第6話 アジト
拷問を終え、僕は男達を地下室に置いたまま、上の階に戻ってきた。
あそこの地下室は僕の結界やら、防護魔法がかかっているためそう簡単に脱出はできないようになっている。
だから放っておいてもさほど問題は無い。
「終わったのかの?」
「まーね。夜、少し僕は野暮用で出かけるから、家の事とイトのことはよろしく頼むよ。」
「……わかった。気をつけるんじゃぞ?確かに主は強いが、限度というものがあるからの。もしもの事があったら、イトが悲しむ。」
「大丈夫だよ。これでも僕はSランク冒険者だよ?そこらのちっこいのに負けたりはさすがにしない。」
言いながら、ハットとコートを着込む。
念の為、魔法武器とかも用意しとこうか。
対応しきれなかった時、役に立つかもだし。
まぁでもちょっと本気で潰す気だし、そこまでの敵もいないだろうけど。
考えながら、必要なものを収納魔法に突っ込んでいく。
すると、後ろからクイッと引っ張られる感覚があった。
「ん?どうかしたかい?イト。」
「えっと……ルナ様、これからどこに行かれるのかお聞きしても、いいですか?」
不安そうに僕のことを見つめるイト。
そんなイトの頭を、優しく撫でる。
「ギルドに行くんだよ。依頼されてた仕事の報告をしに行くんだ。」
「本当、ですか?どこか危ないところに行く訳ではないですか……?」
イトは、察しがよすぎるから……優しすぎるくらいに優しいから僕のちょっとした違和感に気づいて、心配しているのか。
だから、こんなに不安そうな顔で声をかけてきたのか。
あぁ、やはりこの子に拷問を見せなくてよかった。
あの時、夜に部屋に連れて行ってもらってよかった。
彼女は優しすぎるから、きっと自分のせいでこんなことになってしまっていると責めてしまうから。
「うん。大丈夫だよ。帰ってきたら、イトが好きなハンバーグを食べようか。ブラッドホーンの肉だから、いつも食べているのと違う味がするから楽しみに待っていてよ。」
ニコッと微笑みをイトに向けて、収納魔法を閉じる。
「さて、行ってくる。家は任せたよ。」
そうして、玄関に向かう。
あの子に、手を出してきたことを後悔させてやろう。
待っていろよ、レグメリア。
◇
「やつらのアジトまでは分かりませんでしたが、今回の調査でレグメリアが裏で糸を引いていることが分かりました。……ただ、ホールタウン公爵家が相手となると我々冒険者組合ではさすがに対処がしきれない相手になってくるかと。」
「……そうだな。よりによってホールタウン公爵家が相手になるとは、厄介な……。カロスは引き続き調査を続けてくれ。私もホールタウンの周りのことを調べるとしよう。」
「分かりました。」
一言、カロスはそう言って部屋を出ていった。
それにしても、ホールタウンか……。
「何度復唱しても、頭が痛くなるな。」
ホールタウン公爵家はこの国の中では、上位も上位の位の高い貴族だ。
実力も名実ともに優秀。
数々の戦場で戦果をあげ、様々な政策をこの国で立ててきた。
だからこそ、私ではあまりにも手に余る相手すぎる。
地位も権力も冒険者ギルドと拮抗するか、それ以上のもの。
胃が痛くなりそうだ。
そうお腹をさすっていると、突然自分の後ろからこんな声が聞こえてきた。
「大変そうだね。大丈夫かい、コルテナ?」
「……っ!?」
座っていた席から飛び退く。
そして、剣の柄に手をかける。
……が、声のした方を見て、私はため息をついてしまった。
「はぁ……驚かさないでくれ……。」
「窓を閉めてないコルテナが悪い。危機管理がなってない証拠だよ。」
「たしかに私も少し油断していた部分はある。だが、わざわざ窓から入ってくる必要性はないだろう?ルナ。」
「内密の用なんだから仕方がないだろう?堂々とここまで歩くのは少し気が引けたんだ。何より僕はあまり冒険者ギルド内は歩きたくない。」
「前半がほんの少しで、後半が大部分な理由だろう……。」
また、少しため息が漏れる。
「ため息ばかりついてると幸せが逃げるよ。それに今日伝えに来たのは君たちにとってもプラスになる情報だよ?」
「なんだ、言ってみろ。」
椅子に座り直しながら、ルナを見る。
そして、ルナは先程とはまるで違うピリつく雰囲気に変わった。
その変わりように、少し緊張が走る。
