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傷物聖女に祝福を ~出戻りの私に、憧れのお義兄様が甘いです!?~  作者: 岩上翠


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美しい王女とみすぼらしい少女2

 オーレリア王女は美しい佇まいで、さっきと同じように礼拝堂にいた。

 今は取り巻きはおらず、一人きりだ。

 いや、護衛の神殿騎士が離れた場所に立ってはいるけど……。


 困惑しながら、先ほどと同じように、私は王女に対し最上級の礼をとった。

 王族は礼を返さなくていいので、彼女はただじっと私を見ている。

 そのまま足早に通り過ぎようとしたら呼び止められた。


「お待ちなさい、ライサ・ロヴェット」

「……はい」


 顔を伏せ、おそるおそる体の向きを変える。


「顔を上げていいわ」


 言われた通りに顔を上げる。

 王女がつかつかと歩み寄ってくる。

 間近で見るとますます綺麗な方だ。清冽な美しさは、国に並ぶ者もないと思われるほど。

 この方がエドガーお義兄様の恋人なのだと思うと、なぜか、胸がキュッと苦しくなった。

 彼女が私に尋ねた。


「先ほどの子どもは?」

「救護室へ運び、体を清潔にして着替えさせました。今は眠っています」

「そう。……あなた、王都の聖堂で子どもに読み書きを教えるようにと、大神官に進言したのですって?」

「は、はい」


 いつの間に私が大神官に直訴したことを知ったのだろう。

 偉い人というのは耳が早いのね……。


「なぜそんなことを?」

「そうすれば、貧しい子どもたちも未来を選べるようになるかと思ったからです。大神官様には却下されてしまいましたが」


 王女は黙りこんだ。

 彼女はしばらくのあいだ私の顔を穴が開くほど見つめ、おもむろに命じた。


「ライサ、二週間後の公爵夫人の舞踏会に出席しなさい」

「舞踏会、ですか?」

「ええ。わたくしも出席します。あなたの義兄のエスコートで」

「…………はい。お招きいただき、光栄です」


 相手は王族だ。断るなんてありえない。


 それなのにエドガーお義兄様が舞踏会で彼女をエスコートするのだと考えると、どうしてか、そんなところには行きたくないと思ってしまった。

 断れないなんて、まるで何かの罰みたいだ。

 けれど、王女はなんの屈託もなくほほえんで、こんなことを言った。


「わたくしのすぐ上の姉は、社会問題に熱心に取り組んでいらっしゃる方なの。紹介してあげるから、あなたの考えを話すといいわ」

「公爵夫人に紹介していただけるのですかっ!?」


 俄然、私は前のめりになって尋ねた。

 オーレリア王女の姉君、この国の元第二王女エイダ様は、アルバン公爵と結婚したために王族を離れて公爵夫人となった方だ。

 莫大な財産と宮廷での強い支配力を持つアルバン公爵から愛と信頼を注がれ、公爵夫人としての務めをこなす傍ら、社会問題や慈善活動にも精力的に取り組まれているパワフルな女性。


 その公爵夫人に引き合わせてもらい、協力を取りつけられれば──神殿に頼らなくても、王都の子どもたちに読み書きを教えることができるかもしれない。


「ありがとうございます、殿下。寛大なお取り計らいに、衷心より感謝申し上げます!」

「そんなにかしこまらなくていいわ」


 王女は呆れたように苦笑した。

 そんな顔も美しすぎて、思わず見とれてしまうほどだ。


「さっき、あなたが迷わずあの女の子を助ける姿を見て、わたくしは自分が恥ずかしくなったの。あんなにぼろぼろの子どもを見たのは初めてで、驚いて動けなくなってしまって……でも、あなたは誰よりも先に行動した。それは女神の御心にかなうことだわ」

「そんな……騎士団育ちなので、傷病人には慣れているだけです」

「ふふ、そうだったわね。エドガーから聞いているわ」


 親しげにお義兄様の名前を呼び捨てる王女にドキリとした。


「エドガーったらあんな堅物のくせに、あなたにはとっても甘いのよね。私といても無駄なお喋りは一切しないのに、あなたの話をするときだけは長くなるのよ? 義妹のライサが努力家だとか、優しいだとか……もうお腹いっぱい、と言いたくなる位。まあ、それが事実だというのは今日わかったけれど」

「……申し訳ございません……!」


 お、お義兄様ったら……!

