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4.ラブコメなのに

「お前なぁ……始業式の日くらいちゃんと来い」


「はい、すんません」


「普段から遅刻癖がある訳じゃないし、この位にしとくけどな、式典には出席する義務があるんだからな」


「はい、すんません」


 眠い……。これに尽きる。


 俺は何故か担任を名乗るゴリ塚(窪塚)から登校して間もない今、教卓の前に立たされ新しくなったクラスの面々の目の前でお説教を頂いている。


 だが待てよ、この世界はラブコメのはずだ。俺やその他はその舞台装置で、主人公である俺の友人の青春を彩る装飾のはずだ。


 なのになんで担任がゴリラなんだよ!?こういうのは普通、若い妙齢の美人教師で、ハーレムには絶対勝てないくせにいい感じの空気を出すものだろ!?

 それがゴリラって……そんなゴリゴリ(物理)なBLモノじゃねぇんだよ!この世界は!チェンジおなしゃす。


 俺が一人このバグに内心苦しんでいる間の内容は、朝食にはバナナを食べるだとかそんな感じの事を言っていた気がする。(言ってない)早く終わらせて座らせて欲しい。走りっぱなしで足が痛い。


 それから二、三言お叱りの言葉を言われてからやっと解放された。

 先程確認した自分の席には向かわず、ラブコメの主人公にして俺の友人の陽介の机に向かう。


「新学期早々遅刻とか、だらしなすぎ?」


 萌え袖にした手を口許に当て、ポニーテールをふわりと揺らし、愛紗が侮辱の籠った瞳で少年を見つめる。


「あんまこんなコト言いたくないケド、遅刻してきたのにあの態度はナイっしょ」


 夕奈が輝く金髪の毛先をくるくると弄びながら、目も合わせずに呆れた態度で足を組み直す。


「うん~〇ね~」


「おい最後だけおかしいだろ」


 少年へシンプル過ぎる暴言を浴びせたのは叶依だ。こちらは先程の二人に比べると態度こそ普通だが、言葉には比べ物にならない敵意が見て取れた。


「流石にそれは言い過ぎだ」


「ごめんね~」


 陽介が軽く注意すると、三人はそれ以上の追及を止め大人しくなる。


 それから陽介は少年と話そうとしたが、予鈴はとっくになっており、窪塚が何か書類を纏め終わったところで、全員自分の机に座る様に指示される。


「あー本当はこの後に転入生の紹介だったんだが、なんか遅れてるみたでな。とりあえず春休みの課題集めるぞー」


 そしてその後、課題を全員提出し、一応の形式として自己紹介が簡単に行われ、最後に担任からの一年間の抱負の様なものを聞いて解散となった。



 ―――――――――――――――――――――――




「早く寝ろって言ったのに、やっぱあの後もソロで続けてたのか」


「俺はお前みたいに始めてから数日でプロ級の腕にはなんないの!」


 新学期の日程を全て終え、放課後の時間。真っ直ぐ俺に向かってきて気さくに話し掛けてきたこの男こそ、俺の親友にしてこの世界の主人公、明石(あかし) 陽介(ようすけ)だ。


 こいつは顔が良いだけじゃなく、スタイルもかなり整っていて、モデルのスカウトが来たって話も何度か聞いたことがある。

 おまけにスポーツも出来て、勉強は得意ではないと言っているが、やればかなり上位を狙えるポテンシャルを持っている事を俺は知っている。あとゲームがめっちゃ上手い。


「この後暇なら遊びに行かないか?」


 今もこうして、日陰者の俺なんかに遊びの誘いを掛けて来る。性格までいいとは、俺はお前の舞台装置に成れて誇りに思うよ。

 そんな陽介からの誘いだ、勿論断る理由は無い。是非ともお供させていただこう。そう思っていたが……。


「あー悪い、この後ゴリ塚に呼ばれてんだわ。また明日な」


 せっかくの誘いだったが、陽介の後ろにいるハーレムメンバーの強い眼差しが俺を射抜いているのを見つけて、行くのをやめた。

 だって、せっかくのハーレムイベントなのに、俺みたいなのがいたら邪魔でしかないだろ。


「そうか……じゃあまた明日な、悠斗(ゆうと)


 そんな俺の少し下心など知らない陽介は、本当に残念そうな顔で頷くと女子たちを伴って教室を出て行った。


「悪いな。俺はお前の恋路を邪魔するのは嫌いなんだ」


 誰もいなくなった教室で一人ごちると、暫くの間校内をぶらついて気分を変えようと、施錠をしてから教室を出る。


 あと今更ながら、俺の名前は(たまき) 悠斗(ゆうと)だ。46497(よろしくな)


 あまりにも暇すぎて、先程クラスの中でもした自己紹介を、一人脳内自己紹介として反芻しながら、我ながら良い出来栄えに惚れ惚れしていると、廊下でゴリ塚に見つかった。


「なんだお前、まだ居たのか。遅刻してきた分放課後残ってんのか?」


 このゴリラ、何を訳の分からない事を言ってるんだ?

