93 魔力植物調査 二日目⑥
「兄上……ぼくをずっと支えているのは大変ですよね? 足が下に着くかもしれませんので、一度下に降ろしてもらえますか?」
「わかった」
私は、ゆっくりとシブロン殿下を下に降ろす。自分で立っててもらえれば、私も力を温存できるから有難いけれど……。
シブロン皇子の目の下くらいまで、水嵩があることを確認して、やはり彼をずっと抱えていることにする。
「つま先立ちなら、口がかろうじて出そうですが……」
シブロン殿下も兄想いなのね。少しでもアーノルド殿下の負担が少なくなるように、自分の足で立っていようとしてくれている。
「つま先立ちだとすぐに疲れてしまうから、やっぱり抱えているよ。ほら、しっかりしがみついて?」
シブロン殿下をもう一度、抱きあげる。浮力が働く分、地上で抱き上げるよりかは幾分マシなはず。
「兄上、すみません……」
申し訳なさそうな顔をして、眉尻を下げた状態で謝罪してくる。
「気にしなくてもいいよ。それよりも、ここから出られる方法を一緒に考えようか」
「はい。兄上」
「ん~、居場所に気が付いてもらえるように何か考えないといけないね」
私は、どうやって騎士団員にここにいることを知らせようか思案する。
そうねぇ……もう一度、風魔法を空中に放って……空中ではじけさせたら、空砲みたいな音は出るかしら?
「今から、上空に目がけて風魔法を打つから、大きな音がするから耳をふさいでいて」
「はい、兄上」
私は、シブロン殿下が耳を塞いだのを確認すると、震える手を真上にかざす。
(真っ直ぐ行け……はぜろっ)
パーーーーーーーーーン
「うまくいったよ。もう耳を塞がなくてもいいよ」
私は、成功したことをシブロン殿下に伝える。後は、誰か騎士団員が気づいてくれるのを待ちましょう。
そう思っていると、シブロン殿下の身体がぐにゃりと脱力するのを感じる。
「どうしたの?」
「……」
返事がない。冷たい水に晒されて、体力がもうないのかもしれない。
せーの。よいしょっ
私は膝を曲げて、その勢いでシブロン殿下を肩に抱えるようにする。少しでも水に浸かっている面積が少ない方がいいと思ったからだ。
ん~。風魔法で空中に飛んでみようかしら……。いや、あれは危険ね。私は、まだ自分の身体を浮かすこともままならないのだから、シブロン殿下を抱えた状態で試みたとしても、きっと井戸内部の側面に激突して、怪我をするのは目に見えている。怪我だけ済めばいいけれど、下手したらその勢いで壁側面が削れて、生き埋めになる可能性も否定できない。
「これは、最終手段かな」
私は、シブロン殿下を抱えたまま、別の脱出方法を考える。……あぁ、私の思考も衰えてきて、考える余裕が無くなってきたわ。
身体が冷えてガクガクと震え出した。あと、数分持つかしら。意識が途切れそうだわ……。途切れそうになったら、一か八か空中に飛んでみる方法を試すしかないわね。
その前に、もう一度居場所を伝えるために手を真上に向けて、先ほどと同じ風魔法を真上に打つ。
ドンッ
しまったわ。寒さで手が震えて井戸の入り口の縁に当たってしまった。それで、軌道が逸れてどこかの木々に当たってしまった音がする。
パラパラパラッ
(あ、危ない!)
私は崩落する井戸の土が覆いかぶさってくるのが見えた。生き埋めを覚悟して、身体全体に風魔法で空気層を纏ってみる。でも、やったことがない思いつきの魔法を扱えるようなことはなく
、私は崩落した土の重みでシブロン殿下と共に井戸の水の中に押しつぶされてしまい、意識を手放した。
ごめんなさい、アーノルド殿下……私は、身体を守り切れなかったことを心の中で詫びた。
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