 私は真っ赤になってうつむいた。

 いくらロヴェット次期当主として家族を大事に思ってくださるからといって、義妹の話など、恋人に長々と喋るようなことではないわよね……。

 しかも、そんなに私を褒めてくださっていたなんて……王女殿下には本当に申し訳ないのだけど、胸の辺りが熱くて、すごくうれしい。

 ……でもやっぱり恥ずかしいわ!

 オーレリア王女はなおも続けた。


「あなた、近頃はエドガーと一緒に音楽会に行ったり、高価な聖石を買ってもらったりしているのでしょう?」

「……はい」

「そのことも噂話で聞いたわ。だから、わたくしの護衛を休んで一体何をしているのかしらと思って……さっきはちょっと冷たい態度を取ってしまったの。ごめんなさいね」

「とんでもないことでございます。それに……義兄はあくまで当主代理として、ロヴェット家のためにそうしているだけですので」


 私は恐縮して答えた。

 神殿騎士が近づいてきて「殿下、そろそろお時間です」と告げた。


「……残念だけれど、もう行かないと。舞踏会でまた会うのを楽しみにしているわね」

「はい、殿下」


 みたび、腰を沈めて挨拶をする。

 王女は優雅に背中を向け、神殿騎士を引き連れて歩いていった。


 最初の印象とは百八十度変わり、オーレリア王女はなんて素敵な方なのかしらと思いながら、私はその後ろ姿を見送った。

 王族なのに、自分が悪いと思ったら私のような相手にもきちんと謝罪できるし、正しいと思ったことには助力を惜しまない。

 あんなに魅力的な女性なら、お義兄様が恋をするのも当然ね……。


 急激に気分が沈む。

 さっきから私は変だ。王女様に協力してもらえるなんて光栄で喜ばしいことなのだから、もっとしっかりしないと。



 ◇



 その翌日、あの女の子のことが気になって、私はまた大神殿へ行った。

 女の子はもういなかった。


 事務員さんに聞いたところによると、あのあと、迷子になった女の子を捜して王都中を捜しまわっていた母親が、藁にもすがる思いで女神に祈ろうと大神殿を訪れたのだという。

 そのときには女の子は起き上がってパン粥を食べ、食事にありつけたことを女神に感謝しようと礼拝堂に祈りに来ていた。

 そして母と娘は、涙ながらに再会できたのだそうだ。


 母親は田舎から王都へ出稼ぎに来ていたシングルマザーだった。

 女の子も一緒についてきたのだけど、ある日、帰りの遅い母親を迎えに行こうとして迷子になってしまったらしい。

 女の子は読み書きができず、王都での住所も言えなかったため、家に戻れずに丸二日間王都をさまよっていた。


「聖女様と神官様たちにも、どうぞお礼をお伝えください。それと、娘が『パン粥がとても美味しかった』と申しておりました。本当にありがとうございました」


 母親はそう言い、大事そうに女の子の手を握り帰っていったそうだ。

 その話を聞きながら、母親と再会できた女の子のうれしそうな顔が思い浮かんで、私の顔もほころんだ。パン粥も食べられたみたいでよかった。


 女神様の思し召しで母親と再会できたから何よりだったけれど、もし二人が会えないままだったらと思うと、心底ぞっとする。

 子どもが読み書きを習える教室は、やっぱり必要だ。


 それから数日、私は舞踏会で公爵夫人にどう話そうかと考え抜いた。

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『お針子令嬢と氷の伯爵の白い結婚』
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