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10 フレデリカ -デート2-

 二人で帰りの馬車に乗り込み、ガタゴトと揺られる。お互い無言になり、気まずい空気が流れる。


「今日は……どうでしたか?」

「う、うん! 本も買えたしな! 楽しかったぞ!」

慌てて笑顔を作って目を逸らしながら答える。


「フレデリカさん、劇場での事……申し訳ありません。やり過ぎました。調子に乗り過ぎました!」

「え?」


 顔を上げてエミール君を見ると、そこには今にも泣き出しそうな顔をしたエミール君がいた。

「僕はズルをしました」

「ズル……?」

「ええ。普通異性にあれだけ近づかれると、恥ずかしく思ったりするものなんです。心拍数が上がるのは当然なんです。それを……僕は、フレデリカさんがわからない事につけ込んで……」


フルフルと、エミールくんの肩が震えている。

「あまつさえ、それを好きという感情かのように、答えを誘導してしまった……! 焦るあまりに卑怯な事をしてしまいました……。そして、自分の欲望が抑えられず……」


 そこで初めて気づく。自分の事でいっぱいいっぱいで、エミール君の事を考えてる余裕が無かったことに。エミール君は、目も合わさない私の事をどう思っただろう……?


私から『肉体的接触を持とう』と提案したくせに、いざ急に近づくと自分の気持ちを言語化して伝える事もせずに、目を合わさないでコミュニケーションを拒否してしまったのでは無いだろうか?


「フレデリカさんの口から……好きって言葉が聞きたかったんです……。例え、本心じゃなくても……」


エミール君は、ちゃんと自分の心の中を口にして伝えてくれているのに……。いつも伝わってくるのは、強烈な愛情だ。

――そして、同時に私に嫌われる事を凄く恐れているだろうことも。


 私はエミール君の隣に移動すると、手をギュッと握った。なんだか、しょぼくれたエミール君を見てたら手を握りたくなったのだ。


「フレデリカさん……?」

「私は……、まだあの時の感情を言語化出来ていないけど……出来るだけ伝えるようにする。これから、あの時のことを二人で振り返ってみよう。はたして、私は誘導されたかどうかを。」


「え……?」


「あの時の行動と感情を細分化して、分析しよう。エミール君は、誘導したといっていたが、それを決めつけるのは早計ではないか?」


「え? はい?」


「え……と……、近づくのは別に嫌では無かった。そうだな……このくらいから、ちよっとビックリ? 恥ずかしい? 気がする」


 あの時の距離まで、自分から顔を近づけてみる。

そして、エミール君の手を腰に持ってきて、再現する。


「フ、フレデリカさん……っ!?」

「うん、この手が……少し恥ずかしく感じるのかな?でも、うん……。嫌では……ない」

自分の中でも、あの時の感情を分析して言語化すると、わからなかったものが整理されていくのを感じる。


「あの、あの時は……僕も、つい衝動的に動いてしまって……再現されると、恥ずかしくて……」

「私も恥ずかしいが、研究者たるもの分析は必要だろう?」

「はぃ……そうですね、とことん付き合いますよ」

真っ赤な顔をしたエミール君が開き直る。


「で、だ。衝動的にと言っていたが、説明してくれないか?」



「……ぁ……あ……」

エミール君は、口をパクパクさせながら、片方の手を空中を彷徨わせると


「その……いつも、フレデリカさんから良い匂いがしてまして、あの時は暗かったし……性的衝動に負けて……首筋に自分の印を……」

口をモニョモニョ動かしながら、心境を吐露する。


「そうか、この首筋のは君の印だったんだな」

「フレデリカさんは、僕のモノだぞ……とそういう気持ちが押さえられなくて」


至近距離でエミール君を見上げると、口を抑えて目を逸らされる。



「なるほどマーキングか。私もつけたくなるだろうか?」


 エミール君の胸に顔を近づけて匂いを嗅ぐ。

香水だろうか、少し甘くてスモーキーな匂いを感じる。あの時は、慌ててたので感じる余裕は無かったが、確かにこの匂いも混乱した要因の一つだった。


「え……え! フレデリカさん? 何して……!」

「匂いか……確かに、良い匂いだな。ちょっとクラクラする……。でも、この匂いは好きだぞ? マーキングを誘発する匂いか……」


「ひぁ……」

「こら、エミール君! 君がくたばってどうする! これからだぞ! 次は耳元でやったアレだ……!」


自分の耳を髪の毛を掻き上げ露出させ、エミール君の耳元に近づける。

「さぁ……!」


 ギュっと目をつぶって、あの低音の衝動に備える。


……が、待っても待っても、エミール君から言葉が発せられる様子が無い。

目を開けて、エミールの顔を見ると、今までで一番赤いんじゃ無いだろうかというぐらいまで顔を真っ赤にして、涙目でプルプルしていた。


「……すみません!」

急にガバッと体を引き離される。


「限界です……っ!」

「え……」

拒絶されたかと思って、少しショックを受ける。ん……ショック?


「あの、男には……生理現象がありまして……その……」

モニュモニュと要領を得ないことを言う。


「生理? 現象?」

コテンと首を傾げる。今関係あるのだろうか?


「そうです! 好きな人と過剰に触れ合ったりするとですね……その……説明しにくいんですが……」

「んん? よくわからない。……嫌だったか?」

「反対です! 凄く嬉しいですよ……っ! でも……その……」


言葉が尻すぼみして、消え入ってしまう。



「だから……!この検証は……次回で!!!」

「わ、わかった……」

勢いに押され了承してしまう。


「そうだ! 家に着くまで、魔法力学の話でもしませんか? しましょうよ! 買った本はどうでした?」

「ん……? あぁ……! それがだな……!」


 魔法力学の話をふられたので、検証の事は忘れて家に着くまでたっぷりと話し合ったのであった。

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