41 殿下の心配事
ライガーンは両手を組んで、テーブルの上に置く。視線は私の方に向けたまま口を開いた。
「殿下は……その……頭をぶつけられてからですが、何かご心配なこととかはございませんか?」
いつもライガーンは私に気を遣ってくれているけれど、他にも心配な事がないか聞いてきているのかしら?
「えっと……」
何かあったっけ?
私は、急に聞かれても今の生活と訓練でいっぱいいっぱいで余裕がないので、すぐに答えることができない。
それを察したライガーンは、もう少し話を掘り下げてきた。
「そうですね……。例えば、何か怖い夢を見るだとか……、誰かに連絡を取ってみたいだとか……、欲しい物があるとか……何でもいいのですけれど。今の殿下に必要な物はございませんか?」
「う~~~ん。そうだなぁ~」
私は、殿下の身体の中にいる生活に慣れてきたけれど、困っていることかぁ……。
一番困っているのは、リアナの身体と合流したい!ってことだけど、それは言えないしなぁ。
空に浮かぶ流れる雲を見ながら、何かなかったかしらと考えてみる。
「そうだなぁ。今の質問に順番に答えていくとしたら、怖い夢は見るかなぁ。同じシーンばかりだけど」
「それは、どういった夢なのかお聞きしても構いませんか?」
「それはね……」
私は、言うべきか悩むけれど、言っておいた方がいいかもしれない。
ひょっとして、私、夜中に叫んでいたのを聞かれたのかしら?! そうだとしたら、心当たりがありすぎる!
だって、私はたびたび同じ夢を見て、うなされて夜中に起きることがある。ひょっとしたら、うめき声とか叫ぶ声が寝室の前にいる護衛の耳に届いていて、ライガーンに報告が上がっているかもしれない。
きっと、そうなのね。声が聞こえていたのね。
そう思い至って、正直に話すことにした。
「えっと……ここ最近は、同じ夢ばかりなんだけど、土砂崩れに巻き込まれる夢かな」
「土砂崩れですか?」
ライガーンは、夢の中の話だというのに、真剣な眼差しで聞き返してくる。
夢占いでもするつもりなのかしら。
「うん。土砂が崩れてきて、一緒に歩いていた女性と一緒に走って逃げるんだけど、その土砂に巻き込まれて身体が吹き飛んでしまうんだ。そこで慌てて、飛び起きるってことがよくあるかな」
嘘は言っていない。土砂崩れに巻き込まれた記憶が何度も繰り返し夢の中に出てくる。
それが、リアナとして本当に巻き込まれた話だとは言えないのだけれど、アーノルド殿下がリアナの身体の中にいるとしたら救出してもらえただろうか。きっと大けがをしているに違いない。
ダメね。私の不安がきっと、夢になって表れているのだと自分でもうすうす気が付いている。
「そうですか……それは怖い夢ですね。私が夢の中で殿下のお傍にいてお助けできたらいいのですが……」
「ありがとう。じゃあ次にその夢を見たら『ライガーン!!』って叫んでみることにするよ」
私は、はにかみながらそう冗談を言って心配をさせないようにする。
「夢の中でも馳せ参じます」
この言葉だけを聞いたら、ライガーンのような美丈夫に世の女性はときめいてしまうでしょうねと思い、ふふふと笑ってしまう。
「殿下。夢以外に何か気になっていることはございませんか?」
「う~ん。あ! 手紙を送りたい人がいる!」
そうだよ~。コレ、コレ! ずっと送りたかったのに、失念していた!!
「どこのどなた宛てでしょうか? 便箋をすぐにご用意いたしましょう」
「えっとベルフォン王国のフォーレス医院って場所で、遠いんだけど出しても大丈夫かな?」
「そうですね。国を跨ぎますので、検閲で検めた時に処分されない内容が良いかと思います。封をされる前に私が内容を確認しても差し支えございませんでしょうか?」
う……ん。多分、大丈夫だよね。シャーリー聖女が無事だったのかとリアナの身体がどうなったのか知りたいだけだし、元気に生きているっている確認が取れればひとまず安心だからね。
「うん。いいよ。じゃあ、後で書くから手配を宜しくお願い致します」
そうライガーンとの話と楽しかったティータイムを終えて、執務室に戻った時には机の上にまっさらな便箋が何種類も取り揃えられて、用意されていた。
さすが、ライガーン。仕事が早い!
しかも、可愛い便箋からシックなデザインの便箋まで各種用意してくれる心遣いが素晴らしい!!
女心なのか殿下心なのか知らないけど、よくわかっているわね!
そう心の中で絶賛すると、すぐに机に向かって文をしたためた。
読んで下さり、ありがとうございます!




