第30話 マフラーの呪いとルナの告白 -2
「…こりゃ、ちょっとやりすぎたわ…」
システィナは、ルナの感情を増幅させるために、遊び心で魔法をかけた。しかし、ルナが本当に苦しんでいる姿を見て、彼女の胸の奥に、罪悪感が芽生え始めていた。
「…ふふん。まさか、ラブコメの『演出』が、こんなにもリアルな悲劇を生むなんてね」
システィナは、そうつぶやくと、ルナが走り去った方向を見つめた。
「…仕方ないわね。この『脚本家』が、責任を持って、フォローしてあげないと…」
彼女は、そう心に決めると、ルナのあとを追おうとした。しかし、その時、セレナが物陰からそっと姿を現し、カイの元へと歩み寄るのを目撃した。
「…なるほど。これは、新たな展開ね」
システィナは、足を止めた。そして、彼女の心に、ある感情が芽生えた。
「…ルナさんだけではない…私も、このままではいけない…!」
聖女としての役割に縛られ、自分の気持ちを押し殺してきたセレナは、ルナの勇気ある行動に、心を揺さぶられたのだ。
「…もう、待っていられない…!」
セレナは、そう心に決めると、物陰からそっと姿を現し、カイの元へと歩み寄った。
「カイさん…」
セレナの声に、カイは振り返る。
「セレナ…どうしたんだ?ルナが…」
カイは、まだルナのことで頭がいっぱいだった。
「…その…少し、ルナさんと喧嘩をしてしまいましたの…」
セレナは、そう言って、少しだけ顔を伏せる。
「そうか…俺がルナを怒らせちゃったのかな…」
カイは、心配そうな表情で、そうつぶやく。
「…いいえ。カイさんは、何も悪くありませんわ」
セレナは、そう言って、カイの隣に座った。そして、焚き火の光に照らされた彼の顔を、じっと見つめる。
「カイさん…」
セレナは、勇気を振り絞り、カイに語りかける。
「私は…この旅が終わってしまったら、どうすればいいのか、分からなくなってしまったのですわ…」
セレナは、そう言って、涙を浮かべる。
「セレナ…?」
カイは、彼女の突然の涙に戸惑いながらも、優しく彼女の背中に手を回した。
「…大丈夫だよ、セレナ。俺たちは、ずっと仲間だ。この旅が終わっても、俺はみんなと…」
「…そうではありませんわ!」
セレナは、カイの言葉を遮るように叫んだ。彼女の目からは、とめどなく涙が溢れ出していた。
「私は…!私は、あなたの『仲間』で満足なんて、できるはずがありませんわ!」
セレナは、そう言って、カイの胸に顔をうずめる。
「…私は、あなたにとって、特別な存在になりたいのですわ…!」
彼女の言葉は、焚き火の燃える音に掻き消されそうだった。
カイは、ただただ困惑し、彼女の背中を優しく撫でるしかなかった。
そんな二人の様子を、物陰から見ていたフィリアは、ルナとセレナの、カイへの想いの深さに、改めて心を打たれていた。そして、彼女の胸の奥にもまた、カイへの想いが、静かに、しかし確実に芽生えているのを感じていた。
フィリアは、このままでは、ルナもセレナも、そしてカイも、みんな悲しい思いをしてしまうと直感した。
「…そうだ!お姉さま…!」
フィリアは、そうつぶやくと、物陰から飛び出そうとする。しかし、その時、彼女の腕を掴む者がいた。
「…待ちなさい、フィリア」
システィナだった。
「…お姉さま…?」
フィリアは、不思議そうな顔で、システィナを見つめる。
「いい?フィリア。ルナのほうは、私が何とかするわ。あなたは…」
システィナは、そう言って、フィリアに耳打ちした。フィリアは、システィナの言葉に、大きく頷く。
「…わかったわ、お姉さま!」
システィナは、フィリアにそう告げると、ルナが走り去った方向へと踵を返した。彼女の心には、自らの悪ふざけが招いた事態に対する、後悔の念が渦巻いていた。
その時、物陰から、一人の少女がカイの前に飛び出してきた。
「カイ!」
フィリアだった。彼女は、カイとセレナの元へ駆け寄ると、キラキラした瞳でカイを見つめる。
「カイ、どうしてこの旅に出たんですか?」
フィリアの突然の質問に、カイは目を丸くした。セレナは、フィリアの登場に驚き、慌ててカイの胸から顔を離す。
「え、えーと…昔の冒険者ゲームみたいで面白そうだったから、かな…?」
カイは、フィリアの質問に、少し曖昧に答える。しかし、フィリアは、その答えに満足したように頷くと、次にルナが駆け去った方向を指差した。
