57 【挿話】ライガーンとの休憩時間
先日、庭園でライガーンとティータイムを一緒に過ごした。
その後から、毎日、休憩時間におやつが出てくるようになった!!
うふふふふ。 こんな贅沢をしても大丈夫なのかしら?
でも、脳を使って、身体を動かした後に食べる甘い物の美味しいことと言ったら!!
糖分補給って大事よね。
あの美味しさを知ってしまったら、リアナの身体に戻った時に、禁断症状が出てこないか心配になる。
毎回、庭園で食べているわけではなくて、たいていは殿下の執務室まで、休憩時間になると甘い物を運んできてくれるようになった。
しかも、「一緒に休憩しましょう」と必ず、ライガーンと丸いこじんまりとしたテーブルで、雑談をしながら休憩をとるようになった。
「アーノルド殿下とご一緒させていただいた方が、私もゆっくり休憩できているようで、仕事の効率が上がるんです」
ライガーンがそう言っていたから、きっと彼も少しの甘いものと一緒に、紅茶やコーヒーを摂取する楽しさを知ったのかもしれないわね。
でも、先日、庭園でティータイムを過ごした時に私が口にイチゴのケーキを頬張りすぎたのがいけなかったのか、執務室でライガーンと食べる時は、彼自らミニケーキをさらに、「殿下の口に入り切るサイズに調整いたします」って言って、フォークで小さくしてから、そのまま私の口に入れてくるようになった。
ほら、今日も。
「はい、殿下。どうぞ」
「……自分で食べられるよ?」
「いいえ。先日ケーキがはみ出すほど大口で食べて、外に溢れていたのをお忘れですか? ほら、早く口を開けて下さい」
そう言って、私が口を開けるとピッタリと収まるサイズに切られたケーキがフォークの上に乗せられて、私の口の中に運ばれてくるようになってしまった。
外見はアーノルド殿下だけれど、中身は16歳のしかも、女性なのよ! って言いたいけれど、それは言えないから、ライガーンのされるがまま指示に従っている。
「ん~。ほっぺたが落ちそうなくらい美味しいよ。ほら、ライガーンも食べてごらんよ」
私は、目をうっとりとつぶって、頬っぺたに手のひらを当てて、美味しさを堪能する。
至福のひとときを共有したくて提案するけれど、甘い物が苦手なライガーンがケーキを口にすることはない。
「そういえば、今日、外で走り込んでいる時に騎士の人とお話したんだけれど、城下町に新しく美味しいシフォンケーキのお店ができたんだって」
「へぇ~、そうなのですか。さすが城下の見回りもしている騎士は、情報収集能力に長けていて素晴らしいですね」
「それでね。食べてみたいな~って言ったら、その騎士の人が今度買ってくるから楽しみにしていてくださいねって言ってくれたの!! すごく楽しみなんだ!! あ~待ち遠しいなぁ~」
そう言うと、一瞬ライガーンの眉がピクリと動いたかと思うと、顔から表情が無くなる。そして、持っていたコーヒーカップを静かにテーブルに置いた。
あれ? 何かダメな発言あったかしら? 毒を盛られる心配をしているのかしら?
「ちなみに、名前はなんという騎士だかわかりますか?」
「ん? 名前は知らないけれど、今朝、一緒に走ってくれた騎士だよ。髪の毛が金が少し混じった茶色で、目が翡翠色の好青年って感じの騎士だったよ」
「へぇ~。好青年……そうなのですね」
なんだか、ちょっとライガーンが、機嫌が少し悪くなったように見える。気のせいかもしれないけど。
……考え事をしているようにも見えるわね。
「ほらほら、ライガーンもクッキー食べてみてよ! これ、ジンジャー入りだから好きなんじゃない?」
そう言って、私はお皿を左手に持って、右手でそっとクッキーを一枚つまむ。
「ほら、早く。ライガーンも口開けてよ。さっきのお礼に口に入れるからさ」
そういうと、ガバッと顔を私から背けたライガーンの横顔が耳まで赤くなっている。
コラコラ、私に恥ずかしい思いを経験させておきながら、自分は顔を背けるなんて許さないわよ。
私は、早く口を開けるように催促する。
腹をくくったのかライガーンは、私の方を向くと一言。
「早く入れてもらえませんかね」
あらあら。照れ隠しに強がっちゃって。でも、そんなライガーンとの楽しい攻防戦が好きで、私とライガーンの休憩時間はいつも楽しい時間になってきている。
ライガーンはクッキーを持っている私の右手首を掴むと、そのまま彼の口に持っていく。
「あ! お返しに食べさせてあげたかったのに!! できなかったじゃないか!! しかも、指先まで一緒に食べないで!!」
私が、慌てて指を引っ込めると、彼はシレッとした表情で口端を親指で拭ってから、クッキーを嚥下する。
「ご馳走様でした」
まぁ、こんな食べさせあいを目撃されでもしたら、また侍女たちがいろんな妄想をしてしまうでしょうから、毎回、人払いをしているライガーンの指示は的確かもしれないわね。
……本当は人払いをして、二人の休憩時間を楽しんでいるからこそ、彼女たちの想像力がより一層掻き立てられていることに、私とライガーンはいつまでも気が付いていなかった。
■■■
しかも次の日の休憩時間のおやつは、なんと噂のシフォンケーキだった!!
「え? これどうしたの?」
私がライガーンに尋ねると、「偶然、昨日、会話に出てきましたシフォンケーキを手に入れることができました」って答えたの。
すごいわね! 食べたいと口にしていたものが、次の日に出てくるなんて! 運がとてもいいわ。
「ですので、昨日の騎士には殿下用に、もうシフォンケーキを買ってくる必要はなくなったと伝えておきました」
「そうなんだ。買いに行ってもらう手間がなくなったなら、良かったかもしれないね」
私は、昨日の騎士の顔を思い浮かべて、優しい気持ちだけ受け取っておくことにする。
今日のライガーンは、いつもよりも笑顔が多い気がする。
なんでだろうね。
読んで下さり、ありがとうございます。
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