シュージのジレンマ
※『二人とも黙秘した場合は百万エーンづつ渡して国外に脱出させる』
※『片方だけが白状した場合は、白状しなかった方
は王家に引き渡し、白状した方には1億エーン渡して国外に脱出させる』
※『二人とも白状した場合は単に放免する』
謎の男からこんな提案を受けたシュージは、運命の岐路に立っていた。
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シュージが目を覚ましたのは、檻の中だった。
『何があった?』と痛む頭を押さえながら、昨日の記憶を手繰り寄せる。
『そうだ、リョーマと2人で魔女の家に盗みに入って…エリクサーを盗み出して山の中の祠に隠して、孤児院に戻る途中に襲われたんだ』とぼんやり思い出す。
『そうだ、リョーマはどうなったんだ?』と周りを見渡した。
その時、《ガシャ》と音がして檻のドアが開き、男が食事を差し出しながら「おい、お前シュージと言うらしいな」と話しかけてきた。
「何故俺の名前を知っているんだ!それに、俺の仲間はどうした?」と男を問い詰める。
「安心しな。お前の仲間なら、別の部屋にいるぜ」と男が答え、「お前らが手に入れたエリクサーを素直に渡して貰えれば、解放してやるよ。ただし、お前らは王家から指名手配中だがな」とニヤリと笑った。
『やはり、顔を見られていたか』と魔女の家に忍び込んだ時のことを思い出す。
『だが…あのエリクサーさえあれば、王様とだって取引きが出来るはず。王女の命を救うためなら、どんな条件だって聞いてくれるだろう。リョーマとアミーと一緒に大金を持って、この国からおさらばだ』と考えた。
「残念なお知らせだが…」と男がシュージの様子を見ながら半笑いで告げる。
「お前らが盗み出したエリクサーだが、効果は3日しか持たない。既に1日寝てたから、あと2日でただの水だ」
「嘘を吐くな!」とシュージが叫ぶが、「考えてもみろ。エリクサーがいつまでも効果があるなら、王家にストックしてない訳がないだろう」と男が冷静に告げた。
「不治の病に罹った王女の病気を治せるはずのエリクサーを台無しにしたお前らを王家が捕まえたら…どうなるかな?」とニヤニヤ笑う。
『何でだ!苦労して盗み出したエリクサーの効果があと2日だと!!』とシュージが慌てて「そうだ、俺たちを今すぐに出してくれ。王女を助けるエリクサーを渡せは、王家から感謝されて報酬ももらえるだろう?分け前なら好きなだけ渡す」と男に持ちかける
「残念だが、エリクサーなら俺達の仲間の魔女が、一週間後に完成させる。王家にそれを献上すれば、俺達の組織は王家から感謝されるだろうな」と修二の願いを拒否する。
「しかし…」とニヤニヤ笑いながら男が「エリクサーなら王家以外にも欲しがっている貴族はいくらでもある…」とその男が提案してきたのが、冒頭の条件だった。
「こんなの選ぶまでもない。白状しなければ、百万エーン貰えて、国外に逃してくれるんだろ?なら、言う訳ないだろう」と男に食って掛かる。
すると男が嫌らしい笑いを浮かべ「最初は皆そう言うんだ。まあ、一晩ゆっくり考えな。返事は明日の朝だ」と部屋を出て行った。
『何でこんな馬鹿な提案を?どう考えても、白状しないの一択じゃないか』とベッドに横たわり少し冷静になって考える。
『だが…もしもリョーマが白状してしまったら、俺だけが王家に引き渡されて、リョーマには1億エーンが手に入るのか…』と嫌な考えが頭を過ぎる。
『いや、リョーマに限ってそんな事をするはずはない。アイツとは親友で兄弟同然に過ごしてきたんだ』と思い直す。
『だが…夕食で肉が出た時やおやつでお菓子が出た時は、アイツはいつも独り占めしようとしてたな〜』と孤児院時代を思い出す。
そして、シュージはいつしか孤児院でいつも笑いかけてくれたアミーの笑顔を思い出していた。
『今回の盗みも、リョーマがアミーの夢を叶えるためと言って俺を誘ったんだよな』と自分のお店を持ちたいと夢を語る少女を想い顔を赤らめた。
『2人合わせても2百万エーンでは、国外で暮らしていくだけで精一杯だろうし、アミーもそんな生活が待っているのに付いてくる訳ないか…』と寝返りを打ち、『だけど…もし1億エーンあれば』と考えた所で飛び起きる。
『何を馬鹿な事を…。それは、リョーマを裏切って王家に差し出す事になる』と王家に捕まれば間違いなく死刑が待っている状況を思い出す。
シュージは思わず立ち上がり、檻の外に向かって叫び出した。
「リョーマ!お前を信じるから絶対に白状するなよ〜!!」
それは、リョーマに向けた言葉でもあり…自分自身に言い聞かせる言葉だった。
