84 魔力植物調査 初日夜①
野営の天幕設営を騎士団員にしてもらい、火を囲んで夕食も食べる終わる。
少し離れた位置に小さな川があるらしく、そこから騎士団員が天幕まで水を運び入れてくれるので、それで身を清めさせてもらう。
リアナとしてなら、そのまま自分で川に赴いて、ジャバジャバと水に布を浸して身体を拭けばいいのだけれど、今はアーノルド殿下なのだから、暗い足場の悪い夜道を歩いて、自ら身を危険に晒すのではなく騎士団員にお任せして護衛をしやすいように天幕の中にいるようにする。
それに……他の人には私の姿はアーノルド殿下として目に映っているかもしれないけれど、中身は年頃の女性なのだから天幕で一人でこっそり顔も身体もふき取りたいもの。いくらアーノルド殿下だと自分で意識してしても、男性の前で身体を拭くところをあまり見られたくはない。
「は~」
私は、小さな溜息をつく。今日はずっとアーノルド殿下として気を張っていたから、疲れたわね~。
さっき、スックソン騎士団長が、「殿下、お背中お拭きいたしましょうか」と提案して下さったのだけれど、それも丁重にお断りをした。去年のアーノルド殿下だったら、お願いして拭いてもらっていたのかしら……。そんなふうにも一瞬考えたけれど、リアナとしてもそこは譲れない。自分でできますからと、子供らしさゼロで断ってしまったわ。
身体を拭き終わり、足をたらいの中のぬるま湯につけている時だった。
「アーノルド殿下。入っても宜しいでしょうか」
天幕の入り口のすぐ外から、聞いたことのある声が聞こえる。
「ちょっ、ちょっとお待ちください」
私は、急いでたらいの中から足を引き抜き、慌てて足の水をふき取った後、たらいを天幕の端の方に避けると入室の許可を出す。
ゆっくり、低い天幕の入り口に頭を下げて入ってきた人物を見て、私は目を丸くする。
あれ? なぜここにいるのかしら? 彼は第三区域の担当ではなかったわよね?
私は、しばし考え込む。
「マヤゴン魔術騎士団長、お疲れ様です。どうしてここに?」
どれだけ考えても、マヤゴン魔術騎士団長が第三区域にいるのか理解できなくて、彼に直接問うてみることにした。
「いえ。ちょっと様子を見に来たまでです。あとは、第五騎士団長との打ち合わせがこれからありますので、その前にアーノルド殿下の様子を見に来ました」
「そうなのですね。お気遣いありがとうございます」
マヤゴン魔術騎士団長とは、風魔法の訓練で会う機会も多いから何かと顔を合わす機会が多かった。
「なんだか、マヤゴン魔術騎士団長の顔を見ただけで、安心してしまいますね」
私は、少しホッとしたのか緊張状態が少し解れたような気になる。
「確か、マヤゴン魔術騎士団長は第四皇子と同じ、第四区域の担当でしたよね? ここから離れているのに、今から打ち合わせですか? 遠いのに大変ですね」
てっきりマヤゴン魔術騎士団長は馬を駆けて第四区域から第三区域の野営地まで来たと思っていたけれど、そんなはずはなかったのだと、彼と会話をするうちに気が付いた。
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