62 ライガーンの不得手な魔法①
「あれ……」
目を開けた私は、今どこにいるのかすぐに理解できない。
ここは……寝台の上なのね。
えっと、自室の寝台ではなさそうね。医務室に向かうとマヤゴン魔術騎士団長は言っていなかっただろうか。
そうだった……空中酔いをしたのだったわ……。
あの後、嘔吐はしていなかったはずだけれど……。
私は身体に掛けてあった布団をモソモソと動かして、ゆっくり起き上がってみると、寝台の近くの椅子にライガーンが座って何やら書類に目を通しているようだった。
「あの……」
「目が覚めましたか? どうですか、ご気分は?」
まだちょっと、頭がフラフラしているような気もしているけど、先ほどよりは随分と身体が楽になっている。
頭にわずかにクラクラする感じがあり、思わず額に手を当てる。
「ひょっとして、ライガーンが回復魔法をかけてくれたの?」
「えぇ。……ずいぶんとグッタリなさっておりましたが、幾分はマシになっておりますか? まだご気分はすぐれないようですね」
そういうと、ライガーンは私の寝台まで近づいてきて、寝台に腰を下ろす。
私が額に当てている手の上から、彼も手を重ねてくる。
回復魔法を今、かけているのではなくて、殿下を心配して触れてくれているようだ。
「実は、私は傷や骨折などの回復魔法は得意なのですが、船酔いとか馬車酔いとかは、さほど上手ではないのですよ」
ライガーンは、右手の人差し指で頬をポリポリと小さく掻いて、詫びてくる。
「すごく、楽になっているよ。 ありがとう。 ライガーンは何でも得意だと思っていたんだけれど、得意じゃないものもあったんだね。なんか意外で驚いちゃった」
私は、正直な感想を述べる。
あれだけのベルフォン王国でいうところの多分、SとかSSランクとかのレベルを有してそうなライガーンの腕前でも苦手とするものがあったなんて。
回復魔法の優れた使い手とて、万能じゃないとは思ってもいなかった。
「えぇ。傷や骨折の患者はたくさんおりますので、何回も繰り返すうちに上達するのですが……船酔いとか酔っている方というのは、頻繁に遭遇することはありませんので、練習の量が圧倒的に少ないのですよ」
「へぇ……」
私は聖女だというのに、そういう基本的なことも知らなかった。
目の前にこんな素晴らしい師がいるというのに、現在、聖女としての回復魔法が全く使えないのが残念でならない。
本当に。
でも、良いことを教えてもらったわ。
練習を重ねた部分の能力はドンドン伸びていくということね。
ちなみにライガーンにも治せない病気とかあるのかしら。
私は好奇心から、質問してみようと口を開きかけたけれど、それを右手でライガーンが制する。
ライガーンは私の頭の方に手のひらをかざす。
「殿下。少々お待ちください。もう一回くらい酔いがマシになるように回復魔法をかけておきますので、しばらくこのままの体勢にてお待ち下さい」
私は、彼の顔をぼんやりと眺めながら、魔法をかけ終わるのを待つ。
へぇ~。ライガーンてとても顔立ちが整っているけれど、まつげもとっても長いのね……。そんな風に眺めていると、魔法をかけ終わったライガーンと視線が合う。
「あ! ごめん。つい見とれてたよ……」
そう私が見られてしまった!と思って気恥ずかしいそうにすると、ライガーンも一瞬で意識してしまったのか、赤面をして耳まで赤くなる。
いやいや。男性である殿下に見つめられて、照れるってどうなんだ?
そんなにライガーンは殿下のことが好きなのか?
私が彼に見とれてしまうのは、純粋に異性として魅力があるなぁという感じからなんだけど。
私は、質問をすることを忘れてそんなことを思ってしまった。
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