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75 魔力植物調査に向けて

 アーノルド殿下の身体の中にいる私、リアナは、魔力植物調査の参加が決まってから、とても忙しい。

 毎日、マヤゴン魔術騎士団長による風魔法の風渦巻投げの威力を上げていく練習と、ベン騎士団長による弓矢の練習に励んでいる。


 「しばらくは、剣術稽古と空中に浮かぶ練習は後回しにして、風魔法と弓矢の訓練で、的に当てる練習ばかりになります」とライガーンから説明があった。


 まぁ、そうよね。剣術も空中に浮かぶのもまだまだ未熟だから、人前でやると以前のアーノルド殿下との違いに違和感を覚える人も出てきそうだものね。あまり無様な姿を晒すのは良くないし。

 アーノルド殿下が不出来だと思われるのは、避けたいわね。


「でも……」


 私は、休憩時間になると両腕を交差させて、自分で自分の腕を揉んでいる。

 だって、風渦巻投げも弓矢もどっちも、腕を酷使するんだもの!!

 筋肉痛がものすごい。

 アーノルド殿下の筋肉が悲鳴をあげている。


「両腕ばかりの訓練になるなんて!!!」


 私は、訓練場の端にある木の下にもたれて地面に座り込み、痛いけれど気持ちいいと感じる強さで、腕を揉んで息を整えている。

 薄目を開けて真上を見上げると、葉が落ちて隙間だらけだった木の枝に可愛らしい新芽がひょこひょこと盛り上がっているのが確認できる。その枝の隙間から差し込む空の光を見て、小さなため息をつく。


「はぁ、なんだか、いろんなことが起こるから、疲れちゃったな~」


 私は、周りに人がいないことをいいことに愚痴をこぼしてみる。


 アーノルド殿下の身体に入ってからの生活には慣れてきたけれど、殿下本来の実力まで技術も知識も伴っていない上に、初めての公務が決まってしまったわ。まだライガーンが調整してくれているようで、私にかかる負担は減らしてくれているのだろうけど。


 アーノルド殿下の魂の行方もわからないし…。

 ひょっとしたら、私の魂がアーノルド殿下の身体を占領しているせいで、戻って来られないとか?!

 かと言って、私も殿下の身体から魂を抜け出す方法がわからない。


 考えたい事はあるけれど、今はアーノルド殿下の身代わりをきちんと遂行しないといけないわね。


 ライガーンも、マヤゴン魔術騎士団長もベン騎士団長もその他の騎士団員も忙しくしているのに、私だけ疲れたなんて言って、のんびりするなんてできないしね……。


 今は、訓練を終えたあと、ライガーンと食べる甘味が自分へのご褒美みたいになってきている。


 アーノルド殿下の身体は10歳というだけあって、よく動くし、どれだけ食べても太りはしないでしょう。

 うふふふふ。今日の甘味は何かしら? 

 私の意識はティータイムに出てくる物に向いていた。


 そんなことを考えながら、水分補給をしようと水の入った携帯用の水筒から、コップに水を注ぐ。


 プルプルプル……


 両腕の筋肉痛のおかげで、コップにうまく注げずに周りに水が飛び散る。

 乾いた地面にすぐに水がしみ込んでいくのを見届けると、気合を入れて水がなみなみと入ったコップを持ち上げる。


「お願いだから……こぼれませんように……」


 そう小さい声でコップを持ち上げてみるけれど、残念ながら筋肉は私の意志とは別に腕は激しくプルプルと震えている。


「こら! 震えるんじゃありません!!ゆっくり……ゆっくり……」


 自分の筋肉に叱責を飛ばしながら、チャパチャパと揺れる水面をそっと口に近づけていくと、そっと震える私の手を包んでくれる大きな手が伸びてきた。


「へ? マヤゴン魔術騎士団長?」


 いつから、そばにいたのかしら。気配がしなかったけれど、独り言が聞こえていないといいのだけれど。


「アーノルド殿下。私が一緒に支えておきますので、ゆっくりお飲み下さい」


 あぁ、みっともなく震えて水をこぼしていたところを目撃されていたのね。

 恥ずかしいわ。


 でも、ここは甘えさせていただこう。

 だって、これ以上、手が震えていたら訓練着が濡れてしまうもの!! 


「ありがとうございます」


 私は、マヤゴン魔術騎士団長にお礼を述べると自分の両手の上から更に重ねられた温かい大きな手に安心しながら、コップの端に口を付ける。


こくこくこく…


「ん……あ~、美味しかった! とっても喉が渇いていたので、補助して下さり助かりました」


 私はコップを口元からはずすと、もう一度、マヤゴン魔術騎士団長に礼を述べる。


「いえ。こちらこそ、腕ばかり酷使する訓練になってしまい、配慮不足でした。効率良く、習得できるような訓練を行うように致しますので、殿下も辛い時は、遠慮なくお申し付けください」


「でも、早く技術面で心配がないようにしたいから、厳しくしてくれて構わないよ」


 私も、今の技術では魔力植物調査に行くのは不安がある。

 自分にもっと、自信が持てるように修練しないといけないもの。


 そう言うと、マヤゴン魔術騎士団長は私の持っていた空のコップを受け取って、優しく微笑んでくれる。


 そんなに顔を覗き込まれて、彼のチャームポイントの八重歯を見せられるとなんだかドキドキしてしまうんだけど!

 なんだか急にリアナとしての女性部分が感情に出てきて緊張してしまう。


「殿下なら……そうおっしゃると思っていましたよ。私も出来る限りのことはしますので、何なりとお申し付け下さい」

「ははは。マヤゴン魔術騎士団長はとてもお優しいのですね。いつもお気遣いありがとうございます」


 そう言って、火照った顔に気がつかれないように、私は立ち上がり再び訓練を再開するために歩き出した。


 ーーー私の後ろ姿を、不安そうに見つめ続けるマヤゴン魔術騎士団長に私が気づくことは無かった。





読んで下さりありがとうございます!

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