61 君の名 【side マヤゴン】
オレは殿下を抱きしめながら、ゆっくり地面に降りる。
さっきは、やり過ぎだったか。
混乱に乗じて、オレは殿下の中にいると思われる女性の名前を試しに呼んでみた。
違和感なく、うなずいたところをみると、今、腕の中にいるのは「リアナ」という女性で間違いなさそうだ。
彼女の名前がわかっただけでも、何となく嬉しく感じてしまうオレはおかしいのだろうか。
さっさと、職務に戻れ、オレ。
「殿下。一度、横になられますか?」
彼女、リアナはコクコクと頷く。
まだ、空中酔いが続いているのだろう。
「無理をさせてしまい、申し訳ありませんでした」
オレは、殿下の身体とリアナと両方に謝罪をする。ちょっと悪戯がすぎたようだ。こんなにも体調を崩すとは考えていなかった。
もともとの殿下はバランス感覚もよく、初めて空を風魔法で飛んだ時も、難なくこなされていたので、ここまで酷くなるとは正直想像できていなかった。
やはり、殿下の身体であっても、中身が別人なら同じようにはできないと思っておいた方が良さそうだ。
オレは改めて、自分の浅慮を恥じる。
さて……どうしたものか。
普通なら、地面に横たえた方が楽になるような気もするが、相手の外見は第三皇子殿下なのだ。
騎士団員を扱うようには扱えない。
ましてや、中身はお世辞にもふくよかとは言えない、むしろか細い女性なのだから。
「殿下。医務室にお連れ致します」
オレは、彼女を横抱きにすると医務室の方へ向かって歩き出す。
傍から見れば、殿下が体調を崩されて横抱きにされているようにしか見えないのだから、問題ないだろう。
一刻も早く、彼女を楽にしてあげたかった。
なぜなら、オレにはリアナと呼んだ彼女の魂が見えているからだ。
魂だけではない。
彼女の青白く顔を歪めて、我慢している表情もオレには見えているのだから。
オレの血筋ということもあるが、オレの一族はそういう特殊な能力に長けている部分がある。
だから、殿下としての身体もリアナとしての身体も両方認識できているのだ。
ただ視えているだけで、触っているのはどうやら殿下、ご本人の身体のようなので今、腕の中にある感触自体は殿下のお身体ということなのだろう。
「もうすぐ、着きますから」
オレは、殿下に声をかける。苦しいそうに、両目をぎゅっとつぶったままなので、殿下の瞳もリアナの金色の瞳もオレを見つめ返すことはない。
近くで、もう一度あの瞳を覗いて見たかったな。
そんな感情があることに気が付き、オレは自分の気持ちに気が付かないふりをする。
彼女は過去の人間であり、ライガーン殿の話によると20年前に存在している人物のようだとの話だった。
これ以上、深追いはいけない。
オレも、ライガーン殿のようにアーノルド殿下の魂と入れ替わってしまったリアナの魂が元に戻ることを調べなければ、いつまでたってもアーノルド殿下は戻って来られないだろう。
彼女のいるべき場所はここではないのだから。
医務室に着いたオレは、寝台にそっと殿下を寝かせる。
殿下の髪をやさしくなでてから、後のことは回復魔法の使い手であるライガーン殿に任せることにしたオレは、侍医に至急ライガーン殿を呼ぶように指示を出す。
オレはライガーン殿が到着するまで、ずっと殿下の手を握って待つことにした。
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