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59  殿下、手をつなぐ

「マヤゴン魔術騎士団長、こんにちは!」


 私は、少し疲れた表情のマヤゴン魔術騎士団長に挨拶をする。

(何か、問題でもあったのかしら? いつもより元気がないように見えるのだけれど)


「殿下、今日は急な申し出にも関わらず、時間を変更していただきありがとうございます」

「マヤゴン魔術騎士団長みたいに忙しくないから、大丈夫ですよ。それよりも、何か問題でもあったのですか?」

「いや……大したことでは、ございません」


 そっか。マヤゴン魔術騎士団長が大したことないと言うのであれば、大丈夫なのかな。

 私は、アーノルド殿下と私の入れ替わりについて、彼が頭を悩ませてくれているとは、全く考えもしていない。


「では、殿下。早速、今日の訓練を始めましょうか。今日は、足に風を纏う練習をしてみましょう」


 手には風魔法で渦巻をつくれるようになったし、それを的にぶつけることもできるようになったけれど、それとは別のことを始めるみたい。


「アーノルド殿下。私が今から、お見せいたしますのでよく見ていて下さいね」

「はい。宜しくお願い致します」


 私が返事をすると、マヤゴン魔術騎士団長は数歩後ろに下がり、説明を始める。


「足の裏から外にジワ~と風をゆっくり送り出してみてください。そうすると、ほら」


 私は、彼の足元に注目すると足の底から砂埃が少し立ち上がり、拳一個分ほどだろうか。

 空中に浮かんでいるのがわかった。


「わぁ!! すごいね!! 浮びあがるなんて素敵だね!!」


 私は両手をパチパチパチと小さく打ち鳴らして、マヤゴン魔術騎士団長に驚きと感動を伝える。

 その姿を見て、マヤゴン魔術騎士団長は、片方の眉毛をクイッとあげて、いたずらっ子のような表情を見せる。


「おや? おかしいですね。以前の殿下も屋根くらいの高さまでは空中に浮かんでおられましたが、お忘れですか?」


 しまった! 

 つい、リアナとしての感想が出てきてしまって楽しんでしまったけれど、どうやら以前のアーノルド殿下はすでに習得できていた技術らしい。


「……まだ頭をぶつける前のことがおぼろげにしかわからないから、覚えていませんでした! 教えてくれてありがとうございます!」


 私は、心の中で冷や汗を掻きながら、ごまかしてみた。


 すると、プッとマヤゴン魔術騎士団長が吹き出し、顔を横にそらし、右手を拳にして口元を押さえている。

「すみませんね。なんだか、肺から息が飛び出してきてしまいました」


「え? そうなの?! 大丈夫ですか?」


 風邪かしら? それともむせただけかしら?


「えぇ、お気になさらずに……」


 そういうと、何事も無かったように、彼は私に近づいてきて、私の正面に立つ。

 向かい合わせになった彼は、外見は殿下である私に向かって両手を差し出してきた。

 上背のある彼が出した両手は、私の肩くらいの位置にある。


「さぁ、アーノルド殿下。私の両手をしっかり握って下さい」


 えっ? えーーー!? いきなり手を繋ぐの? 


 アーノルド殿下は男性だから、マヤゴン魔術騎士団長と同性なんだし、恥ずかしがらなくてもいいはずなんだけれど……。

 リアナとしての、私は殿方と手は繋いだことが無いんです!!!

 孤児院で小さい子供の手しか握ったことないんだけど……。


 でも、ここで恥ずかしがっていたら、きっと怪しまれる。

 今までの殿下なら当たり前のように手をマヤゴン魔術騎士団長と繋いでいたのだろう。


 よし。やるぞ、私!!


「ちょっ、ちょっと待って下さい。今、ハンカチで手を拭きますので」


 私は、ポケットからハンカチを取り出して、一瞬のうちに掻いてしまった手汗を拭きとろうとしたけれど、マヤゴン魔術騎士団長はそのハンカチをパッとかっさらい、一言。


「必要ありません。さぁ、どうぞ、殿下」


 大きな握力の強そうなゴツゴツした男性らしい手を、私にそのまま差し出してくる。


 はぁ~。女は度胸よね!! 

 えいっ!!


 私は、勢いよく目の前にある彼の両手を握ると、彼はいつものように八重歯を見せてこう言うのだった。


「良くできましたね、殿下」


 何をやっても褒めてくれる。

 甘すぎないか、殿下に。

 マヤゴン魔術騎士団長は、褒めて伸ばす指導方針なのかもしれないわね。

読んで下さり、ありがとうございます!

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