66 医務室で 【side ライガーン】
「一体、何があったんだ? 酔って医務室に運ばれただと?」
侍医に呼ばれた俺は速足で、医務室に向かう。
昨晩からあまり眠れていないというのに、今日は問題ばかりの一日だな。
マヤゴン魔術騎士団長といつもの風魔法訓練を予定では、行っていたはずだ。
それなのに、殿下が酔ってしまうとは不可解すぎる。
そう思って、医務室の扉をノックした後、入室した俺は少し目の前の状況に驚いた。
マヤゴン魔術騎士団長が横たわる殿下の手を両手で握っていたからだ。
そんなに重篤な状況に殿下は陥っているのか?
命が危険な状況にあるのか?
そうでもなければ、殿下の手をとって見守るなんてことしないだろう。
そう判断した。
「マヤゴン。そこを代わってくれませんか」
俺は慌てて、マヤゴンに席を立ってもらい、脈をとったりおでこに手をかざしてみたりする。
「殿下の症状は……酔ってしまわれたのですか?」
「あぁ。空中酔いをされて、気分が優れないようで、おつらそうだ」
空中酔いか……。それならば、この状況も理解できる。
マヤゴンの返事を聞いて、納得がいく。
そうか、今日は風魔法の空中訓練を行ったんだな。
しかし、以前のアーノルド殿下は空中酔いなど起こしたことがなかった……。
きっとこの殿下の中にいるこの女性は、上手にできずに身体が左右上下に飛ばされたのだろう。
「他に、外傷や頭をぶつけたりもしていないのですね?」
「あぁ」
「わかりました。空中酔いが改善するような回復魔法をかけてみましょう」
俺はそういうと、殿下の寝ている顔の上に手をかざして、回復魔法をかけてみた。
「ライガーン殿。殿下は……この回復魔法ですぐに良くなるのか?」
よっぽど心配していたのか、責任を感じているのかマヤゴンは俺に確認してくる。
「う~ん。どうだろうな。すぐに回復は難しいかもしれないけれど、何回かにわけて回復魔法をかければ問題ないだろう」
「そうか……」
マヤゴンは一回で回復しないと聞くと、少し申し訳なさそうな顔をしたように見えた。
「もう大丈夫。あとは、私が殿下の傍にいて、もう少ししたらまた回復魔法をかけておきますから、マヤゴン魔術騎士団長は安心して下さい」
そう俺がマヤゴンに伝えても、彼は立ちあがたままですぐに退室しようとはしない。
「マヤゴン魔術騎士団長が殿下の手を握っているから、てっきり重篤な状態に陥っていると思って焦ったじゃないですか。いつの間にそんなに心配症になったのでしょうね?」
俺は、脅かすなよと遠回しにマヤゴンに伝え、めずらしい彼の行動を指摘する。
「……リアナ」
「はい?」
「彼女の名前だよ。リアナだ。間違いない」
マヤゴン魔術騎士団長は扉の前で立ち止まって、俺を見ずにそうつぶやくとそのまま振り向きもせずに退室して行った。
「は? 」
俺の遅れながらに発した声は、マヤゴンの耳には届かなかったようだ。彼が戻ってくることはなかった。
マヤゴン。あいつ、彼女の名前を本人に確認したのか? 一体どうやって? 魔術で確認したとでも言うのか?
殿下の中の本人に、入れ替わっていることをこちらが把握しているとバレたんじゃないのか?
いろんな感情が一気に噴き出す。
でも、マヤゴンがそれ以上のことを言わなかったのなら、殿下の中の女性には気づかれずに調べたに違いない。
「そうか……リアナと言うのか」
俺は、そうつぶやくとそのまま医務室に仕事の書類を届けてもらい、殿下が目覚めるまで付き添うことにした。




