58 マヤゴン魔術騎士団長の心の内 【side マヤゴン】
「ち……どうなってんだ。全く。過去にいるだなんて」
オレは、回廊を歩きながら舌打ちをする。
朝に聞いたライガーン殿の話が、衝撃的すぎて頭の中を反芻している。
頭を固い物でガチンとぶつけられた感じだ。
やがて、一階まで下りてくると、柱と柱の間からオレとの風魔法訓練前に、準備運動をしている小柄なアーノルド殿下が目に入った。
(相変わらず真面目だな、彼女は。アーノルド殿下も真面目で努力家だから通ずるものがあったのかもしれないな)
彼女の姿を捉えると、心が少し落ち着いてきた。
(冷静になれ)
自分自身に言い聞かせる。
まだ、訓練を開始する時間にはなっていないから、と建物の壁にもたれて腕を組み、しばらく殿下の様子を伺うことにした。
正確に言うと、アーノルド殿下の中に入り込んでしまった女性を見つめる。
今日のオレとアーノルド殿下の風魔法訓練は、ライガーン殿が早朝からオレを呼び出してきたので、殿下に時間を変更したい旨を伝えると快く午後の時間に変更をしてくれた。
ライガーン殿がオレを呼び出すのは、昔からアーノルド殿下に何か問題が生じた時だ。
彼はアーノルド殿下を誰よりも大事にしている忠臣であることに間違いない。
だからこそ、殿下のこととなると昼夜問わず、オレを平気で呼び出してくる。
(ここ最近は、呼び出してくるような問題なんてなかったのにな)
そんなライガーン殿に振り回されているオレだが、決して嫌なわけではない。できる限りの助力をオレもしたい。
努力家で孤独にも見えるアーノルド殿下に、そうして差し上げたいとオレも心のどこかで思っていた。
ただ皇太子がまだ決まっていないから、オレのいち騎士団長という立場では誰か一人の皇子ばかりに偏って接することはできない。
全ての皇子に平等でなければならない。
ライガーン殿のように、アーノルド殿下にピッタリ寄り添えることができたらいいのだが、職務上そういうわけにはいかなかった。
ライガーン殿の場合は、四人の皇子の中で一番魔力が高い皇子に就くようにという、皇帝陛下と現宰相の取り決めた指示によるものであって、最初はライガーン殿が好んでアーノルド殿下の傍にいたわけではなかったように見えた。
でも、今となればライガーン殿のような真面目気質な人物が、アーノルド殿下のお傍にいて本当に良かった。
あの女性にとっても、次期宰相と呼ばれるライガーン殿がいたから、良かったのかもしれないな。
他の皇子と入れ替わっていたなら、入れ替わった瞬間に派閥争いや、わけもわからずに傀儡にされてしまう可能性だってあったはずだ。
まぁ、ライガーン殿の場合は、見た目が真面目だけれど、なかなかの策士だということはオレも気づいているが、傍から見れば純粋にア ーノルド殿下をお支えして、手伝っているように見えているに違いない。
それはそうと、今日の風魔法の訓練は、殿下に時間をずらしてもらったわけだが、他の者、例えば魔術副団長や他の騎士団長など風魔法を使える別の者に、アーノルド殿下の風魔法訓練の講師を代理依頼するのには抵抗があった。
なぜだかはわからないが、アーノルド殿下の中に入り込んでしまった女性を、他の者にあまり接触させる気にオレはなれなかったからだ。
だというのに!
オレの考えとは別に第三騎士団のベン騎士団長が、自分の引き入る騎士団員の者を、一緒に殿下の自主練習などにつきあわせていると耳にした。
おいおい……。
騎士団員はいいやつも多いが、むやみやたらに彼女に近寄らないでいただきたい。
勘のいいやつなら、中身が女性っぽいと気付く可能性だってあるんだぞ!!
その場合は、きっとアーノルド殿下のお心が女性のようだという受け取り方をする方が大きいような気もするが。
なんだか、モヤモヤはするけれど、みんなでアーノルド殿下と、中にいる彼女を守れるのであればそれが良いに決まっている……。
それは、わかっているのだが……なんだろうな。
少しだけイラっときてしまう。
オレが殿下の訓練を引き受けているのは、頭をぶつけられて魔法が不安定な殿下をフォローして差し上げたいからだと周りは思っているに違いない。
実際、オレもそのように魔術騎士副団長に伝えてあるから、きっと騎士団の中ではそういうことになっているのだろう。
オレは、ただ単に自分の好奇心から、この女性に興味を持ったのは間違いないのだが……何となく、オレ自身が彼女の相手をしてあげたいと思ってしまった。
なぜだろうな。感情がそう言うのだから、それにオレは従っているだけだ。
オレと彼女との時間を他の者に譲る気はサラサラない。
よし、そろそろ時間だな。
今朝、ライガーン殿に聞いた話が気になって仕方がない。
ちょっと彼女にさぐりを入れてみようかな。
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