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8 リュカ王子 -思い出-

 ――兄様は愚かだ。

 フレデリカ姉様という、素晴らしい女性がいるのに捨てようとするなんて。


 僕が8歳になったばかりの頃、授業を抜け出して王宮の庭園を散歩していたら、ガゼボで綺麗なお姫様がポツンと一人いた。

それが、僕と姉様の初めての出会いだった。なぜ一人でいるのかと聞くと、この時間は兄様との交流の時間なのだとか。だけど、兄様はいつも来ないから、いつも一人でいるのだと言っていた。


 なんて可哀想なんだと思った僕は、いつもせっせとガゼボに向かった。

将来の姉になるのだからと『姉様』と呼べば、快くOKしてくれて優しく話し相手になってくれた。


 姉様はとても頭が良く、僕の家庭教師が皆褒めていた。かなり先の内容まで勉強しているが、躓く事なく進んでいるので、このまま行くと早い段階で全ての学習を終えてしまうだろうと言っていた。

一方で兄様は、昔は勉強熱心だったそうだが、ある時から勉強しなくなったのだとか。横に天才の姉様がいるから、比べて卑屈になってしまったのだろうと教師達も扱いに困っていた。


 時々兄様と姉様が珍しく一緒にいる時もあったけれど、その時は姉様だけがニコニコしていて、兄様は仏頂面だった。それでも、その時はまだ会話があったと思う。

姉様と比べる事自体が間違っているのに、兄様は馬鹿だなぁ……と僕は冷めた目で兄を見るようになっていった。


 僕はガゼボで姉様に勉強を教えてもらったりしながら、メキメキと学力を上げていった。テストが出来たと姉様に報告すると、褒めてもらえるのでそれ目当てということもあったんだけど。


 僕が10歳の時に、姉様は飛び級をして学院で習う学習課程を全て卒業してしまった。その頃には兄様は徹底的に姉様を避けるようになっていた。

まぁ、僕が兄様の代わりに姉様といられる時間が増えるから嬉しいんだけどね?


兄様はどんどん卑屈になっていって、僕の事も避けるようになっていった。もちろん学業はボロボロ、よくて人並みらしい。

こんな男が、次代の王に相応しいだろうか? なんなら僕の方が相応しいんじゃないかな?


そしたら、僕が姉様を娶って王になるっていうのもいいよね?


 現段階では、兄様の母様……正妃の実家の権力が強く、どんなに兄様がポンコツでも王太子の座からは落ちなさそうだった。



ギリギリと悔しさで歯が擦り減りそうだ。






 何があっても良いように、僕は王子として完璧を目指す事にした。

兄様が姉様を放っておくので、ありがたく僕がそこに入り込む。


姉様は僕の事を子供だと思っているので、どんなに甘えても応えてくれた。

姉様は、意外と人が弱ってる姿に弱い。悲しんでみせたりすると、すぐ快諾してくれる。本当に純粋で汚れがない人だ。


 ハグも最初断られそうだったが、全開で可哀想な子供アピールをしてみせたらOKしてくれた。もうその頃には既に姉様の肉体は女性として出来上がって来ていたので、大きな胸に顔を埋めるなんていうことも出来た。


 そんな最高の日々を送っていたのに、ある時から姉様が王宮に来なくなった。

学業も終え、王妃教育も終え、兄様も学院へ通い出したし、もう王宮でする事が無いからと、魔法省の研究室に通いっぱなしになったそうだ。元々、兄様とは会ってなかったのに!


僕の方から用も無いのに、研究室に顔を出せるわけがない。第一、婚約者でも無いのだ。兄様が誘っていないのか夜会にも来なくなった。姉様に会えなくなって気が狂いそうだった。

大体、魔法省にいる人間は男が多い。姉様が男共の視線に晒されてるかと思ったら、想像ダケで血を吐きそうになった。



 兄様が学院に通い始めて少し経った頃、兄様と男爵令嬢が仲良くしているという噂が耳に入った。夜会にも出席しているようで、僕も遠目から噂の人物を確認する。

可愛らしいけど、頭がユルそうな女だった。兄様は自分より優れている女の子より、劣等感が刺激されない適度に劣っている女の方が良いんだろうな。



 ――これは好機だ。


兄様とこの令嬢をくっつけてしまえばいい。あわよくば、婚約解消となって僕の手に姉様が転がり落ちてくるかもしれない。そう思った僕は、早速行動を起こした。




 まず、兄様に近づいてギクシャクしていた仲を修復した。その際、男爵令嬢が、僕達の仲を取り持ったと思えるように画策した。


兄様が僕にコンプレックスを感じて、勝手に近寄らなかったダケなのに、それを上手いこと隠して美しい仲直りストーリーに仕立て上げたら、二人ともそれに酔って乗っかって来た。


 僕はそれから、兄様と男爵令嬢の仲を応援するフリをして、男爵令嬢を夜会でエスコートするように唆したり、正妃に据えるよう兄様に進言した。

面白いくらいに、引っかかって転がっていった。サマーパーティで、婚約破棄をしろと言ったのも僕だ。サマーパーティには、両陛下が出席しない予定だったし、その頃は避暑地に行ってるはずだったからね。誰も邪魔が入らないベストタイミングだった。


 思惑通り、婚約破棄を皆の前で宣告して、兄様と姉様は別れた。その日のうちに、書類が受理されたらしい。両陛下がいない現在、裁定の最終決定権を持つのは兄様だったからね。


 翌日、そのまま王宮に泊まったらしい男爵令嬢に驚いた。しかも、同じ部屋だったとか。

結婚もしていないのに、一夜を共に過ごすとは……。頭だけではなく、貞操観念のユルい女は反吐が出る。


 これは、前々から体でも使って兄様を籠絡してたんだろうな。これだから、姉様以外の女は汚い。こちらとしては、兄様が想像以上のバカで助かったけど。これで、兄様の評判はだだ下がり間違いない。



 ローレンツ侯爵家が、早々にフレデリカ姉様に冤罪をかけた件についてと、一方的な婚約不履行に対しての賠償要求を行ったらしい。

同時に、兄様についていた貴族達も次々と離れていった。これで、王位継承権は僕になる可能性が高い。


両陛下も、この一大事に避暑地から急ぎ帰るそうだ。ただ、運悪く道の途中の橋が山賊か何者かに壊されてしまい、帰るのにも時間がかかるそうだが。


市井の新聞では、兄様の醜聞が大々的に報道されている。まだ現状を把握していない兄様は、のんびりと男爵令嬢とイチャイチャしているらしい。本当に汚い二人だ。




 陛下が帰ってきたら、姉様を僕の婚約者に変えることを進言しよう。ローレンツ侯爵家からの賠償金の軽減になると提案すれば、僕の婚約者にすると言い出すだろう。ふふふ。楽しみだ。


先に姉様に挨拶に行ってこようかな? ずっと会えなかったから、プレゼントでも買って僕の事を男だと認識してもらおう。

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