91 魔力植物調査 二日目④
突然の浮遊感に戸惑いながらも、落下しているのはわかっていたので私は慌てて右手で下側にいるシブロン殿下をグイっと引き寄せて、左手で彼の真っ逆さまになっている頭を抱え込む。
間に合って!!
私は空いた右手でよく見えない暗闇に風魔法を放ちながら、私とシブロン殿下の身体も空気の層で覆ってみる。空気層は作ったことがなくて、初めてだったから上手にできているのかはわからない。咄嗟の生存本能でやってみただけのこと。しかも、衝撃を押さえるためだけの風魔法だから強すぎず弱すぎず……周りの恐らく土でできた壁を破壊して自分たちが埋もれない程度の強さしか打てなかった。
ドボンッ
水の中に頭から落下する。慌てて、狭い空間の中でシブロン殿下の顔が水面に出るように、水の中で向きを変えて押し上げる。
「プハッ」
私も水底に手をついて、身体の向きを変えて水面に顔を出す。
「プハッ。ケホケホッ」
あっぶなかった~。思っていたよりも水嵩が少なくて、頭から水底に叩きつけられるところだった~。
暗くて良く見えないけれど、先ほどのイノシシ型の魔物は地上から、私たちの姿を見て荒い息をしている。
あの魔物が入れる大きさの穴ではないことに安堵する。
「怪我はしていない?」
私は、私の身体にがっしりとしがみついているシブロン殿下に声をかける。
「はい。……でも、兄上の方が……」
シブロン殿下の視線が私というか、アーノルド殿下の額を見つめている。
手のひらで触ってみるとヌルッとした感触がある。
あぁ~、ごめんなさい。アーノルド殿下!! 水面に顔を出そうと慌てて、水中で回転した時に額をどこかに擦ってしまい、切ったようです。痕が残らないことを願うしかない。
「ここは、……昔の人が作った井戸か何かかなぁ」
私は、暗闇の中で壁に手を当てる。
「兄上、すみません。木の板が地面に置いてあったのですが、それを踏み抜いてしまいました」
「大丈夫。きっと、井戸に落ちないように木の板を乗せていたんだろうけど、腐敗していたんだろうね」
そうか、やっぱり井戸なのね。両手を広げると壁と壁に手が届くくらいの大きさのようだ。
パラパラパラ
上から、土が落ちてくる。先ほどのイノシシ型の魔物がまだ入り口にいて、興奮状態で入り口の土を蹴っているからだ。
「おかしい……なんで、諦めないの?」
私は、穴に落ちても、ずっと入り口から離れずに今にも飛び掛かってきそうな魔物を見て、眉を顰める。この興奮状態が長く続くと、今度は土を落とされ続けて、入り口が崩落でもしたら生き埋めになる可能性が出てくる。
私は、ふと騎士団員を襲った時の魔物の状況を思い返してみる。あの魔物は団員たちに怪我をさせて、動けない状態にしたらその団員を食べるでもなく、とどめを刺すわけでもなく、前方にいる私たちに標的が変わっていた。
どういうことかしら……。
あの魔物が惹きつけられる何かがアーノルド殿下かシブロン殿下にあるということだ。
「ねぇ、ちょっと抱き上げるから服装を見せてくれないか?」
「はい、兄上」
私は、自分自身の身に着けている物はわかっていたので、まずシブロン殿下を疑ってみることにしてアーノルド殿下よりも小さな弟であるシブロンをひょいっと、首しか出していなかった彼の上半身が全部見えるように水面へと持ち上げてみる。
「ん?」
差しこむ光量が少なくて見えにくいけれど、微かに光に反射する物を見つけて、暗闇の中でそれに顔を近づけてみた。
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