ルームメイトは異世界の
「それじゃあ、日下部さんはここを使ってちょうだいね」
案内されたのは最上階の日当たりが良いバス・トイレ付の1LDKの部屋だった。
全寮制学校の貧乏奨学生に提供される家賃無料の「難あり部屋」と覚悟をしてきたのに、予想外に広くて天井の高いきれいな部屋だったので驚いた。なんでも最初はVIPルームとして使用されていたらしい。いつの頃からか住人が行方不明になるようになり、事故物件扱いになったとか何とか。
「あ、そこのドアは開かないから。気にしなければ大丈夫よ」
リビングには謎の扉があった。なるほど。これが「難あり」の原因のようだ。
「わかりました。これから3年間よろしくお願いいたします。」
寮母の山口さんは手を振ると早々に部屋を出て行った。
荷ほどきの後夕飯を食べに食堂へ降りると、私1人だった。他の入学予定者達は明日以降に入居するらしい。片づけを終えた山口さんは離れの自室へと帰っていき、どうやら寮には私しかいないようだった。
風が強くなり敷地内の木々が揺れ、窓がガタガタと音を立てる。
バンッと大きな音がしたのは、シャワーを浴びている時だった。
バスタオルを巻いてリビングへ行くと、あの扉が開き、見知らぬ高校生くらいの男子が小さめな龍と対峙していた。呪文のようなものを唱えて気を放つと龍が苦しそうに呻き、私の背後へ隠れた。
「えっ、龍神様!?」
「そこの女、邪魔だ。どけ!」
「ちょっ…あんた、龍神様に何してんのよ!」
「ドラゴンをかばい立てするなら、お前も殺す!!」
再び呪文を唱え始める。
「いい加減に…しなさいよ!!」
真言の詠唱を破棄して結界を張り、式神に攻撃させる。直撃を食らった彼が壁に吹き飛ばされ倒れこんだ。
(娘よ、感謝する)
「まったく。なんなのよ、この人は」
(異世界に迷い込んだ我を「ドラゴン」と呼び、殺そうと追いかけ回してきた輩よ。神である以上、我が人を殺すわけにもいかず、困っていたので助かった。どうやら、この扉は異世界と通じているらしいな)
「開かずの扉は異世界に通じる扉だったのね」
行方不明の原因がわかった。
「この人が目を覚ましたら面倒だから、あなたは逃げてちょうだい」
(うむ。あとは頼んだ)
式神を使って扉の向こうへと放り投げてドアを閉めた。効くかわからないけど、お札も貼って封印をした。
「もう来ないといいけど」
ため息をついてベッドに入った。
やがてドンドンッと扉を叩く音がし始めたけど無視した。