47 来訪者
出かける時に飛び上がった場所と同じ裏道に降り立ったぼくは、フォーレス医院に入っていた人物の後を小走りで追う。
(なんだろう。なんか、ローブを身に纏っていたせいか怪しい人に見えたけど……)
風貌からして医院に似つかわしくないような恰好をしていた。
ぼくが、ゆっくり静かに医院の扉を開けると先輩聖女の三人が声をそろえて、おかえなさいと言ってくれる。
いつもなら、その声が嬉しく感じるのに、今はそれどころではない。
さっきの人物がなぜだか気になって仕方がないのだ。
「ただいま戻りました……」
そう言いつつも、ぼくの視線は医院に一足先に入って行った人物を探す。
すると、その人物は入り口左横にある、待合の椅子に座っている姿をすぐに視界に捉えることができた。
年齢はいくつぐらいだろうか……。萌黄色のローブを纏って、フードも深くかぶっているのでよく表情がわからない上に、男女すらも判断ができない。
「先月もお薬をお買い求めに来られていましたよね?」
タチア聖女が、その人物に声をかける。
(なんだ……常連の患者さんかお客さんなのか? 見た目が不審者にしか見えないから、強盗かなとも思ったけど違うのか……)
「そうですね。よく覚えていらっしゃいますね」
その人物はフードをかぶったまま、タチア聖女に返事をする。
(男性か……年齢はわからないけれど、お年を召している声ではないな。どちらかといえば若い男性の声だ)
「ほら、リアナ聖女。問診表をお出ししてもらえる?」
「あ、はい!」
ぼくは、急いで斜めがけにしていたカバンを近くの椅子の上に下ろすと、問診票を手に取って日付を記入する。
そして、その男性の名前を聞こうと顔を上げると、その男性は右手を問診票の上にサッとかざした。
すると、どこからともなく現れた宙に浮かび上がった文字が勝手にペタペタと名前の欄に貼りついていった。
(この男、魔術師か! どこの国の者だ?)
ぼくはとっさに、一歩後ずさった。味方かどうかわからないなら、距離を取るべきだ。近すぎるのはあまりに危険すぎる。
そう咄嗟に判断したからだ。
「あらあら、先月も同じ魔術を見せていただいたのに、リアナ聖女はまた驚いているわよ。すいません、その子、驚いてびっくりしたようで失礼致しました」
ぼくの行動を見ていたトッシーナ聖女が、ぼくを茶化しながらも、失礼な行動があったことをその男性に詫びる。
(リアナ聖女は、この人物と会ったことがあるのか。そして、ぼくと同じ場面を一度見ているのか……)
「いや、よく驚かれるんで慣れていますよ。どうぞお気になさらずに。今日も前回と同じ船酔いの薬が欲しいんだけどあるかな?」
「はい、ございますよ。少々、お待ちくださいませ」
硬直しているリアナ聖女に気が付いたタチア聖女が、動けそうにないぼくのフォローを上手にしてくれて、薬棚を確認しに行ってくれた。
「あなた……やはり殿下ですね?」
「!!」
男が、小さな声で呟いた。
ぼくは、その言葉で後ろに更にもう一歩飛びのき、先輩聖女の三人からは見えない位置で、いつでも手から攻撃魔法が出せるような態勢に入る。
「落ち着いて下さい。私は、敵ではありませんから」
その言葉を信じて良いかわからないため、厳戒態勢を崩すことはない。
そんなぼくたちの空気をよそに、ぱたぱたとタチア聖女が薬を手に持って戻ってくる。
「お待たせ致しました~。お薬は今回もご友人用ですか?」
「ええ、そうです。ここの薬が一番効くらしくて、頼まれるんです」
「そうでしたか。はい、どうぞ」
タチア聖女が薬を渡し、代金を受け取ると、その男性はスッと静かに椅子から立ち上がる。
そのまま、入り口へ向かったと思うと、ぼくたちの方へ振り返る。
「また、来ます」
男性は、そう告げると何事も無かったかのように去って行った。
「はい。またいつでもお越しくださいませ」
タチア聖女が、ぼくの代わりに応対してくれる。
でも、ぼくは彼が立ち去った後もしばらくは厳戒態勢を崩すことができなかった。
なぜなら、彼は「また、来ます。(で・ん・か)」とぼくにしか見えない位置で口だけの動きで伝えてきたからだ。
あれは、本当に敵ではないのか?
かと言って、味方とは限らない。
なぜ、リアナ聖女の中身がアーノルド殿下だとわかっていたんだ?
魔術師には本来のぼくの姿が見えているということなのか?
だとしたら、遠いこの国でぼくが暗殺される可能性だって高くなってくる。
かといって、今のぼくにできることは数少ない。
(……でも、さっきの人物……どこかで会ったことがあるような気がするんだけどなぁ……一体どこで?)
ぼくは、その日、考え事ばかりしてしまって仕事が全く捗らなかった。
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