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5 エミール -名前-

 皆で作った『認証ゲート』は効力を最大限発揮し、部外者を排除してくれた。

問題なく作動してから半年後、魔法省入口にも設置することになり、僕を追い回す女性達は格段に減った。それでも、時々魔法省内の女性職員から告白されたりすることもある。


 ある時、魔法省内の休憩室でご飯を食べていた所、女性職員から告白された。いつもの事なので丁重にお断りすると

「諦めるから、最後の思い出として抱きしめて欲しい」と言われ、困った。

何度も何度も断っていたが、無理やり抱きつかれてしまう。必死に剥がそうとしたが、なかなか力が強く離れない。


 そんな時に偶然フレデリカさんがやってきてしまったのだ。誤解を解かねばと慌てていると、フレデリカさんは「おや」という顔をしたかと思ったら平然と去っていってしまった。


研究室に戻っても、その時の事を聞かれたりすることは無かった。ペトルさんにその事を話すと「うっわー。何も興味持たれてねー」とゲラゲラ笑っていた。


 意識もされてないどころか、僕の名前さえ認識されていない。ここに来てからもう8ヶ月も経つと言うのに「後輩君」と呼ばれているのだ。

せめて名前は覚えてもらいたい! と行動することにした。フレデリカさんが「後輩君」と呼ぶたびに「エミールです」と毎回訂正した。


雑用を進んで引き受けたり、コーヒー等淹れたりお茶汲み業務も進んで行い、出来るだけフレデリカさんと交流を持ち僕の名前を覚えてもらおうと、フレデリカさんの後ろをついて回った。

おかげで、フレデリカさんからは時々頼まれ物をする仲にまで進展した。

ペトルさんからは「ヒヨコか、従者か……」と呆れられたりもしたが。


 おかげで、僕を呼ぶ頻度も増して訂正し続けること3か月。やっと「エミール君」と呼ばれたのだ!


「いやー、おめでとう! 名前を呼ばれるまでに約一年。長かったな……」

ペトルさんがポンポンと肩を叩く。


「フレデリカ嬢は、本当に人に興味が無いからなー。顔はまだしも、名前は本当に覚えないよな。未だ覚えられてないヤツが大半なんじゃね?」

「で、でも、フ、フレデリカ、さんは、論文で、覚えるよ」

「ビィルさんは覚えられてますもんね」

少し嫉妬していたことは内緒だ。


「良い論文書くと、フレデリカ嬢に名前覚えられるからなー。俺も、前の固有マナの認証の論文書いた後に覚えられたし。ちょっと嬉しかったな、論文認められたみたいでさ」

「う、うん、ぼ、僕も、嬉し、かった」

ペトルさんとビィルさんの、論文で覚えられた組の二人で喜び合っている。羨ましい。


「良い論文をいつ書けるかわかりませんからね……っ! 良いんです、僕は! 無理矢理にでも覚えてもらったんですから!」

「拗ねるなってー。ほら、お前の女神様が呼んでるぞー」


 実験室の扉から、こちらに向かってチョイチョイと手招きしているフレデリカさんがいた。

「何かご用でしょうか! フレデリカさん!」

勢いよく立ち上がって僕は女神の元に向かったのだった。


「アイツ見てるとさ、犬思い出すんだよなー。忠犬っつーか、シッポ振ってんの丸わかりじゃん?」

「ふふ……、わ、わかるかも。お、大型犬、み、みたい」

「だよなー」


✳︎ ✳︎ ✳︎


 僕がかねてより研究していた録画する魔道具の試作品が出来た。もちろん、フレデリカさんの姿を記録するためだけに頑張ってきた。ペトルさんにはドン引きされつつ応援もされた。


 試作品を持って行き、フレデリカさんに被写体になって欲しいとお願いすると快諾してくれた。


「起動しますよ」

「え、もう起動してるのか……? 何をしたら良い?」

録画魔道具を覗き込んで、僕の方を見て指示を仰ぐ。可愛い。


「僕へのメッセージとかください」

「ええと、少し焦るな……」


フレデリカさんは、少しオロオロすると

「えと……エミール君、完成おめでとう!……これで良いか?」

不安そうに僕を見るフレデリカさんが可愛い。


「頑張ったねとか」

ここぞとばかりに自分の要求を重ねていく。


「エミール君、よく頑張ったな!」

「笑顔、笑顔で!」

「え? えと……エミール君、頑張った!」

最後にちょっと硬い笑顔が、物凄く可愛い。


「……っ! ありがとうございます。終了です」

終わって、ホッと安心したフレデリカさんも可愛い。


早速、撮った映像を空中に投影する。

「わ、私こんななのか……? 恥ずかしいな」


映像を投影してる間、照れっぱなしのフレデリカさんは、滅茶苦茶可愛かった。正直、映像より反応しか見てなかった。

くっ……隠し撮りしておけば良かった。


「でも、映像と音声がちゃんと分離しないでいるじゃないか。凄いな。」

「そこは、こだわりましたから」

「これは発動時間はどのくらいいけるんだ?」

「この、中魔石で5分くらいですかね?」

「おお、凄いじゃないか」


 褒められて舞い上がる。頑張った甲斐があった。もう既に録画するような魔道具はあるのだが、「映像のみ」と「録音のみ」とで分かれていた。そこで二つを合体させたのが、僕の作品だ。


 その後の改良案等をフレデリカさんと話し合うことも出来て大満足した。


 映像を収めた魔道具は、ネックレス型に加工していつでも持ち運べる様にした。これで、いつでもフレデリカさんの姿が見れるかと思うとニヤニヤが止まらない。 


 家に帰ってから何百回と数えられないくらい再生していたら、いつの間にか朝になっていた。


 ペトルからは「ストーカー」と不名誉なあだ名をつけられたが。

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