第12話 物資調達デートと「嫉妬」の芽生え -3
公園を後にした三人は、カイの希望で食べ物の屋台を巡ることにした。屋台から漂う甘い香りと、人々の楽しそうな声が、街の活気を物語っている。
「わあ、すごい!このお菓子、俺の故郷のお祭りで売ってるお菓子に似てる!すごく懐かしいな」
カイは目を輝かせ、聖女としての立場を忘れ、無邪気に屋台を楽しむセレナに、様々なクレープの話をした。彼の話す「クレープ」という未知の食べ物、そして故郷のお祭りの賑やかな光景に、セレナは心を奪われていく。
「カイさん、これは、なんというお菓子ですか?とても美味しそうですわ」
セレナが尋ねると、カイは「これは『クレープ』って言うんだ」と答える。
「クレープ…」
セレナは、その未知の食べ物に興味津々で、カイと一緒にクレープを食べた。一口食べると、その美味しさに彼女の顔がぱっと明るくなる。
「ふふ、美味しいですわ!」
と笑うセレナは、聖女としてではなく、一人の少女として、心の底から楽しんでいるようだった。
そんな二人が楽しそうにしている姿を、少し離れた場所から見ていたルナは、獣人の耳と尻尾をぴくぴくと動かし、嫉妬の炎を燃やした。彼女の視線は、まるで獲物を狙う獣のように鋭くなっていた。
「ちくしょう…!カイとセレナの二人きりなんて…!なんであんなに楽しそうなのよ…!私だって、カイと話したいことがあるのに…!」
ルナは、二人の楽しそうな姿を見て、悔しさに唇を噛み締める。彼女は、カイと二人きりになる機会を伺っていたのに、セレナに先を越されたことが悔しかったのだ。
「ルナさん、どうしたんですか?クレープ、食べませんか?」
カイが心配そうにルナに声をかけると、ルナは
「な、なっ…!別に、そんなんじゃない!」
と顔を赤くして、そっぽを向いた。彼女の心中は、悔しさと恥ずかしさでぐちゃぐちゃだった。
セレナは、そんなルナの様子をちらりと見て、にこやかな笑みを浮かべた。
「ふふふ。ルナさん、嫉妬してくださってありがとうございます。カイさんとの二人きりの時間、とても楽しかったですわ」
セレナはそう言って、ルナににこやかに微笑み、カイの腕をそっと握った。
その手は、まるでカイを独占するかのように、しっかりと彼の腕に絡みついた。ルナは、セレナの大胆な行動に驚き、さらに顔を赤くした。
「なっ…!お前…!卑怯だぞ!いきなりそんなこと…!」
ルナが声を荒げると、セレナはさらに笑顔を深めた。
「ふふふ。私たちは、ライバルですわね。これからも、どうぞよろしくね、ルナさん」
セレナはそう言って、ルナにウィンクをしてみせる。その表情は、先ほどの可憐な聖女の顔ではなく、まるで戦いの火蓋を切った女戦士のようだった。
ルナは何も言い返せず、ただただ悔しさに震えていた。彼女の心の中には、セレナへの対抗心と、カイへの独占欲が、嵐のように渦巻いていた。
物資調達が一段落したところで、レオンはシスティナに声をかけた。
「システィナ、少し付き合ってくれないか。話したいことがあるんだ」
レオンがそう言うと、システィナは「はっは〜ん。いいわよ。まるで、二人だけの秘密の時間のようじゃない」と笑いながら、彼に「いいわよ」と答えた。二人は、人混みから離れた静かな場所へと向かった。
「システィナ、君は本当に、やることがいちいち面倒だな。勇者殿たちをからかうのは、もうやめにしないか」
レオンがため息をつくと、システィナは楽しそうに微笑んだ。
「あら、そんなことないわ。私はただ、この最高のラブコメディの舞台を整えているだけよ。彼らが成長し、互いの気持ちを自覚するきっかけを作ってあげているの。これは、愛のキューピッドとしての私の役割よ」
「はぁ…。君がそう言うなら、何も言えないな」
レオンは再びため息をつき、システィナに尋ねた。
「システィナ、君は…カイ殿のことをどう思っているんだ?君は、彼に特別な関心を持っているように見えるが…」
「ふふふ。私はただ、彼の才能を面白がっているだけよ。彼の『絆を力に変える能力』は、私の知る限り、前例がないわ。彼なら、きっとこの世界の常識をひっくり返してくれるわ。それだけよ」
システィナはそう言って、遠くで買い物を楽しむカイたちの姿を見つめた。その表情は、まるで親が子供を見守るかのようだった。
「レオン、あなたには分からないかもしれないけれど、私は…」
システィナが何かを言いかけると、レオンは彼女の言葉を遮った。
「分かっているさ。君が彼らに、そして私に、最高の舞台を用意してくれていることを。君の悪巧みは、誰かを傷つけるためじゃない。皆が笑顔になるためのものだ。だから、僕は…君の隣にいる」
レオンは、システィナの悪巧みの裏に隠された愛情に気づいていた。彼は、そんなシスティナのことが、心から大切だと思っていた。
買い物を終え、一行は宿屋の部屋に戻ってきた。女性陣の部屋では、ルナとセレナ、そしてシスティナが、今日の出来事を話していた。
「カイさんとお祭りの話で盛り上がって、とても楽しかったんですわ。彼は、私の知らないことをたくさん知っていて…」
セレナが楽しそうに語るのを聞いて、ルナは心の中で独占欲を燃やしていた。
「そんな話、私にはしなかったくせに…。私だって、カイと二人きりで話したのに…」
ルナがぶっきらぼうに「別に…」と答える姿を見て、システィナはにやりと口角を上げた。
「ルナ、どうだったのよ?私の脚本通り、勇者様と二人きりの時間、楽しかったんでしょう?」
システィナの鋭い眼差しに、ルナはびくりと肩を震わせる。尊敬しているシスティナに逆らうことはできない。ルナは顔を真っ赤にして、小さな声で今日の出来事を語り始めた。
「…その…少しだけ…楽しかった…です…」
そう言って、ルナは視線をシスティナから逸らし、恥ずかしさに耳と尻尾をぴくぴくと動かす。そんなルナの様子を見て、システィナは満足げに微笑んでいた。
「ふふふ。あなたたち、本当に仲がいいわね。お互いのことが気になって仕方ないみたいじゃない」
システィナの言葉に、ルナとセレナは互いに顔を見合わせ、照れくさそうに笑った。
システィナの計画は成功し、ルナとセレナはそれぞれカイの新しい一面を発見すると同時に、互いへの嫉妬心を芽生えさせた。
特に、セレナの大胆な行動は、ルナの心に火をつけた。今後の旅が、さらにドタバタなラブコメ展開へと加速していくことを予感させながら、一行は次の街へと向かうのであった。
「ふふふ。さあ、最高のラブコメディの始まりよ。次は、どんな展開が待っているのかしら」
システィナはそう呟き、静かに微笑むのだった。
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