できたのはもちろんのことながら、最低の評価でAだったのは、


「毎日神社に行ったことへの、神様からのご褒美なのでは」


 とも思う。


 

 そして、今日もまた俺は、神社へと足を運んだ。


 寒い季節とはとっくに別れを告げた日本には、程よく暖かくて過ごしやすい日が訪れている。


 冬の時期はすっかり枯れていた草むらの葉っぱをかき分けると、いつもの道が現れる。


 

「…………あれ?」



 俺の足がピタリと止まる。


 なぜか? とても簡単な話。

 

 

 木の色が表に出てきてしまっている鳥居のその先、拝殿のその前に人が立っていたから。


 

 この神社の中で人を見たのは初めてだった。


 しかも、初めて見かけた人は、地元のお爺ちゃんやおばあちゃんじゃない。


 俺とそこまで歳が離れているようには見えない茶髪で白いワンピースを着た女性。


 背中しか見えないので、詳しくは分からないが……。



 けれど、ここで引き返すわけにもいかないし、理由もない。


 鳥居を潜り、石畳の参道を進むごとに、彼女との距離が確実に埋まっていく。


 外を走る車の音すら聞こえてこない、静寂の境内に、俺の足音が場違いなほど響いている。


 この距離だ。


 足音は向こうにも聞こえているはず。


 だというのに、振り向かないどころか、微動だにしないのはなぜ……?



 そんなことを思っていた矢先、その女性がくるりと、舞うような滑らかさでこちらを振り向いた。


 ふわりと宙を舞う長い髪。


 遅れて届いたのは、線香を甘く煮詰めたような、心臓が直接撫でられるような不思議な香り。


 重力に引かれて髪が静かに収まった時、ようやく彼女の貌が露わになる。



 女性は俺の予想通り、同い年か一つ二つ上くらいの見た目をしていた。


 ただ、纏っている雰囲気は、まったく異なる。


 まるで深い森の奥底に佇む大樹のように堂々としていた。


 そして、見た目からは予想もできないような、長い歳月を感じさせる圧倒的余裕。


 なんといっても、俺に向けられる眼差しは、慈愛そのもに満ち溢れていた。



「――待っていたよ、優希」

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