イト
あれから、イトと共に僕の家まで歩いて来た。
「ここが僕の家だよ。」
「こ、こ?」
少し小首を傾げながら、僕に聞いてくる。
それにそうだよと返した。
「まずは、お風呂に入ろっか。ボロボロだし、傷の修復にも体は綺麗にした方がいいしね。」
家のドアを開け、中へとイトを連れていく。
イトは私の家をキョロキョロと見回しながら、私の後ろを付いてくる。
「……ね……あれ、なに……?」
「ん?あー、あれはね龍の骨と鱗から作った杖だよ。僕の昔愛用してた特注品でね。今はより強力なのがあるし杖自体も使わなくてもいいから、使ってないんだけど。」
「えっ、と……まじょ、さま?は、強い……?」
「あ、そういえば僕の名前な名乗ってなかったね。ルナでいいよ。それと、僕はそれなりに強いってだけで、特別秀でて強いわけじゃないかな。」
撫でながら、そう答える。
そもそも僕は別に誰かより絶対強くなろうとなんて思ってないし。
自分の身とこの子、イトを守れる力さえあればほかは興味が無い。
それに昔からあまり強さは欲していなかった。
確かに強いに越したことはない。
だが、強さを求めすぎて、その他が疎かになってしまっては問題なのだ。
僕的には悠々自適に暮らせれば、それでいい。
「さ、お風呂はこっちだ。ついておいで。」
「う、ん……。」
イトの手を引き、お風呂場へとまた歩き出す。
風呂場で綺麗にして、ご飯を作らなきゃな。
食べ物を盗むほどにお腹が減っていたということだし。
先程落とした果物も使っちゃおうか。
取っておくだけ取っておいても、腐るだけだろうから。
イトは嫌いなものはないといいんだけど……まぁ栄養を摂るためには今は好き嫌いなんて言っている場合では無さそうだ。
どこからどう見ても、痩せこけている。
かなり過酷な環境にいたのだろう。
こんな子供がここまで過酷な生き方をしなくちゃならない世界って、本当にとんでもない世界だ。
「よし、ここがお風呂場だよ。服を脱いで入ろうか。」
「わか、た。」
そう返事をして、イトが服を脱ぎ始める。
それに合わせて、僕も服を脱ぎ始めた。
その間、無言というのもあれだし、色々彼女に聞いてみることにする。
それによって、これからの方針も固めていける。
「……イトは、お母さんお父さんはいないのかい?」
「…………いなく、なった。殺され、た。」
「そっか……。」
親を殺し、子を奴隷商に売り飛ばす。
この世界では、よくある話だ。
特に多いのはやはり、獣人の親子が狙われるケースだ。
獣人はこの世界では、人権がないと言っても過言じゃない。
ほとんどの国や街で、獣人を差別されている。
何故ここまで、同じ命に区別を付けられるのか。
僕には理解ができない。
それにしても……親がいないとなると、行き場はなさそうだな。
どこの村に住んでいたかも分からないし、そもそも村に住んでいたのかも分からない。
「ねぇ、イト。これは僕からの提案なんだけれど……。」
「ん……?」
私の方を向いたイトの頭に手を置いて、優しく言葉を発する。
「もしも、君が望むのなら……もしも君に行く宛てがないのなら私の家に住まないかい?」
「!」
私の言葉にイトが驚いた顔を向ける。
「突然こんなことを言われても困るだろうけど……私は本気だよ。君が望むのなら僕は構わない。考えておいて貰えないだろうか?」
「いい、の……?私、は……。」
「うん。君に何があるのか私には今は分からないけれど、大丈夫。何があっても君を捨てないし、必ず守る。だから、安心して決めて欲しい。」
すると、イトが僕の言葉を聞いたあと、泣き出してしまう。
「あ、え、ごめん!僕、何か悪いこと言ったかい?!」
あたふたしていると、ぎゅっとイトが抱きついてくる。
そしてこういった。
「こ、こに、住みたい……。他のとこ、嫌……!」
「…………そうか。うん、わかった。じゃぁ今日から君は、僕の家族だ。」
頭をまた撫でりながら、そう僕は声をかけるのだった。
◇
「よし、最初見た時より見違えるほど綺麗になったね。」
「ん〜……!」
タオルで頭を拭いてやりながら、そう声をかける。
最初は泥やら砂埃やらで汚れが酷かったが、それが洗って全て落ちた。
だいぶ洗わなきゃ取れなかったけど。
「さて……体も洗ったし、服を着て、ご飯にしようか。用意しといたから、そこにあるものを着ちゃって。」
「ご、はん。」
「うん、ご飯。今日の献立は、イトが今日持ってた果物を使ったカレーという食べ物を作ろうと思う。」
