表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/228

7 薬草採取も楽じゃない

 私が聖女デビューしてから数日が過ぎた頃。

 今日は年長者であるシャーリー聖女と一緒に薬草を採りに、少し西にある森まで行こうと辻馬車に乗って揺られていた。トッシーナ聖女とタチア聖女は医院に残って、来院者の対応をお願いしている。


「ふふふ、あの二人はあまり屋外に出るのが好きではないから、リアナという素敵な後輩が出来て喜んでいるはずね」

「薬草採取はどうしても日焼けしてしまいますしね。聖女と言えども貴族の女性でしたら、日に焼けるのは抵抗がありますよね。私は、孤児院育ちで、野原を駆けまわっていた方なので、全く気になりませんが・・・」

 でも、日焼け後のケアはしっかりしているのよ! シミは大敵って副院長がおっしゃっていたもの。


 シャーリー聖女は日焼けが気にならないのかしらと思っていたら、私の視線を感じた彼女が説明をしてくれる。


「私だって、日焼けはあまり好きではないのよ。でも、市場で売られている薬草よりも自分で採取して、手早く処理をした方が薬効が高い薬になるでしょ? 薬師の方も、よくご自分で採取しに行くと聞くけれど、やっぱり自分の目で確かめて、丁寧に採取したほうがいいもの。根っこの部分も含めて、効果が高くなる薬草もあるでしょ? それを知らずにブチっと引きちぎられた状態で売っているのを見てしまうと、凄く残念な気持ちになるじゃない」


 お~! 日焼けにも負けず、薬効を優先するなんて素晴らしい考えをお持ちだわ!!

 シャーリー聖女は、きっと生粋の聖女なのね。だから、薬効が低くなってしまう採取方法は彼女をがっかりさせてしまうのだろう。私はシャーリー聖女に敬意をはらう。


 薬草について、話をしているうちに辻馬車は森の入り口に到着した。


「あれ? 御者さん。今日はもう一つ先まで行かないのですか?」


 どうやら、シャーリー聖女はいつももう一つ先のところで降車しているようだ。私は、初めて連れてきてももらったので、この辺りの土地勘が全くない。


「あぁ、先週の大雨でもう一つ先まで行く道に山の土砂が流れてしまって、入れないんだよ。足元は悪いけど、歩いていけるって昨日、ここを通った人が話していたから歩いて行ってくれるかい?」

「それは・・・仕方がないですね。今日がリアナと一緒で良かったわ。あの二人なら絶対足元が汚れるのを嫌がって奥まで行かないからね」


 シャーリー聖女と私は御者さんにお礼を告げて、森に向かって歩き出す。


 私も孤児院で駆けまわっていたけれど、山道が得意というわけではないのよね・・・。慣れていないけど、せっかくシャーリー聖女に連れてきていただいたんだから、少しでも薬効の高い状態で薬草を持ち帰ろうと心に決める。


 しばらく歩くと確かに少し先の道に山側から流れた土砂が入りこんでいるし、土砂と共に木がなぎ倒されて道をふさいでいるのが見える。

 確かに、単騎の馬や徒歩だけなら、なぎ倒されている木を避けながら通行できそうだ。そして、今まさに、反対側の森から馬2頭に騎乗した人がこちらに向かってやってきているのが見えている。


「あれは騎士団の制服だわ。きっと土砂の被害状況を聞いて、見回りに来てくださったのね」


 遠くからでも、紺色の生地に手首や首元は白色の線が入っているのが確認できる。ロントクライン公爵領に来てから、私も騎士団を度々目にしたことがあった。


 シャーリー聖女に続いて、私も道の端に寄って騎士団が通り過ぎるのを待つことにした。土砂のせいで、歩いて通れる道幅が狭まっているので、なるべく馬から距離をとって、蹄から跳ね上がる土が聖女の服に付くのを防ぎたいからだ。そういう身綺麗にしようと細心の注意を払っているシャーリー聖女もやはり貴族の令嬢なのね。だって、私なら洗えばいいやと思って、そのまま突き進んでしまっていたに違いない。


 騎士団の2人が通り過ぎると思ったら、私たちの横で馬の歩みを止める。


「聖女様。今から、この先の森に入られるのですか?」

「はい。そのつもりですが・・・」

「この先は、どうやら昨晩も土砂崩れがあったようで、範囲が広がっているから止めておいた方が良い」


 シャーリー聖女は、一瞬残念そうな顔をして、親切な騎士たちに一礼をする。

 騎士たちの背中を見送りながら、

「仕方がないわね。私たちも諦めて帰るしかなさそうね」


 私たち二人は、せっかく足を運んだのに一つも薬草が撮れなかったので、がっくりと肩を落とした。

 まぁ、こんな日もあるわよね。私たちに怪我をしないように忠告してくれた騎士団の方たちの優しさを無駄にしてはいけないわね。


 そう思って、辻馬車が降ろしてくれた場所までとぼとぼと、歩き出した。



読んで下さりありがとうございます!

楽しんでいただけましたら、ブックマーク、⭐︎評価して頂けますと励みになります。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