「奴らのアジトがわかったよ。」
「!。それは本当か……?!」
「ああ。どうやら、ホールタウン公爵家の地下にアジトがあるらしいんだ。そこで、やつらは奴隷を監禁しているっていう話だ。もちろんホールタウン公爵家もグルだよ。まぁあの屋敷の広さならあってもおかしくは全くない。」
「まさか……ホールタウン公爵家の屋敷自体がアジトだとは……予想外だ。」
アジトは別の場所にあるとばかり思ってしまっていた。
だが、はっきり言って1番安全で厄介な場所ではある。
ホールタウンは、位の高い貴族。
その地位にいることから、我々冒険者ギルドや騎士団から容易に家宅捜索などできるはずもない。
つまりは実質無法地帯になるのだ。
「どうしたものか……アジトがわかってもやつらを潰す証拠があまりにも……。」
「何を言ってるんだい?」
その声とともに、風が私の部屋に入り込んでくる。
顔を上げ振り向けば、ルナが窓から飛び出す準備をしていた。
そして、こう言葉を続けた。
「真っ向からぶっ潰せばいいんだ。問題になる前に叩き潰す。」
「なっ……!?まて、ルナ!」
私の静止を無視して、窓から飛び降りるルナ。
それを追いかけるように、席を立ち上がり窓から顔を出す。
ルナは屋根から屋根へ伝って、走っていった。
あの方向は……ホールタウン公爵家の屋敷があるところだ。
「まさか……!っ……!騎士団に伝えなくては!」
一体、ルナは何を考えているんだ……!
◇
「……さて、ついたか。」
家の屋根から飛び降りる。
大きな屋敷だ。
これだけ大きい屋敷を所持していて、かつ地位も名声も高いのにまだ足りないというのか。
金なんてありあまっているだろうに。
底が浅い。
欲だけが深くなってしまった結果かな。
「残念だよ、ホールタウン公爵家。屋敷には生体反応はないし、消しても大丈夫だろう。〝今、全ての理から目を背けよう。そして、天も地も、海も風も全てを僕は消し去ろう。僕……ルナ・イルム・レーメの元に命ずる。全てを飲み込み、無に帰せ……消滅魔法・エクス・テラ〟」
瞬間に屋敷を丸々飲み込む、白い光の柱が立った。
そうして少し、先程まであった屋敷は丸ごと消し炭になっていた。
残ったのは、地下へと続く階段だけだった。
僕はそのままその階段に近づいて、降りていく。
「悪趣味なことを……。」
階段を下り終わると周りは、牢だらけだった。
中には、囚われたのであろう獣人の娘や戦闘奴隷として売られるのであろう獣人族の男などが入れられている。
中には人間と思わしき、子供などもいる。
「〝身体強化Lv1、完全魔力解放〟」
僕の身体が少し光、そして落ち着いた。
さて……始めようか。
「〝開け〟」
瞬間に牢屋の鍵が、ガチャンッと全て開く。
「とりあえず、これでいいかな。〝拡声魔法〟……〝逃げたかったら全員お逃げ。今なら逃げられる。〟」
そう声をあげれば、檻からぞろぞろと囚われていた奴隷達が出てくる。
全員ボロボロだ。
それなりに酷い目にあっていたようだ。
到底許せる行為などでは無い。
そう考えながら、近くの檻から出てきた女の子に声をかけ、僕の冒険者カードを手渡した。
「あそこの階段を登れば外に出られる。これを持って早く出るんだ。ここはすぐ危険な場所になる。それとこれを騎士団か目に眼帯身につけた黒い髪の女の人に渡して。これがあれば囚われた人全員を保護してくれるはずだ。」
言って、一撫でしてから僕は目的の場所を目指す。
奥ではおそらく悪いのが固まっているだろう。
生体感知魔法にも反応があるし、ほぼ確実だ。
どう出てくるやら。
◇
「ん?なんか部屋の外が騒がしくないか?いつもは静かなのになんだ?」
「……少し見てこよう。お前ら、ズルするなよ?」
「しねーって。ほら早く行け行け。」
「ったく……うるさくしてる奴は誰だ?面倒くせぇ。」
言いながら男の1人が扉を開ける。
「…………あ?」
「やぁ。少し眠っててくれ。」
男の腹部に拳を突っ込む。
男は声にならない声を上げ、倒れ込んだ。
「それで?君たちが雇われた人間たちで間違いないか?」
「っ!てめぇ、どうやって屋敷に入りやがった!」
「気になるなら後で上を見に行くといい。面白いものが見れるよ。連行されながら、ね。」
もう一人の男に急接近して、テーブルに頭を叩きつける。
「次。」
「くっそが!」