「かれー?」
聞いたことないというように、キョトンとした顔を僕に向けるイト。
それもそうだろう。
カレーというのはこの世界じゃ、まず存在しない食べ物だ。
原料はあるだろうが、加工ができる技術は今はまだない。
だから、事実上僕しか知らない食べ物である。
「僕特製の料理でね。この料理を現状作れるのは僕だけなんだ。まぁ、教える機会がなかっただけなんだけどね。」
「ルナ、特性、料理……!」
キラキラとした眼差しを僕の方に向けるイト。
「お腹すいたものね。早く作っちゃおうか。」
「うん……!」
やっと子供らしい笑顔を見せてくれた。
少しは安心したかな。
「よし、行こうか。」
「うん……!」
そうして、脱衣所から出て、イトと共にキッチンへ向かう。
「わた、し、なに、手伝う……?」
「うーん、そうだねぇ……じゃぁ、果物と野菜を洗ってもらってもいいかい?」
「わかっ、た。」
◇
「よし、出来た!」
「これ、が、かれー?」
「そう。パンにも合う神食材。これがカレーだ。」
言って、カレーを盛り付けた皿をスプーンと共にイトに手渡す。
「少し食べてみてごらん。」
「ん……!」
短い返事とともにスプーンですくったカレーを口に入れる。
瞬間にしっぽと耳の毛が逆だち、目が見開かれた。
「おい、しい……!!」
「ふふ、それは良かった。さ、パンをもって、テーブルで食べようか。」
「うん、わかっ、た。」
カゴに入れてあったパンを手に取り、先にテーブルへと向かうイト。
僕も皿にカレーを盛り付け、パンを持ち椅子に腰かける。
「手を合わせて、イト。」
「?こ、う?」
「そう。それでは、命に感謝して。」
「かん、しゃして……。」
「いただきます。」
合掌と同時にその言葉を繰り出す。
イトも、私を真似て口に出す。
少しの時間ではあるが、イトを見ていて思った。
幼い頃から過酷な環境に入ってしまったせいで、感情表現なんかも少し無くなってしまっているようだ。
だから、これから少しずつ取り戻せるようサポートはしていけないとな。
できる限り、早く取り戻せるように。
目の前で必死にカレーを食べているイトを見ながら僕はそう考える。
「?どう、したの?」
「ん?いや、なんでもないよ。カレー気に入ったかい?」
「うん……!」
「それは良かった。まだまだオカワリ出来るから、いっぱい食べな。」
こんなに喜んで食べて貰えると、作った甲斐が有るというものだ。
それにしても、こうして家で誰かと食事するのは何年ぶりか。
いつも静かな食卓がひとり増えるだけで、こんなに違うとは。
長生きはするものだな。
「おか、わり、したい。」
「もう食べちゃったか。少し待ってな。」
頭を撫でてやってから、皿を受け取って立ち上がる。
これだけ体がガリガリになるほど、満足に食べられてはいなかったのだろう。
まだ育ち盛りだと言うのに、周りの子達よりも一回りほど背丈なども小さい。
これからたくさんのことも教えていかないといけなさそうだし。
まぁまずは、この子の体を平均的な子達に近づけることを目標にしようか。
「はい、おかわり。」
カレーをもりつけた皿をイトに手渡す。
それを受け取って、また夢中で食べ始めるイト。
それにしても奴隷商か……。
僕は好きでは無いが正規の奴隷商ならまだしも、違法を行っている奴隷商というのは、本当にくだらないし、許せない。
本当に潰してしまおうか。
……なんて、ね。
だが、どうにかしないとイトみたいな境遇の子が増えてしまいかねないのもまた事実。
早く何とかしなくてはならない。
◇
ご飯を食べ終わったあと、イトは机の上で寝てしまった。
色々緊張が解けたのだろう。
さすがにこのまま寝かせると風邪をひいてしまうだろうと思い、僕の寝室のベッドに運んで、寝かせた。
この子の部屋も用意してあげないとな。
この家は僕一人が住むには広すぎるから、たくさん部屋は余ってるし、好きなところを選ばせてあげよう。
「さて……僕は僕で色々やらなきゃならないことが沢山あるなぁ。」
例の奴隷商のことについてだ。
多分、イトはコルテナの言っていた奴隷商から来たのは確かだ。
逃げてきたというのが正しそうである。
と、言うことはだ。
高確率でこの子を追って、関係者は来るだろう。
奴隷商にとって、あの子の種族はかなり価値があるだろうから。
少し、この家にも細工を色々しておこうか。
何があっても対応できるように。
ここからかなり忙しくなりそうである。




