46 リアナ聖女の高速移動
「リアナ聖女~。これとこれは隣町の教会に持って行ってほしい調合薬ね。この青いのが大人用、赤いのが小児用ね。これは、公爵様宛に出す手紙。それから、薬師様のところからカルテを持ってきてほしいのと、乾燥の終わった薬草を持って行ってもらって、最後に公爵様の薬草園でここに書いてある薬草をそれぞれ採取してから乾燥させて欲しいのだけど、お願いできる?」
「はい。承りました、シャーリー聖女」
リアナ聖女の中に殿下であるぼくが入って、回復魔法を使えなくなった代わりに、風魔法を使って仕事を始めて1か月が過ぎた。
ぼくも仕事にも慣れ、土地勘もついて来たから、一度行った場所にはすぐに行けるようになっていた。
「本当に、仕事が早くて助かるわ~。リアナ聖女って実は分身して動いているんじゃないでしょうね?」
トッシーナ聖女が茶化しながらも、ぼくを褒めてくれるので嬉しく感じる。
「ははは。まさか! では、行ってまいります!」
「は~い。気を付けて行ってきてね~」
「「「いってらっしゃーい!! 」」」
こんなやり取りが、ほぼ毎日、フォーレス医院では繰り返されている。
ぼくは、外に出て人通りの少ないレンガとレンガの塀の隙間をぬって裏道に入る。
見た目はリアナ聖女なのだから、白い聖女の衣装を身に纏ってはいるけれど、スカートの中には膝丈のズボンを履いている。
そこには、小さい暗器を一つだけ仕込んでいる。
彼女の給金からでは、まだ高価な武器は買えないけれど、ぼく自身が働いて稼いだお金で一つだけ購入することにした。
徐々に増やしていけば、いいだろう。丸腰よりかはマシだろう。
「よし、まずこれは公爵様宛の手紙…と」
裏道に入り込んだぼくは、手紙に公爵様の邸宅の門番のところをイメージして手紙を空にゆっくりと上げていく。屋根の高さよりも少し上くらいまで浮かんでから、心で念じる。
(行け)
すると、手紙にはぼくの魔法で行先登録してあるので、そのまま
シューーーーーーーーーーーーン
と一瞬のうちに飛んでいった。
あの速さなら、鳥よりも速いから横取りされることもないだろう。例え、何か手紙にトラブルがあっても、防御魔法と追跡機能もついているので、どこかに持ち去られたとしても簡単に開けられることはできないし、追跡することは可能だ。無事に門番が受け取ったら、その魔法は解除すればいいだけのことだ。
「残りの仕事は……ぼくが直接、出向いた方が良さそうだな」
ぼくは、左右に人の往来がないことを確認して、
シュンッ
一瞬のうちに上空まで移動する。
「この高さなら、目立たないな。よし、まずは教会からだ」
シャーリー聖女に手渡された革でできたカバンの中身を確認すると、ぼくは空中に浮かんだまま高速移動を始める。
この高速移動は、正直、ラーン帝国にいる時のぼくはまだ習得できていなかった。
魔力が安定していなかったのと、時々、魔力が切れそうになる感覚があったので、屋根くらいの高さで今よりもスピードはゆっくりしか移動できなかった。
少し前の休みの日に、たまたま空中移動の練習をいつもの広場でやってみたら、とても簡単に高速移動ができることにとても驚いた。
「あぁ。あの時の授業で、マヤゴン魔術騎士団長が説明していたことがやっと理解できた」
アーノルド殿下の身体は成長過程にあったから、まだ習得に数年単位の時間がかかると思われていたけれど、リアナ聖女は魔力も豊富で、風魔法を使っても安定している。魔法を使っていても、ぼく自身、とても安心感があった。
「すごいな、人の身体に入って魔法を使うと、自分の何が足りていなかったかよく理解できるもんだな」
リアナ聖女の身体で魔法が使えるとわかってから、いろんなことを試してみたところ、アーノルド殿下の身体ではできなかったことでも、リアナ聖女の身体の中であれば、いとも簡単にできてしまうということがわかってきた。
これで…またぼくが、本来の身体に戻ったら、出来なくなると思ったら少し残念だけど、成長が落ち着けばこれくらいできるってことだろうな。それは、それで楽しみだな。
そう思えて、この入れ替わっている状況も楽しんでいた。
シャーリー聖女から依頼された仕事が全て終わったので、帰りはのんびりと帰ることにする。もちろん、空中移動で。
ベルフォン王国の景色を楽しみながら、ゆっくり移動するのも、ぼくの好きな時間だった。
上空だと少し風が冷たくて、遥か遠くに見える山脈の頭に積もっている雪を見ると、ラーン帝国の雪が懐かしく感じる。
「そういえば、ライガーンには手紙が届いたのだろうか。全然、返事も迎えも来ないということは、検閲に処分されたかもしれないなぁ…」
そう独り言をつぶやくと、遠目にだがフォーレス医院の入り口の扉を開けて、中に入ろうとしている人物が見えた。
「!」
気のせいかもしれないけれど、今、その人物が振り向いてこちらを見たような気がする。
さすがに遠すぎて、ぼくの姿は見えていないと思うのだけど……確かではない。
飛んで移動しているのを目撃されたかもしれない。
別に悪いことではないし、見られても構わないけれど、リアナ聖女と身体が元に戻った時のことを考えると、リアナ聖女の実力と差がつくような行動はあまりしないほうがいいと認識していた。