ナイフをこちらに振るおうとするが、今の身体強化を使った僕からしたら、小さい攻撃だ。
「そんな攻撃当たらないよ。」
ひらりと躱して、カウンターを決め込む。
すると、紙切れのように吹き飛んだ。
「ありゃ。かなり力は弱めたはずなんだけど……。」
「お前……まさか、至高の魔女か?」
「ん?あー……周りはそんな名前をつけてたっけ。小っ恥ずかしいんだよね、その名前。僕はそんな大それたエルフじゃないのに。……さ、もう諦めて自首してよ。手荒な真似は僕もしたくは無いから。」
「そうかよ……。だが、俺の人生をここで終わりにする訳には行かねーんだよ。諦めるのはそっちの方だ!」
どこから出したのか、女の子が地面から引き出される。
「うぁぁ……!痛い、やめて……!」
「黙ってろ、下等種族が!これでお前は俺を逃がすしか無くなった。黙って見逃せ。」
「…………その子を離せ。」
「態度を間違えるなよ?このまま殺すぞこのガキを。」
拳をにぎりしめる力を強める。
そして、最後の忠告を放つ。
「その子を離せ。このまま、死にたくなかったら。」
男に殺意を飛ばす。
すると、少し男がたじろぐのがわかった。
瞬間に身体強化のギアを上げ、男と僕の距離を一気に縮める。
「へ……?」
間の抜けた声を無視して、顔面を掴み男の腕を手刀で切断した。
そのまま床に頭を軽く叩きつける。
これで脳震盪は確実に起こるだろう。
暫くは立てなくなる。
「ぎ、ぃあああああ!!」
「どうした?まだまだこの程度序の口だろう?君たちは多分これ以上のことをしてきたんだから。」
言いながら、もう片方の腕を切り落とす。
鮮血が飛び散るが、炎魔法によって傷口を焼いた。
「あづっ……?!」
「だまってろ。口を聞けなくされたいか?」
男が落としたナイフを拾い上げ、首元にあてがう。
「さて……質問を始める。お前はYESかNOでしか答えるな。いいな?……まず、ホールタウンはどこにいる?お前らの雇い主だろう。この奥の部屋か?」
「の、NO……!」
「じゃぁ、この部屋のどこかに隠し通路でもあるのか?」
「…………。」
「あるのかと聞いている……!」
グッとナイフをあてがう力を強める。
男はそれに焦って、YESと答えた。
「そうか。わかった。そのままそこで寝ていろ……!」
バキッと頭を殴り付け、そのまま意識を落とした。
「……君、大丈夫かい?名前は?」
「ひっ……!」
ビクリッと僕が近づくとその子は後ずさる。
「ぁ……そうか。ごめんね。大丈夫。僕は君の味方だ。早くここから離れておくれ。ここは危険になる。あそこのドアの先に外へと続く階段があるから、そこから出るんだ。」
女の子に微笑みかけて、その場で立ち上がる。
女の子はドアと僕を交互に見てから、ゆっくりと立ち上がって、ドアに向かっていった。
ドアの前に着くと、もう一度僕に振り向いてから部屋を後にする。
それでいい。
……にしても、隠し通路はどこにあるのやら。
ここもぶち壊した方が早いか?
「……少し手間ではあるけど、部屋の中をいじろうか。」
呟いて、壁やら床を押して確認していく。
そうして少しして、ガコンっと何かが押し込まれる音がした。
「ここか。……えぃや!!」
扉が開くのを待っていられなかった僕は、そのまま壁を蹴破る。
「全く……貴族はなんでこうも隠し通路を好むのか。面倒ばかりかけさせる。」
スタスタと階段をまた下っていく。
ここからは何があるか分からないし、魔法でバフをかけて、対策していこうか。
怪我でもしたら、帰った時イトがショックを受けてしまいかねないし。
思いながら、バフをかけていく。
そうして数分。
奥の方に少しの灯りが見えた。
「やっと着いたか。」
そのままかけおりる。
「そこまでだ!ホールタウン!観念しろ!」
「ひっ!貴様どうやって!」
目の前には、ホールタウンとベットに鎖で繋がれている獣人の女性がいた。
まだ20代前後だろうか。
「……貴様!」
ホールタウンの腕を掴み引きはがす。
「い、いだだだだ?!貴様私を誰だと……!」
「だまれ!腐れ外道が!」
思い切り股間に蹴りを入れ込む。
それで、ホールタウンは泡を吹き始めたが、まだだ。
次に腕を折り、足をおり…最後に……この首を……!
「だめ!!」
聞き覚えのある叫び声に手を止めるのだった。




