77 いつものティータイム
私、アーノルド殿下の中にいるリアナはライガーンの執務室にて、ティータイム中。
「これは、何て言う食べ物? 丸くて可愛いね」
「これはカロンといって西の大陸から広まったお菓子ですね」
「色とりどりで可愛らしいから、どれを食べようか迷ってしまうな~」
そう言うと、丸くて一口で食べられるカロンをお皿にのせる。
今日は、ケーキではないから一人で食べられるわね。
切り分けてもらう必要がないからライガーンの手を煩わせることもなさそうよね。
私は早速、薄い茶色をしたカロンを一つ手にとって口の中に頬張る。
「ん~。歯でサクサクした感触も楽しめるし、中に入っているペーストとよく合うね!」
「お気に召しましたか?」
「うん! とっても!!」
私は、ライガーンに淹れてもらった紅茶と共に、至福の時を堪能する。
「訓練の後に、このご褒美が待っていると思えるから、最近、ライガーンとのこの時間が楽しみなんだ!」
「それは、良かったです。その後、訓練は順調なのでしょうか?」
私は美味しいカロンを嚥下してから、ライガーンの質問に答える。
本当は騎士団長それぞれから報告がいっているはずなのに、私にも確認してくるところがライガーンらしいわね。
「ん~。前よりか風渦巻の威力は上がったってマヤゴン魔術騎士団長は言っていたよ。丸い球状の形をイメージして的に当てていたのを、先の尖った鋭利な形をイメージするようにしてみたら、魔力が以前よりも細くて凝縮されて、威力が上がったみたい」
ライガーンは、ふむふむと静かに頷く。
私の話よりも、一緒にカロンを食べたらいいのに……。
そう思った私は、お皿にのっていた薄い桃色のカロンを手にとって、ライガーンの口元に持って行く。
「ほら! ライガーンも一緒に休憩するんでしょ? 休憩をしっかり取った方が、効率が上がるって言ってたのはライガーンだよ?」
そういうと、ライガーンは頬を赤らめて、顔を背ける。
「もう! 毎日のように口の中に入れているのに、何を今更恥ずかしがっているの」
10歳のアーノルド殿下をイメージして、発言してみたけれど、自分から相手にアーンしてと強要していることに気が付いた私は、自分の行動が急に恥ずかしくなってくる。
何てことなの! 毎日、やっていたから習慣になってしまっていたけれど、男女の仲でお互いに食べさせあいをしていると思ったら、急に居たたまれなくなってきわ!
はっ。今まで気にかけていなかったけれど、ライガーンに婚約者がいたとしたら、私はただの浮気を唆している悪女じゃないの!
それは、いけないわ!
私は、自分の今までの行動を振り返って、慌ててカロンを掴んでいた腕を下ろしてカロンをお皿の上に戻す。
その行動の変化に気が付いたのか、ライガーンがアーノルド殿下の中にいる私の顔を覗き込むように横から様子を窺う。
「どうされましたか? 殿下」
「いや。よくよく考えれば、ライガーンの婚約者様に申し訳ないなと思って。食べさせあうのはさ……もう止めたほうがいいね!」
私がそう提案すると、ライガーンがガバっとソファから立ち上がり床に片膝をつく。殿下である私の両手を握って、首を横に振りながら言葉を続けた。
「アーノルド殿下! お忘れなのかもしれませんが、私に婚約者はおりません。カロンが甘いかもしれないと思って、食べるのを躊躇っただけで、殿下の行動に何ら問題がありません! 宜しければ、もう一度先ほどのカロンを頂けないでしょうか」
ライガーンがえらく真剣な表情で、誤解だと訴えてくる。
「本当に、婚約はしていないの?」
「ええ。何度も申し上げておりますが、殿下がお気になされずとも良いのです!! さぁ、カロンを!」
ものすごい勢いのライガーンに押されて、私は再度、カロンをつまみ上げるとライガーンの口元に持っていく。
パクリッ
一瞬で、カロンがライガーンの口の中に消えていった。
「……ライガーン……何度も言うけれど、指ごと食べるのを止めてくれないかな」
私は、ドキドキする心臓を右手でそっと押さえる。
「ははは。美味しかったですよ、殿下。ご馳走様です」
そう言うライガーンの横顔はいつもと一緒に見えた。ソファに座り直して、紅茶を手にとった。
ただし、いつものティータイムと異なったのは、この後に空気が重たくなるような魔力植物調査の話が続いたことだった。
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