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8.キスしちゃーうぞっ☆

 保健室で篠原に変な絡まれ方をされてから、俺たちは普通に教室に戻ってきていた。

 最初に襟元がはだけていたのは熱を測っていたらしく、当然ただの仮病で保健室に居た篠原は、保健の先生に即刻追い出されていた。ウケる。


 だが一つ問題もあって、保健室を出てから現在に至るまで、篠原が俺の袖から手を放してくれない。

 何度放せと言っても聞こえていない体で話し続けるし、無理矢理振り解こうとすると両腕で俺の腕を抱え込む始末だ。俺は一体どこにドナドナされると言うのか……。


 突然そんな仕様になった俺達が教室に戻ると、クラス中が何事かと騒ぎ立てるわけで、煩わしい質問も幾つも飛んでくる。


「え、二人って付き合ってたの!?」


「だから今朝あんな怒ってたのか……」


「死ね」


 やはりこの様な距離感の男女を見ると、一般的な高校生はそういう反応になるよな。途中ただの暴言が聞こえた気もするが……おいそこの坊主頭!顔覚えたからな!


 だが当然俺たちは付き合っているどころかまともな関係性を築けてすらいない。多少面倒ではあるが、ここで誤解を解いておかないと後々更に面倒になる。


「篠原、そろそろマジで離れてくれ。これじゃあまるで俺達の仲が良いみたいに見えるだろ」


 あえて少し大きめな声で言う事によって、篠原だけでなくクラス全員に俺の意思が伝わる様に言う。

 そうすると大半の人達は興味を失った様に別の話題に切り替えたり、また自分の世界に耽る奴もいた。


 一方の篠原は、先の俺の言葉で離れはしたが座る位置は変えておらず、身動ぎをするだけで肩が触れ合う距離にいる。


「相変わらず神経逆撫でること言うね~」


 今日は俺が何を言っても反発せず、ただ傍に座っているだけで楽だと思っていた矢先、新たな脅威が目の前に降りる。


 謂れの無い怒りを一方的にぶつけながら、猪原が俺の前までやって来て、表情は分からないが、細かなしぐさなどで苛立ちを如実に表現している。


「毎度のことながら、お前が何にキレてるのかは知らんが、せっかく来たなら篠原を引き取ってくれない?」


 どうせ俺に日々の鬱憤をぶつけているだけだろうが、せっかくこのタイミングで来たなら隣で何故か上機嫌に座っているこのギャルを持って帰ってくれ。


「知らないよ~離れたかったら夕奈ちゃんが勝手に離れるでしょ~?」


 俺の願い虚しく、どうやら引き取ってはくれないらしい。


 それでも一日中ここにいる事は無いとは思うが、仮にそうなのだとしたら迷惑極まりない。ここは何としてでも引き取ってもらわねば。


「もぉー、早く離れないとキスしちゃーうぞっ☆」


「えっベツにいいケド?」


 いや、よくないケド?


 逆になんでいいんだよ気色悪ぃな。

 ただ気持ち悪がって離れてくれる事を期待していたが、思ったよりもギャルの貞操観念の低さに驚かされる。キス位は手を繋ぐのと変わらないのか?


 そうこうしていると授業開始のチャイムが鳴り、篠原は名残惜しそうに何度も俺の机の方を振り返りながら自分の席へと戻って行った。


 その際に何か言っていた気がしたが、本当に時間がギリギリだった事とさして興味も無かったので聞き返すことも無かった。
















「マヂでちゅーしてくれても良かったのに……」



 ―――――――――――――――――――――――



 やっと放課後じゃー!


 あの後結局、篠原は休み時間になる度俺の席まで来て隣に座り続けた。

 別に何をするでもなく、適当に話を流し聞きするだけの時間ではあったが、何の目的があるのか、いつ誰に何を言われるか分からない状況は中々にストレスだった。


 そんな中渡海さんに今日一日分からなかった所を説明し、入念に帰りの道順を確認して貰ってから帰ってもらった。かなり疲れた。


 だがそれも終わりだ。俺はこれからサッカー部に行くのさ!帰宅部だがな!


 それと言うのもサッカー部所属でエースでもある陽介から「今日うち自主練だけで顧問来ないから遊びに来ないか?」と誘われているのだ!青春しに行くんだい!


