85 魔力植物調査 初日夜②
「アーノルド殿下。お忘れですか? 私は魔術が使えるのですよ? 打ち合わせでここに来るくらい簡単なことですよ」
マヤゴン魔術騎士団長は、ニカッと八重歯を見せて笑う。
「あ~! そうですね! ということは、風魔法で空を飛んでここまで来られたのですね?」
「そうです。アーノルド殿下は……身を清められたところですか?」
私は天幕の端に慌てて追いやったたらいを見つめるマヤゴン魔術騎士団長に驚く。
はっ! しまったわ! 慌てていたせいで、水がぴちょぴちょと床に飛び散っているじゃないの!
「はい……」
私は、まだこれから打ち合わせだというマヤゴン魔術騎士団長よりも、先に休憩させていただいていることを少し申し訳なく感じてしまう。
すると、椅子に裸足のまま座っていたアーノルド殿下のところまで、マヤゴン魔術騎士団長はつかつかと近寄ってくる。
どうしたのかしら?
そう思っている間に、他の椅子の座面に畳んでおいてあった新しい布をパッと広げて、私の足元に片膝をつく。
え?
「失礼致します」
「ぴゃっ」
私がどうするのか聞くまでもなく、きちんと水分が拭き取れていなかった私の足を布でそっと包んで、丁寧に拭きだした。
「マ、マヤゴン魔術騎士団長……すみません。自分でできますので……」
あ~。やってしまったわ。きっとアーノルド殿下として足を濡らしたまま、臣下に入室を許可したのは殿下としてあるまじき行為だったのに違いないわ。
「いえ。もう拭き終わりますので、しばらくお待ちください」
そういうと、私が恥じらってあたふたしている間に、彼は水滴が残っていたと思われる足をさっと綺麗に拭いとってしまった。
「お恥ずかしい限りです……」
私が、小さな声で、ぼそりというとマヤゴン魔術騎士団長も自分がとった行動が意外だったのか、目を瞠り慌てて後ろに下がって立ち上がった。
「大変失礼いたしました」
びっくりした~!!
私は、マヤゴン魔術騎士団長の行動につい声を出してしまったけれど、きっと彼はアーノルド殿下が風邪を引かないようにと気を遣ってくれたんだわと思うことにした。
足元から顔を上げた時に、すぐ近くでマヤゴン騎士団長の整った精悍な顔立ちがあって私はついドキッとしてしまった。
もう。殿方に免疫がないのだから、不意を突かれて心臓が跳ね上がってしまったわ。
自分でも顔が火照っているのがわかるから、きっとアーノルド殿下の顔でも赤くなっているに違いない。
確かに、リアナは女性だから男性に足元を晒すこと自体が慎ましやかではなくて恥ずべき行為なのだけれど、マヤゴン魔術騎士団長は、何も考えずに無意識に濡れたままの殿下の足が気になったのでしょうね。
急に我に返り、彼自身も動揺しているように見える。
そんな気恥ずかしさを隠したくて、私はマヤゴン魔術騎士団長に椅子に座るように促すと彼は、静かにアーノルド殿下の近くの椅子に座った。
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