表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傷物聖女に祝福を ~出戻りの私に、憧れのお義兄様が甘いです!?~  作者: 岩上翠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/33

あなたと一緒に

「よしっ、できましたライサ様! とってもお綺麗です!」

「ありがとう、ピア」


 ピアが一時間かけて編み上げてくれた髪形は、芸術品のように見事だった。

 けれど、ただお義兄様と劇場へお芝居を見に行くだけなのに、気合いを入れすぎているようでなんだか落ち着かない。

 イブニングドレスも侯爵家の面目躍如といった豪華なもので、もちろん私の胸元にはあの青い聖石のネックレスが光っている。

 ノックの音がした。

 ピアがドアを開けると、大きな花束を抱えたエドガーお義兄様が現れた。


「ライサ、用意はできたか?」

「はっ、はい!」


 お義兄様は律儀にも、本当に花束を持って私を迎えに来てくださった。

 神殿騎士の仕事に復帰して毎日忙しいはずなのに、勤務の合間にこうして……デ、デートに、誘ってくれて……うぅ、その言葉を思い浮かべるだけで頬が火照る。


「お花はこのお部屋に活けておきますね。いってらっしゃいませ!」


 ピアが満面の笑顔で送り出してくれた。


 緊張しながらお義兄様と並んで廊下を歩いていると、向こう側からお義父様とお母様がやって来た。

 ……あの、偶然を装ってますけど、絶対にわざとですよね? 二人とも挙動不審すぎます!

 お義父様がにこにこと機嫌よく私たちに話しかける。


「やあエドガー、ライサと芝居を観に行くんだってね? 楽しんでおいで」

「はい、父上」

「ライサ、あまり遅くならないようにするのですよ」

「わかりました、お母様」

「やだなあソニア、この堅物のエドガー相手に何を心配してるんだい? 少しくらい遅くなった方が……」


 お母様のひとにらみで、お義父様は貝のように口を閉ざした。

 涼しい顔をしたお母様が私たちをうながす。


「さ、お行きなさい」

「は、はい。行って参ります、お母様」


 先日、お母様がこっそり私に教えてくれた話によると、お義兄様は私に告白したあと、すぐに両親に「ライサに求婚する許可を与えてほしい」と願い出たそうだ。

 お義父様が骨折して、お義兄様が当主代理としてこの屋敷に戻ってきた当初から、両親はお義兄様の私への想いに薄々感づいていたらしい。

 だから、お義父様もお母様も二つ返事で了承したそうだけれど……侯爵夫妻なのに、次期当主の嫁をそんなに簡単に決めてしまっていいのかしら?

 お義兄様は私に甘いけれど、お義父様とお母様まで、ちょっと私に甘すぎるのではないでしょうか?

 まあ、まだ正式に求婚をされたわけではないけれど……。


 屋敷を出ると、夏の終わりの空気に包まれた。

 待機している馬車まで、お義兄様のあとをぎくしゃくと歩く。

 どうしよう……デ、デートって、何を話せばいいんだろう。自分の心臓の音がうるさいくらいだ。意識しすぎてお義兄様の方を見れない。


 突然、前を歩くお義兄様がしゃがみこんだ。植栽の下の茂みに手を伸ばしている。


「お義兄様? どうかなさったのですか?」


 彼は立ち上がり、茂みから採ったものを手渡してくれた。


「今の時期に珍しいなと思って」


 それは、真っ赤な野いちごだった。


 私は目をぱちくりさせた。 

 誰よりも貴族らしいお義兄様と、道端の野いちごの組み合わせが意外すぎて。

 でも、野いちごを摘むお義兄様の手つきは慣れたものだった。

 しかも、「今の時期に珍しい」と言った?

 どうしてお義兄様が野いちごのなる時期なんて──


 私は、はたとその可能性に思い至った。


「もしかして……私がケンドリック家にいたときに野いちごを届けてくださったのは、お義兄様なのですか?」


 お義兄様は、非常にばつが悪そうな顔で答えた。


「……そうだ。おまえが喜ぶかと思って……」


 あまりにも驚いて、私はしばらく呆然としていた。

 そして、その事実が呑み込めてくると、苦しいくらいに心を動かされた。


 あのとき、お義兄様は神殿騎士の仕事で忙しかったはずなのに、私の好きな野いちごを摘んで届けてくれた。

 差出人の名前のないその贈り物は、ケンドリック家でひどい扱いを受け、居場所がなくみじめな思いをしていた私を、どれだけ慰めてくれただろう。

 離れていても、お義兄様は私の心を守ってくださっていた。

 涙がこみ上げてきて、ぽろぽろと頬を伝う。


「ありがとうございます、お義兄様……本当に、とてもうれしかったです」

「ああ」


 お義兄様は指で私の涙を拭い、この上なく優しいほほえみを浮かべた。

 心臓が痛いくらいに締めつけられる。

 けれど同時に、ゆるぎない安心感にも包まれた。


 この先も色々なことが起こるだろう。

 だけどあなたと一緒にいられるなら、恐れることなんて何もない。

 私が居たいと望む場所は、あなたの隣。

 その場所にふさわしい自分になりたいと強く願った。


 今は難しくても、きっと、いつか──




 馬車の中で、野いちごを半分に割ってお義兄様と食べた。

 それはとても甘くて、少しだけ酸っぱかった。

最後までお読みいただきありがとうございました!

楽しんでいただけましたら幸せです(∗ˊᵕ`∗)


連載中はブクマ、評価、感想やリアクションがとても力になりました。ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもよろしくお願いします!
✧✧✧
『お針子令嬢と氷の伯爵の白い結婚』
✧✧✧

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