 なんか変なテンションになってきたな。今日は一日中ストレスを抱え続けてからのこの解放だ。多少は大目に見て欲しい。


 そんなこんなで部室まで来ると、先に来ていた陽介と共にさっと(俺は体操着に)着替え、グラウンドに出る。


「あれ、明石先輩。その人新入っスカ?」


 おお、流石陽キャの群生地サッカー部。なかなかの粒揃いじゃないか。


 染めたのではなく、陽に焼ける事で抜けた茶髪に健康的な褐色。何より物怖じせず他人に話し掛けられるメンタリティが素晴らしい。


「どもっス。見学というか視察に来ました。Jリーガーの卵っス」


「えっ……?どういう事っスか……?」


「あーこいつ偶にふざけたこと言うから、あんまり真に受けるなよ」


 陽キャに合わせ、俺が気の利いた冗談を言ってやったにも拘らず、陽介はふざけた事と後輩に言っている。やはりウェイの道は難しい。


「とりあえず適当にアップしてから緩く模擬戦でもするか。悠斗もそれでいいか?」


「任せる。球技はド素人だから加減してくれ」


 まずは柔軟や軽い運動で体を解し、そこからチームを分けて練習試合をすることになった。

 今日の練習は自主練な上強制ではないらしいので、部員はいつもの半分程度しかいないらしい。それでも数十人は居る。


 まだ新学期が始まって二日目と言う事もあってか、グラウンドを使っているのはサッカー部と陸上部くらいしかいないのでかなり広く感じる。


 俺達は軽く体を動かし、早速試合を始める事になった。


 まずはランダムにチーム分けをし、そこからポジションを決める。俺はサッカーのルールすら知らないので、完全に蚊帳の外だ。


「悠斗はとりあえずキーパーでいいか?」


 同じチームになった陽介が気を利かせたポジションに付けてくれた。確かに素人なら適任だろう。本番でもないし、ボールを取れなくてもキレられることも無いだろう。


 そのまま練習試合は開始され、初めは気怠げにプレーしていた部員たちも、開始から数分が経つ頃には熱くなってきていた。


 そんな中、初めて相手チームが陽介率いる部員たちのディフェンスを搔い潜り、俺の居るゴールの近くまで迫ってきた。

 このままだと完全にシュートを打てるポジションだ。俺は少しだけ緊張しながらも、相手の動きを読みつつ重心を落とした。


「パスパス!入れー!」


 だがそいつは直接シュートを打つことは無く、近くに居た比較的マークの緩い部員にパスを回し、そこから直線的なシュートを放つ。


 それは狙っての事ではないだろうが、俺の顔面目掛けて真っ直ぐに飛んできた。


「危なっ!?」


 俺はこの試合が始まってから、もしもボールが来ることがあれば、出来る限りの力で止めてみようと決めていた。

 だがまさか真っ直ぐ顔面に飛んで来るとは思わず、思わず止めるのではなく、避けてしまった。


「えっ……今ボールが顔をすり抜けた……?」


 最小限に首だけを傾ける事でボールを回避してしまった俺は、何故か驚き顔で固まっているシュートを打った部員を気にする事も無く、後ろのゴールポストに吸い込まれたボールを見ていた。


 あーあやっちまった。


 せっかくあんな良いポジションにボールが来てくれたのに、それを避けるとは、キーパー失格だな。


「おい悠斗大丈夫か!?ボールが顔に当たったように見えたけど」


「なんとか大丈夫。それよりこれどうすんの?」


 何故か陽介に心配されてしまったが、俺はそれよりも自分の能力の低さに少し落ち込みながら、後ろからボールを拾ってきてどうすればいいのか聞いた。


 だがタイミングよくゲーム終了の時間になったらしく、俺は陽介にボールを渡して休憩に入った。特に何もしていないので疲れてないんだけどな。


 それからは何度か試合をして、空が茜色に染まる頃解散となった。


 後片づけに参加し、部室に戻って着替える。サッカー部の皆は明るくていい奴だった。だって俺を責めないんだもん。


「そうだ悠斗、この後暇ならなんか食って行こうぜ」


「行きゅ」


 俺、陽介と、飯行く。


 だがこの後、まさか放課後に親友と飯を食いに行くだけであんな事が起こるとは、この時の悠斗は知る由も無かったのだったby未来の悠斗

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