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53 色褪せた手紙② 【side ライガーン】

 この手紙の文字はアーノルド殿下からの手紙で間違いない。

 俺の名前を書くときに右上に跳ねたように書く癖がそのまま出ているじゃないか!


「いったいどういうことだ……。まさかとは思うが……殿下は20年前のベルフォン王国にいるということか?!」


 マヤゴン魔術騎士団長の言葉から、ベルフォン王国のロントクライン公爵領にいた女性と入れ替わっていたことは、理解していたが、まさか時代が違っているとは考えもしていなかった!!  


「なんてことだ……」


 俺で対応できる範疇を超えている。


 今、現在のベルフォン王国に殿下を迎えに行っても会えないということじゃないか。

 殿下の中にいる女性も異なる時代に来てしまっていることに、気が付いているのだろうか……。

 ひょっとしたら、彼女もそれにはまだ気が付いていないかもしれない。ベルフォン王国にいる彼女の身体と会えれば、元に戻れると思って先日、手紙を出している可能性が高い。


 ……この現状を話せる相手は、今のところ一人しかいない。

 マヤゴン魔術騎士団長にこの件を話して、情報共有した上で対策を練らないといけない。


「は~。やっかいな事になってきたな」


 もう眠れそうにない。立ちすくんだまま、右手を額にあて窓から外を見るが夜明けはまだ先のようだ。

 本当に、殿下と再会できる日はやってくるのか不安が襲ってくる。


 外の暗闇を見つめながら、過去に行ってしまった、大人になりきっていない身体の殿下を思い出して、彼を抱き締めてあげたくなった。彼の傍が平和で、心おだやかに過ごせていることを願うことしかできない自分が、とても歯がゆく感じられた。

 無力とは、このことを言うのだろう。何もしてあげられないとは……。



 夜が明けた後。


 俺は朝一番にマヤゴン魔術騎士団長に執務室まで早急にきて欲しいと使いを出し、来室をお願いをしたため、朝食後、すぐにマヤゴンが訪ねてきてくれる。


 はぁ~、まさかマヤゴンの顔を見て安心してしまう日が来るなんて。


 俺は自分でも気がつかないくらい、解決策が思い浮かばずにかなり弱気になっているようだ。

 他に話せる相手がいないのだから、仕方がない。

 マヤゴンの八重歯と軽薄な笑顔を見て気持ちが落ち着きを取り戻す。

 自分の情緒が不安定なのを自覚して、自嘲気味にくつくつと笑ってしまった。


「まったく、朝からお偉いさんは人使いが荒いったらありゃしない。それにしても、ライガーン殿の目の下の隈を拝めるとは、早起きした甲斐があるなぁ」


 そんなはずはない。

 マヤゴンはきっと、朝の鍛錬も軽く終えてから、ここに来ているはずだ。

この男は何もしていないようで、影でしっかり目標を持って行動し、それを成し遂げるだけの能力を持った人物だ。

 でなければ、この若さで魔術騎士団長など、務まるはずがないのだ。


 今日のマヤゴンも相変わらず、俺に構ってきてくれるが、今日はそれが一段と有りがたく感じる。


「朝から呼び出すなんて、よっぽどの案件なんだろ? 抱え込まずにさっさと言ってしまえ」

「何度も申し上げますが、私の方が年上なんですよ。朝早くから来ていただき、申し訳なくは思っていますが、もう少しその物言いは何とかなりませんかね」


 俺も、多少は不快だとそれとなく伝えてみる。まだ、正式には勤務時間前だが、重要案件なのでこの姿勢は崩すことはできない。


「こんな物言いだから、呼んだんだろ? 宰相にも報告できない案件なんて、一つしかないじゃないか」


 やはり、マヤゴンも察しはついていたか……。彼は遠回しに『殿下と女性入れ替わり問題』についてだろうと仄めかしてくる。

 わかっているなら、話が早い。

 俺は昨日、本邸に帰っていたことから順を追って話始めた。





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