40 二人だけのティータイム
「わ~、美味しそうなケーキ! ライガーンと一緒にお茶できるなんて幸せだね! 誘ってくれてありがとう!」
最近甘い物が食べたくて仕方がなかったの! だって、運動もしてカロリーたくさん消費しているから、甘い物を食べても、カロリーを消費する自信はある!
「以前は…アーノルド殿下は甘い物をあまりお召し上がりにならなかったので、食の好みが変わっていることに気が付かず失礼致しました」
私だって、甘い物を毎日食べる貴族令嬢のような生活は送ってきていなかったから、ごくごくほんのたまに手に入れた甘味がとても贅沢な時間だったなぁと孤児院時代を思い出す。
それでも、目の前に置かれた可愛らしい一口サイズのケーキが色とりどりに並んでいるのを見ると、どんな味がするのか食べた事がないから気になってしまう。
あれはイチゴでしょ? こちらはオレンジのムースかしら。それから、あれは、りんごのパイね。
はぁ~、なんて可愛いケーキなんでしょう!
私が迷いながらも、視線を定めていたケーキを、取り皿にさっとライガーンは取ってくれる。
何も言っていないのに、なんでわかるの?! 私の心でも読めるの? 凄すぎない?!
「ありがとう。ライガーンはどれを食べるの?」
私が聞き返すと、ライガーンは一瞬戸惑った顔をする。
(あれ? 一緒に休憩しましょうと言っていたけれど、ライガーンは甘い物が苦手だったのかな?)
そう思って、甘く無さそうなクッキーを2枚、ライガーンのお皿に取り分けてのせてあげる。
取ってくれたなら、取ってあげる。どうだ! 優しさの倍返し!! 押し売りかもしれないけどね!!
そんな私の行動がおかしかったのか、ライガーンが笑いながら私の行動を諫める。
「殿下自ら、取り分けてはいけませんよ」
「え? でも、今は二人だけだからいいんじゃない?」
そんなに殿下は自分であれこれやってはいけないのだろうか。いちいち人にやってもらうのは窮屈だなと思ってしまう。
「今は、構いませんが、侍従や侍女たちのお仕事を取り過ぎてもいけないのですよ。殿下の身の回りのことをすることが我々臣下の幸せなのですよ」
ライガーンはふっと片目をつぶって、ほほ笑みながら教えてくれる。
そうか、それもそうね。彼らの仕事を取るのはよくないわね。やはりTPOで使い分けたほうがいいってことだろう。
「じゃあ、殿下に選んでいただいた、こちらのクッキーをいただきますね」
そういうと、ライガーンは一口でクッキーを食べてしまう。
私も早速、取り分けてもらったケーキの皿を手に取って眺める。上には今が旬のイチゴが飾ってあって、見ているだけで元気になる。
それを、勢いよくパクリ。
(あっま~い!)
私も一口で、口にほおばると自然と顔をほころんでしまう。
心までホワホワに溶けてしまいそうよ!
「殿下……。殿下でしたら一気にほおばるとリスみたいな顔になっていますよ……」
そういうライガーンは、とても面白い物を見たかのような顔で、口もとに握った右手を添えて、くつくつと笑う。
ライガーンも意外とよく笑うタイプなのね。
アーノルド殿下の口の中は小さくて、16歳の私の口のサイズで入ると思っていたケーキを、一気に口に入れたのは間違いだったと気が付く。
「殿下……。口元にクリームがついていますよ」
しまった! やっぱり殿下の口に全部入り切らずに外に溢れてしまっていたのね!
ライガーンはナプキンで、母親が小さい子にするように殿下の口元のクリームを拭きとってくれる。
なんだか…懐かしいわね。孤児院にいた時に小さな子供たちの顔やぺとぺとした手を拭きとっていた自分を思い出す。でも、今は自分がされている側だ。ちょっと…いや、結構、恥ずかしいわね。
「はい。取れましたよ。殿下の可愛らしいお姿を見る事ができるのは役得ですがね」
「あ、ありがとう……」
やっと、口の中の物を飲み込んだ私はライガーンにお礼を述べる。
きっと、恥ずかしくて頬っぺたが赤くなっているかもしれない。そこは触れないで欲しい。
殿下の中身はケーキに貪りついた妙齢の女性だという自分を想像したら、子供じみていて恥ずかしさが倍増してしまった。
傍から見たら男二人が庭園でお茶会を開いているように見えるだろう……。
でも、私はこんな素敵な庭園で美味しい物を食べるということをしたことがなかったので、とても幸せな気分だった。
私が紅茶を飲んで、ほぅと一息つくとライガーンはそのタイミングを見計らったかのように話を切り出した。
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