「じゃあ、ルナは?どうして、カイと一緒に旅をすることになったんですか?」
フィリアの問いかけに、カイはルナの顔を思い浮かべる。
「ルナは、王都で魔法を暴走させて、俺がそれを止めたんだ。それから、一緒に旅をすることになって…」
カイは、そう言って、ルナとの出会いを語る。
「素敵!私も、精霊さんの力が暴走しちゃった時、カイに助けてもらったんだよ!」
フィリアは、嬉しそうにそう言うと、次にセレナへと視線を移した。
「じゃあ、セレナは?」
フィリアの質問に、セレナは顔を赤くし、少し言葉を詰まらせた。
「私は…聖女としての役割に疲れて、王都から逃げ出したんです。その時、カイさんが『たまには好きなことをしてもいいんだよ』と声をかけてくれて…」
セレナは、そう言って、ありのままの自分を受け入れてくれたカイへの想いを語る。
フィリアは、そんなルナとセレナの話を聞き、感動した様子で目を輝かせた。
「皆さん、素敵な出会い方ですね!私も、お姉さまに会えて、そしてカイに会えて、本当に嬉しいです!」
フィリアは、そう言って、無邪気な笑顔でカイに語りかける。その純粋な言葉は、ルナやセレナの抱える複雑な感情を解きほぐすかのように、場の空気を和ませた。
「フィリア…ありがとう。俺も、みんなと出会えて、本当に楽しいよ!」
カイは、そう言って、フィリアの頭を優しく撫でた。
そんな三人の様子を、物陰から見ていたシスティナは、口元を隠してニヤリと笑った。
「なるほど、なるほど…。フィリアの無邪気な一言が、この場の空気を変えるなんてね。これは、私の脚本にはなかった展開だわ」
システィナは、そうつぶやくと、フィリアがルナの代わりに、カイとセレナの間の気まずさを解消してくれたことに、深く頷いた。
「…フィリア、よくやったわ。あとは、私に任せて」
システィナは、そう言って、ルナが走り去った方向へと踵を返す。彼女の心には、自らの悪ふざけが招いた事態に対する、後悔の念が渦巻いていた。
◇◆◇◆◇
ルナは、野営地の外れの木陰で、一人、涙を流していた。
「バカ…!カイのバカ…!」
ルナは、そう言って、地面を悔しそうに叩く。
「…あんたが鈍感だから…私が、こんなに苦しい思いをするのに…」
彼女は、自分の首に巻かれていたマフラーを、カイに返してしまったことを後悔していた。
「…なんで、あんなことを…」
その時、ルナの背後から、優しく声をかける者がいた。
「ルナ。そこにいたのね」
システィナだった。
ルナは、顔を上げ、涙で濡れた目でシスティナを見つめた。
「な、なによ…!」
ルナは、そう言って、システィナから顔を背ける。
「…ごめんなさい、ルナ」
システィナは、そう言って、ルナの隣にそっと座った。
「…マフラーに、少しだけ『感情を増幅させる魔法』をかけていたの。あなたの感情を、より豊かにするつもりで…」
システィナの告白に、ルナは驚き、目を丸くした。
「な、なによそれ…!あんた…!」
ルナは、怒りで震える声で叫ぶ。
「…でもね、ルナ。あなたがカイにマフラーを返したこと…あれは、あなたが、私に仕掛けられた魔法を乗り越えた証拠よ」
システィナは、そう言って、ルナの頭を優しく撫でた。
「…あなたは、自分の力で、カイに想いを伝えた。それも、言葉ではなく、行動で。マフラーを返すという行動は、あなたがカイにとって『特別な存在になりたい』という、強い決意の表れよ」
システィナの言葉は、ルナの心に、深く染み込んでいった。
「…私は、ただ…」
ルナは、そう言って、言葉を詰まらせる。
「ふふん。わかっているわ。あなたは、ただ、自分の想いを伝えたかっただけ。そして、その想いは、カイにきちんと伝わっているはずよ」
システィナは、そう言って、ルナに微笑みかける。
ルナは、システィナの優しい言葉に、心が救われるのを感じた。
「…システィナ…」
ルナは、そう言って、システィナの胸に顔をうずめる。
「…ありがとう…」
ルナの感謝の言葉に、システィナは優しく彼女の頭を撫でた。
「いいのよ、ルナ。脚本家として、ヒロインの成長を助けるのは、当然の仕事だもの。今回はちょっとやりすぎちゃったわ、本当にごめんなさい」
システィナは、そう言って、深々とルナに向かって頭を下げた。
そして、その表情は、どこか安堵に満ちていた。
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