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それを物陰から見ていた謎の男が『大分悩んでいるみたいですね〜。私はこの友情を信じたいが信じられない…そして、自分自身も信じられなくなる過程を見るのが何よりも楽しみでしてね。シュージさん、もっと私を楽しませてくださいよ』と悪魔のような笑い顔を見せた。
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大声を出した事で少し落ち着いたシュージは、ベッドに腰掛けて水を口に含んだ。
『そう言えば…』と謎の男との会話を思い出す。
『何であの男は俺の名前を知ってたんだ?』と疑問が湧き上がる。
『俺は名前を言わないように気をつけていたのに…』とリョーマの迂闊さに腹が立つ。
『そもそも、エリクサーが3日しか効力が無いなんて聞いてない』とリョーマの計画の杜撰さに呆れる。
『いや待てよ。本当にそんな大切なことを知らないなんてあるか?』と疑惑を抱き、『それに…リョーマは本当に捕まっているのか?』と考えだす。
『もしかしたら、あの男とリョーマはグルで俺を騙しているんじゃないのか?』と悪い考えが止まらない。
『エリクサーを隠して直ぐに襲撃されたが…いくら何でも早過ぎる。もしかして、リョーマが俺を売ったんじゃないか?』と呟くが、『いや、そんな事をしてもリョーマにはメリットがない』とその思いを打ち消す。
その時、ふとアミーの顔が頭に浮かぶ。
『リョーマは知らないと思っていたが…もしかしてアミーと俺が男と女の仲になっているのに気がついたのか?』と2日前にリョーマとアミーが言い争っていた事を思い出す。
『確か…あの時リョーマは俺と言う者がありながら…とか叫んだよな?』と記憶を手繰る。
『まさか、アミーはリョーマとも寝てたのか…?』とアミーにまで疑惑を持ち始めた。
『いや、アミーに限ってそんなはずは無い。店を出す資金なら俺に任せろと言った時のあの笑顔は…』とアミーの笑顔を思い出そうとするが…何故か墨で塗られたように笑顔が隠れていた。
『そう言えば、今回の盗みもリョーマがアミーの開店資金を稼ぐためと言って誘って来たんだよな』とアミーとリョーマの関係に悶々とする。
『待て、早まるな。事実は何もわかっていないじゃ無いか』と頭を抱える。
『俺はこんな妄想だけで、親友の生命を危険に晒すつもりか。このまま、黙っていれば2人とも国外に脱出して百万エーンが手に入るんだ』と自分に言い聞かせる。
だが…とアミーの淫らな裸体と、リョーマの顔が振り払っても頭に浮かんでくる。
『リョーマさえいなければ…アミーは俺だけのものになって1億エーンが手に入る』とニヤリと笑う。
だが、次の瞬間には慌ててその考えを打ち消す。
『しかし…俺が黙っているつもりでも、リョーマが白状したら…俺だけが死んでアミーはリョーマのものになる』と何度も同じ考えが頭に浮かぶ。
『いや、俺とリョーマは親友で、兄弟も同然の仲だ。リョーマに限って、俺を売るような真似はしない』と姿の見えない親友に思いを寄せた。
『だが…』
『もし…』
答えの出ない思いが一晩中繰り返され…
やがて、空が白み始め《ガシャ》と言う音と共に男が檻の中に入ってきた。
「さて、シュージさん。約束の時間になりました。貴方の答えをお聞きしましょう」と男が悪魔のような笑みを浮かべてシュージに問いかけた。
俺の答えは『………』
それを聞いた男は、高らかに笑った。
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王城で王女の病が完治したパーティが華やかに繰り広げられたのは、その10日後だった。
〜finis〜
ご存知(?)囚人のジレンマを題材に考えた作品となります。
異世界にしたのは、2日で効力が無くなる(何か)がうまく思いつかず、ご都合展開ができる魔法に頼ったためです。
結論はほぼ出ているかな?とは思いますが、この後顔を合わせた2人の会話など余韻を楽しんで頂こうと結論は曖昧にしました。
一応、完結パターンとして…
『なお、王女の完治パーティーが行われていた同じ時、王城の奥で2人の犯罪者が処刑されたと記録があるが…その犯罪者の氏名は謎のままだった』
も考えました。
蛇足過ぎて本文には入れませんでしたが、この場合は
〜finis amicitiae〜
で締める予定でした。
ちなみに、『2人とも百万エーンを握りしめて…』もありえます。この場合なら
〜pulchra amicitia〜
が締めですね。
『シュージ(リョーマ)とアミーは隣の国で幸せに暮らしました』なら、
〜crudelis amicitia〜
になるのかな?
拙い文章ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。