 俺は只陽介たちが完全に学校を出るまでうろうろしているだけなんだが、どうやら何か勘違いしているらしく、一人でうほうほ言いながら頷いている。


「なら丁度いい。一つ頼まれてくれ」


「……え?」





 という訳で、連れてこられました職員室。

『ここで待っていろ』と言う指示を受けてから五分、ゴリ塚はどこかに行ったきり帰って来ない。


 あのくそゴリラ、まさか俺の存在忘れてないよな?何の要件かも告げずに、幼気な生徒を教員渦巻く魔境に一人置いて行くとは、やはり奴はゴリラだ。人間のすることじゃない。


「ねぇ先生、僕そのコーヒー欲ちい」


「これは私物だからダメ。どうしても欲しいならお金払って」


 現代文の若くて美人で評判の金本(かなもと)先生に、母性に訴えかけてコーヒーを強請ってもだめだった。教師が生徒に金銭を要求するとは……この学校の教員はみんなどうなってんだよ。


 金本先生がゆっくりと見せびらかす様にコーヒーを啜るのをじっと恨めし気に見ていると、職員室のドアがバンッと大きな音を立てて開いた。これは見なくとも分かる。こんな馬鹿力でドアを開けるのは人間ではなくゴリラだけだ。


「あっ……遅れてすまんな」


 おい今「あっ」つったか!?こいつ絶対俺の存在忘れてたよな!?


「お前に頼みたいのは、この子の面倒を見て欲しいんだ」


 ゴリ塚は誰もいない空間を親指で指し、面倒を見ろと言った。遂に頭の方まで筋肉に……。


 だが俺の予想は外れていた様で、山の様な体躯のゴリ塚の後ろから、小さい少女がひょっこりと顔を出した。


「さっき教室で言ってた転入生だ。帰国子女で土地勘が無くて迷って遅刻したらしくてな。遅刻者同士丁度いいだろ」


 何故教師はこうして意味も無く共通点で生徒を結び付けようとするのか。それはともかくとして、面倒を見ろと言われてもどうしろというのか。


「日本語もあまり話せないから、そんじゃあよろしく頼むぞ~」


「あっ、ちょい待て!くそゴリラァァ!」


 俺の咆哮虚しく、奴は何も聞こえぬとその体躯に似合わぬ俊敏さで職員室を出て行った。近くに座る金本の溜息が聞こえた気がしたが、今は目先の問題に集中する。


「えーっととりあえず初めまして」


「えっ……あの……?」


「あれ、知り合いだっけ?まぁいっか。とりあえず俺は悠斗です。よろしく」


 目の前の少女が不思議そうなきょとんとした目で俺を見ているが、何も聞かないので恐らくはそれが彼女の素なのだろう。そういう変わった目をした人もいるよな。

 もしくは彼女は知り合いなのかもしれないが、俺は諸事情があって女子の顔を覚えられないので、もし知り合いなら相手から言ってもらうしかない。


「私の名前は綾華(あやか)です。どうも初めまして」


「ん?あぁどうも初めまして」


 どうやら知り合いでは無かったようだが、にこやかな笑顔で、かなりフレンドリーな態度で挨拶された。なんだか違和感のある話し方だけど。そういえばあの霊長類(窪塚)が帰国子女で日本語あんまり離せないって言ってたな。とんでもない爆弾押し付けやがった……


 その後、俺はどうにか身振り手振りを交えて校内を案内した。その間ずっと彼女は何かを言いたそうにしていたが、まだ話せる日本語が多くないのか、口を開いては閉じてを繰り返していた。


「それじゃあ案内はこんなとこかな。何か質問はある?えーっと……」


「……?なん、ですか?」


「ごめん、名前なんだっけ」


 俺は女子の顔だけでなく、名前を覚えるのも苦手だ。相手には申し訳ないと思うが仕方ない。


「綾華。綾華(あやか) 渡海(とかい)です」


「ああそうだった。それじゃあ何か聞きたい事はある?渡海さん」


 改めて名前を聞き、分からない事があったか聞いてみる。もしかしたら日本語が分からないのかもしれないが、俺だって外国語なんて大して分からない。分かるのはペンとパイナッポーとアップルくらいだ。あーん。


「えっと……ありがとうございました?」


 何故か感謝を疑問形で返されたが、恐らく知っている日本語が(ry

 どうやら質問は無いようなので、来た道を引き返し職員室へと戻る。


 その間にお互い話すことは無かったが、渡海さんはずっと俺の様子を伺っている気がした。


「しゃーす、失礼しゃーす」


 職員室に入ると、先程もいた金本とゴリ塚が優雅にコーヒーを飲んでいた。その様子を見て、俺が必死に人の面倒を見ている間、ずっとコーヒーブレイクしていたのかと思うと、本気でキレそうになった。


「おいコラそこのクソゴリラ……」


「おう、お疲れさん。これ報酬のジュースだ」


「窪塚先生……!」


 教師の鑑、窪塚大先生は、俺の好きな赤色のパッケージの炭酸ジュースを報酬として与えてくださった。

 渡海さんにも同じジュースを渡していて、生徒へのケアを忘れない精神は本当に素晴らしいと思います。


 俺たち二人は貰ったジュースを鞄に仕舞い、軽く挨拶だけして職員室の扉を潜る。そして扉を閉める前に、窪塚先生が俺の事を座ったまま呼び止めた。


「そうだ、渡海の面倒、明日からもお前が見ろ」


 やっぱりただのエテ公だったか。

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